獅子王レオンとオーバーロード   作:野生の生蛇

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第10話

 

 レオンたちと青の薔薇一行はトブの大森林に踏み込む。

 巨木に囲まれた大森林内だ。草木も生い茂り、自然の雄大さを感じさせる。

 レオンは草木の鬱陶しさに範囲攻撃で消してやろうかと若干苛ついた。

 

 歩く事三十分。忍者姉妹が口を開く。

 

「ここからは森の賢王のテリトリー」

「警戒すべき」

「森の賢王?」

 

 その存在を知らないレオンが疑問を口にする。

 

「トブの大森林の南部を支配すると言われているモンスターだな。白銀の四足獣で尻尾は蛇だという」

 

 イビルアイが解説をする。

 

「ほーん。遭遇したら殺すか?」

「倒すのは辞めといた方がいいでしょう。人間の領域に出てこないモンスターを悪戯に倒して森を混乱に陥れたくはないです。それに言葉も話せるようですから、説得も可能かと」

 

 ラキュースがそうレオンに言う。

 レオンもそうか、と軽く返し一行は歩き出す。

 そうして歩く事十分程。再度忍者姉妹が口を開いた。

 

「警戒。モンスターの群れ。十体程」

 

 その言葉に全員が警戒態勢をとる。

 

「どういうことだ? ここは森の賢王の縄張りでモンスターはそいつしかいないんじゃなかったのか?」

 

 ガガーランが疑問を口にする。

 

「そのはずだが……森に何かあったのか?」

 

 そんな会話をしていると森の奥からモンスターが出てくる。

 ゴブリン九体にオーガ一体。雑魚の群れである。

 

 レオンが突撃し、オーガの頭を殴り飛ばし葬る。

 続いてクレマンティーヌも突撃し、ゴブリンを一体殺す。

 

 突撃するゴブリンたちに対しブレインが武技<領域>を使い二体撃破。

 ラキュースは背中から浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)を放ち三体撃破する。

 

 忍者姉妹がクナイを投げ二体撃破し、ガガーランが二体倒し全滅させる。

 

「! 総員警戒! 大型のモンスターが接近中!」

 

 ティナがそう叫び、全員警戒を怠らない。

 一分も経たずどしどしという大型の獣が動く音がし、全員音の方を見る。

 

 そして木々の隙間から出てきたのは巨大な獣。

 全長にして三メートルはあるだろう巨体。白銀の毛に覆われた四足の体。

 瞳は黒く丸い。髭の生えた顔。しゅるしゅるとしなる鱗の生えた尻尾。

 

「ジャンガリアンハムスター?」

 

 ──そう。現れたのはジャンガリアンハムスターであった。尻尾とサイズを除けば、だが。

 

「ふむ。其方らがこの者どもを殺したでござるか」

 

 喋った、という事に一同──レオン以外──警戒を強くする。

 古今東西喋るという事はそれだけ強く知恵をも回るという事。魔獣が力任せではなく知恵を駆使し戦うとなると脅威は何段階も上がる。

 

「森の賢王か?」

 

 イビルアイが獣、森の賢王に問いかける。

 

「その通り。某こそが森の賢王でござる。さて、某の縄張りへの侵入者よ。今ならばそこの者どもを殺してくれた礼として見逃してやってもいいでござるが……」

「待ってください。何故あなたの縄張りに他のモンスターが?」

 

 ラキュースがそう問いかける。

 

「ふむ。数日前からどういう訳か森が荒れてきているでござる。その影響で某の縄張りであっても構わず来る輩が絶えないでござるよ。まぁ皆殺しにしてるでござるが」

「森が荒れている……?」

「問答はこのくらいにして、戦うか逃げるか、選ぶがいいでござる」

 

 森の賢王は戦意を高め、構える。

 その姿に咄嗟に青の薔薇一行とクレマンティーヌとブレインも構える。

 森の賢王は強い。全員でかかれば勝ち目はあるだろうが、それでも苦戦は免れない相手だろう。

 だが一人レオンは森の賢王の間抜けな姿に肩を落としていた。

 

「おい、ハムスター。お前が本当に森の賢王なのか?」

「なんと! 某を疑うでござるか!」

 

 ぷっくりと頬を膨らませ、森の賢王は怒りをあらわにする。

 

「……なんか萎えたな」

 

 レオンはどうするか、と悩む。

 殺すのは余りにも簡単だが事前の話し合いで殺さない事は決まっている。

 だがレオンは手加減が苦手だ。一応相手を殺さぬ特殊技術(スキル)である峰打ちは習得している為手加減は出来るっちゃできる。

 そも普段の戦闘からして常時発動型(パッシブ)特殊技術(スキル)をオフにしアクティブ特殊技術(スキル)も使わない素のステータスだけでの戦闘なので普段から手加減してるのだが。

 

「レオンさん! 相手は強敵です。こちらも本気になってかからないと!」

 

 ラキュースがそう叫び、魔剣キリネイラムを構える。

 漆黒の刀身には夜空の星を思わせる輝きがある。

 かの十三英雄の一人暗黒騎士が持っていた四代魔剣の一つである。

 

「はぁ……」

 

 レオンは溜息を共に特殊技術(スキル)を発動する。

 普段から特殊技術(スキル)を使わないレオンでもたまに使う程度の特殊技術(スキル)、威圧だ。

 効果は自身のレベル半分以下の者を行動不能するという物。

 ただし精神系の攻撃に分類されるため<獅子のごとき心>(ライオンズ・ハート)などの対精神系魔法で容易く防御されるし、アンデッドやゴーレムにも通じない。

 更にはレベル半分以下、レオンのレベルが百なので五十以下にしか聞かない為、レベル七十代の敵が基本のユグドラシルではあまり使えない特殊技術(スキル)に成る。

 だがそれはユグドラシルでの話だ。この世界にレベル五十以上の者など早々いない。

 

 故、イビルアイを除いたこの場の全員に効果は発動される。

 

 まるで見えない手に押しつぶされているかのような重圧がこの場の者達にかかる。

 そして恐怖。心臓がバクバクと唸り、恐怖と焦燥が加速する。

 青の薔薇もブレインもクレマンティーヌも膝をついて恐怖に許しを請う。

 

 直ぐにレオンは特殊技術(スキル)を解除するが、先程まで感じた恐怖までは直ぐには消えない。

 

「降伏でござる! 某の負けでござる!!!」

 

 森の賢王はひっくり返って腹を見せ、獣としての服従のポーズを見せる。

 何とか恐怖から持ち治り、青の薔薇とブレインとクレマンティーヌも立ち上がる。

 

「所詮は獣か……お前、名は?」

「な、名は無いでござる。しいて言えば森の賢王と呼ばれていたのでそう名乗っていたでござる……」

「無いのか……どうするか」

 

 レオンのネーミングセンスは無い方だと自覚している。

 名を付ける必要がある時は星座などから適当に取っているのだ。

 すこし軽く考え、結論を出す。

 

「よし。お前の名はハムスケだ」

「わかったでござる! このハムスケ、殿の為に一生仕えるでござる!」

 

 ハムスケは元の姿勢に戻り、頭を下げる。

 

「待ってください。森の賢王を……ハムスケさんを使役(テイム)するという事ですか?」

「そうだが……問題か?」

「森が荒れてしまう……いえ。元から荒れているのでしたら余り関係はない……? ハムスケさん。原因を何か知らないかしら?」

「某もわかっていないでござる。しいて言えば逃げてくるモンスターは北の方から来ている事ぐらいしかわかってないでござるなぁ」

「そう……北まで向かうしか無さそうね」

「取り合えずハムスケに案内させるか」

「わかったでござる! 某に着いてくるでござるよ!」

 

 という訳で、一行は森の賢王改めハムスケに案内されることになった。

 レオンは一人ハムスターに案内されるとかメルヘンみてぇだ、と少し顔を歪めた。

 

 

 ■

 

 

 歩く事三十分。ハムスケが止まる。

 

「ここから先は某の縄張りではないでござる。必要ないかもしれないでござるが、一様警戒の方よろしくお願いするでござる」

 

 ハムスケの言葉に一同了承し、再度歩き出す。

 そうして歩いている事十分。ティナがクナイを取り出す。

 突然の行動だが全員直ぐに臨戦態勢に移る。

 

「そこに隠れている者。姿を現した方がいい。出ないならこれを投げる」

 

 ティナは木に向かって話かける。

 レオンも意識を集中すればそこに何かが居るのが分かる。

 

「ま、待て待て。こちらに敵意は無い」

 

 すぅ、と透明化が解除され隠れていた者が現れる。

 枯れ木の様に細い体を持つ老人の上半身に蛇の下半身を持つ異形種、ナーガだ。

 

「ワシはリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンじゃ。西の魔蛇とも呼ばれている」

「森の支配者の一角か」

「その通り……そして聞きたいのじゃが、何故南の大魔獣が人間を連れている?」

 

 リュラリュースは心底不思議そうにそう尋ねる。

 

「逆だ。俺がハムスケ……お前が言う南の大魔獣を使役している」

 

 その言葉にリュラリュースは目を見開き驚く。

 だが同時に納得する。これほどの強者ならば南の大魔獣が従ったとしても可笑しくない、と。

 レオンの実力は近くにいるだけで分かるほどに強大だ。この世界の住人ならば力に気づかないはずがない。

 

「なるほどのぉ……モノは相談なんじゃが、おぬしら何の用で森に来た?」

 

 レオンがちらり、とラキュースに目を向ける。

 これは薬草の事を言ってもいいのか、という疑問の目線だ。

 ラキュースも察し、口を開く。

 

「私たちはこの森に貴重な薬草の採取の為に来ました……そちらの用事は?」

「そうか……この森の東を更に向かうと枯れ木の森というのがあってな。最近その枯れ木の森が広がっているという異変があってな。その調査をしようとグの奴……東の支配者に話をしたら奴め部下を連れて勝手に行きよった。しかも帰ってこん。それで南の大魔獣に話を通し、調査を共にしようと思ってな」

「……そのグというのはどれほど強いので?」

「奴に頭が足りていればこの森の支配者になっていたじゃろうよ……まぁ、それだけ強いという事じゃな」

 

 最低でもハムスケに匹敵するモンスターが帰って来ていない。そのことに青の薔薇とブレインとクレマンティーヌは目を見開く。

 レオンにとってみればハムスケも雑魚なのでそれと同程度が帰って来てない程度で……としか思わない。

 

「どうする? 無視して薬草探すか?」

 

 レオンがそうラキュースに話しかける。

 

「いえ。森に異変が起こっているというならば調査するのも冒険者の役目です。調査してみましょう」

「わかった。まぁ、行くだけ行ってみるか」

 

 という訳で、一行はリュラリュースも連れて北に向かう事になった。

 

 向かう途中、クレマンティーヌが口を開いた。

 

「ねぇラキュースさーん。このリュラリュース? ていうのもモンスターだけど、退治しなくていいのー?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながらクレマンティーヌは問いかける。

 

「うーん。何か悪いことをしている訳でもないし、話も通じるわ。そう言った人をむやみやたらに攻撃したくはないの」

「ふーん。レオンさんは?」

「俺もどうでもいいな。向かってくるなら殺すだけだが」

「ちぇ」

 

 等と話しているともうすぐ枯れ木の森、という地点までたどり着く。

 

「その先は危ないよ」

 

 不意に話しかけられ、全員が驚愕する。

 

(俺の探知に引っかからなかった?)

 

 レオンの探知能力は鋭い。モンクとしての気の探知能力に加え異形種としての能力で聴覚嗅覚が優れている。

 それでなお感知できなかったという事は相手が隠蔽系の特殊技術(スキル)を使っているか、今出現したかだ。

 

 青の薔薇とブレインとクレマンティーヌはティナとティアに視線を向ける。

 ティナたちも気づいてなかった、とジェスチャーし武器を構える。

 

「わ、待って! こっちに戦う気はないよ!」

 

 そう叫ぶのは異形種の者だ。

 人間の女性のような姿をしているが肌が木の幹の色艶をしており、頭部に新緑のような髪が生えている。

 

「なんだてめぇ」

 

 レオンも一応構えて問いかける。

 

「わ、私はピニスン・ポール・ペルリア。ドライアードだよ」

「それが何の用だ?」

「君たち、枯れ木の森に行くつもりだろ? そっちは危ないから警告したのと……もう一つはお願いかな?」

「お願いだぁ?」

「うん。ちょっと前に暴れてたトレント……世界を滅ぼせる魔樹ザイトルクワエって言うんだけど、それが復活しそうなんだ。だから昔ザイトルクワエの触手をやっつけてくれた七人組を呼んできてほしいんだ」

 

 レオンとラキュースは目を見合わせる。

 どうやら何か厄介事に巻き込まれているらしい、とレオンは溜息を吐き、ラキュースは未知なる冒険に少し心躍っていた。

 

「その七人組ってのは?」

「えーと、人間に森妖精(エルフ)、ドワーフに翼人と……色々いたよ」

「そいつらはいつ来たんだ?」

「え~と、太陽がいっぱい登ったり下りたりした時かな」

「……んな雑な説明で分かるか。持ちっと詳しく話せ」

「そうは言われても……」

 

 ふむ、とリュラリュースが口を開いた。

 全員の視線がリュラリュースに向かう。

 

「もしや二百年前にダークエルフが森を出ていったという原因では? その時もトレントの所為で森を出ざる負えなかったと聞きます」

「んなもんよく知ってんな」

「まぁワシも長い事生きているので……」

「つうか二百年前かよ。当事者全員死んでるんじゃねぇか?」

 

 レオンの言葉にピニスンはえぇ?! と驚く。

 

「二百年ってそんなに長いの?」

「人が死ぬには長すぎる時間よ」

 

 ラキュースはそう答える。

 

「しかし面倒な話になって来たな……薬草採取は何処行ったのやら」

 

 ブレインがそう呟く。

 

「君たち薬草探しに来たの?」

 

 ピニスンがきょとんとした顔で問いかける。

 

「ああ。なんでもどんな病気でも治すっていう霊草を探しているんだ」

「あ~、それならもしかして……ザイトルクワエに生えてる草かも」

「なんだと?」

「当時の七人組がこれは珍しい薬草だ、て色々取ってたから聞いてるんだ」

「マジか……面倒な事になって来たな」

 

 ブレインがやれやれ、と肩をすくめる。

 

「話は簡単だな。そのザイトルクワエってのをぶっ飛ばせばいい訳だ」

 

 レオンが簡単じゃないか、と言い放つ。

 その言葉に全員──ハムスケ以外──がいやいや、と否定する。

 

「世界を滅ぼせるという魔樹よ? そう簡単に倒せるかしら」

「……ほんとに世界を滅ぼせるっていうならちときついな」

 

 レオンはワールドエネミーを想像する。

 流石のレオンでもワールドエネミーを倒すのは殆ど不可能だ。普段は封印している常時発動型(パッシブ)特殊技術(スキル)やアクティブ特殊技術(スキル)を駆使すればそこそこ戦えるがリソース──HPの差で負ける。

 回復アイテムとて無限ではないのだ。逆を言えば回復特化ヒーラーが一人居れば何とか勝ちの目が見えてくる程には強いが。

 

「取り合えず行って見てみる。話はそれからだ」

 

 という事で、一行は更にピニスンも加え先へと進む。

 

 

 

 

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