新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
Side:碧乃
声の主は、私と似たような組織の制服を着た女の子。それもマリア博士のブロンドよりも数段明るい、それこそ絵に描いたような、太陽のように輝く明るい金の長髪を持った美少女だ。そんなものは見たことがなかった。それでも間違いない、瞳だけでここまで強いエネルギーを感じさせられるのかと驚かされる。黄金の目……一度見たら忘れることなどできない、彼女は……。
「初めまして、私はエイミー・カーター……グレース・モノセールよ……後ろの彼は私のパートナー……アスハって呼んであげて」
その美少女は、自己紹介をするとともに、後ろについてきていたハリウッド俳優のような短い黒髪の白人イケメンのことも紹介してくれる。
「…………?」
思いがけなく現れた人の、思いがけない一言。私は初対面ということの意味が理解できず、しばらくフリーズしてしまった。
「ど、どうも、碧乃一実……です……」
なかったこと、になったのだから私と彼女は会ったことがないのだ。
「ごめんなさいね……付き合わせてしまって……」
「い、いえ……」
エイミーさんは、状況に可笑しさを感じているのか、自嘲気味に言った。私としては全く笑える状況ではない。
「それで、私たちに何か御用ですか……?」
さすがにこんな状況で敵意を向けてくることはないと思えるけど、相手の意図が全く分からず、私はすぐに聞き返してしまう。
「ええ、そうね……一つは、この大きいのを見物に来たの」
エイミーさんは、インテグレーション・ボディに目を向けて言った。それは理解できる。戦力としての興味もあるだろうし、あの巨人はもっと単純にすごくてカッコいいものを見たいというある意味で子供のような感情を、老若男女に湧きあがらせる威容がある。
でも彼女の声色からは、それがとってつけた理由にしか思えなかった。
「……そしてもう一つ、あなたに会ってみたかったのよ」
彼女は巨人をしばらく眺めた後、私に言った。普段なら飛び上がって喜ぶところだが、なかったことにしたいと言っておいて自分から接触してくるのは正直勘弁してほしい。
「ツバサの自慢の後輩にね」
私の感情を彼女も理解しているのか、理由の深いところを伝えてくれる。
「先輩ですか……」
彼女と先輩に交流があるのはもちろん知っているが、それと私と会いたいという部分が繋がらない。会いたいとしたら、ノクスの方ではないのか?
「そう、私、一応あの子のことは友達だと思ってるの……けど、こっちから連絡しないと相手はうんともすんとも言ってくれないの……」
「……??」
唐突に始まった彼女の話に私は困惑する。分からなすぎて先輩と仲いいマウントですか?などと場違いなことも考えてしまう。
「でもこの前、プラネスフィア……だったかしら?それが出来た時に写真付きで送られてきた」
彼女は組織から支給されている端末を見せてくる。
そこには、就任式の時に十人で撮った写真と一緒に、『素敵な後輩ができた。あなたにもいつか紹介したい』というメッセージが添えられていた。
先輩が私たちのことを大切に思っていることは、ちゃんと伝わっていたがこういうふうに示されると、嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気持ちになった。
「あの娘、自分に厳しすぎるところがあるの。だから、一人で戦ってたのが心配でね」
確かに、先輩は必要なこと以外はほとんど言わないようなところがある。ノクスから食事のことを聞いたがそのあたりも、ストイックさの表れだろう。その姿は完璧な戦士のようにも見えるが、その実は私よりも一つ年上なだけの女の子なのだ。やせ我慢であるのは間違いない。
「だから、そんなあの子にできた後輩がどんな人間か気になったのよ」
なるほど。私に会いに来た理由は分かった。エイミーさんも先輩のことが心配だったということだろうか。やはりこのタイミングでする話かどうかは疑問だけど。
「…………」
そこまで考えて、ふと思った。この人から見て、さっきの私の行動はどう映るのだろう。先輩に対して秘密を持つような不義理な後輩に見えてしまうかもしれない。あっちの都合で巻き込まれたトラブルを飲み込んで悪感情を持たれるのも、おかしな話だが。
「それなりにしっかりしてそうだから、安心した……私の恥ずかしい秘密もちゃんと隠してもらえそうだし……」
私の中のもやもやを知ってか知らずか、彼女は言外にさっきの出来事を交えて私をほめてくれる。さっきのあれはしっかり対応できたということでいいんだろうか?
「あの子とは、それなりに仲良したいの……だから、ありがとう」
「…………!」
礼を言う彼女の、言葉にはそれまでとは違う、熱のようなものが籠っている気がした。もしかしたら彼女は、先輩と仲を悪くしたくなくてあんな提案をしたんじゃないだろうかと思ってしまった。
だからだろうか、エイミーさんの人となりをもっと知りたくなって、私から質問してみた。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ああ、私ばかりしゃべっていたわね。何でも聞いていいわよ」
「エイミーさんはどうして魔法少女になったんですか?」
「……また、難しい質問をするわね」
自分でも図々しい質問かと思ったが、このタイミングで話しかけられたのだから、それぐらい踏み込む権利はあるはずだ。
シンセリー・テルスと並び称えられる魔法少女を突き動かすものは何か、単純に興味がある。
「そうね……周りの期待とかいろいろあるけど、ツバサもその一つよ」
「え?」
さすがにそこまでは想像できてなくて、私は驚いてしまう。
「……私たちの世代が、国を問わず一か所に集められて最初の訓練をやってた時期があるのは知ってるわね?」
「はい」
まだ、魔法少女というものをどう扱うべきか、世界がまだ理解できていなかった時代、エイミーさんや星原先輩などの第一世代の魔法少女候補は、アメリカの施設に集められ、訓練以前の実験をしていたという話だった。
「最初の候補たちの中でも、あの子は異彩を放っていたわ。当たり前よね。あんな過去があったんだもの。そんじょそこらの連中とはモチベーションが違った」
月の下で教えてもらった星原先輩の過去への思い、もっと近い時期ならばもっと強く彼女を急かしていたのかもしれない。
「周りの候補生も、抜群の成績を見せる彼女に対して、それが当然のようになって、あの子と競おうともしなかった」
やはり先輩は昔からストイックだったのか、黙々と課題に取り組む姿が私にも想像できた。
「でも私は負けず嫌いで、あの子には負けたくなかったし……それに、よく見れば無理をしていることなんて……すぐに分かる……だから私は決めたの。あの子と並ぶ魔法少女になって、そんなにあなたが無理しなくても、鋼魔に立ち向かうヒーローは現れるって教えてやるんだって……」
悲しみを知っているから、人は優しくなれる。辛い過去を乗り越えたから、強くなれる。そんな言葉をよく聞く、それがないフワフワした理由で魔法少女になった私はここにいていいのかと考えたこともある。
目の前のこの人も、同じようなことを考えたりしたのだろうか?
「それにつまんないじゃない。……悲しい過去がないとヒーローになれないなんて、悲劇がないと、ヒーローが生まれないなんて……」
「あ……」
「だから、私がそんなことはないって証明したい」
反射的に声が出ていた。エイミーさんの言葉とそれを裏付ける生き様が、私の不安に光を当てたような気がしたから。
「……と、こんなものかしら……どう?参考になった?」
私を覗き込むエイミーさんの顔はとても堂々として見えた。
「はい、とても……いろいろ自分の選択に不安があったんですけど、少なくとも今日、あなたを信じたことは間違いじゃないって思えました」
「あら、何のことを言っているのか分からないわ……」
「ふふ、ふふふふ……」
「ふ、ふふ……」
私たちはこの問答に可笑しさを感じて笑いあう。
「でも、ありがとうね。ミドリノさん」
「私も、話せてよかったです」
それが私とエイミー・カーターとの出会いだった。彼女とアスハさんは『いつか肩を並べて戦える日を楽しみにしている』と言い残して去っていった。
その後作業は滞りなく進み、最終調整を残すのみとなったタイミングで、日本支部からの緊急連絡が入った。
Side:カーター
「俺たちからのリークがあったとはいえ、あの状況に立派に対応しきるとは……すごいもんだな」
ミドリノ・ヒトミとの邂逅を終えて私たちは所定の場所へ戻るため荒野を車で移動していた。そんな状況で、運転してくれているアスハが話しかけてくる。
「そうね。ツバサが高く買ってるのも分かるわ」
鋼魔に立ち向かうのは勇気のいることだが、人に銃を向けられるのはまた違う怖さがあるはずだ。私も本気で銃を向けられた経験はないため、想像でしかないが。
「例の勇者はどうだった?私たちが話してた間、ずっと睨み合ってたけど……」
先代の勇者と推測されているゴーレム。女同士の話には深く立ち入らずいてくれたが、こちらのことを警戒して圧力を出していた。
「俺は人間的な感覚を完全には持てているわけじゃないが……あれが、殺気という物なんだろうな……絶対にあの子を傷つけさせたくないと考えながら、俺の一挙手一投足を見張っていた。勇者らしい……あんなことがあった後だ。多分俺があいつでもああなるだろうな。その意味じゃ、親近感を覚えた」
ノクストスなるモノも、アスハたち勇者と同じ……いや、むしろアスハたちの方が引き継いでいる、というべきか、魔法少女を守る本能を。
「それにしても、ホントにひどいことしちゃったわ。あとで日本支部にもそれとなくフォローを入れておくしかないか……」
組織に秘密を持つことを怖がっている様子だった。私が代わりに連絡を入れれば変な勘繰りをされることもないだろう。
「おい、リークもいいが……下手なことをすると目を付けられるぞ。今回の対応だってよく思わない奴はいるだろ?」
アスハが私に釘を刺してくる。日本とは違ってアメリカでは魔法少女関連物を軍事力に転用したい連中がうようよいる。OIDOの上層部は好きや弱みを見せまいと日々頭を悩ませている。今回の件もその一環だ。
「でも、あの子を放っては置けなかった……それに、私の後輩も優秀よ?新型が完成しさえされば、巨人に乗るのは私たちでなくてもいい……」
「そうかもだけどさ……」
上層部の怒りを買えば、今のような自由さはなくなりそうだ。でも、ヒーローとしてふさわしい行動が出来たと思うそれに後悔はない。ただ、アスハは不満そうだ。
「どうしたの?って……アスハ、あれに乗りたいのね!?」
建造中のアメリカ製インテグレーション・ボディの一番機、パイロットは私たちで内定しているが、顰蹙を買えば変わってしまうかもしれない。彼はそれを恐れているのだろう。
「……乗りたくないと言えばうそになるが……そんな願望は、戦士が持つべきじゃないだろ?」
アスハは、悪いことをしてしまったと報告する幼子のように訊いてきた。
「時と場合によるわよ。それに、あんなに大きくてすごそうなものに興味を持ってしまうのは、良い悪いの話を超えた。人間の感情よ……私は無理やり抑える必要はないと思う……」
勇者ロイドにはその性質上、いろいろな苦悩をさせてしまう。だから私たち魔法少女だけは、彼らの希望にできる限り寄り添いたい。
「んーそうか?じゃ、乗りたいから下手なことしないでくれよ!」
アスハ、私の意見を聞いて切り替えたのか明るく言った。
「分かった。私、上層部の小言の躱し方考えとく……」
「ふ、ふふふ……」
「ははは……」
問答のおかしさにやられた私に釣られてアスハも笑いだす。くだらないことで笑いあうそんな時間が私は好きだ。車はそんな幸せな二人の空間を載せて果てしなく続くように見える荒野を進んでいく。
感想評価よろしくお願いします