新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
「ええ……だ、大丈夫?」
両手で顔を覆って、うなっている私を隊長が心配してくれる。
「わ、分かりません……」
「ふふ……あなた、実戦に臨んでいる姿を見て、評価を改めようと思いましたが……やはり、ポンコツはポンコツなのですわね。失礼ですが、少し安心しましたわ」
蕨野さんはそれだけ言って部屋を出ていく。ぐうの音も出ない、変身すれば何もかもうまくやれる自分に変われるわけではない。現実的に考えれば当たり前だが改めて実感する。
「ああ……手続きはすぐできると思うから、とりあえず一人暮らしか、二人暮らしか決めて?私が上の方にゴリ押してスムーズにいくようにしてあげる」
「は、はい……お手数おかけします」
ミスしたのは私なので、今ここで決めなければならない。ノクスと同棲?いきなり?いや養成校でも魔法少女と勇者の絆を強めるために同棲という形式で暮らしていく方式があると習ったが現実の問題と見えていなかった。とんでもない急展開だ。
同棲?ノクスと?もちろん普通の男の子とするよりもハードルは全然低いが、完全に割り切ってしまうには、彼は男の子のようでありすぎる。
ん、待てよ?前園さんの分析ではノクスは生っぽいって話だった。そして、代謝のようなモノがあるとも、そうなると“ある”のでは?そういうことも、してしまえたりするのでは!?わわ、直接は訊けないよね……イヤイヤ……私は何を考えてるのっ!?
いかがわしい考えが頭の中に巡り、頭がゆでだこのように熱くなる。
「……ヒトミ?大丈夫か?」
「う、うぇ!?だ、大丈夫だよ!ただ、どうしようかなって考えてただけだから」
長いこと黙り込んでしまったので、ノクスが心配したのかこちらを覗き込むようにして声をかけてくれる。うわっ!いい顔が近い!そんな動揺が私を襲ったが、逆にそのあとは一気に冷静になって客観的にノクスについて考えられるようになる。
「……大丈夫。家の件は……ノクスがいいな、と思う方に決めよう」
「俺が、決めていいのか?」
私は強くうなずいて見せる。
そうだ、私が恥ずかしくなるなんてお余りに下らない問題だ。あの日、ノクスは私が世界で一番仲がいい相手だと言ってくれた。多分それはまだ変わっていないと思う。味方が少ない環境を心細く思っていることもそうだ。
「一人暮らしになる場合、ノクスは司令部のスペースに住むことになると思う。身体の不調なんかはすぐ見てもらえる」
「そうなのか……」
「私と住むなら、正直私は要領のいい方じゃないから、どこまでやれるか分からないけど、ノクスの帰る場所を、安心できる場所を作れるようにする」
こちらの顔色を窺うようにして私に聞いてくる。
「ヒトミは……どうなんだ?」
「私は、ノクスにとっていい方を選びたい。ノクスは自分のことだけ考えて選んで」
それが絶対的な希望だ。遠慮は絶対にしないで、という主張を目線で伝える。
「う~ん、拘束されてたからだろうけど、あそこ、冷たい感じがしてあんまり好きな場所じゃないんだよな。……ん~だから、ヒトミがいいって思ってくれるなら、一緒にいさせて欲しい……」
ノクスの恐る恐ると言った様子で、希望を伝えてくる。
思わず笑みがこぼれた。ノクスが私と一緒にいたいと思っているか、正直自信がなかった。自意識過剰かもしれないと思っていたけど安心する。そして、その信頼にこたえたいという意欲が沸々と湧いてくる。
「分かった。隊長、それでお願いします」
「分かった。任せて……」
私とノクスは隊長にお辞儀をする。
「……今日の夕方には、入れると思うから、ベッドは備え付けてあるし、荷物は後で運び込むとして、とりあえずホテル感覚で泊まってみたら?」
「ええっ!もうですか!」
私の羞恥心など、ノクスがよりよく過ごすことに比べれば些末なことだが、それにしたって突然すぎる。
「すぐに行けるなら行ってみたいかも……」
ノクスが遠慮がちに声を出す。
「そ、そう……?」
「肩の力を抜いていられる場所が手に入るならはやいほうがいいなって」
「分かった!隊長、今日から泊まります!」
ノクスがそう思うなら、それがいい。私に記憶喪失である彼の不安を理解しきることはできない。それでも全力で寄り添っていきたいと思う。私は彼の魔法少女なのだから。
「じゃあ、当面の服とかの支給品があるっぽいから窓口で受け取ってから行けばいいと思う」
「分かりました!とはいえまだ時間はあると思うので、今の部屋にも寄って私の着替えとかも持ってきます」
「それがいいと思う」
「……あ、そうだ。確か、隊長は世界中の魔法少女とお知り合いなんですよね?」
私は、二人暮らしの参考になるようなペアがいないかと先輩に聞いてみる。
「他の誰かとかじゃなくても、私とアルスがまさにそれだよ」
「そ、そうだったんですか。その、お二人は部屋ではどんな風に過ごされてるんですか?」
そう言えばお人は、一緒に買い物に行く中という話だった。一緒に住むぐらい当然か。
「私とアルス?う~ん、一日のほとんどはトレーニングに使ってるから家にいる時間は短いんだけど……そうだな~、一緒にお風呂に入ったり、添い寝したりしてるかな~」
「え、おふ……そい……えぇ……」
え、絵面が刺激的過ぎる。いや、どうあがいてもプラトニックなんだろうけどだからこそ背徳的というか……。
「ノクスには関係ないことかもだけどね。技師の皆さんに頼んで特注のベッドを作ってもらったんだ。ほら、あるでしょ?置くだけでスマホを充電できるやつ。あのシステムを応用してベッドに寝る感じでスリープモードにすれば寝ながら人間さながらにエネルギーを回復ってわけ」
便利でとてもいいと思うが、正直それだけだった。けど隊長は嬉しそうに続ける。
「でね、ここからがすごいの!ベッドが室内の環境を検知して私のためにアルスの温度を調節してくれるの!」
つまり?
「抱き枕にすると超ぐっすり眠れるんだ!そばにアルスがいると思うと安心感もあるしね!」
「な、なるほど~参考にします」
厳しい訓練を自らに課している彼女には大切な休養ということなのだろう。背後のアルスさんも自慢げにうなずいている。この機械的なところはノクスには関係ないことかもしれないけど。
魔法少女と勇者の絆はその力の大きな源、二人の心の距離が近いからこそ最強で、その近さが物理的な距離にも表れているということなのか。
私たちも、そうなれば強くなるのかな?……いや、そんなのは不純だ。人と人のつながりはそんなもんじゃないはず、もっと柔らかくてあいまいで、目的のためにあるモノじゃないはず。
私は、ノクスとどうなれるのか、ノクスとどうなりたいのか。一緒の時間を過ごせば見つかるものなのかな。
私はノクスの顔を覗き見てそんなことを考えた。
※
「うわ!でっか!」
「おお、確かにさっき寄った一実の住んでた建物より大分デカいな」
私たちは諸々の手続きや雑務を終え、いざ新居に相対したが、その圧倒的豪華さにただただ驚かされていた。
学校の寮より10倍は大きい建物が目の前にそびえ立っている。というかこれ、普通にタワマンだよ。
人類の砦なのだからこれくらいは当然と思おうとするが、田舎の一般家庭出身の私は委縮してしまう。
“ピーッ!”
“カシャ!”
“ウィーン!”
玄関についた時、3つの感じの違う電子音が聞こえる。認証の音だ。顔認証、魔力認証、指紋認証の3つのセキュリティーチェックがある。
「これ、出入りのたびにやるのか?めんどくさそうだな」
「まぁ、しょうがないよ。ここには機密がいっぱいだから、あなたもその一つなんだよ」
「そ、そうなのか……」
私たちはドキドキしながら、ドアの奥に進む。玄関のところにいた警備員のおじさんがお辞儀してくれる。
向かうのは正面奥にあるエレベーターだ。このマンションには多くの階にはOIDOの職員がたくさん住んでいる。地下階もあり、トレーニングルームや勇者ロイドのメンテナンスルームがある。
そして目指すは最上階のブロック、最上階は隊長の家だ。私たちの家はその3つ下だ。部屋でなく、家と表現したのは恐ろしいことにそのフロアを丸々使わせてもらえるからだ。
いやまあ、世界の平和を背負っていると考えればそれぐらいの待遇はあっていいのかもしれないと思うが絶対持て余す。
「ドキドキする……」
「そうかだね。凄いとこに住むことになりそう」
私たちの高揚は、上がっていくエレベーターと対応するように高まっていく。
“チン♪”
ベルが鳴り、目的の階に到着する。扉が開く。まだ焦るな、ここはただのエレベーターホールだ。本命じゃあない。そこだけでもピカピカで派手だが臆するな。
「こ、ここにカードをかざして鍵を開けるの」
“ピッ!”
ノクスのために動作を見せながら鍵を開けて、ドアノブに手をかける。
「ゴクン」
私はつばを飲み込んで覚悟を決める。
“ギイー!”
「おお!」
「ひい!」
目に入ってきたのは玄関正面にとおんでもなく豪華な部屋だった。私は建物や家具などの知識はない。ただ床も天井も家具も逐一ピカピカ輝いて見えて高そうだった。
普通に感嘆するノクスに対して私は悲鳴じみた声を上げてしまう。
これは億り人と言われる人が住む家だ。本来私のような凡人が住めるところではない。
「広いし、いくらでもくつろげそうだ」
素直に喜んでいるノクスは部屋に入ろうとする。
「あ、待って!先に私が入るね!」
「あ、ああ」
困惑するノクスをよそに私は中に入り扉の内側で向き直る。ここに来るまでの間、考えてたことがある。
「お帰り、ノクス。ここが今日から、あなたの帰る場所だから!」
帰りたいと思える場所を、私がノクスにつくってあげたい。今はまだ、ただのポーズだけどいつかほんとになるように。
「ヒトミ……ただいま」
そんな私の思いが伝わったかは分からないが、彼は確かにほほ笑んでくれた。
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