新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
私とノクスはリビングの食卓で向かい合っている。テーブルの上に乗っているのはここに来る途中に寄ったコンビニで買ったお弁当だ。それが今日の夕飯だった。実は私は料理ができない。というか養成学校ではそのほかのことをこなすのに必死で習得する余裕がなかったというべきか。ともかく今後はマンションに備え付けられた食堂で食事をすることになるだろう。さすがにコンビニ弁当で勇者稼業をさせるわけにはいかない。
でも最初ぐらい二人っきりで落ち着いて食べようということで、コンビニ弁当だ。ノクスの好みが分からないので幕の内弁当にした。
「頂きます」
私が手を合わせると、その手にノクスの視線が注がれる。さすがの私もそれがどんな意味を持つ視線なのかは理解できる。
「ああ、この手を合わせるやつ?」
「それ……おまじないか何か?」
「うん、そんな感じ」
私はノクスに、食材への感謝を表す習慣が『いただきます』であると教えてあげる。
「命は生きるために命を殺す……それは変えられないことだから、感謝しなきゃってことか……大切な習慣だな。俺もやることにする……いただきます」
彼は私のしぐさをまねて、彼は合掌する。いきなり哲学的な言葉がノクスから飛び出し少し面食らう。けど、その言葉をかみ砕いて考えると彼は『いただきます』の本質が理解できているとわかる。
凄まじい理解力だ。私が彼ならとりあえず真似てみるだけで終わる気がする。
次に私は箸を持つ、でもまだ食事は始まらない。
「次は箸だね、これは食べ物を食べる時に手が汚れないようにする為の道具だよ。こんな風に食べ物を挟んで持ち上げるの。分かる?」
私は箸を持った手を彼の前に差し出してカチカチと鳴らして見せる。
「いや、全然覚えがないな」
なるほど、箸に覚えはないと心中でメモしておこう、なにが手掛かりになるか分からない。
「分かった。これは扱いがちょっと難しいからまずはスプーンか、フォーク持ってくるね」
既に棚に備え付けてあったので、持ってこようと私は席を立つ。
「待った」
「え、何?」
彼が突然呼び止めてくる。
「多分使える」
まだ箸を握っていた私の手を見つめる彼を見て
「ホントに?」
私は疑いの目を向けてしまう。私の小さい頃、両親に散々注意されて、長いことか買って覚えた正しい橋の持ち方。本当にすぐ身に付けられるものだろうか?
「手、触っても大丈夫?」
「え?……ああ、うん。どうぞ……」
彼の思いがけない一言に一瞬ビックリするが、手の形を詳しく知るためだろうとわかるので素直に差し出した。
「ん……」
「すまん!」
「あっ、いや少しくっすぐったかっただけだから気にしない続けて」
「そ、そうか。じゃあ遠慮なく……」
ヤバいヤバい!触られただけなのに変な声出ちゃった。これは真面目な行為なのになんかドキドキしちゃう!
ノクスの触れ方は、腫れ物に触るような優しいものだった。だから、羽根で触れられているようでくすぐったい。
彼の指は手の甲はそこそこにして、指の1本1本を何度もなぞるようにする。きっと骨がどうなっているのかを調べているんだ。
しばらく、すると彼は手を離し、箸を私と同じ右手で取った。
“カチカチ”
彼は私の前で箸を鳴らして見せる。
「出来てる……スゴ……」
「お、あってる?やったぜ!」
彼は私の顔を見てニコッと微笑む。
本当にすごい、学習能力だ。私にはとてもマネできない。それは、試行錯誤というより、スキャンで正確に読み取ってそれを再現して見せるような……。
「……っ!……じゃ、食べよっか。私のまねしてみて」
私は胸に湧いた違和感を誤魔化すようにご飯を食べ始める。
「おう、わかった」
彼は私の様子を見ながら、硬いものや柔らかいもの、米など巧みに使い分けて食べ物を口に運んだ。
食事は滞りなく進む。
「おいしい?」
「ああ、この食い物がおいしいってことは分かる」
「そっか、よかった。どうせなら食事はおいしい方がいいよね」
「うん、その方が力が出ると思う」
食べ物を食べるノクスは、人間と何も変わらない。食べることは生きることと直結していると思う。それを彼には楽しめるようになって欲しい。
「ノクスは食べたものを体内で、魔力に変換できるんだよね?」
「ん~、俺を調べたやつはそんなことを言ってたな、自分ではどうなっているかわかんないけど」
前園博士の説明によると、ノクスは取り込んだ有機物を魔力を構成する粒子である魔粒子に変換して、魔力として取り込みそれで動いているらしい。それが実際どんな感覚なのかはわからない。私も食べたものがどうなるかなんて、理科の授業を受けないと理解できないのでそんなものなのだろう。
※
「ごちそうさま」
「……ごちそうさま?」
ご飯を食べ終えた後、ノクスは私のするごちそうさまを見よう見まねでやってみてくれる。
「ふふ、いただきますの終了バージョンみたいなものだよ」
「そうか、こっちもやるようにする」
本当に、物分かりがいい。記憶喪失とは思えないほどに。
「ごめんな、せっかくの夕飯なのに、質問しまくる感じで……」
「ううん、私はむしろ楽しかったよ」
それは嘘偽りのない本心だった。
「そうか、なら、いいけど……」
ノクスは明らかに気を使ってると勘違いしている顔だ。
「私、ノクスが自分を探すのを手伝いたい。分かること分からないこと、その一つ一つのことがきっと手掛かりになると思う。だから、何でも聞いて?」
ノクスのおかげで私はなりたい私になれた。そして、次の目標の一つは彼の役に立てる私になることだ。だから、彼に頼られることは嬉しいことだし、楽しくすらある。それがうまく伝わるといいのだけど、リンクしているときに改めて伝えれば、誤解なく伝わるだろうか。
「ヒトミ、俺も同じこと考えてたんだ」
「え?」
またこの人は心臓に悪い言い方をしてくる。
「俺もさ、初めての出来事に出会った時、と自分の中に分からないって感覚のほかに、こうだったよなっていう納得とか、こうじゃなかったんじゃないかっていう違和感があるんだ」
「それって……!?」
「ああ、たぶん前の俺のかけら……」
ならそれを探していけばノクスがどんな存在なのかの手がかりになる!
「だから、初めてのことに出会った時、それがどういう意味を持つのかなるべく確かめたいんだ。でも、そんなの頼めるのヒトミしかいなくて、一緒に暮らせば確かめるのも手伝ってもらえるかと思って……だから……」
「うん!全力で手伝う!見つけよう、ノクス自身を!」
ノクスが私を必要としてくれるのは願ってもないことだ。そして、同時にノクス自身の願いをかなえる光明も見えてくる。
「私思ったの、ノクスは心が出来上がってるなって」
「……?」
ノクスはまだ私の言いたいことが分からないのか不思議そうな顔をする。私としてもいざ言葉にするのは難しいことだった。
「あの夜、私が泣いていた時、勇気の出る言葉をくれた。さっきもいただきますの持つ命の尊さとか感謝みたいなものをちゃんと理解できていた」
それらをノクスが理解できたのは単純に頭がよかったからではないと私は思う。
「そいうことはなんとなくでできる事じゃないと思う。ノクスに優しい心を持てるような思い出とか経験があったからだと思うんだ」
「……!」
ノクスも私の言いたいことを理解し始めてくれたようだ。
「今のノクスはその思い出が抜け落ちた状態にあるんだと思う。でもノクスが優しくて暖かいままってことはきっとその思い出はまだあなたの中にある。だから、絶対見つけられるよ」
勇者ロイドたちもあのヒーロー然とした性格になるまでに、プログラム的な教育以外に、養成校を過ごす時間での情操教育を経ている。ノクスにも、彼という存在を形づくった時間というものがあるはずだ。それはまだ彼の中息づいている、根拠はないけれど……そう感じる。
「そう、言ってくれると安心する。ありがとな、ヒトミ。頼りにしてるぜ」
「うん!任せて!」
ノクスの願いをかなえることは、私にとって魔法少女の使命と同じくらい大事だった。
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