感動(大嘘)のとりあえずの最終回。
感想、評価をくださった方々、暇つぶしにと目を通してくださった皆様、ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました。
またの名を赤陣営曇らせ名誉ショタ。
新作のリンクをあとがきに乗っけてます。
───さぁ?どうでもよくね?
それが、マスターの口癖。
もう死ぬし。
希望なんて見ても虚しいだけ。
中身の満たされない願望器が願望を持つなんてちゃんちゃらおかしいよね。
自虐でもなんでなく、心の底からそう言い切るマスターに吾輩は何もできなかった。
しなかった、ともいう。
『トマス・フォン・アインツベルン』なんて。
もとは聖杯戦争を見届け、物語を紡ぐものとして用意されていたが、結局想定を外れたことで付けられなかった名前を、じゃあそれで呼んでくれたらいいやと投げ出す無軌道さは、ただの無気力さの裏返し。
大聖杯とともに、魂の物質化を求める天草四郎時貞にとって参考になるとアインツベルンから持ち出されたという小聖杯。
本来なら、七騎すべてのサーヴァントをその身に内包してなお人間的な機能を失わない程度の、少し大きい小聖杯になるはずだったそれ。
神の悪戯か、悪魔の気まぐれか。
彼は宇宙すら内包できる容量をもってしって生まれてきた。
底なしの聖杯は、その機能を果たせない。
機能不全な聖杯は、ただ魔力を消失させ続けて緩やかに死んでいくという。
それを聞かされてなお、『ふーん。そっか』という一言で馬への餌やりを続けるマスターを前に、吾輩は困り果てた。
退屈なマスターなら放逐しただろう。
面白いマスターなら当然仕えただろう。
吾輩は、物語に仕える者にして。
だが、ああ。
果たして、無垢な存在を相手にはどうもそれは難しい。
熱を知らない。
愛を知らない。
悲しみを知らない。
怒りを知らない。
───物語を知らない。
ならば、吾輩の仕事はなにか。
それはもちろん物語を与えることだ。
だが、世の中はやはり、うまくいかないことのほうが多い。
彼には時間がなかった。
彼の終末を知らせる破滅時計は、もうすぐ頂点を指す。
十二時はシンデレラの魔法を解いてしまう、そんな時間。
夢の終わり。
それは泡沫の存在なマスターの命の終わり。
『あーいいよ別に。むしろ俺の心臓が止まって無意味になる前にもらっといてくれ。こんなのぶら下げたままだとさ、ほら。眠りにくいだろ?死んだあと目とか覚めたら…その、なんだ。困る』
マスターが、天草四郎時貞に令呪を譲渡しているのを吾輩はただ眺めている。
マスターの瞳には諦観もなければ、自暴自棄な色もない。
ただただ、どうでもいいのだ。
彼は聖杯戦争の行く末に興味がない。
終わる前に死ぬから。
彼は正義についても興味がない。
正義も悪も自分の人生には影響を及ぼさないから。
『お前が聖杯を手に入れて世界救済を願った時。そん時に、盛大に失敗すりゃあせいぜい俺も笑えるかな?どう思う?』
『……私は、あなたすら救って』
『いや、いい。いらねえなぁ別に。生きたいとかねーもん。つーかもう必要最低限は生きただろ。別によくね?むしろゴミ箱から拾い上げてもらったんだから救われてるようんうん。…知らんけど』
相変わらず熱のない声で、冷めた瞳でマスターはへらりと笑う。
そのルビー色の瞳は褪せていて、柔らかな月光のような髪は傷んでいた。
『…ま、強いて言うなら。世界も案外普通なんだなって。そりゃ俺の器を満たせねーわ』
マスターは奇特な出自だからか、それとも英雄とは皆無垢な子供が好きなのか。
赤の陣営の中では好かれていたように思う。
施しの英雄に街で買ったというパンをもらって食べる姿は愛らしかった。
純潔の狩人に子供として慈しみを与えられて、邪険にせずとも困惑し続ける姿は新鮮だった。
俊足の英雄に馬の世話を教わる彼は年相応だった。
あの女帝すら、彼には微笑を向けていた。
愛されていた。
その愛を理解しようという優しさも彼にはあった。
それでもやはり彼は死んだ。
あっさりと、ぽっくりと。
『マスター。マスターは幸せでしたか?』
『んー…いや、別に。どうってことはなかったな』
『…そうですか』
『何だよ不満なのかよ。なんもしなかった割に』
他の英雄たちは、わずかな命の彼を慈しみ、生き方を教えていた。
それをただ眺めるだけだった吾輩というサーヴァントは、やはりろくでなしなのだろう。
それでもなお、何もしなかった吾輩を責めるでもなく嘲笑うでもなく、彼は普通に受け入れる。
だって、どうでもいいから。
『はっはっは、そうですなぁ。吾輩もどうすればよかったのやら。赤子の世話など、昔のことすぎて』
『ふーん。なら、読み聞かせでもしてくれたらよかったのに』
『吾輩の作品はゼロ歳児の教育には悪すぎるかもしれませんな』
『そこは普通に絵本とかにしとけよ』
『吾輩、自分の作品以外をお勧めするなどとてもとても…』
『そうかよ………あぁー…そうだ。この令呪どうすっかなぁ。なんかシロウのやつ、無駄に一画残していきやがって』
『彼なりの最後の贈り物、というやつでしょうな。あるいは贖罪とも言えるかもしれません』
『うぇぇ…余計なお世話ぁ』
その右手に刻まれた繋がりを、マスターは心底邪魔そうに見つめている。
その反応がなんだか面白くて、吾輩はようやく腹が決まったように思った。
いやはや、無垢な存在とは度し難い。
若葉の日々、何とも青臭い若気の至り。
こちらまで気持ちが若返るというのは如何なものか。
『こういうのはどうでしょう。マスターの聖杯としての性質と合わせて、その令呪を弾丸として使うのです。願うのは【よく似た過去のマスターに一冊の本を届ける】なんてのは』
過去の改変。
あるいは、逆説的な未来の改変。
本来ならサーヴァントへの命令権でしかないそれを、魔力を消費して奇跡を起こす聖杯の機能を使って自分のために使用するという、特異なマスターだからこそ可能な使い道。
とはいえたった一人の行く末を変えるだけ。
その結末は変わらない。
死という、その結末は。
彼の人生に可能性を。
彼の人生に物語という彩りを。
願わくば、心躍る冒険譚を。
一流の悲劇ではなく、三流の喜劇を。
吾輩にだまくらかされて、マスターは願った。
生まれた時に、本を一冊読みたいなぁと。
たったそれだけの願いを告げて、マスターは死んだ。
本来なら令呪の魔力を弾にした願いが形となり、平行世界の彼がただ物語を知るだけで済んだはずの物語は、宇宙に行くというミラクルによってすべての法則と原理を破壊した。
特異点もなにもない。
聖杯大戦に巻き込まれるという展開なんてゼロ。
異聞帯とかなにそれ知らない。
全てを破綻させる奇跡は、マスターの人生を色付かせた。
それは奇しくも、天草四郎時貞が願った人類救済。
人々が肉体を捨て去り、魂だけの存在サーヴァントととなった世界。
それはもしかしたら天草四郎が勝った世界線の話なのかもしれないし、あるいは全然関係のない、ごく自然と人類がたどる未来なのかもしれない。
天草四郎時貞の夢では、大地に人は魂ごと縛られるはずだった。
それを考えれば、人々が
その真偽を確かめる必要はもはやない。
あるのはただ、彼が楽しく生きているという事実。
そのきっかけが吾輩の物語であることに関しては面映ゆいばかりではあるが、それでも。
新しい物語に、祝福を。
吾輩はその人知れない再会に酔いしれる。
ちなみにそのあとの聖杯大戦は誰しもがその胸に後悔を抱えながら、敗北していった。
『…私は、お前に何をしてやれただろう。子を大切だと言いながら、結局魔の道へと堕ちた私は。お前の優しさにも報いれなかった…次、会えるのなら───』
『案外、英雄の素質があんじゃねーかお前。死んじまった後に言うのもなんだけど、俺より馬の世話がうまかったぜ』
『英雄として、恥じ入るばかりだ。もっとも、後悔はしない。きっとそれは俺の役割ではなかった。…だがもし、次があるのなら。その時こそ全力で───』
『ああ、結局。たった一人の子どもすら救えなかった私は、敗北も必定でしたか…こんなことなら、彼から令呪を一つ残らずもらって、キャスターに悲劇をかけないようにするべきでしたかね』
吾輩は、白い廊下を鼻歌交じりに機嫌よく歩くマスターを見て、らしくもない微笑を浮かべる。
「マスター。マスターは今、幸せですかな」
「んー、どうだろうな。世界は滅んでるしファーストサーヴァントは相変わらず使えねえし、いつもぼろぼろになるしずっと全裸だし聖剣は変だし」
彼は立ち止まり、特に考えることもなく笑顔を浮かべる。
「でも、ま。悪くねえな」
その笑顔には熱があった。
善き人への愛があった。
親しい相手を失った悲しみがあった。
人類を滅ぼした相手への怒りがあった。
「楽しいよ。人生さいこー。超幸せ。……どっかのちょび髭のおせっかいのおかげかね?」
「さて、吾輩が何かした記憶はありませんが?」
「そうかい。ま、それならそれでいいさ」
彼は物語を知っていた。
「いや待ってくださいよ私の出番は!?私との出会い編は!!」
「よー歩く有害図書さん」
「やめてくださいよその誹謗中傷!」
「素の召喚によって呼び出された一番相性のいいサーヴァントこと、ウィリアム・シェイクスピアです。よろしくどうぞ!」
「ぐわぁ、これが寝取られ…!?」
「寝てから言えよ。あと俺のファーストサーヴァントはヘラクレスさんだから。俺の運命の相手だから。あのたくましい腕に抱かれたときに確信したね、俺にはこの人しかいないって!」
「オケアノスでマスターが首絞められて死んだ時はさすがの吾輩も心底焦りましたぞ!」
「うわーん!登場をもったいぶったせいで私のマスター君が汚されちゃいました!」
───これは、宇宙人を拾った(強制)過去のある俺が、なんやかんや最終的に世界を救う手伝いをすることになる話だ。
たぶん。
難しい話はない。
高度な考察とかもない。
網羅的に把握された数多の原典に基づいた、精緻で綿密な設定なども存在しない。
全てはサーヴァントユニヴァースに事を発する話でありますゆえという言葉を盾に適当にぐだくだと、好き勝手やる話である。
「───ちょっとバカ息子!やっぱりずっと臭い取れないんだけどどうしてくれるの!」
「わー母親の水着姿とか目に毒ぅ…シュールストレミングをコフィンに突っ込んだ話とか誰が覚えてんだよ」
「いやぁしかし、人類なんてどうでもいいと思う自分と、息子を見守ろうという自分を分けて現界するとか…めちゃくちゃですな」
「槍持ってないのにランサー名乗るのってどうなんだよ」
「うるさいわね…私はランサーなのよ…誰がなんと言おうとランサーなの…今に項羽様に槍を賜るんだから…」
「項羽様どこだよ。宇宙でなら会ったけど」
というわけで完結というよりも一区切りにして休憩したいと思います。
カルデアバスターズ誕生秘話とか、なんでそもそも聖杯が満たされてるのかとか、プリヤ組とのワチャワチャとか書きたい話はないでもないので、今後は思いついたら投げる感じになります。
もしまたどこかで見かけましたらよろしくお願いします。
・ぼざろ。ただの性癖丸出し博覧会クズバンドマンお姉さんたち×ショタ。怪文書のノリで思いついたら書く。
「駄目バンドマン製造機は脱姉したい」
https://syosetu.org/novel/389155/