鍛えてる俺のヒーローアカデミア   作:綺麗なデデドン

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一の巻 響く鬼

 

 人類の約八割が、超人的な力を持つ特殊能力……『個性』を持つ超人社会。人々は、悩み多き時代を駆け抜けて超人社会の一つのあり方を見つけていた。

 

 それは、宿した個性を人の為に使う……即ち『ヒーロー』と言う誰しもが憧れた職業を創り上げる事にあった。ヒーローが市民を助け、ヒーローが市民を守り、ヒーローが人々を救う。

 

 そんな、正に夢物語のような世界がやってきたのだ!!!!!

 

 しかし、ヒーロー社会はヒーローのみがいても成り立たない。ヒーローが存在するには敵が必要だ、ヴィランとも呼ばれる……個性を用いて悪事を働く犯罪者が。

 

 その悪事も魔の手も、いつもそれは穏やかな隣人のふりをしてすぐ隣へと近づいてきているのだ。そう、そしてその手が何かを奪う時は……いつも一瞬なんだ。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 とある山奥、そこに一人の異形型の個性を持つ一人の男がいた。まるで蜘蛛をそのまま怪人にしたような姿をしている。この姿のせいでかつてには随分にひどい目に遭わされたが……そんな事は、もはやどうでもいい。

 

 彼は糸でぐるぐる巻きにされまるで遺体袋に入れられたような状態になっているナニカを引きずって、山奥を歩いていた。

 

「……。」

 

 幸いなのは、その糸巻きにされた中身がまだもぞもぞと動いて生きている事くらいだ。むしろ、生きているのが中にいる人にとっての恐怖になるのだろうが……そんな事、この敵には関係ない。

 

 蜘蛛男は、只管にあるく……目的地の保管所へたどり着く為に。だが、不意に彼の敏感な触感が変化を感じた……後方から、何か燃えるような熱い物が近づいてきている。

 

「ッ!?」

 

蜘蛛男は咄嗟に身を翻して回避する……すると、彼の頬を通り過ぎて火炎弾が地面へと激突し、少し大地を焦がした。

 

 ……その弾道の先にいたのは……

 

「人攫いの敵が居るってんで、ここまで来てみたけど……アタリ、かな……?」

 

 その姿は、異形。紫色の身体を持ち筋骨隆々な肉体を魅せている。頭部には2本の角と牙、だが目のような器官は見当たらずまるで顔全体に模様が入っているようにも見える。

 

 その姿を強いて一言で表すとするなら『鬼』……そう、『鬼』だ。鬼そのものだった……彼の姿は。

 

 蜘蛛男はその姿たち振る舞いから只者ではないことを感じるとる……ゴロツキや敵ではない、仲間でも無い……間違いなくアマチュア等でもない、プロのトップヒーローだ。

 

「ちょっと悪いんだけど……話、聞かせてもらえる?」

「ふぅ……面倒な……………ッ!!!」

 

 蜘蛛男は少し肩の力を落とすと、次の瞬間高速で口から白い糸を吐き出す……正に蜘蛛の個性だ。だが、コレでプロがどうにかなるとは思っていない……咄嗟に蜘蛛は振り返り逃げようとする……が。

 

「はぁっ!!」

 

 蜘蛛男の上を一回転して飛び上がりながら、鬼のヒーローが目の前に着地して現れる。単純な身体能力だけでも、蜘蛛男をしのいでいるのは子細な身のこなしからして明らかだ。

 

「っっ……この……っ!!」

 

 蜘蛛男は鬼に向かって殴りかかる。確かにそこらのチンピラ、ゴロツキにしてはいい腕だが……その程度が限界だ。体術をしっかりと学んで基礎を押さえれば、簡単に腕を取っ捕まえて背負投くらいを食らわせてやる。

 

 蜘蛛はモロに食らい仰向けになると、磨くように体を背中を向けてうつ伏せになる。鬼のヒーローは軽く首を回して、蜘蛛男から目を離さないように近くにある糸でぐるぐる巻きにされた人間に近づく。

 

「……大丈夫――」

 

 鬼のヒーローが少し屈んだ瞬間、突然背中から先程と同じ意図が飛び出してきて、彼の身体をぐるぐる巻きにしてしまう。

 

「っ!?うおっ……!!」

「へへっ、ゆ、油断したな!?」

 

 蜘蛛男はフラフラになりながらも立ち上がり、後ろを覗き込みながらニヤケ面を浮かべる。油断した……確かに、そのとおりかもしれない。そのヒーローは、自分もまだまだまだツメの甘さを噛み締めた。

 

「ありゃ、こりゃ不味い……確かに、蜘蛛ってのは尻から糸を出す生き物だもんな。」

 

 背中だけど、なんて笑ってみると……蜘蛛男が叫ぶ。

 

「お前ら!!出てこい!!」

 

 すると木陰から次々と2人ほどのあくどい顔をしたチンピラ……敵が現れる。まるで、モザイクが晴れていくかのように、急に現れたのだ。

 

「へへへっ……!!」

「ひひはっ……!」

(仲間いたのか……隠れさせてたのか?隠密系の個性か……流石に俺が見逃してただけなんてのは勘弁して欲しいね。)

 

 ジリジリとにじり寄ってくる敵達……ヒーローは縛られて動けない。だが、ぱっと見絶望的な状況でも鬼のヒーローはまだ余裕を持っていた……彼にはまだ尻も青く乳臭いが、優秀な相棒(サイドキック)であり、有望な弟子(後任候補)が居るのだから。

 

「頼む、アカネタカ!!」

「っ!?」

 

 若い少年の声と共に飛翔してくるのは、一枚の真っ赤なディスク……そのディスクは回転をかけながら向かってくると、ヒーローを拘束していた蜘蛛男の糸をあっという間に切断してしまう。

 

「っ!!デリャァッ!!」

 

 ヒーローは咄嗟に近づいてきた二人のチンピラ敵と蜘蛛男を殴り蹴飛ばす。すると、登山用のウェアと帽子を被ったいかにも山登り中の少年のような格好をした子が近づいてくる。

 

()()()()()!!大丈夫ですか!?」

 

 名を呼ばれた紫の鬼――ヒビキは、軽く頭で指を振り少年の名を呼んで感謝を伝える。

 

「柊!サンキュッ!助かった!」

「っ!はい!」

 

 少年……名は『樋口 柊(ヒグチ ヒイラギ)』は、何処か嬉しそうに頷いた。そんな彼に先程の赤いディスクが戻って来る……その姿を瞬時に変形させて、赤い鷹のような姿にしながら。

 

 蜘蛛男はフラフラになりながら立ち上がり、舌打ちと共に呟く。

 

「ちっ!?まだ居たのか……しかし、よく見れば唯の中坊。やっちまいな!」

「あいよぉ!」

「へへっ、僕!悪く思うなよ!」

「あっちょっ!?」

 

 部下であるらしい二人のチンピラ敵が柊へと向かう。ヒーローヒビキは咄嗟に反応するが、蜘蛛男が掴みかかって咄嗟に助けに行けない。

 

「ははっ、軽率だったな!ヒーロー活動に足手まといを連れてくるからだ!!」

「足手まとい、ねぇ……柊!プロヒーロー、『()()()():()()()』の名において()()()()()()()()やれるか!?」

「ッ!!はい!」

 

 ヒーローヒビキ……いや、音撃戦士響鬼の声を聞いて、柊はしっかりと頷き、懐から畳まれた一つの音叉を取り出す。軽く振るうと、叉の部分が展開し音叉に刻み彫り込まれた鬼の顔と角が顕になる。変身音叉――それがそのアイテムの名前だ。

 

 響鬼は、足手まといと評した蜘蛛男に、大して一言言う。

 

「あぁ、確かに連れてきたのは軽率かもな。けどな、あの程度のゴロツキが束になって勝てるほど軟な鍛え方してないよ、アイツは。」

 

 柊はチンピラが向かってくる最中、冷静に近くの木に音叉を当てて音を鳴らす。美しい音色が響き渡る。

 

「……!!」

 

 柊は音叉を額に翳す……すると、その額には鬼の顔が露わになっていく。それは、厳しい鍛錬を超えて、一つの壁を越えた証。文字通りの鬼の証明である。

 

 彼の身体は赤く染まり……続いて銀の炎が彼を包み込む。

 

「はぁぁぁぁぁ……!!!」

 

 最後に、彼は自らまとった炎を振り払うように体を大きく揺らす。その際に生み出される炎を纏った衝撃波は攻撃を仕掛けようとしたヴィランを弾き飛ばしてしまった。

 

「ハァッ!!!」

「なぁっ!?」

 

 現れたのは、響鬼と同じく……鬼としか呼べない存在。体色は紺色、そこにオレンジのラインが入ったようなカラーリング。

 

 角もまだ短く。響鬼と比べると筋肉質が足りないスラッとした若さを感じる体形だ。まだ鬼とは呼べないが限りなく鬼へと近づいた存在…………柊変身態と言ったところか。

 

「ふぅ……ッ!!」

 

 変身した柊は、徒手空拳で迫りくる二人の敵の攻撃をいなしながら弾き飛ばす。その打撃の一撃が、深く、より深く敵の体を貫いていく。

 

「ぐはぁっ!い、いてぇ!」

「な、何なんだコイツ!?」

 

「お前ら!そんなガキ相手に……!!」

 

 蜘蛛男が痺れを切らして部下たちへ怒声を上げる。だが、そんな分かり易すぎる隙を響鬼は見逃さない。

 

「っと!」

 

 響鬼は咄嗟に腰から二つの深紅の太鼓のバチ状の武器――音撃棒・烈火を取り出す。そして、力を込めて『清めの音』と共に蜘蛛男へと連打で叩きつけた。

 

 その姿は、まるで太鼓を叩く仕草にも見える。

 

「がはっ!?」

 

 腹にズシンと響く様な音と衝撃と共に、蜘蛛男は口からは泡のように糸を吐き出しながら、白目をむいてその場に倒れる。響鬼は、音撃棒をくるりと回しながら振り返る。

 

「はぁぁぁぁ……!!デリャァッ!!」

「がはぁぁっ!?」

 

 そこには、響鬼と似た形状の音撃棒を振りかざして火炎弾を放つ柊の姿があった。火炎弾は二つとも敵に命中、吹き飛ばして木へと叩きつけてしまった。正にあっという間の出来事だ。

 

「柊、俺は敵を捕縛する。お前は糸巻きにされた人を!」」

「はい!」

 

 柊は響鬼の方へ瞳をやる深く頷き直ぐ様糸巻きにされた人を助けに向かう。手の甲から4本の鉤爪……鬼爪を出して、糸を切り裂き中の人を救出する。中にいたのはまだ若い女性だった、軽いパニックになってるのか顔を塞いで蹲っている。

 

「大丈夫です、助けに来ました!安心してください!ヒーローです!」

「はっ…ひっ……はぁ……ひぃ……ろぉ……?よ、良かった!いきなり糸で縛られてどうなるかと―――」

 

 うずくまっていた女性が安堵して外へと顔を向ける。……しかし、ここで柊は一つのやらかしをしていた。敵に誘拐されかけた女性が、漸くの思いで解放され第一に見るのは……

 

 目のない角の生えた異形の鬼。その様子を近距離でいきなり見せつけられたのでは、不安定な精神では到底落ち着いてみることはできない。まぁ、要するに……怖がられるのだ。

 

「きっ……きゃぁぁぁぁ!!!……ぁあ……ぁ……」

 

 女性は緊張と疲労と恐怖のトリプルショックで、なんとその場で気絶してしまったのだ。瞬間、柊の脳内に「やっちゃった」の一文が走った。

 

「あ、柊おいおいおい!教えたろ!こう言う緊迫した相手の時には頭だけ解除しとけって!」

「す、すいません!」

 

 柊はとっさに頭部だけを鬼の姿から人間の姿へと戻そうとくるのだが……

 

「あっ」

「あっ」

 

 少し加減を間違えて、思わず全身の変身を解除してしまった……あの変身は炎で自身の服を焼くと言う欠点がある。まぁ、つまり、うっかり全身の変身を解除してしまうと、全裸になってしまうというわけたわ。

 

「やばっ、やべっ、まずっ!」

「あーあーあー、ほらほら服服!!」

 

 響鬼は近くにおいておいた自分の荷物から替えの服を柊へと投げる。柊は咄嗟に服を着込み、何とか現在の自分の見苦しい姿を隠そうとするのだ。響鬼は腰に手を当てて肩を落としながら、それはさておきと言わんばかりに柊の肩に手を置く。

 

「はぁ……ま、とにかく気をつけろよ。鬼の姿はこの超人社会でもまぁまぁ異形だからね。俺だって何度ヴィランっぽいヒーローランキングに入ったか……」

「あんなのは大衆向けの娯楽化してヒーロー社会の形骸化を推し進める悪習ですよ。潰れませんかね。」

「……あー、俺よりもお前の方がキレてるな……まぁ、上位のオルカさんやエクトプラズムさんの事考えたら俺も似たような意見だけど。」

「そんな事より敵は?」

「あまさぁ、ここにちょうどよく蜘蛛糸があっからな。なかなか丈夫だったし、アレで縛らせてもらった。」

 

 響鬼の指差す先には、蜘蛛男の糸でぐるぐる巻きにされた三人の敵……ここまで来れば任務完了、輸送や保護は警察のお仕事……とは言ってもここは山奥、まずは山から降りなければならない。

 

「……取り敢えず、下山だな。」

「はい、ヒビキさん。……まさか休暇で山登りに来たらこんな事になるとは。」

 

 柊は女性を、響鬼は三人組の敵を片手間のように担ぎ上げて下山を始めようとする。本来であれば今日はプロヒーローである音撃戦士響鬼は休暇……愛弟子である柊と共に山登りに来ていたのだが、その矢先にこれだ。

 

「ま、実戦の感覚を掴むにはいいんじゃないの?もうすぐでしょ?雄英高校ヒーロー科試験。」

 

 雄英高校ヒーロー科、偏差値は79、入試倍率300倍を誇るトップヒーローを輩出し続ける学校。それこそ、今や日本の平和を支えていると言っても過言ではないNO1.ヒーローオールマイトを生み出したのも、雄英高校だ。正に、プロヒーローを目指すなら誰しもが憧れる道だ。

 

 柊もプロヒーローである響鬼の弟子であるからには、ヒーローを目指している。もっと具体的に言えば、柊が目指すのは『鬼』と言う称号であるのだが……まぁ、この辺りは追々お話していこう。

 

 今はただ誰かを護り助けたい、その気持ちはヒーローを目指す事にも、鬼を目指すことにも、どちらも変わらない……これだけ分かってもらえたら良い。

 

「試験に通じるかは置いておいて、良い経験にはなりました!」

「っし、ならまぁ山登りの予定潰した甲斐はあったかな。」

 

 本来であれば弟子とはいえ中学生を連れて敵退治なんて、世間に知られたら大バッシングも良い所だ。だが、それはそれとして柊をただの中学生と侮るのが間違いだというのも、分かる通りだろう。

 

樋口柊 個性『()()

 

プロヒーロー 音撃戦士:響鬼 個性『()()

 

 これは、人が心技体を鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて鍛えまくって、始めて到達できる存在……『鬼』であり『音撃戦士』であり『ヒーロー』を目指す者の物語。

 

 そして、この世界の()()()()の無個性同士の師弟の物語である。

 

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