明星に誓って   作:テロン

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醜悪な化け物

 

 

 

 

 カタリ、と何かがズレたような音がした。また何処かが崩れでもしたのだろう。

 気に留めることなく、ジーンは片足をプラプラと揺らした。

 

 天井の一部が崩れ去り、幾筋かの光がスポットライトのように円形のステージを照らしている。その光を避けるように、ジーンは大きく崩れた劇場の中心で片膝を抱え込んでいた。

 最前列の観客席だ。赤茶けた天鵞絨の座席には、何度拭っても拭いきれないほどの埃や砂が染み込んでいた。

 

 かつて、満員の観客を迎えて毎月のように公演を繰り返していた花精(ティターニア)の足跡最大の劇場。

 皆煌びやかな衣装を身に纏い、この舞台で踊っていた。ジーンの耳に染み付いた甲高い声が、この席に触れているだけでずっと脳裏にこだまする。

 

『楽しんでいるか?』

 

 幻聴がした。

 

 朗々と響く声の持ち主だった。拡声魔導器も使わずに劇場の隅々まで声を届けることができた。聞くもの全てを一瞬で夢の世界に連れていく才能を持っていた。

 夢が一筋も漏れてしまわないようにピタリと閉じた劇場を、唯一開閉できる人物だった。

 

 かつて、ギルドに所属する構成員たちは皆、この男によって劇場へ入る機会が与えられることを切望したものだ。

 

「馬鹿を言うな。楽しいわけないだろうが、こんなところで」

 

 答えたのは気まぐれだった。あの男がここにいればそう問うだろうと考えた結果であろう幻聴を、看過できなくて否定する。

 

『それはいけない。ここは夢を売る場所だ。その席に座った人間は天上の祝福を受け、溢れんばかりの興奮と感動と噛み締めなければならない。お前も知っているだろう?』

 

 ジーンの脳内にしか存在しない男が、返答を寄越す。顔を上げれば、崩れたステージの中央に派手な衣装を身に纏った痩身の男が立っていた。

 

 小ぶりな宝石をボタン代わりに縫い付けた白いジャケットは、縫い込まれた銀糸がライトを反射して一段と明るく見せる。中はワインレッドのカラーシャツ、黒いベストとシンプルだが、ズボンは縦に虹色の縞模様の入った悪趣味なものだった。大きすぎるモノクルも、黒い高帽子も、何一つ調和が取れていない。

 

 外を歩けば二度見されるような格好だとしても、このステージに立つという一点からすれば何よりも相応しいものだった。

 誰よりも目立ち、注目を集め、集めた視線を手玉に取るための戦闘服。

 

『ふむ。つまらなそうな顔だ。今頃世界はお前のステージで大歓声を上げていると思ったのだが、当の座長がその顔とはな』

 

 その衣装の割に、印象の薄い顔をした男だった。何処にでもいそうな顔つき。

 夢に浮かされたまま劇場を後にして、惜しみない拍手を送った相手の顔を思い出せないことに気付く。花精(ティターニア)が見せる夢の中にしか、男は存在しない。

 

 名を、『座長』と言った。

 役職の名ではない。本人がそう自称し、周囲もそう呼びかけ、本名はとうに闇に葬り去られている。サーカスの座長であること以上にこの男の意義を示すものはなかった。

 

「残念ながら、アンタが期待したような演目は上演されていない。世界は今、人が積み上げた業と、とある人間の勘違いのせいで危機に瀕している」

 

 幻聴相手に何をまともに取り合っているのだろう。

 座面に上げていた片足を下ろして、ジーンは唸るようにそう答えていた。

 

 ステージの中央を()()()()ながら。

 

 この劇場に客席とステージとを隔てる幕は存在しない。座長の立つステージは客席から数段低い所にあり、その高低差は大人の身長を優に超える。

 

 きっと、ノードポリカの闘技場もちょうどこのような構造になっているだろう。違うのは座席がステージを円形に囲っておらず、三等分した時の一方向しか解放されていない点か。

 

 僅かに身動ぎし、ジーンは頭を右に傾けた。その避けた分ギリギリを、風切り音が通過する。

 

『嘆かわしい!』

 

 現実と妄想の区別がつかなくなってきた。

 今ストンと後部座席に突き刺さった短刀は幻覚か、それともジーンが自分で刺したものか。或いは本当にそこに、第三者がいるとでもいうのか。

 

 両腕を天に向けて広げた座長は、光が差し込んでいるところだけを選んで歩き始めた。

 まるで昔日の、光照魔導器(ルクスブラスティア)がその動きを絶えず追っていた頃のように。

 

『幕の引かれないステージなど、愚物でしかない。終わりがあるから夢なのだ。終わらぬ夢はそれこそ、現実と同じだろう』

 

 そこで足を止めて、大衆に語りかけるように腕を払う。

 

『何故夢を叶えようとしない?その力がお前にはあるはずだ。あれだけの意思を持って我らを殺し尽くしておきながら!何故!他人のステージの傍観者でいられる?』

 

 ──これはお前が始めた公演だ。ステージを降りることは許されない。

 

 どこまでも道化だった。醜悪に歪む表情を見えない仮面の下に隠して、座長は感情のない笑顔を浮かべている。

 ジーンが最後に見た表情だった。

 この言葉を聞かせる為だけの幻聴だった。

 

『そう、望んだのではないですか』

 

 次の瞬間、別の声が割り込む。

 バサリ、と巨大な翼がはためいた。

 瞬く必要すらなく、そのステージに立っていた存在が切り替わっている。役目を終えた道化師は消え。

 

「お前の仕業か、エルシフル」

 

 凡ゆる生命の頂点に立つ古い獣が、半透明な姿で佇んでいた。

 

 ジーンの言葉に答えてかまたバサリと羽ばたいて、エルシフルの姿はふつと消える。

 

「おい」

『失礼。もう視覚情報は必要ないと判断しました。相違ありますか』

 

 苛立ち混じりに声をかければ、声だけで応えがあった。これじゃあ本格的に幻聴と独り言のやばいやつだ。取り繕う世間体もないジーンは、気に留めることなく目を伏せた。

 

「ないわけあるか。これまでずっとだんまりだった癖に、何いきなり出てきてんだよ。そこまで意思が残ってるとは聞いてないんだけど」

『残っている、というのは正確ではありません。今の私はかつてエルシフルという名の始祖の隷長(エンテレケイア)だったものの、ただの断片に過ぎません。自分のことすら曖昧で、大した力もなく、いずれエアルに溶けて消えていくだけの残留物』

「なら何しに出てきた」

『初めに言った通りです』

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)は簡潔にそう述べて、それ以上は不要とばかりに黙り込んだ。

 

 初めに言ったこと。

 

 『楽しんでいるか』、と座長が問いかけたものか。それとも、『そう、望んだのではないですか』と割り込んできた方か。

 もしくはそのどちらもが、同じ意図を帯びているか。

 

「楽しいよ」

 

 どれでもいいと投げ捨てて、ジーンは顔を覆いながら天井を仰いだ。

 

「楽しくて楽しくて仕方がないね。やっと望んでた瞬間が訪れるんだ。今にも踊り出しそうだよ!この客席でぎゃあぎゃあ喚いていた豚どもの気持ちが今ならよく分かる!夢が叶うって最高の気分だ!」

 

 全て、何の意味もない言葉の羅列だった。真実など一欠片も含まれていない。

 

 始祖の隷長(エンテレケイア)は沈黙している。もしかすると、その力を使い果たしたのかもしれない。

 

 どちらでも良かった。どちらにせよもう引き金は引かれていて、ジーンは座して待っているだけでいい。

 

 そうして待ち続けて、一体どれだけの日々が経過しただろう。

 

 ダランと両腕が垂れ下がる。腕も足も身体中全てが鉛を飲み込んだかのように重苦しい。

 

 夢と現の境にあるこの劇場で、ジーンはずっと微睡んでいた。

 

「あーあ。早く人間、滅びないかなあ」

 

 その夢だけが、真実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 花精(ティターニア)の足跡。歴史あるサーカスギルド。

 期限付きでそのギルドに所属することになったジーンと父は、ダングレストの郊外に一軒家を与えられた。父は固辞したが、すぐに帝都に向かうことは難しいから、その詫びだという。

 

 提案通り、帝都へ手紙を書いた。二人の無事の知らせと、大変な時期にすぐに戻れないことへの詫び。『座長』から三ヶ月分の給料を前借りしてその金銭を包み、再会を願って締めくくる。

 ジーンも父に頼んでいくらか文言を付け足した。返事が来たら、またダングレストに来て受け取ればいい。

 

 ギルドの本拠地はギルド外には秘密で、街の外にあるらしかった。そこで特訓して、巡業についていける実力をつければ家に帰れる。もしくは船代を溜め切るか。単純な理屈だ。

 

 霧に紛れて船に乗り、魔物が守っているという森を抜けて本拠地に向かう。

 

 森の中に突如現れた門を潜れば、そこはまさしく夢の中だった。

 

 まず初めに空が黒くなった。門の内側は常夜の地だった。ずっと昼が訪れないのだという。まるで巨大なテントの中のように見えない天幕が常に頭上を覆い、けれども決して暗くは無い。

 小さなランプが空にいくつも浮いていた。

 オレンジ色の温かな光が闇に沈んだテント群を幻想的に照らしている。

 

 あれは妖精の光なのだ、と自慢げに座長は語った。

 今でこそ細いワイヤーを張り巡らせて魔導器(ブラスティア)を吊っていただけだと理解できるが、当時は素直に納得した。それでなくとも、ここが夢の世界だということを目に映る全てが如実に訴えかけていたからだ。

 

 星空に沈んだかのような空間の中で、無数に並ぶテントの一つ一つはまるで星そのもののようだった。天幕の合わせ目から色とりどりの光が漏れていて、そっと中を覗けば煌びやかな妖精たちが舞っている。

 空中を飛び回る者も、細い棒の上でクルクルと回転している者や、時には魔物を従え芸を披露させているテントもあった。

 

 今日からジーンも、その一員なのだ。

 

 夢境には、三つのステージがあった。東に一つ、西に一つ、北に一つ。北が一番大きく、東西のものは鏡合わせのように対称だ。

 

 新入りはまず東西どちらかに振り分けられて、出演のための練習をする。

 北は特別だ。選ばれたメンバーしかそのステージに上がることを許されず、公演中も決して覗いてはいけない。客が東西のステージを観に来ることはなく、それら二つは簡単に解体することが出来るので、巡業に持っていくのだ。基本的にはダングレストの西側に仮設ステージを作るという。

 

 北ステージだけはしっかりとした造りで、動かすことはない。だから、客は自らその特別なステージに足を運ぶのだ。

 

 ジーンは東に振り分けられた。父は西。体格が違うと得意なことも違うからだ。と言っても東西に仕切りがあるわけでもなく、部屋が別れただけで会うことに不自由はなかった。

 週に一度、希望制でダングレストへ向かう馬車が出るそうなのでそのうち行ってみよう。

 

 最初は一般的なサーカスの演目を一通り仕込まれた。適性を見るのだと言って、年代別に分けられて様々なテストを行った。

 ジーンはどうやら、優秀だったらしい。手先が器用で、運動神経も良く、天性のバランス感覚も持っていた。

 

 君ならすぐに特別なステージに参加できるね、と座長は囁いた。

 

 実際、すぐに忙しくなった。最初は小間使いとして巡業に参加するようになって、じきに出演することにもなった。父はジーンの出世をすごく喜んでいた。

 自分の技に自信も持てていた。なんでもできる気がした。

 それが幼さ故の全能感であると、知った。

 

 その、特別なステージで。

 

 煌びやかだった。客も、舞台も、豪奢という言葉だけでは表現しきれないくらい、金銀宝石を好きなだけ散りばめて、いっそ下品なほどだった。

 新月の夜に開かれる、暇と金を持て余した者たちのための享楽。

 

 それが、特別なステージだ。

 

 ジーンの特別なステージでの仕事は、そこで出たゴミの処理だった。

 小さな部屋に大人の男が一人乗れるだけの台があり、そこにゴミを運んで、要るものと要らないものにわけ、要らないものを捨てやすいように小さく分解するのが与えられた仕事だった。

 

 忘れられないのだ。

 

 ステージの袖で、久しぶりに同世代の子供たちと顔を合わせた。ジーンはステージに上がれないと言い渡されていた。ジーンより不器用だったり、上手く芸をこなせなかった子供たちは、キラキラした衣装に身を包み、同世代の誰より上を行っていたはずのジーンを追い抜かしたことに頬を染めていた。次は一緒にステージにあがろうと小さな声で約束した。

 

 期待に胸を膨らませた同期たちが、それぞれの道具を持ち、背をピンと伸ばして円形に囲われた、客席より低く作られたステージに降りて行く。

 観客たちの期待の歓声を覚えている。

 辿々しい芸に、熱い歓声が送られた。座長が舞台を出て、ガチャンと物々しい音がして、ステージの奥の方、何故か格子戸になっている部分が持ち上げられて行く。最高潮に達した観客の興奮が、波のように打ち付けていた。

 何も分からずぎこちない笑みを浮かべていた子供たちの表情が、段々と恐怖に引き攣っていく。飢えた獣の唸り声がした。

 

 特別なステージとは、そういう遊び場だった。

 

 闘技場での過激な娯楽が規制された現代においての代替品。横流しされた魔導器(ブラスティア)をふんだんに使い、未開の大陸の隅に隠れ、帝国貴族相手に悪趣味なショーを提供する。

 

 さあ、と座長がジーンの耳元で囁いた。

 

『よく見るんだ。観客が何に喜び、何を望み、どんな言葉を欲しているのか、よく観察してみろ。お前にはそういう才能がある。あそこで食われていく子供たちと、お前とでは明確な差がある。お前が上で、彼らが下だ。よく、脳に刻みつけろ』

 

 理解した。理解してしまえた。

 一息に殺すより、指の先から少しずつ磨り潰す方が好まれる。子供たちの名前や年齢、経歴や好きなものなどを滔々と語る方が喜ばれる。魔物は適度に痛めつけておき、撃退の望みを残す方が観客は興奮する。

 

 咄嗟に自分もステージに駆け込もうとした。舞台袖を出て、塀の上まで駆け込んで、そこから身を投げようとした。同期たちを全て食い殺した魔物が、新たな獲物の気配にギロリとこちらを見据えた。

 

 夢遊するようだった。

 

 何が起きるかも考えずに、ステージに飛び降りる。

 アンコールの予感に観客は惜しみない拍手を送った。照らす対象のいなくなったスポットライトが、ジーンの一挙手一投足だけを追っていた。

 

 踊るように魔物までの一直線を駆ける。染みついた所作に、我に返った一部の観客が感嘆の溜息を送った。ジリ、と一歩退いた獅子のような魔物が、奮い立つように咆哮をあげる。

 そうして飛び込んでくる凶爪は、果たしてジーンを貫かなかった。

 

 顔から尾にかけて、両断された魔物が左右に落下していく。駆け抜けて、血の一滴も浴びていないジーンの右手には一本のダガーが握られていた。

 一人の子供が芸のために持ち込み、地面に散らばっていたもののうちの一本だった。当人は顔もわからない状態で、ステージの端に転がっている。

 

 一瞬の静寂の後。世界に亀裂が走ったかと誤認した。割れんばかりの拍手が降り注いでいた。

 仲間の全てが殺し尽くされた後にノコノコと出てきて、小刀一つで仇を斬り裂いた子供への、最大級の愚弄と嘲笑だった。ジーンの人生で浴びた、最も盛大な歓声だった。

 

 まばらな拍手と共に、座長がステージに降りてくる。

 待っていられないとばかりに、観客たちは番号と体の部位を我先にと叫び出した。

 

『二番の頭が欲しい』『その魔物の顎を』『五番のちぎれた右腕をくれ』『いいやそれはわしのだ、20は出す』『ではこちらは30を』

 

 理性のない観客たちを宥め、盛り上げ、望みを取り纏め、言葉巧みに操って見せた座長は、動かないジーンの肩を叩いた。

 

『よくやった。素晴らしい成果だ。では、やることは分かるね?』

 

 そういう、仕事だった。

 

 要るものと要らないものに分け、必要な分を箱に詰め、残った分はまとめて『棺桶』に詰めて捨てにいく。

 その日のようにステージの袖に控えて回収から手伝うこともあれば、ステージの上で踊り狂う日もあり、運ばれてくるものを言われた通りに分けるだけの日もあった。

 自分が何をしているのか、脳がずっと理解を拒んでいた。悪い夢の中だと思い込んでいた。

 

 溺れるほどの喝采を浴びた。灼き尽くされるほどライトを浴びた。どうやらジーンは、それを望んでいたらしい。同類だったらしい。才能があるらしい。

 

 解体の腕ばかりが上達していく。どこに刃をいれ、どのくらいの力で、どの方向に動かせば良いのか、手に取るように分かる。才能は磨かれ、血と脂に塗れた刃でも、よく研がれた刃物でも、同じようにこなせるようになった。

 

 そういう経験ばかりが積み上がっていた。

 

 ある日。いつものように処理台の上に置かれたものに、見覚えがあることに気がついた。

 

 特別な仕事ばかりに従事するようになり、表の人員など分からなくなっていた頃だ。古株か、と思って顔の潰れたそれに刃を突き立てようとして。

 

『あ、あ…………』

 

 それが父であると気付いた。その時、自分に父がいたことを思い出した。攫われる前、母と弟がいたことを思い出した。

 帰りたかったはずなのに、この仕事を始めて既に何年も経過していることを思い出した。

 

 ふくふくとした手が、懸命にこちらに伸ばされていたことを、思い出したのだ。

 

『あ、あ、あああああ…………!』

 

 そこはどうしようもなく現実だった。血と脂が染み込みすぎた両腕は、人の理を踏み外していた。

 

 ふらふらと部屋から出て、新月の夜を見上げる。星は見えなかった。魔導器(ブラスティア)の灯りだけが揺れていた。もう己の瞳に、星の光など映らないのだろうと思えた。

 

 至極、簡単だった。

 

 一番近くのテントに踏み入って、手に持ったままの鉈を振るう。倉庫に、練習場に、宿舎に、東西のステージに、目についた建物全てに踏み入って、ソレは一人一人殺していった。

 

 静かだった。

 

 殺されるその時まで、誰もソレに気付かなかった。ソレは誰も逃さなかった。誰よりも疾かった。誰よりも強かった。

 そのうちに、刃物など使わなくとも、もっと簡単に殺せることに気が付いた。どこをどうすれば人が死ぬか、これまでの経験でソレは熟知していたからだ。

 

 血みどろのステージの上で、最後に残った一人が楽しそうに笑っていた。貴族の男も女も護衛も全て殺し尽くした少女の前で、目を輝かせて笑っていた。

 

『はははははははは!私の見込んだ通りだ!素晴らしい、素晴らしいステージだ、ジーン!ああ、残念でならない。この最高の舞台を見届ける観客がいないなど!このステージの座長の名が、世界に刻まれないなど!実に残念でならない!』

 

 ああでも、と笑顔を引っ込めて呟いた言葉が、最後になった。

 

『これから広まるか』

 

 殺し続ける限り。

 ザン、と落とした首が、ステージに転がっていく。ソレが作り上げたステージの、唯一の観客だった。多くを楽しませた分、この男の方が罪が軽いだろうと考える。

 

 加害者も、被害者も、悪人も善人も、罪の別なく殺し尽くした。

 何も知らなかった者たちを、ジーンはまず初めに手にかけた。自分がそうした人間であることを知った。それが彼らにとっての幸せだとすら思っていた。

 

 その夜。栄華を誇った一つのギルドが消滅し、世界に醜悪な化け物が一人、誕生した。

 

 それはひたすらに人間の死を希う、人殺しの天才だ。

 

 

 

 

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