新型勇者に契約破棄された魔法少女ですが、古代の勇者と無双します! ~落ちこぼれと型落ちで送る、超合体おとぎ話~ 作:タナト
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「うっ、ううーーー!セレスッ!」
リヴァリエはそう叫んで、毛布を脱ぎ捨てるようにして飛び起きた。俺は目の覚めた彼女を見て、緊張が和らいだ。
エブンへ向かう中であたりが暗くなったので、森林を切り裂く街道の脇の開けた場所で、焚火と簡易的なテントを設置して野営をすることになったところ、彼女は疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。彼女の家でうずくまっていた時にはろくに眠れていなかったようなので、いい傾向だと思った。
それはいいのだが、彼女が急にうなされだした。身体的には異常がなさそうだったので、精神的な反応だと分かった。ただその場合、休息のために睡眠をとっているところを起こしてしまってよいのか、迷ってしまった。
「あなた……うぅ……」
かっと見開かれたその眼には涙が浮かんでいた。きょろきょろと、辺りを見回した後、そばで見守っていた俺の姿を見つけて、何とも言えない表情をした。
「全部……夢ってわけではいかないか……」
彼女は乾いた笑いをこぼしながら、上体を起こした。
彼女にしてみれば、家族を失った現実が夢や幻であればいいと願うのは、彼女の失ったものの大きさを考えれば当然なのかもしれない。
「大丈夫か?だいぶうなされていたようだが……」
近くに寄って見てみれば、その顔に汗が浮かんでいるようだ。町にいた時とは違う厚手の旅装束を着ているとはいえ、低い気温を考えても環境に対する反応というより内的な反応に見える。
「大丈夫……夢を見てただけだから……」
リヴァリエは焚火の火を見ながらの、心ここにあらずという様子で言った。
「夢……言葉では知っているが、体感したことはないな……辛いものなのか?」
「あの日……鋼魔が来た日の夢だった。家にいると見えるもの全部が、あの日のことを……私が亡くしたもののことを思い出させてくるから、とっとと出ていったのに、うまくいかないもんだ……」
だから、旅立ちをこうも急いだのか……自分の心的外傷を刺激するものから遠ざかるために。動くには早急なのではと考えていたが彼女の心の安寧のために、環境の変化を望んだのなら、それ実行するに越したことはない。こんなにも早く出発したのは正しい判断だったのかと不安になっていたが、一つ彼女のためにはなっていたのだと分かり少し安堵する。
しかし、彼女の望んだ安らぎが得られていないのが問題ではあるが。
「水……飲むか?」
俺は彼女にどうしてあげていいか分からず、汗をかいていたことから、水筒を渡してみる。
「……ありがとう」
どういう反応が返ってくるかと緊張していたが、すんなりと受け取ってもらえてよかった。
彼女との心の距離が近づいたと感じて胸の中に暖かく柔らかい感覚が湧いた。悪くない感覚だった。
「んぐ……ありがとう……目が覚めちゃったし、見張り替わろうか?」
脚を抱え込むように座ったリヴァリエは、膝につけた顔を傾けて言ってくれる。
「大丈夫だ。大きな損傷でもしない限り休眠に入る必要はない。お前は違うだろう?周囲の警戒は俺がやっておくから、お前は休んでくれ」
「そっか、あなたの身体は便利だね……でも、寝ても悪夢を見るだけだと思うから、明るくなるまで起きとくよ」
「そうか、お前がそうしたいなら、そうするといい」
体を休めるために、睡眠をとってほしいというのが本音だったが、それはそれで心が休まらないということなのだろう。彼女が負った傷の深さを再認識させられる。俺にも責任の一端があるのだから、彼女の苦痛を和らげるためにできることをしたい。何をしたらいいのかは分からないのだが。
「ねえ、何か話してくれない?……黙り込んでても余計なこと考えちゃいそうで」
彼女のためになることを、彼女自身が教えてくれる。
何か話す。何か話すか……。決して、決して無理難題な頼み事ではない。むしろ、彼女の望みを果たすという意味でも、俺が彼女を知るという意味でも、願ったりかなったりなことだと思う。だが難しい、すごく難しい。何か話すとは何を離すのだ?ここでふさわしい話題とは何なのだ?ただでさえ俺の下手な発言で彼女を傷つけてしまった前科がある以上、話題は慎重に選ぶべきだ。そう考えるともうどうしていいか分からない。俺の疑問を単純にぶつけるか?いやそれで彼女の考えたくないことを考えさせてしまったらどうする?それとも俺に聞きたいことを彼女に聞いてみるか?いいや彼女にしゃべらせるだなんて本末転倒なのではないか?
そんな堂々巡りに、迷走する思考。それと彼女の願いを叶えなければならないという、本能がぶつかり合って、苦痛と言ってもいいほどの葛藤が俺に生まれる。
「ふふ、あははははっ……!」
俺が思考の泥沼にはまっているところに、リヴァリエの明るい笑い声が聞こえてくる。それは、決してひねくれた嗤いではなく、素直な明るさのある笑いである気がした。
「ど、どうした?」
笑ってくれるのは良いが本当に何故だ?
「いや、ごめん……あなたもそんな顔するんだって……こーんなに眉間にしわ寄せて……まるで人生の分かれ道にぶち当たったみたいな?そんな難しく考えるとは思わなくてさ、なんかおかしくなっちゃって」
「そんな顔してたのか?」
「うん。してたしてた」
彼女は眉間を指でつまんで、しわを寄せるしぐさをする。精神的動揺が表に出てしまうとは……。
「すまん、これからは控える……」
「え、いや、なんで?なんか私とそんなに変わらないんだって思えたから親近感?っていうのが湧いた気がする……人間くさいっていうかさ……」
精神的動揺を表に出すことは隙を見せてしまうことに等しい。避けるべきだと思うが、彼女がそうあることを俺に望むなら、特に意識しない方がいいのかもしれない。
「なんか、ホントごめんなさい、人でなしって言っちゃったこと……」
思い出したように、謝ってきた。
少し虚を突かれた。なんせあの時の一連の拒絶は俺の精神に、動揺を与えたが、”人でなし”という言葉そのものを重要視することはなかった。なんせ俺は確かに、彼女以上に人間からかけ離れている。
「よく考えるとおかしいよね。私だって妖精で人間じゃないのに……なんでこんな風なんだろう……感じたり考えたりさ、普通の花はそんなんじゃないのに」
話題は人間へと移行するようだ。
シームレスにスライドしていく話題に俺は彼女が何を考えているのか分からなかった。
「ねえ、あなた人間って知ってる?」
「ああ、もちろん。俺は接触したことがあるわけではないが、知識はある。この世界と表裏一体の異世界に住む生物で、知性妖精の成り立ちに深く影響を与えていると言われる存在……俺を造ったネジェシスも人間に似ているらしい」
何か話せ、と言われたのもあって補足情報を付け足しながら解説してみる。
「そう、その人間……ホント、迷惑だよ。私たちが悩んだり苦しんだりするのって、人間がそうだから、らしいじゃん?人間がそうじゃなかったら、こんなふうに苦しいとか悲しいと考える必要もないのに……」
苦しい、悲しい……か、彼女の心を苛んでいる負の感情、家を捨てるなどという人生の一部を斬り捨てるような真似をしてもなお彼女の中にのしかかるそれを再認識して、俺の胸も重くなるような気がした。
「人間の世界とこの世界の影響は、双方向だ。知性妖精が感情と自我を得たのは、一概に人間のせいとは言えない。それがあるのは、必要だったから……だと思うが……感情を持つとは苦しいことなのか?」
俺は今だ心を持っているとは言えないので、心を獲得する機能を持ってる、と表現しておこう。それはデマンド・サーキットをドライブするためだ。必要だから、それはある。それはリヴァリエの持っている心にも言えるはず……しかし、問題は彼女が今苦しんでいるということだ。
「どうだろうね?楽しいこと、嬉しいこと、幸せなこと、いっぱいあったはずだけど、それが全部なくなってそれが辛いんだよ」
彼女を悲しい現実思い出させる話題かもしれなかったが、従者としてこれからの妖生というものを、無為なものとは思ってほしくなくて聞いてしまった。
実感はないがさすがに想像できる。最初から何もないよりも、与えられたものを、得たものを奪われたときの方が反動が大きいことは……。
「リヴァリエ、俺は……お前に……」
理屈とはまた別の衝動が胸に湧いてきてそれを伝えようとしたとき、
「…………ッ!?」
「…………!?」
空に、遥か頭上に、巨大な魔力を感じた。それはリヴァリエも同じようで俺たちは共に上を見上げる。
星が見える空に、尾を引きながら光球が、落ちてきていた。
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