――目が覚めた。
見慣れた六畳の部屋。窓から朝の光が差し込み、鳥のさえずりが微かに聞こえる。
汗で濡れたシャツ。早鐘のように打ち続ける心臓。
夢はあまりにも鮮明で、現実感があった。まだ耳の奥に、あの旋律が残っている気がする。
「聖なる音……自分の音を、信じろ……」
小さく呟いた瞬間、胸の奥で再び微かな共鳴が起きた。和音は震える手で胸を押さえ、深く息を吐いた。
夢か現実か分からない。だが確かに何かが始まろうとしている。
和音はそう確信しながら、乱れた呼吸を整えるように深く息を吐き、ベッドの端に腰を下ろした。小さな六畳間は、見慣れたはずなのにどこか違って見える。夢で聞いた旋律の余韻が、まだ現実の空気を震わせている気がするからだ。
壁際に立てかけてあるアコースティックギター。机の上のオーディオインターフェイス。モニタースピーカーは電源を入れていないのに、今にも音を鳴らしそうで落ち着かない。
「……やば、もうこんな時間か」
慌ただしくスマホを確認し、和音はようやく現実へ引き戻された。今日は一限から必修の講義がある。遅刻すれば単位が危うい。夢に浸っている余裕など、彼にはなかった。
クローゼットからシャツを引っ張り出し、慣れた手つきで着替える。最後に手に取ったのは――黒いヘッドフォンだった。
耳を覆った瞬間、ざわついた心臓の鼓動が少しだけ静まる。音楽を聴くためではない。
これは、彼にとっての「壁」だった。
街の雑踏からも、人の声からも、そして――自分の心の奥に潜むあの声からも。切り離してくれる、唯一の結界。
「よし……行くか」
ギターケースを背負うわけでもなく、ただノートと教科書を詰め込んだリュックを担いで、和音は部屋を出た。
初夏の朝。
大学へと続く坂道は、学生や通勤客で混み合っていた。
ざわめき、靴音、クラクション――。
それらすべてを、ヘッドフォンが柔らかく遮断する。
流しているのは、自分が作った未完成のトラックだった。深いベースラインに、まだ仮置きのメロディ。誰にも聴かせていない、和音だけの“途中の音”。
「……まだ、足りない」
小さく呟いた瞬間。
「――かずねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
突然、背後から爆音のような声が響いた。いきなり肩を叩かれ、思わず足を止める。
「うおっ!?」
振り向くと、そこには――派手なキャップとサングラス姿の少女が立っていた。ただの学生とは明らかに違う、キラキラしたオーラ。
「な……なんでお前がここに……」
「お前って何よ! 幼馴染にその言い方はないんじゃない?」
にやっと笑ってサングラスを外す。
現れたのは、明るい茶色の髪をポニーテールにまとめた少女――
和音と同じ大学に通う、だが今やネット上では「歌って踊る配信アイドル」として知られる存在だった。登録者数数十万。ライブ配信すれば同時視聴者が軽く万を超える。それが、よりによって朝の通学路で全力で声を張り上げてきたのだ。
「ちょっ、声でかい! 恥ずかしいだろ!」
「いーじゃん、久しぶりに一緒に登校するんだし!」
「久しぶりって……昨日も大学で顔合わせただろ」
「昨日は講義だけでしょ? 朝からこうして歩くのが、幼馴染の特権じゃん?」
悪びれもせず笑う美羽。周囲の学生がちらちらと視線を送ってくる。中には彼女を知っている者もいて、スマホを向けてくる者までいる。
和音は慌てて帽子を目深にかぶり直した。
「おい、マジでやめろって……!」
「大丈夫大丈夫。あたしが一緒なら、和音はただの“地味な友達”に見えるから!」
「……それ、全然フォローになってない」
しばらく歩きながら、和音は観念したようにヘッドフォンを外した。どうせ美羽と一緒では音楽を聴くどころではない。
「で? 今度は何の用だよ」
「え? 用がなきゃ一緒に登校しちゃダメなの?」
「お前の場合は大体あるだろ。曲の相談とか」
「ふふっ、バレてるー」
美羽は楽しそうに笑い、歩きながらスマホを取り出す。画面には配信用のアプリが開かれ、次の配信予定がびっしりと詰まっている。
「見てよこれ。次の大型配信イベント、ゲストも豪華でさ。そこで新曲を披露したいの!」
「……またか」
「でね? もちろんお願いするのは――」
彼女はにやりと笑って、指を和音の胸元に突きつける。
「――この大学二年生にして正体不明のゴーストミュージシャン、《KAZUNE:OX》さん!」
その名前に、和音は思わず足を止めた。
匿名で楽曲をネットに投稿し続け、今や世界中で億再生を記録する伝説的なクリエイター。
しかし正体は完全に伏せられており、誰もその姿を見たことがない。
――ただ一人、美羽を除いて。
「おいっ、ここでその名前出すな!」
慌てて周囲を見回す和音。幸い、近くにいた学生たちは気づいていないようだったが、心臓が跳ね上がる。
「だってあたし、知ってるんだもん。和音がOXだって」
「だからって大声で言うなって……!」
「いいじゃん、秘密を共有してるみたいでドキドキするし」
「俺は寿命が縮むんだよ!」
二人の距離感
結局、美羽のペースに巻き込まれる形で歩き続ける。
彼女は本当に楽しそうで、まるで小学生の頃のように無邪気だ。
和音は苦笑しながらも、どこか心が和らいでいるのを自覚していた。
――自分の音を、信じられなくなったあの日から。
唯一、変わらず隣にいてくれたのは、この幼馴染だったのかもしれない。
「ねえ、お願い。今回だけでいいから!」
「前も“今回だけ”って言ってただろ」
「だって好評だったんだもん! リスナーも『またあの人の曲が聴きたい』って大盛り上がりで!」
「……俺は別に、有名になりたくて作ってるわけじゃ」
「わかってるよ。でもね――」
美羽はふと立ち止まり、真剣な目で和音を見上げた。
その瞳は、いつもの茶化すような光ではなく、まっすぐな強さを宿している。
「和音の音楽は、誰かを救えるんだよ」
その言葉に、胸がわずかにざわめいた。
夢の中で聞いた「お前の音を信じよ」という声が、重なって響く。
――だが。
「……俺は、そんな大層なもんじゃない」
俯き、歩き出す。
それ以上の会話を拒むように。
美羽はしばし無言でついてきたが、やがて軽く肩をすくめて笑った。
「ま、いいや。どうせ最後は手伝ってくれるんでしょ?」
「……誰が言った」
「和音」
その言い草に、思わず苦笑が漏れる。
――敵わないな、と心のどこかで思った。
そして大学の門をくぐる頃には、通学路の騒がしさも落ち着いていた。キャンパスに広がる緑、行き交う学生たちのざわめき。
和音にとってはいつも通りの景色のはずだったが――今は少し違って見える。
胸の奥に残る旋律が、何かを変え始めている。
「ね、講義終わったらさ」
隣で美羽が小声で囁く。
「音楽制作部屋、行こ?」
和音は少し考えてから、観念したように頷いた。
「……わかったよ」
その返事に、美羽の顔がぱっと明るくなる。まるで春の陽射しのように。
和音と美羽が笑い合うその瞬間、遠く離れた暗い空間で、別の旋律が響いていた。
黒いステージ。観客も照明もない、虚無のホール。
そこに立つのは一人の男――燕尾服に身を包んだ長身の紳士。
手には黄金のサックス。
彼こそ《マスター・ジャズ》。ノイズを操り、人の心を狂騒に落とす存在。
彼の前に、ひとりの青年が跪いていた。
二十歳の音楽クリエイター。和音と同じく大学に籍を置き、インターネットで楽曲を発表していた。
だが――彼の曲は、和音のものにかき消されるように埋もれていった。
「どうして……どうして俺じゃない……!」
青年は嗚咽を漏らし、両手を床に叩きつける。再生数は伸びず、コメント欄には辛辣な言葉が並ぶ。そして――憧れていたあの女性配信者さえも、和音の楽曲を選んだ。
「俺だって……俺だって才能があるはずなのに!」
その嘆きを、甘美な音色が包み込む。マスター・ジャズがサックスを軽く吹いたのだ。憂鬱と狂気を混ぜた旋律が、青年の胸を貫く。
「――君の心、よく響いている」
「……だ、誰だ……?」
「そうだ。だが今のままでは誰にも届かない。
だから――これを与えよう」
マスター・ジャズは懐から一枚の黒いディスクを取り出した。
漆黒の円盤。だが表面には血管のような赤いラインが脈打ち、かすかに呻く声を放っている。
「これは《ノイズディスク》。耳にした者の心を、真の音で満たす」
蓮の手のひらに、そのディスクが置かれる。触れた瞬間、冷たい金属音のような感触が体に走った。
「な、なんだこれ……耳が……!」
邪音に包まれる
マスター・ジャズが指を鳴らす。ディスクから歪んだ音が流れ出した。
ギターの弦を無理やり引き裂いたようなノイズ、管楽器の悲鳴、ドラムの爆発音――。
「ぐあああああっ!!」
耳を塞いでも止まらない。音は皮膚から、血管から、全身に入り込み、心臓を直撃する。
黒い波動が青年の体を覆い、靴の先から徐々に「邪音の殻」と化していく。
肌は煤けた金属に変わり、瞳は濁り、背中には歪んだギターのネックが生える。
「やめろ……! でも……これが……俺の音……!」
「そうだ。憎悪こそが君の旋律。さあ――ノイズへと生まれ変わるのだ」
マスター・ジャズの低い声と共に、黒いノイズディスクは灼けるように光を放った。そこから逆流するように現れたのは、歪んだラップビート。ドラムマシンのキックが荒々しく響き、サンプルを切り刻んだような声がうねる。
青年は邪音に包まれ、その姿を怪物へと変貌させた。
キャップを模した頭部、マイクケーブルが鞭のように伸びる腕。その胸からはスピーカーのような装甲が突き出し、常に低音を垂れ流している。
――《ヒップホップノイズ》が誕生した。
*
昼下がりのキャンパスは、いつものように穏やかなざわめきに包まれていた。昼食を終えた学生たちが中庭に腰掛け、笑い声を響かせている。
――その空気を、突如として轟く低音が切り裂いた。
ドゥン……ドゥン……!
地面そのものが震えるようなベースの連打。振動で窓ガラスがビリビリと共鳴し、次の瞬間、一斉に砕け散った。
「うわっ!?」
「な、なに!?」
悲鳴が上がる。
校舎の影から現れたのは、異形の怪物――ヒップホップノイズ。
頭部はキャップを歪めたように尖り、胸には巨大なスピーカー。全身をマイクコードがうねり、まるで獲物を締め上げる蛇のように動く。
ノイズは叫ぶと同時に、ビートを叩きつけた。低音が空気を殴り飛ばし、地面のアスファルトが亀裂を走らせる。ベンチが宙を舞い、自転車の列が一瞬でスクラップとなった。
最初は「映画の撮影か?」「YouTube企画?」と勘違いしていた学生たちも、瓦礫が降り注いだ瞬間に顔色を変えた。
「マジでやばいやつだ!!」
「逃げろ!!」
キャンパスは一転して地獄絵図となる。
叫び声と悲鳴が飛び交い、必死に逃げる人々が押し合いへし合いになる。
その混乱の中でも、ヒップホップノイズの目は赤く輝き、ただひとり――和音を捉えていた。
「和音!こっち!」
美羽が必死に手を引き、校舎の裏手へと駆ける。
だが群衆の波に押され、二人はあっという間に引き離されてしまった。美羽は別の通路へ流され、和音は孤立する形で中庭に取り残される。
「美羽!?……ちくしょう!」
振り返れば、ノイズは一直線にこちらへ向かってきていた。
人々を蹴散らすように暴れ回りながらも、明らかに進路は和音一人を狙っている。
「……まさか、俺を!?」
冷たい汗が背中を伝う。誰もが逃げ惑う中で、怪物が向かう先は自分。否応なく突き付けられた事実に、和音の心臓は鼓動を早めた。
ノイズが咆哮し、ケーブルの鞭を振り下ろした。和音は咄嗟に身をひねったが、衝撃波に巻き込まれ、背中からアスファルトに叩きつけられる。
「ぐっ……!」
その瞬間、ポケットからスマホが弾き飛び、地面に叩きつけられた。ひび割れた画面から、勝手に音楽アプリが再生を始める。
流れ出したのは――和音が誰にも告げず、匿名で投稿していた自作の楽曲。透き通るような旋律、静かに立ち上がるビート。
「……俺の曲!?」
その音に触れた瞬間、ヒップホップノイズが胸を押さえ、苦悶の声を漏らした。
「グ……ガァァ……!」
邪音のリズムと聖なる旋律がぶつかり合い、空気が震える。ノイズのスピーカー装甲にひびが走り、ノイズの咆哮は濁音へと変わっていった。
「音が……効いてる……!? 俺の……音が!」
和音は立ち上がり、震える拳を握った。胸の奥で鼓動と旋律が混じり合う。
その時――再び、声が響いた。
『和音――お前の音を信じよ。』
眩い光が和音の前に収束し、瓦礫の中に二つの輝きが現れた。
ひとつは重厚な音響装置のような変身ベルト――《ソニックドライバー》。
もうひとつは、赤と銀に輝くディスク――《ブレイブロックディスク》。
「これが……俺に?」
手を伸ばしかけて、和音は息を呑む。未知の力。背負わされる責任。それを使えば何が起きるのか分からない。足は竦み、指先は震えて、どうしても一歩が踏み出せなかった。
「……和音!」
聞き慣れた声が混乱の中に響いた。振り返ると、美羽がこちらへ駆け寄ってくる。人混みから抜け出し、必死に和音を探してくれたのだ。
「美羽、来るな――ッ!?」
警告も間に合わなかった。
ヒップホップノイズが和音目掛けてケーブルを振り下ろす。咄嗟に飛び出した美羽が、盾になるように和音を突き飛ばした。
「きゃあっ!」
衝撃が直撃し、美羽の身体が地面に叩きつけられる。瓦礫が舞い、赤い血が滲んだ。
「……美羽!!」
和音の喉が焼けるように叫んだ。胸を締め付ける痛み。自分が躊躇したせいで、美羽が傷ついた。
『――信じよ。お前の音を。』
再び、声が脳裏を打つ。今度は拒む余地などなかった。
和音は震える手でディスクを掴み、ソニックドライバーを腰に装着する。
「俺は…もう後悔しないっ!」
和音は叫び、光に包まれたアイテムを掴み取った。
腰にソニックドライバーを装着する。
《
DJのような低音の音声が鳴り、ベルトの側面が光を走らせる。
装着した瞬間、和音の全身に震えるようなリズムが流れ込んだ。
次に手にした赤と銀のディスク――ブレイブロックディスク。
和音はそれを力強くスライドさせた。
《
音声と共に、ディスクが輝き、中心の波形エンブレムが回転を始める。
和音は迷いなく、そのディスクをソニックドライバーのスロットへ装填した。
《
重低音の待機音が響き渡り、周囲の空気が震える。まるで世界が一瞬、変身の時を待っているように。和音は腰に手を添え、深く息を吸い込む。逆手を振りぬき、強い意志を込めて言い放った。
「――変身ッ!」
その瞬間、和音はソニックドライバーのディスクをスクラッチした。
《
変身音声が轟く。だがそれだけでは終わらなかった。和音が無意識のうちにスクラッチを繰り返すと、音声は変調し、ビートと旋律が重なり合い、まるで和音自身がアレンジしているかのように響き渡る。
キュッ、キュッ、とスクラッチのリズムに合わせて光の波紋が広がり、砕けた瓦礫すら共鳴しながら宙に舞い上がる。その粒子が装甲のように和音の身体に吸い寄せられ、次々と結晶化していく。
ヘッドセット型のバイザーが閉じ、紅い光が視界を覆った。
胸には躍動する音の波形エンブレム。全身を白銀と紅の装甲が包み込み、最後に残った残響が背中から噴き上がる。
拳を握りしめ、地面を踏み鳴らす。その一歩だけで、衝撃音がリズムを刻み、瓦礫が震えた。
新たに立ち上がった仮面ライダーソニックの足元から、ズシンと重低音が響くと同時に、どこからともなくロック調のサウンドが鳴り響き始めた。
ギターのリフ、ドラムのスネア、ベースの唸り――。
「……音が、俺の身体に流れ込んでくる」
ソニックは拳を握り、自然とリズムに合わせて構える。その姿は、まるでライブステージでスポットライトを浴びるロックシンガーのようだった。
「グォォォォッ!」
ヒップホップノイズが咆哮する。胸部のスピーカーから荒々しいビートが放たれ、低音の衝撃波がソニックを襲う。ラップのフローのように、途切れなく叩きつけられる連撃。
だがソニックは一歩も退かない。ロックビートに合わせて身体を揺らし、敵の攻撃をスウェイで受け流す。そしてサビに差し掛かった瞬間、拳を振り抜いた。
「ハッ!」
拳が空気を裂き、ビートのアクセントと同時にノイズの装甲を打ち砕く。まるで音楽そのものが戦闘を導いているかのようだ。
ソニックは腰のドライバーに手を伸ばした。ディスク側面にあるツマミ状のギミック――《ソニックミキサー》を操作する。スクラッチのようにツマミを回すと、流れる音楽が一瞬で切り替わった。
《
重厚なギターリフが轟き、ソニックの右腕に炎のようなエフェクトが走る。そのままフルパワーでノイズの胸を殴りつけた。音の爆発が響き渡り、ノイズが吹き飛ぶ。
「このミキサー……使いづらすぎんだろ!?」
思わず漏れた本音。普段使っているミキサーとは違う為、使い勝手が全く異なる。思わず言葉を発しているとヒップホップノイズはマイクコードを振り回し、リズムを刻むようにソニックを縛り上げる。
「くっ!」
四方八方から叩きつけられるコード。ノイズのラップがビートに乗って炸裂し、爆音の衝撃がソニックを揺さぶる。ノイズのラップが呪詛のように響くたび、攻撃が強烈さを増していく。
ソニックは歯を食いしばり、再びソニックミキサーを回した。
《
テンポが跳ね上がり、ドラムの連打が轟く。それと同時に、ソニックの動きが急加速する。
「うおおおおっ!」
コードをするりと抜け出し、リズムに合わせて連撃を叩き込む。右、左、回し蹴り――どれもが音楽の拍に完璧にシンクロし、観客のいないライブ会場で奏でられるパフォーマンスのようだった。
ノイズはたまらずよろめき、胸のスピーカーが不協和音を上げる。
ソニックは腰のドライバーに手を伸ばした。深く息を吸い込み、力強くディスクをスクラッチする。
《
轟音と共に、地面一面に電子的な光が走った。アスファルトが光の板に変わり、無数のオーディオスペクトラムが上下に脈打つ。その波形が、まるでライブステージの床を思わせる。
必殺待機音――疾走感あふれるロックミュージックが響き渡った。
ソニックはその場でステップを踏み、ビートに身体を合わせる。右、左、跳躍――すべてがリズムと完全にシンクロする。
「クライマックスだ。行くぞッ!」
ソニックは一気に前へと駆け出した。ビートに乗せ、連続で蹴撃を叩き込む。一撃ごとに音の波が爆ぜ、ノイズの身体を揺さぶった。最後の一撃がノイズの顎を捉え、怪物の身体を上空へと蹴り上げる。
《
音声が響いた瞬間、ロックミュージックは一気にボルテージを上げた。ギターが唸り、ドラムが轟き、観客なき空間が熱狂に包まれる。
ソニックは大地を蹴り、音の残響を纏って跳躍する。スペクトラムの光が一直線に収束し、蹴り足へと凝縮された。
次の瞬間――
渾身のキック・ソニックブーストがノイズの胸部スピーカーを貫いた。
爆音と共にノイズの身体が弾け飛び、爆発的な残響がキャンパスに響き渡る。黒煙の中に光の波紋が広がり、邪音はかき消されるように消滅した。
ソニックは瓦礫の上に静かに着地した。肩で息をしながらも、その足取りは確かだった。
――その様子を、少し離れた道路に停車している黒い車の中から見つめる二つの影があった。スーツに身を包んだ鋭い眼光の男と、その隣に座る落ち着いた雰囲気の女性。彼らは言葉を交わさず、ただ戦いを終えたソニックの姿を一瞥する。
「……」
低く唸るエンジン音と共に車は静かに発進し、闇の中へと消えていった。ソニックはその視線に一瞬だけ気づいたように顔を向けたが、追うことはせず、すぐに倒れている少女へと駆け寄る。
「美羽!」
瓦礫の隙間に横たわる彼女を抱き起こす。鎧に包まれたソニックの姿では、彼女にはそれが和音だとわかるはずもない。それでも、震える睫毛を上げて、彼女は仮面の奥に隠された瞳を見た。
「……きれい……」
小さく呟き、頬を朱に染めたかと思うと、そのまま気を失ってしまった。ソニックはしばし言葉を失い、少女の体を支えながら強く拳を握る。
その頃。大学構内の惨状はすでに学生たちのスマートフォンによって記録され、SNSを通じて世界へ拡散されていた。
『キャンパスに化け物!?』
『謎のヒーロー登場、正体は誰だ!?』
『#謎の仮面ライダー』
瞬く間にネットはざわめき、街の空気が変わっていく。
仮面ライダーソニック――その名はまだ誰にも知られていなかったが、確実に「音」が世界を震わせ始めていた。
ご無沙汰しております。
大和撫子改め、山都撫子です。
読み方は変わらず(やまとなでしこ)ですので
変わらずよろしくお願いします。
さて、最近はとある作品を非公開し
少々やりたかった今の文才力で作れる作品(二次創作)を
投稿させて頂きました。
本作は「現代音楽」と「DJ」をモチーフにしたオリジナルの
仮面ライダー作品です。
まだプロローグと1話のみの投稿ですが
感想お待ちしておりますので
楽しんで頂けると嬉しいです。