明星に誓って   作:テロン

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ダングレストにはあまりいないタイプ

 

 

 

 

 踏み入った先の酒場は、閑散としていた。見張りの一人も見当たらない。警戒を怠ったのか、警戒する必要もないのか。

 

 裏口にほど近い階段を駆け上がるレイヴンの羽織が視界を掠めて、一先ずジーンも追いかけることを優先した。急な階段を上がれば、一つしかない扉の前で皆が武器を構えている。きっと、この先にバルボスがいる。

 

 遅れたジーンがユーリと目が合ったのは、待ってくれていたからだろう。

 一つ頷けば、助走をつけたユーリが思い切り扉を蹴破った。先にまた、細い階段が続いている。最後尾を駆け上がる前に、先行したユーリたちは既に突入を終えていた。

 

「悪党が揃って特等席を独占か?いいご身分だな」

「バルボスに、ラゴウまで!」

 

 最上階のその部屋は、バルコニーになっていた。川沿いに展開した騎士団と武装したユニオンを一目で一望できる立地だ。

 この部屋を選んだ理由は知れたが、見張りがいなかった理由は分からない。構成員はどこに消えたのだろうか。

 

「レイヴン、アレを射てる?」

 

 バルボスとユーリのやり取りに耳を傾けずに囁いたジーンに、レイヴンは心底呆れた様に「相変わらずね」と呟いた。

 ジーンがアレ、と指差したのはバルボスの後ろに控える構成員が持つ魔導器だ。筒の長い構造は一部のギルドが使用する銃に似ている。飛距離は分からないが、万が一衝突の最前線を狙えるなら面倒だ。

 

 こっそりと交わしたやり取りの間も進んで行く状況からして、矢張りラゴウは帝国の、バルボスはユニオンの主導権を狙っての犯行らしい。

 

「造反確定ね。ただ、あっちは問題ないみたいよ」

 

 あっち、とレイヴンが親指でバルコニーの外を指し示す。覗き込もうと一歩窓に寄ったジーンの陰で、変形弓が素早く展開された。

 

「ほらよっと」

「おっさんナイス!」

 

 魔物に跨ったフレンの姿を認めて、ジーンは素早く武器を引き抜いた。眼下を狙った魔導器(ブラスティア)を的確にレイヴンが撃ち抜く。同時にバルボスを狙ったジーンの一投は左腕の義手ではたき落とされた。

 前後して、バルボスが銃型の魔導器(ブラスティア)を起動する。魔導器(ブラスティア)に刻まれた術式の光を、ジーンの瞳は正確に捉えていた。

 

「射、爆!マズイ伏せて!」

 

 近くにいたカロルの首根を掴んで力任せに投げ飛ばす。退避の遅れたジーンの事は、レイヴンが乱暴に足払いをかけて引き倒した。

 その鼻先を魔導器の放った弾丸が通過する。間一髪。壁に着弾した攻撃は辺りを巻き込んで爆発を引き起こした。

 一般的な魔導器(ブラスティア)の威力じゃない気がする。それに、術式もなんだかおかしい。

 

「近付けねえぞ!」

「ちょっと、アンタ今!」

「話は後で!」

 

 咄嗟にジーンの袖を掴んだリタに叫び返して、近くのテーブルに防御の魔術を付与し、蹴り上げる。簡易的な盾にはなるだろう。二射目が防げるかは、怪しい。

 

「ああもう!って、エアルの再装填が早い!次が来るわよ!」

「出口に向かって走れ!」

 

 エステルとカロルを自身の背後に追いやって、ユーリがバルボスへ突撃する。

 ユーリの一撃が先か、バルボスの一射が先かという緊迫した状況は、第三者の乱入で有耶無耶にされた。

 

「バカドラ!?」

「バカドラ?」

 

 空から飛来した龍使いの槍が、バルボスの魔導器(ブラスティア)魔核(コア)を貫く。

 珍妙な呼び名に思わず問い返したジーンの声には、誰も返答を寄越さなかった。武器を失ったバルボスは、何事かを吐き捨てて別の魔導器(ブラスティア)を起動して逃走を図る。

 

 直前、レイヴンを睨みつけていたことからもこの場では分が悪いと判断したのかもしれない。

 盛大に舌打ちを吐き捨てたユーリは、魔物に跨ったままバルボスの飛んで行った方角に身体を向ける竜使いに駆け寄った。

 

「おいアンタ、奴を追うなら一緒に連れてってくれ。生憎と羽が生えてるのがいないんでね」

「ちょっと、正気?」

 

 竜使いを攻撃しようと構えていたリタに、ユーリは振り返って軽く頷いた。

 

「俺はどうしても奴を捕まえなきゃならないんでね」

 

 そう言って高度を下げた竜に飛び乗り、さらりと片手を振る。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

「待ってユーリ、行くならボクも!」

「私も行きます!」

 

 慌てて駆け寄ったエステルとカロルを定員オーバーだからと往なして、ユーリは北東の方角へ飛んで行った。

 

「あらら、まじで行っちゃったわ」

「歯磨きして寝てろって言わなかった?いくつだと思われてるのかしら」

「ユーリのバカァァ!」

「カロル、行っちゃったものは仕方ないわ」

 

 バルコニーから身を乗り出して叫ぶカロルの隣に立って、眼下を見下ろす。フレンの持ち込んだ本物の書状により最悪の事態は避けられたものの、両軍ともすぐに撤退とはいかないようだった。

 群衆の中からこちらを見上げるドンを見つけて大きく手を振る。脇に控えた構成員に何事かを指示したドンは、再度こちらを見上げて片腕を上げた。了承の意を込めて、横のレイヴンの頭を引っ掴んで無理矢理頷かせる。

 

「でもジーン!ボク達置いていかれたんだよ?」

「そうね、後ろのラゴウを引き渡したら私は街を出るけど、君達はどうする?」

「え、街を出るって?」

 

 キョトンと首を傾げたカロルに、ジーンは北東を指差した。

 

「羽が生えてるのがいないんだもの、歩いて向かうしかないわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いざ歩こうと街を出たジーン達は、即座にフレンに捕まった。

 拘束された訳ではないが、彼は事の顛末とユーリの行方を聞きたがって、エステルの説明を聞いた後は自分も付いて来ると言って聞かない。加えてエステルに対しては安全な街の中で待機するよう主張したが、この点に関しては彼女も中々強情だった。

 

「護衛ってことなら、微力ながら私たちがいるわよ?」

「街に残ってたって安全とは限らないでしょ。あたしは別にいいと思うわ。邪魔にならないんなら。フレンだっけ、アンタもね」

「勿論、君達の邪魔はしないさ」

「って言ってるし」

 

 意外にもリタが賛成したことで、パーティーにフレンが加わる事になった。帝国騎士団の、しかも隊長だと言うから、戦力としては充分すぎるだろう。

 因みに、リタとしてはそうした打算があった訳ではなく、ここで着いて来る着いて来ないの言い争いをして余計な時間を使いたくなかったのだと思われる。

 

 一方、非常に面倒くさそうな顔をしていたレイヴンはリタに蹴っ飛ばされながらも着いてきていた。

 レイヴンとジーンの両名は、形式上ドンの代理ということになる。そういう意味で、さっきのドンはこちらに合図をしていた。発端は身内の不始末でもあるし、これから共同戦線を張ろうというタイミングで帝国の姫君を危険な目に合わせるわけにもいかないのだ。

 

 ダングレストの北東に向けて暫く歩けば、足元は草原から砂地に切り替わる。砂漠ほど歩きにくくはないが、目的地に近付くほど風に煽られた砂が舞って、不快感を齎していた。

 

「ダングレストの近くにこんな塔があったなんて、知らなかったな」

 

 方角だけのヒントだった割に、行先を迷うことはなかった。街を出てすぐ、明らかに怪しい塔のような建造物が目に入ったからだ。

 

「前から竜巻に隠されてあったらしいわよ。あからさまに怪しいってことでいくつかのギルドが調査しようとしてたわ」

 

 ジーンが朝方受けた水質調査の依頼も、検査の振りをして様子を伺って欲しい、という依頼だった。大方の予想は新種の魔物の発生という事だったので引き受けたが、まさか人工建造物が出て来るとは夢にも思わなかった。

 

「で?どうやって忍び込むの?当たり前だけど、正面玄関の鍵なんか開いてないわよ」

「それならほら、あそこに梯子が見える。あれを伝って上に上がれば、何処かで中に入れる場所が見つかるんじゃないかな」

 

 フレンが指差したのは玄関の両脇で、確かに簡素な梯子が取り付けてあった。一体何のために用意されたものかは判然としないので、何処に繋がっているのか多少の不安もある。

 

「それしかないみたいね。じゃあフレンくんの言う通り、梯子を登っていきましょう」

 

 フレンで良いですよ、とはにかんだ彼はユーリの友達にしてはびっくりする程『良い人』だった。

 思わずマジマジとその顔を見つめたジーンに、困っていると勘違いしたのか「運んで行きましょうか?」と手を差し伸べる。

 

「いえ、ちょっと見ないタイプだったから。……ユーリの友達よね?」

「ああ、なるほど……似ていないでしょうか?」

「ううん、どうかな」

「確かに、ダングレストにはあまりいないタイプよね」

 

 レイヴンの言葉に対しては明言は避けて、ジーンは肩を竦めた。

 少なくともダングレストに居ないタイプなのは確かだ。

 

「やっぱりさっきからダングレスト住民馬鹿にされてない?ジーンもレイヴンも、ダングレストの人だよね?」

「よく知っているからこそ、なのかもしれないですね」

「ええ、そうかなあ」

 

 エステルはにこりと微笑んで梯子へ向かった。その後ろを慌ててラピードを抱えたフレンが追いかける。置いていかれたと思ったカロルがドタバタと走り、レイヴンもそれに続いた。

 騒がしいわね、と首を振ったリタがジーンを見上げて腕を組む。

 

「ねえアンタ、さっき術式を読んだわよね?」

「さっき?」

「バルボスの使った兵装魔導器(ホブローブラスティア)よ。何が起こるのかとか、効果範囲がどれくらいかとか」

「ああ、そうね。魔術理論とか、詳しいことは私には分からないけれど」

「当たり前でしょ。アンタみたいなど素人が見ただけで魔導器(ブラスティア)の構造を把握できるわけないじゃない。そんな事されたら魔導士の商売上がったりだわ」

 

 うーんと眼を眇めたジーンは、どんな答えが求められているのか分からず、口を噤んだ。

 

「別に、だからどうって話じゃないわ。アンタの魔術の使い方に納得がいっただけ。きっと目がいいのね。生得的なものだから、大事にしなさい」

「え、ええ。ありがとう?」

 

 そう言ってリタはさっさと駆け出した。随分と歳の離れた子の諭すような口調に微笑んだジーンは、助走を付けて壁面を殴りつける。

 

 普通に、痛かった。

 

 痛かったけれど、安心した。

 

 

 

 

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