明星に誓って   作:テロン

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似てる

 

 

 

 

 ジュディとのお姉ちゃんトークからしばらく。

 

 個人の話を脇に置く羽目になるほど、怒涛の出来事があった。

 

 どうやら人間を滅ぼして星喰みを倒そうとしているらしいデュークがタルカロンの塔を浮上させたり、その余波でアスピオが滅んだり。

 

 ジーンたちの話をするなら、実はパティこそがアイフリードであったと判明したり、揃った4体の精霊の力を借りて星喰みを倒す兵器を作ってみたり、フレンからの救援要請を受けてヒピオニアに向かったり。

 

 その過程で、ジーンは久方ぶりに本格的な戦闘へと復帰した。

 

「レイヴン、あっちのだけやっといて」

「うへえ……」

「うへえじゃないわよ。一キロも離れてないでしょ」

 

 言いながら左腕を払う。夥しい量の血潮を浴びた筈のダガーは、その一振りで元の鋭さを取り戻した。ちゃんと使えば刃毀れなんて早々しないのだ。

 

 例え相手が、平原を埋め尽くす魔物の大群であろうと。

 

 振り返って歩き出すまでの間に、レイヴンの長射がジーンの撃ち漏らしを射抜いた。名誉の為に言っておくと、撃ち漏らしというのは殺し損ねたという意味ではなくて、レイヴンに一切働かせないのは癪に障るので残しておいた、というだけ。

 

「まあ、こんなものかしらね」

 

 振り返った先、反対方向の数キロ地点の岩陰で発動させた魔術が問題なく周囲を沈黙させたのを確かめて、全ての武装を仕舞う。

 

 見渡す限り、物言わぬ骸が転がっていた。この時、ヒピオニアでは折り悪く大規模なスタンピードが発生していた。つまり、これらは全部、一帯を統制していた始祖の隷長(エンテレケイア)が死んだことにより引き起こった災いだ。

 居合わせたフレンがほぼ孤立無援で立ち向かっていたところを、救援要請を受けて駆けつけたという流れだった。

 

「あのう、ジーンさん」

「ん?」

 

 救援対象であるフレンが遠慮がちに声をかけてくるのに、首を傾げて答える。

 民間人を守って奮闘していたフレンは、バウルから飛び降りたジーンがその流れで半径百メートルを沈黙させた時点で、両手に剣を持ったまま固まっていた。そこから平原中の魔物を掃討し終えるまで、もう数分は経ったと思うが、彼は未だに一歩も動いていない。

 

「お久しぶりです……」

「え?ああ、そうね。なんか皆私をフレンくんに会わせないようにしてるみたいで、ザウデ以来かしら?」

「それは……」

 

 恐らく、と小さな声が続いた。

 

「僕に会わせないようにしているのでは、ないと思います」

「そうなの?」

 

 取り敢えず一番近くにいたレイヴンを振り仰ぐも、全力で目を逸らされた。次いで背後のユーリたちに視線を向けるも、彼らは彼らでドン引きした表情を隠そうともしていなかった。

 

「……なによ」

「ジーン。あたしね、この魔物たちを使って出来たばかりの宙の戒典(デインノモス)レプリカを試運転するつもりだったんだけど」

「え?でもそんなことしたら壊れちゃうんじゃない?」

「壊れないわよ!……多分」

 

 そうだろうか。対星喰み兵器としてリタが作っているそれは、周囲の魔物を一掃するくらいの威力はありそうだが、器の方が耐え切れずに壊れそうに見える。ジーンがそう思うってことは、ほぼ確実にそうなるということだ。

 

「でも、それ起動させるより私の方が早いから、星喰みの打倒にはまだまだ出力が足りないみたいね」

「説得力マシマシのご指摘どーも!ちょっと改良してくるわ!!」

 

 天才魔導士を揃って見送った皆は、それでも物言いたげな視線を向けてくる。

 

 かつてジーンが、ダングレストの大攻勢にて単独で討伐王を勝ち取った話は知っているはずなのだが。

 

「いやあ結構やってることやばいと思うけど、ジーン……」

「そう?人魔戦争よりマシでしょう」

「そんな凄かったの?人魔戦争って……」

「ま、有力な騎士はみんな死んだからねえ」

 

 溜息混じりにレイヴンが肯定する。確かに今のも大陸中の魔物が詰め掛けているのかと見間違うほどの物量だったが、ジーンもレイヴンも人魔戦争の時よりはマシと判断した。

 敵対する始祖の隷長(エンテレケイア)がいないというのは、それだけ荷が軽い。有象無象の魔物など、いくら揃えてもジーンの敵ではなかった。

 

 と、格好つけたいところだけれど、ある一地点の魔物だけはジーン以外の手によって討たれていた。腕のある人がいたのだろう。人というか、暗殺者だけど。

 誰も気付いていないようだったので、ジーンも下手に開示する気はなかった。元がどうであれ、執着を消して違う道に進むと言うなら、応援しない理由はないし。

 

「あー、腕は慣れたみたいで」

「元々不便してないわよ?生き物を殺すのに大した動作なんて必要ないもの。夢を届けるためにもね」

 

 パチリと瞬きするだけでコロンコロンと星型のキャンディが空から降ってくる。

 

「甘いもの好きなの?」

「いえ、特には」

 

 じゃあ何故、と言いたげなカロルの視線にジーンは即座にキャンディから輝く宝石に切り替えた。

 

「宝石好きなの?」

「いえ、特には。私が好きなもの振らせると、空から血の滝が落ちてくることになるけど……」

「商隊の人たちがびっくりしちゃいますね……」

 

 後方に見える焚き火の光を振り返ったエステルが首を振った。フレンは彼らを護衛する過程でヒピオニアに漂着していたらしい。

 

「ま、ジーンはもう()()()()()()だって諦めるしかねえな。考えるだけ無駄だ。それよりも、アイツらを何処に移送するか考えた方が建設的だ。また今回みてえのが来ないとも限らないだろ?」

「何回来ても私の敵じゃないけど?」

「アンタは黙って座ってろ」

 

 強い口調でユーリに断られ、ジーンはすごすごと引き下がった。一体どういう仕組みで動けているかもよく分かっていないジーンのことを重用するつもりはないらしい。あまりにも信用がない。

 

 ジーンが隅っこで口を噤んでいるうちに、商隊を率いていたカウフマンとのやり取りで、この地に砦を建設する方針で固まったようだ。

 ジーンの腕を知っているカウフマンとしても、いつでもいるとは限らないジーンに依存しない生存方法を確立すべきと断言していた。それは納得するけれども。

 

 物資や人手の調達に動き出したカウフマンと入れ違いに、今度はフレンの部下たちが駆け寄ってくる。魔導士のウィチルが言うことには、浮上した古代塔市タルカロンが怪しげな術式を展開し始め、周囲の住民が体調不良を訴えてるとか。

 

「あーそれ、多分生命力吸ってるんじゃないかな」

「生命力?」

「うん。って言うか、マナ?」

 

 星喰みを倒す為に大量のマナを集めるなら、純度の高い生命力であるマナに目をつけるのは道理だ。

 全世界の人々がちょっと体調不良になるだけで星喰みが倒せるならそれはそれで良いような気もするが、以前会ったデュークの様子を鑑みるに、体調不良だけでは済まなそうだ。

 

「ま、リタちゃん次第かしらね」

 

 デュークが思い切った手段に出る前に星喰みを倒せるか、彼の計画通り大量の人間を犠牲に星喰みが倒されるか。前者の方が良いに決まっているが、それが叶うかはリタの力量にかかっており、ジーンが力になれることはなさそうだ。

 

 そういう意味での発言だったのだが、他人事っぽく聞こえたらしく、フレンの副官には思いっ切り睨みつけられた。

 彼女はフレンと仲がいいユーリのことが嫌いらしく、ジーンの結構苦手なタイプだ。いつか思い悩んだ末に突拍子もないことをしそう。ひょっとして、ジーンと似てるのかもしれない。

 

「あんまり思い詰めると私みたいになるわよ」

「はあ?」

 

 善意からの忠告に、茶髪の女騎士は胡乱気な視線を向けてきた。ジーンみたいになる、は紙一重で誹謗中傷かもしれないので、「ろくな事にならないのよ」と訂正しておく。

 

「なんの事だかわかりませんが」

「そうなの?困ったわ。フレンくん、その子としっかり話し合った?」

 

 いきなり話を振られて瞬きしたフレンは、少し首を傾げてから「ああ」と頷いた。

 

「ジーンさんの薦め通り、ソディア達とは色々と話をしましたよ。皆がそれぞれ考えていることを知れましたし、僕の至らない点も自省出来ました」

「ならいいけど。あの時刺されるんじゃないかって思ってたの、あながちこういう事かもって思ったところで」

「刺される?」

「比喩表現よ。ほら、前に帝都で抱えて行こうか、って言ってたじゃない。それこそザウデ……」

「うぇっほん!」

「ごほごほごほ!あー急に喉が!」

「らーらーらーらー!あーあー!」

「わふっ」

 

 ザウデ、と言った瞬間背後から盛大なノイズが襲った。レイヴン、エステル、カロル、ラピードと、口には出ていないがジュディとパティまでめいめい明後日の方向を見たがら口笛を吹いたりしている。 

 

「誤魔化し方下手すぎない?」

 

 一体なんだと言うのか。ジーンは単に、フレンにお姫様抱っこなんてされてるのを見られたら何処ぞのご令嬢に刺されるんじゃないか、と冗談混じりに考えていたことを思い出して、笑い話兼アドバイスをしようと思っただけなのに。

 

「何かおかしいわね。ザウデがどうかした?」

「い、いや。なーんにも!」

「今更あそこに何かあるかしら?それか、私が気絶した後に何かあった?」 

 

 気絶した後、と言った瞬間カロルがギクリと顔色を変えた。ははーん?

 

「ホントに何もないからね!」

「そうそう、アンタが気にしてねえなら蒸し返す話でもねえよ」

 

 ユーリが首を振るのを冷めた目で見ていたフレンの副官が、「ザウデと言えばフレン隊長」とフレンに向き直った。

 

「ノールに寄った際、早馬で()()()()()()()()()()()()()との知らせが」

「あ」

「おっと……」

「ソ、ソディア……!」

「何です……?」

 

 方々から届く引き攣った声に特大の困惑を示した副官が、訝しげに周囲を見渡す。その視線がジーンとかち合った瞬間、彼女は怯えて飛びずさった。

 

「…………は?今なんて言った?」

「ジーン!」

 

 警告を含んだ声がジーンを窘める。副官の襟首を掴みあげようとしていたジーンは、その声にピタリと動きを止めた。が、思考までは止まらない。

 

 アレクセイ。アレクセイ?

 奴は、死んだはずだ。ザウデの頂上にて、落下する魔核(コア)に押し潰されて。あれに巻き込まれて生きているとはとても思えない。

 

 だが。

 

 そういえば、あの時ユーリを刺したのは誰だ?

 

 パーティの仲間な訳が無い。皆ジーンの周りにいたし、フレンの部下だって、()()()()()()()()のを覚えている。

 

 なら、あそこにいて、()()()()ユーリを刺せたのは、誰だ?どうしてジーンは、その姿を全く覚えていない?どうしてユーリは、背後から刺されたのにも関わらず、後退して足を踏み外すような真似をした?

 

「レイヴン」

 

 真実を語らせようと、ジーンが選んだのはやはりこの男だった。処刑宣告でも受けたかのように青ざめた顔で肩を震わせている。

 

 薄青の視線が仲間たちを順繰りに見回して、押し付け合うように言葉なく議論を交わして、最後に天を仰いでからようやく、その口が開かれた。

 

「いや、だからその……。アレクセイの奴は今、生きて帝都に、います」

 

 そういえば、帝都にだけは誘われなかったな、と。そんなことを思った。

 

 

 

 

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