新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
「正直、気力がなくてお母さんたち、そのままにしちゃってたけど……やっぱりちゃんと、葬ってあげたいの!だから、だから、みんな……てつ、手伝ってくれな……う、うぅ……」
リヴァリエは俺たちへの頼みごとを言う途中で泣き崩れてしまった。
「皆まで言わなくても大丈夫さ……私たちも、自分たちのことで忙しかったからって、放って置いちまって悪かったね」
リヴァリエに寄り添う女が彼女を抱きしめながらそう語りかけていた。
「そうとも、いつまでも野ざらしは可哀想だもんな……いつもどおりは無理だができる限りは手伝うさ」
女に続いて男たちも同じように答える。
「お前が望むことなら、俺もできる限りをする」
彼女の願いに応えようとする者たちに彼女は涙で顔を濡らしながら何度も何度もお礼を言っていた。皆が話しているのは、おそらく葬儀、弔いの儀式のことだろう。
“弔い”死後の安寧を祈る行為……言葉そのものは知っていても、それの意味するところは分からない。生物が死ぬとどうなるか、無に還る、あるいはほかの何かに生まれ変わる、あるいは楽園と言われる場所へ行く……俺のメモリーの中にも様々な考え方が記録されている。しかしそれらはどれも確定ではない、ならば死んだ者に対してすることにどんな意味があるというのか……。
分からない、だがどうでもいいことだ。リヴァリエがそれを望むというのなら、そのようにする。それが自分にとっての絶対だ。それに、生物ではない俺にとってはどうあっても関係のないことだろう。
※
それから俺は人手として、ひたすら指示される作業に従事した。骸を墓地とされる場所へ運び、人数分の穴を掘る。疲れ知らずで膂力のある俺は、周りから称賛を受けることになった。任務の性質上、周囲からの好感度は高い方がいいのできっとそれは良いことだろう。心についてまだ自分が理解できていないので、どうしたらそうなるのか、再現するためにはどうすればいいのかというのが分からないのが問題ではあるが……。
「……偉大なる大地の聖霊よ……罪なき魂があなたのもとへと還りました。どうかその御霊が安らぎに包まれますように……」
町付きの僧が、墓穴に納められたリヴァリエの家族に対して、祈りの言葉を掛けていた。
「…………」
当のリヴァリエは胸元で両手を組んで目をつむっている。あれを、弔う……というのだろうか、真似だけでもするべきだろうか……。
「なんじゃ、祈らんのか?」
そう話しかけてきたのは、老体の男の妖精だった。
やはり植物の妖精で、それなりの年月を経ているのか苔むしたような肌と枯葉のような髪をしていた。植物系の妖精は寿命が特に長い傾向がある。今の俺には想像もできないような期間を生きていそうだ。杖を突き、腰は曲がっていたが、濃厚な魔力というか年月を経たが故の、存在感のようなものを感じた。
俺は、不思議とその老人の話を聞く気になった。
「どうするべきか分からないだけだ……」
「んん~?うむ、ただの無作法なガキかと思ったが、なにやら事情が複雑そうだわい……葬式など無意味なのではないのか、とか考えとるんじゃろう?」
伸び放題の眉から覗く、つぶらな瞳が俺をとらえる。そうなのだろうか?言われれば、そう思ってしまうような気がした。
「無意味だと思っているわけではない。意味が分からないというのはそうだが……」
リヴァリエが望んでいることならば意味があろうがなかろうが、実行するつもりだが、どうせやるなら、その意味を理解したいとは思う。もう生きていないものになすことに、何の意味があるのか、どうせ放っていても、その遺骸は土に還る。穴を掘り、そこに埋め、墓とする。そこに、どんな意味があるのか分からない。
「なら、知りたいとは思うのかね?」
「ああ……」
「ならば、話して進ぜよう……じゃが生死に関する考え方は、人それぞれ……一つの考えでしかないことは先に言っておくぞ」
「了解した……」
聡明そうな物言いだと思った。自分の立場と、主張の扱いがはっきりしている。絶対的な真理ではないが、パターンの一つとして聞く価値がありそうだ。
「正直に言ってしまえば、死んだ後のことなど分からん……きっとこれからもずっとそうじゃろう」
随分と議論の土台をひっくり返すようなことを言う。その前提があるから今やっていることは、空しく、無意味な行為ではないか、という疑問があるのだろう。
「じゃが、死んだ者たちの行く先がより良いものであってほしいという、願いがある。お前さんが死んだ者に無頓着でも、より良い方であったらいい……ぐらいは思えるじゃろ?そして考えても分からない、なら悪い方に考える必要もない」
確かに好き嫌いという価値観がほとんど存在しない俺にも、別に悪い状況にあれとは思わないし、どちらかと言えばより良い環境にいて欲しい、ぐらいには考えることができる。
「死んだ者のために生きているものができることはもはや、祈ることぐらいしかない。ならば、最後にできることをし尽くすのじゃ。そうすれば多少死者への思いも前向きにすることができよう。死んだ後もきっと不幸にはなっていないはずとな……」
なるほど、少しだけわかってきた。それはどこまでも、物理的な意味を持つことではなく、分からないものが分かるようになるわけでもない。ただ、それぞれの精神に、心と言われるナニカに働きかけるための行い。俺にはまだ分からないが、魔法少女の力の源が心にあり、それは生命体全体にとっても物理的なことと同じぐらい重要なものなのだろう。
ならばそれが内向的な行いであっても、きっと意味を持つものだ。
「葬儀とは、弔いとは、死者以上に残された者たちのための行いでもある……お前さんとあの子の関係は知らんが、あの子のためにも祈ってやったらどうじゃ?」
老人はそう話をまとめて、少し疲れたのかほっと息をつく。
「そうだな、そうさせてもらう……」
彼女の願いに寄り添うのが俺の役目、きっとそうすべきだと思った。
「…………」
俺はリヴァリエの見様見真似で、手を組んで、しばらく死者たちの冥福を祈った。
「これ……」
しばらくして、また老人から声がかかった。視線を送ると彼は眉をひそめてこちらを見ていた。
「なんだ、祈り方が悪かったか?」
老人の言いようだと、形よりも祈ることそのものが大事というように取れたため、厳密な儀式のやり方などは、気にしなくていいと考えていたが……俺は何か間違いを犯したのだろうか?
「そうではない……身になる教えを受けたなら、礼を言うのが通りというものじゃろう……教えだけではないそ、生きていくなら、あらゆるものからの助けが必要じゃ……それへの感謝を怠るようでは、得られる助けも得られなくなるぞ……」
「そういうものか……」
確かに弔いに関する、話は納得できたし、今のリヴァリエの精神を理解する一助になるかもしれないと感じている。感謝というものが本当に必要なものかはまだ確信が持てないが、筋の通る話をする者の言うことだ。無視することもないだろう。
「感謝する……ためになった」
「ふむ、まぁ……いいじゃろ……死ぬほど凝り固まっているようにみえて素直ではあるようじゃ……その素直さを大切にな……ふぉっふぉっふぉっ……」
そんなことを言い残して、老人は去っていった。
※
「みんな!今日は本当にありがとう!まだ悲しいのも苦しいのも消えないけど……少し、楽になったよ!」
葬儀の一連の儀式が終わったとき、すでに夜になっていた。松明の火に照らされる中、リヴァリエは助力した者たちに礼を言った。さっきの話と合わせるとお礼をきちんと言う彼女だから、周囲からの助力を得られている、ということだろうか?
「お礼なんていいよ!大変なことが起こったのにろくに助けてあげられなくて……」
「リヴァリエが、あのバケモンを倒してくれたってのに、ごめんなぁ……」
周りの者たちはむしろ自分の力不足を謝っていた。
「ううん!めっちゃ助かったよ!ほんの少しだけど、前を向けそうな気がしたの……」
火によって赤く染まった彼女の顔には、涙の跡がありそんな状態で彼女は笑っていた。どういう精神状態なのだろう?笑顔そのままではないように思えるが……。
「これからも、なにか助けられることがあるなら言っとくれ!できることはしたいからさ……」
「そうだな!」
「うん、分かった。皆、今日は本当にありがとう!」
その言葉を最後に、周囲の者たちは帰っていった。
そして、森林を切り開いた広場にある墓地に残ったのは、俺とリヴァリエと、彼女の家族の墓だった。
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