新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~   作:タナト

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EP03 夜と天秤

 

「ガァルルー……」

 

 怪物の双眸はこちらの様子を窺うように向けられ続けている。

 あれはおそらく鋼魔人が使役するという怪物、鋼魔獣。イタチのような体に手についた電動ノコギリ、鋼魔獣は周囲の人工物を取り込んで己の武器にするという。かまいたちならぬ、ノコ・イタチと言ったところか。

 腕が震える、ステッキを落としてはいけないのに、人智を超えた怪物を前にして全身がアラートを鳴らしている。実戦の圧力、訓練とは全然違う。覚悟できたと思っていたが全然足りなかった。今すぐ逃げ出してしまいたくなる。しかし、そんな選択肢はない。もう生き残りたいなら立ち向かうしかない。そんな場所まで私は来てしまった。自分の意志で……。前までは漠然とみんなのために戦おうと思っていた。でも今は少し違う。はっきりと守りたい一人の顔が浮かんでる。

 たった一人だったが見知らぬ百人の顔よりも力をくれる気がする。あの人の言葉、あの人の想い、それが力になる。そうだ、今までのことがあったからこの現実に対して無力じゃない。足りなくても、心もとなくても私はアレについて知っているし、通用する刃もある。

 だから、立ち向かわなくては。あの人を傷つけさせない。その決意が、私に力を与える。敵に向けたステッキを両手で握りなおす。

 

「わーーー!」

 

 私はステッキに魔力を流し、魔力弾を連射する。いくつもの青い光弾が化け物へ向かう。このステッキにはいくつかの魔法を呪文なしで使用できる機能がある。訓練では威力も精度も出せなかった。

 それでも牽制ができれば良い。倒せなくても、ここは通さない。あの人のところには行かせない!

 

「ガァ―――!」

 

 微塵もダメージは与えられないが、敵の怒りがこちらに向く。そう、私を狙えばいいんだ。周りの人を取り込ませないようにできれば、それだけで星原先輩に有利になるから。

 こちらに襲い来る怪物、回り出すノコギリをギリギリで魔法障壁を張って受け止める。

 

「ぐ、うぅ……」

 

“ギャリギャリギャリ?”

 

青い半透明の障壁と刃が摩擦を起こし、火花を上げるすぐにバリバリとヒビが入り出す。薄い、弱い、この凶刃を防ぐにはあまりにも……。

 

「うわぁ!」

 

障壁が割れる寸前、私は足に魔力を込め後ろへ飛び退く。魔力を使った身体強化、習った通りできた。アドレナリンが出ているせいか、いつもより体が動く、魔力も回ってる。

 でも、足りない。この化け物に抵抗するには……魔力も技術も。私が全力を出しても埋まらない差がある。

 絶望と一緒に恐怖が胸にせりあがってくる。

 

「怯むな、私!」

 

そう叫んで、怖気づく自分を飲み込む。ここにいるのは私だけ、あの人を守れるのは私だけなんだ!

 

「やるしかないんだよ!」

 

迫りくる二つのノコギリ、魔力を固めて形成した刀身で受け止める。全身にも魔力を流して鍔せり合いをする。身体強化と魔法攻撃の同時進行、訓練では成功したことがなかった。私、戦いの中で成長できてるの?

 

「くぅ……」

 

 だけど現実は非情だ。私が限界を超えた力を出しても、回転する刃はこちらに迫ってくる。私の顔に刻一刻と……。

 私にしては、上出来ではないか。私の稼いだ時間で少しでも助かる命が増えればそれでいい。そんなカッコいいことを考えて受け入れようとする。

 

「…………」

 

 嫌だ、怖い、死にたくない。刹那、抑えていた感情が爆発する。目を閉じて叫んだ。

 

「誰か、助けて!」

 

 ヒーローであるはずの魔法少女が助けを求めてしまっては、誰がみんなを守るというのか、そう思っていても口に出る言葉は止められない。

 最後の砦である魔法少女が縋れるものなど……。

 

“バギンッ!”

 

目を閉じた私が次に感じたのは、鉄の冷たさでも、痛みでも肉が裂ける音でもなかった。鉄がぶつかり合うような音と、背中に感じた温かさだった。

 

「ノクス……!」

 

目を開けるとそこには、私を後ろから包むように立って拳を突き出す。ノクスの姿があった。

 何でここに……?何で動けるの……?ノコイタチを殴った……?素手で……?ノコイタチは魔法少女の魔力を帯びた攻撃でないと効果が薄いはず……?様々な疑問が巡ったところで、私は気づく。彼には魔力が巡っている。それも力強いものだ。その魔力には覚えがあった。背中で巨大な渦を巻きそこから全身に力強く脈を打つ魔力。それは勇者ロイドのものによく似ている。

 ノクスがロボット?勇者ロイドは人間と相違ない知性と情緒を持つモノだと学校での生活でよく知っている。しかし、彼らは食事をとらない。そういう機能が開発中であるという話なら聞いたことがある。とすればノクスは新型の?

 

「何で……?」

 

まだ出会ったばかりだが、心を通わせたものが人間でないかもしれないと分かり、私の心は動揺する。聞きたいことはいっぱいあるのにその一言しか言葉が出せなかった。

 

「何でって……ヒトミが心配だったからに決まってるだろ!?人がぞろぞろ入ってきたから何事かと抜け出してみれば……なんかとんでもないことが起こってるみたいだし……あの化け物何なんだ?」

 

ここに来てまで鋼魔獣について知らないというなら、記憶ないことは本当なのか。なら少なくとも、ノクスの言葉に嘘はない。そう理解した時、呆けていた私に活力が戻ってくる。

 

「あれは、人間の敵。けど、特別な力のある人しか対処できないの。だから、私がやらなきゃ」

 

 彼の言葉が、心が本物であるなら、今はそれだけでいい。その支えがあれば私はいくらでも戦える。折れていた精神が一気に持ち直し、私は最低限の言葉で状況を伝えた。鋼魔獣の方を見るとノクスのパンチがかなり効いているようで、形が崩れて苦しんでいる。

 

「なるほどな。ヒトミの敵は、俺の敵だ。手を貸すぜ!」

 

 記憶がないのにこの人は何を言っているのだろうと可笑しく思えてくる。こんな状況だというのに、なぜだろうか。この人がいるなら大丈夫だと思えてくる。もしかしたらこの人が、私の……。

 

「それにな、ヒトミ……俺は今すげー、イライラしてるんだ……なんでか分からんが、俺はこの化け物が許せない。これはそもそも俺の敵だ。そんな気がする……だからお前がどう思おうが俺はこいつと戦う」

 

 ノクスは鋼魔獣に強い敵意を持っている。勇者ロイドは核となる魔法の術式によって鋼魔に本能的な敵意を持つという。ということはやはり……そうなのか。

 ノクスが勇者なら、この状況を打開する手が一つある。しかしそれは明確にこの戦いにノクスを巻き込んでしまう選択だった。彼が勇者だとしても、素性の知れないことには変わりがない。勇者ロイドは厳密に管理されているし、製造には魔法と科学両面の高い技術が必要だ。そこら辺を記憶を失った勇者がうろついているなど本来はあり得ない。そんな彼を私の独断で契約を結んでしまっていいものか。

 

「来るぞっ!」

 

ノクスの呼びかけで、私は意識を戦いへ戻す。

 ノコ・イタチは体勢を立て直していた。

 

「ギャースッ!」

 

跳びかかってくると思ったが、奴はその場で竜巻を纏い、それを撃ち出してくる。

 

「させないっ!」

 

私は二人を覆う障壁を展開する。

 

“バシュザシュ”

 

「ああぁっ」

 

しかし防ぎきれず、風の刃の一部が私の身を裂く。じりじりとひりつく痛みが私を襲った。

 

「てめぇ!やりやがったな!」

 

怒りにかられたノクスが敵に突撃してしまう。

 

「ダメッ!うかつに突っ込んじゃ!」

 

「うおぉっ!?」

 

私の制止も間に合わず、ノクスは敵の展開した竜巻に拘束されてしまう。彼の身体は頑丈らしく、私ほど傷つくことはないがじわじわ確実にダメージを受けている。しかし、血は出ていない。

 

「ノクスを離しなさい!」

 

私は残った力を振り絞って全力の魔力弾を放つ。それはうまく効いたらしく、ノクスは解放され、私のところまで飛びのいてくる。

 

「くぅ……!すまねぇヒトミ……」

 

まずい……やはり今のままでは二人ともやられる……!翼さんが来る時間もまだ遠い。残された手段は一つか。

 

「ノクス!あなたが私の思ってる通りのヒトなら、二人で凄いパワーアップができるかもしれない。もし……」

 

「やる!ヒトミがやるべきって思うことなら、それでアイツが倒せるなら俺はやる!」

 

まだ何をするかも言ってないのに……この人は……。

 

「理由は分からねえが、なぜかやらなきゃって気になるんだ。俺の深いところがそう叫んでる!」

 

根拠のない自信、冷静に考えればそんなものに身を任せるべきじゃない。でも……不思議だ。私も同じ気持ちだ。ノクスとならきっと……!

 

「ノクス!私の運命、あなたに預ける!」

 

「俺も、ヒトミに預ける!」

 

そう彼が答えてくれた時、彼の背中が光り出す。

 そして、魔力が噴き出し、開いた。彼の背中が観音開きになり、中から円盤のようなモノが露出する。

 

「な、なんだ……!?」

 

自分の身体の変化に流石にノクスも焦っているみたいだ。

 

「大丈夫、それでいい。私を受け入れて!」

 

「お、おぅ……」

 

それでも私の言葉で、ノクスはされるがままになってくれる。

 彼の背の円盤の中心には何か埋めるべきものを待つようにくぼみが開いているのが見える。行ける、そう確信した私は一度ステッキをペンダントに戻し、中の秘石であるアミナ・ピースを取り出す。

 

「我は誓う。汝との魂の共鳴を糧とし、汝とともに彼の魔を討つと!」

 

その誓いの言葉で、彼の背と私の石が共鳴して、爆発的魔力が発生する。

 

「ガァア!」

 

敵もこちらが何を始めるか察したらしく、突撃してきた。しかし、一手こちらが早い。

 

「ブローミング!ドラーーーイブ!」

 

その最後の詠唱とともに、私は秘石をくぼみに、勇者の力の源であるエンジンに嵌め込む!

 

「グオオォー!」

 

突撃してきた鋼魔獣は二人を包むように発生したエネルギーに弾き飛ばされた。

 そして、光の竜巻が消えた時、私たちの変身は完了する。私は白と桃色のドレスを纏う姿に、ノクスは羽織ったローブ付きのマントの奥で、プラチナのような輝きと夜の闇のような純黒が共存する甲冑を着ている姿に。

 

「愛審聖裁マーシー・リブラ!」

 

「影光勇者ノクストス!」

 

私と彼は名乗りを上げる。倒すべき敵にそしてこの世界に。

 




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