新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
「…………」
それからの彼女は宣言通りに、そこから動かなかった。朝になって、近所の知り合いが声を掛けに来たがそれさえも拒絶し、殻に閉じこもっているようだった。
それを目の当たりにした妖精たちは彼女には時間が必要だと話し、干渉しなくなった。時間が、心を癒すということもあるのだろうか?
「…………」
それから数日の間ずっと彼女はじっとしていた。生きてはいるようだったが生体反応は弱まっている……。見守るとは言ったがこのまま餓死させるわけにはいかないか……。
“バシャァッ!”
「な、なに!?何なの!?」
さすがのリヴァリエも、急に相当量の水をぶっかけられたので、大きなリアクションをした。
彼女の目線の先には、この家にあった桶で今しがた水をぶっかけた俺がいる。
「お前たち植物系の妖精は食わなくてもいいが、水を摂取しないと光合成できないんだろう?あとじっとしているのはいいが光の当たる場所にいろ……」
「…………!?」
また彼女はあの冷たい視線を向けてきて、俺に無言の抗議をしているようだったが以前ほどの圧力は感じなかった。
そのあと俺がまた姿を消すと、彼女は濡れたままでいたが屋根の下を出て、陽のあたる場所にいるようになった。これはいい傾向かもしれない。
※
事態が動いたのはそれから3日後だった。
「へへへ、お嬢ちゃんかわいいじゃん……暇なら俺の相手をしてくれよ。ぐへへ……」
ある日の夕暮れ時、火事場泥棒に来たらしい汚い毛皮の衣類を纏った盗賊が、薄笑いを浮かべながら彼女に近づいていく。性的暴行などを狙っているのかもしれない。
「…………!?」
彼女は逃げなかった、イヤ、この場合は逃げられないというべきか、汚れや垢が目立つひげ生えた男の顔へ、俺に向けるのとは少し違う震える視線を向けていた。怯えていると言っていいのだろうか。
「へへ……!」
「た、助け……!」
盗賊の手が伸びてきた時にやっと、彼女は助ける声を出す。その声を聞き届ける前に、俺は隠ぺい魔法を解いて盗賊の太い腕を掴んで止めた。
「な、何だてめー!?どっから出てきやがった!?」
盗賊は突然背後から現れたように感じる俺に驚いているようだ。
「あ、あなた……!」
リヴァリエも驚きの声を上げていたがなんと俺の背後に身を隠した。
俺は彼女がどうしようが、助ける気ではいたが、目の前の暴漢よりは信頼されているということか。それは良いことと捉えるには、いささかハードルが低すぎる気もするが。
「なんだぁ?てめぇ?その嬢ちゃんのツレか?」
粗暴な言葉遣いの男は、獲物との間に入られたことにいら立ちを感じているのか、怒気をはらんだ声をかけてくる。なるべく穏便に済ませたくはあるが……難しいか。
「従者だ。彼女に危害を加えるというなら俺がさせない。怪我をしたくないなら、去れ」
俺は相手の目を見据えて、はっきりと宣言する。
「へ!細っこいおめーに何ができるってんだ!お前こそ金目のものと嬢ちゃんを置いて逃げるなら命だけは助けてやるぞ?親にもらった大事な体、大事にした方がいいと思うぜ」
暴漢は威圧するように筋肉を隆起させる。それに合わせて体毛が伸びてきている。獣系の知性妖精といったところか……。目的は後ろの彼女への性的暴行とこの家の財貨の収奪……。彼女を守るのが俺の役目なら、好きにさせるわけにはいかない。
「俺を造った者はお前のような下らん存在に、負けるほど粗雑な腕はしていない」
「んあぁ?何言ってやがる!俺をバカにするならこいつで八つ裂きにしてやる」
盗賊は俺の言葉を挑発と捉えたのか、腰につけていた金属製のカギ爪を装備する。
「臭いはいけ好かんが……切れ味は最高だぜ……?」
その武器はおそらくネジェシスが作成したものだろう。自慢したくなるのも納得ないい品に見える。妖精は金属を忌避する本能はもっているが、それが有用となれば利用する個体も出てくるか。そういう妖精でもネジェシスそのものへの差別感情は捨ててくれないのなら、厄介な話だ。
「悪いことは言わない。お互いのために、穏便に済ませるべきだ。この場を去るなら、それ以上の追求はしない」
おそらく鋼魔の襲撃で混乱しているこの町を狙ったのであろう。今この街では、憲兵の類の働きは期待できない。とはいえ俺としてはリヴァリエの安全さえ確保できればひとまずあとはどうでもいい。捕縛して罰を受けさせるようなことをする気はない。
「けッ!舐めやがって!後悔しやがれ!」
盗賊は愚かにも、両手につけたカギ爪を俺めがけて振り下ろしてくる。
「やめてーーっ!」
“キィィンッ!”
リヴァリエの悲鳴が聞こえ、金属音が響く。
「な、なにぃ!?」
相手のカギ爪は、俺の掲げた両腕によって受け止められる。この程度の攻撃なら戦闘形態にならなくても対処できる。
「くぅ……!硬えぇ!?……かぁー!」
金属同士がぶつかった結果生まれた、骨に響く衝撃によって相手はのけ反る。制圧は簡単にできそうだ。俺は跳びかかるように回し蹴りをする。
“ガギンッ!”
そのカギ爪は俺の蹴りで音を立てて折れる。高度の問題以上に、すでに刀身にダメージがあったと見える。相当雑に扱われていたようだ。
「ぐぬぅ……蹴られたぐらいで折れやがってッ……!あの鉄野郎……!鈍らを寄こしやがったな……!」
盗賊は、その武器をつくった職人であろうネジェシスに悪態をつく。
「それは違うだろう。接触したときの感覚から言って、あの武器の作りの精度は高かった……こうも簡単に破壊できたのはお前の扱いが悪かったからだ」
俺のつくられた目的の一つは、ネジェシスの名誉回復……それもあって責任転嫁しようとする相手の言い訳は放置できない。
「好き勝手言いやがって……!こんなもんなくてもてめぇなんか捻り潰せるってんだ!……ウォーーー!!」
怒りに支配された相手は、両手の武器の残骸をかなぐり捨て、力んで雄叫びを上げる。
“ビキビキ!……ブワァーーー!”
敵が全身の筋肉を膨張させたかと思うと、体毛が増えてその姿が、獣に近くなる。妖精として生まれ持った側面を表に出したということだろう。見た目から言って、熊の妖精といったところか……。
「あの世で、後悔しやがれ!」
敵はより低く、鈍い声で叫んで、右腕を振りかぶる。そしてその勢いのまま俺に掌底を食らわせようとする。確かに下手な斬撃よりも有効かもしれないな。
「…………」
だが脅威とみなすには、足りない。俺の対応は足に力を入れる程度、攻撃を阻止する必要はない。
“ドン!”
「なっ……!?アガァー!?」
盗賊の手は俺の腕に阻まれたところで、ぴたりと止まり、それより先には進めなくなっていた。そしてそのエネルギーは行き場を失い、奴の体組織の方に反動として返っていく。
一拍置いてそれを体感した盗賊は叫び、腕を抑えて後ずさる。
「お前……ナニモンだ?」
どんな感情をはらんでいるのかは分からないが動揺していることがその視線から見て取れる。敵を削ぐことには成功したようだ。
「俺は、後ろの少女を守り、鋼魔を倒すためのモノ……そのための戦闘力を持っている。今ので実力差が分かったのなら、ここから去れ。俺たちに干渉しないならそれ以上の追及はしない……ただ、次は排除する」
「ううぅ……」
相手はしばらく、怒りと危険を避けたい本能の間で葛藤していたようだが……。
「俺がてめーみたいなヒョロガリに負けるはずねぇーだろうがぁっ!」
逡巡の結果、敵は俺への攻撃を選択したようだ。決定的な脅威として排除する。そう自分の中で採決して、腰の刀に手を掛ける。そして抜く勢いで、首を……。
「殺しちゃダメ!」
後ろから叫び声がかかる。それは、この場において合理的な選択だとは思えなかった。ただその声は、俺にとって絶対的だった。
「…………」
機械的にというべきか、思考を含めたあらゆる機能が殺さないという命令を、遂行するために停止する。
「ケェーーー!!」
“バシュンッ!”
俺は刀を抜きかけた態勢で、薙ぎ払うように振るわれた盗賊の右手に吹き飛ばされる。
「あ、ああ……!」
自分の行動の結果を想像していなかったのか、困惑が混じった声を出しているようだ。
「…………」
ぐるぐると回る、視界という世界の中で、確かに彼女の姿を捉える。震える瞳が見える。その眼に浮かぶ感情は、リンクしていた時に感じた。恐怖という物だろうか……?
大丈夫だ、今はそう彼女に伝えたかった。俺には、殺さず、お前を守る力がある……。
そうでなくては、俺が存在する意味などないだろう。
「へへへ、ふきとや、がわぁっ~!?」
盗賊は俺を打倒した実感を得る前に、吹っ飛んだ方向にあったククノチを構成する大樹の幹を蹴り込んで戻ってきた俺に殴り飛ばされる。
「あ、ああぁ……」
先ほどの再現のように、リヴァリエは声を出す。
大丈夫だ、さっきの接触でこいつの身体強度は分かっている。致命傷は与えない。期せずして、やり返されることになった盗賊は、俺以上の勢いで奴から見て左の方向にふっ飛んでいく。
“ガドンッ!”
骨も無事ではなさそうな、音を立てて盗賊は大樹の幹に受け身を取る余裕もなく衝突する。
しかし、有機妖精にしてはなかなかの強度だと見える。ハンターなどになれば社会的な称賛を得つつ、成功できそうなものを……。
「ぐぇぇぇ……!」
衝突の衝撃で上がった土煙が収まると、幹に半ばめり込んだ状態で気を失っている。だが、四肢を痙攣させているところを見ると、やはり死んではいない。無力化を確実なものにするなら、紐で拘束するなりしておくか……。
敵の状態を分析した俺は、いずれの場合も次の瞬間に再び脅威になるものではないと判断して、最も優先すべき存在であるリヴァリエに向き直る。
「怪我はないな?」
観測範囲では、彼女に被害が及ぶことはなかったはずだが、万が一ということがある。
「う、うん……ごめんなさい!私が余計なことを言ったせいで、怪我させちゃって……」
リヴァリエはいたたまれないと言った様子で目を伏せて謝罪してくる。
「気にする必要はない、内部構造には影響はない。すぐに治る。それに俺にとってお前の意志は絶対だからな……」
俺は先ほど殴られた、左頬をさすりながら答える。外から見れば、あざのようになっているが、俺に備わった自己修復機能ですぐに治る。性能的にも影響はない。
「私の意志が……」
リヴァリエは、困惑でなんと言っていいか、分からない様子だった。ただ俺と、盗賊と、横たえられた骸を順に見て何かを考えているようだった。
「おおい!大丈夫かー!」
さすがに一連の打撃音で騒ぎを察知したのか町の住民たちが様子を見に来たようだ。
「うわ、なんだ、こいつ!?」
「こいつ、このあたりで暴れてたならず者だぞ!確か、手配書も出てた……」
「リヴァリエちゃん!怪我はないかい!……その男は!?」
リヴァリエの知り合いであろう中年に見える女性の妖精が、彼女の様子を見に近づいてくる。
「見ない顔だな……ひょっとして、こいつの仲間か!?」
後方にいた男が俺を盗賊の仲間かもしれないと警戒して、携えていた農具をこっちに向けてくる。前回は戦闘形態しか見せていなかったし、警戒されるのも当然か。
「こ、この人は違うの!そいつに乱暴されそうになったところを、助けてもらったの!」
リヴァリエが、住民たちと俺の間に立つようにして弁明してくれる。
正直、得体の知れなさという意味では、盗賊とそんなに変わらないような気もしてくるが、少なくとも彼女の中では、敵ではないという分類には入れているのか。そう思うと少し安心するとともに、暖かい感覚が胸の中に沸いた気がした。
「そうか……そりゃ悪かった。その子はわしらみんなの娘みたいなもんだ。助けてくれて、あんがとよ……この状態だ。もう悪い知らせは、ごめんだぜ……」
構えていた男は、納得した様子で頭をさげた。周りのからも好意的な言葉聞こえてくる。とりあえず敵というくくりに入ることは避けられたか。
「それで、本当に何ともないんだね?」
リヴァリエに近づいてきていた女が改めて確認する。
「うん……私は大丈夫……」
彼女は、気丈な様子で答えた後、少しの間俯いた後、意を決したのか顔を上げた。
「心配してくれてるとことに乗っかるみたいで、悪いんだけど、みんなに一つお願いがあるの……あなたにも……」
そう言ってリヴァリエは、周りを見まわして、俺の方にも目線を向けてくる。その眼には、ほんの少しだが光が戻ってきているように見えた。
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