栄養になります。
ピン───ポーン。
静かな部屋に、機械的な音がやけに大きく響き渡る。
そこに反応を返すほど俺は親切ではない。
むしろ帰ってほしい。
今は誰にも会いたくないのだ。
俺は息を殺しながら訪問者が立ち去るのを待つが、どうやら相手は随分と諦めが悪いらしい。
どんどん、と。
ドアが叩かれる。
それを無視したのが良くなかったのだろうか。
居留守はバレてるとみていい。
重ねるようにドアが叩かれて、俺の平穏は一気に崩壊する。
どんどん、どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん!
ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポーン。
耳を塞ぎたくなる不協和音に嫌でも高まる緊張感。
じっとりと額を流れる汗を拭う余裕すら俺にはない。
身動きは許されない。
俺は祈る気持ちで、訪問者が諦めるのを待つ。
だが、やはりこの世に神はいない。
セイバーばっか増やす神とかいるらしいしいたとしてもろくでもねえな。
少なくとも便所紙以下なのは今確定した。
「───ねぇ、私知ってますよ」
音が止んだことに安堵した次の瞬間、ドアの向こうから激情を押し殺した冷たい声がやけにクリアに聞こえてくる。
恐らく、新聞受けを開けて隙間から覗き込んでいるのだろう。
俺はその執着心を前に、いよいよもう無理だと諦めて腹をくくる。
「マスター君?いるのは分かってるんですよ?ねぇ、なんで無視するんですか。携帯も連絡つかないし、固定電話にも出てくれないし、今日はこの街にもいませんでしたよね…ねぇ、マスター君…私、何か嫌われるようなことをしましたか?もしかしてこないだ立ち話していた近所の花屋の女といい感じなんですか?ああいう背が高くてメガネかけた陰気な女が好みですか?でもあの女気に入った相手は男女関係なく食べるって噂の蛇ですよ。マスター君にはふさわしくないと思いますけどね。というかヘラクレスってなんですかヘラクレスって。Fate2次の運命ってサブタイトルの話でメインヒロイン出てこないとかありえないんですけど!絶対私の出番だと思ったのに!!………ねぇ開けてくださいよ。このドア。顔見せてくださいよ。なんで鍵なんて閉めてるんですか?ねぇ、ねえってば!!!!!………あれ、家間違えた?いやいやないないない…これ他人の家だったらやばすぎますって話で」
「うるせえええええええええええええええええええええええええええええええなぁああああ!!!!!!」
「ごば───ぁ!?」
俺がドアを半ばやけくそ気味に蹴り開ければ、ヤンデレごっこをしていたバカな青ジャージがドアで顔面を強打して汚い床で悶えている。
「───ババたれとったんじゃ、文句あるか?ほら見ろよ!お前が意味わかんねーモニタリングを歌ってみたごっこするから出てきてやったぞおら!なぁ!?人んちのドアとインターホンをご機嫌に鳴らしてくれやがって、楽器に見えてんのか!おかげで今の俺は下半身丸出しですわ!どうよこれ似合ってるか!?宇宙人的には流行のファッションなんですかねぇ!?うんとかわぁとか言ってみろよ!便所紙以下のクソヒーローが!!子どものピンチ駆けつけるどころか状況悪化させやがって!!ぶっ飛ばすぞ!!!!」
「ちょ、わか、わかりましたから!わかりましたからしまってください!見えてる見えてます!ちょ、近い!!!」
「わかりましたってなんだわかりましたって!」
「ごめんなさいごめんなさい!この度はご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした!!」
「うるせー!もう何でもいいから薬局で『ストッパスペース下痢止めEX』買ってきて!!」
「あ、味は」
「グレープフルーツ!!!!!あと『おくすり飲めよガキ』もな!!!」
土下座をするXを見ることもなく俺はトイレに向かって全力疾走する。
下半身の露出?
そんなもん気にしてる余裕は俺にはない。
人の尊厳なんてうんこだうんこ。
つーか一桁年齢の子どものちんこに顔赤らめてんじゃねーよ。
かわいいおちんちんさんだろうが。
●
「で。今日のご飯は何ですか?」
「たけのこご飯。あと菜の花のおひたしに焼き魚」
「おおー!…もしかして、今日のバイトの成果ですか?」
「まぁそう。たけのこ活きが良すぎて1回おなかに穴あいたわ」
「そう気軽にぽんぽんと…というかあなたが致命傷負ったら違約金として私の借金が増えるって話でしたよね?」
「可哀想」
「せっかく最近は借金も終わりが見えてきたのに…うぅ」
Xは俺に借金がある。
そして、その借金を返済するまでの期間俺の命を守るという契約がなされている。
…そして、違約金で借金が増える方式なのだ。
可哀想だと思うだろうか。
だがこっちとしても命を守るためだったのだ仕方がないんだ。
それにむしろ借金が増えるから尊いんだ、絆が深まるんだ(暴論)。
「きのこたけのこ戦争(物理)が始まった時は嗚呼これ死んだなって思った」
……農家の仕事も大変だ。
朝は早く、害虫や害獣と戦闘を繰り広げ、そして収穫の時期にもまた戦わなければならない。
───野菜と。
そう、野菜とである。
収穫物と戦うってなんだよ思うかもしれないが、宇宙なんだからしょうがない。
たけのこはドリルのように回転しながら突っ込んてきて、丈夫な鉄鎧どころかサーヴァントの皆様の土手っ腹に穴を開ける。
そしてきのこは、触れるもの全てを破壊する打撃の神となり、その右ストレートはドラゴンすら屠るという。
宇宙の何処かには物書きをするキノコもいるというが、誰も見たことがない伝説の存在だった。
伝説のきのこってどんな味なんだろうな。
焼いて醤油かけたら美味しいんだろうか。
さて、そんな食材の彼らはすこぶる仲が悪い。
同じ生息域だからなのだろうか。
それとも日本のネットミームの影響か。
梅雨時になるとイライラして暴れだし、惑星すら滅ぼす戦争を引き起こす彼らは、冬の寒さで少し寝ぼけている内に収穫しなくてはならない。
そりゃあバイト代も高くなるというもの。
危険手当である。
カニ漁船みたいな。
「とりあえず先にシャワー浴びてこいよ」
「な、なぁ!?なんですかやるってんですか!やっぱりやるってんですか!?」
「やんねーよ。俺はもうバイトで疲れたんだよ。ご飯食べたらそのまま寝るの。だからご飯作って俺も風呂入るから先入ってろって言ってんの」
「む…なるほど。ではお言葉に甘えて…とぅ!」
そそくさと立ち去るXを見送り、俺は俺でキッチンに向かう。
その日、ご飯と一緒に炊かれても元気なタケノコの反撃を受けて泣きを見るXがいたりいなかったりしたが、とりあえず宇宙は平和だった。
あと、新鮮な野菜は美味しいけどしばらくスーパーで買える死んでる(最悪の例え)やつでいいや、と思ったのは内緒である。
「たっはー!今日も元気だお酒がうまい!」
「酒臭!え、酒臭!?俺がシャワー浴びてたの十分もなかったよな!?」
「なんれすか、私を舐めてるんですか。ぺろぺろですか?この程度で酔うわけないでしょ!!」
「いやめちゃめちゃ酔ってんじゃん。つーか学園に通ってなかったっけ?まぁいいか…うわー、ストゼロのロングが2缶目終盤…現実的なペースなのがなんか逆にやだな…サーヴァントなのに…」
「…わかってないですねー。いいれすか?お酒を飲んだからって何かが変わるわけでもないし、ヒック、何かが解決するわけでもないんれすよ。グス……あれ、じゃあ私はなんでお酒を飲んでるんでしょう……うっ、不安の波が。くうっ、こうなったらお酒を、お酒を飲まないと…!」
グビグビグビグビ。
ひー!やっぱりお酒は百薬のおさ!あれ、おさだっけ?…ちょう?おさ…おさ…おさけ!
あーはっはっは!ウケル!!
「わかってますよぉ!!!」
「何も言ってないんだけど」
「でもぉ、飲まなきゃやってりゃんないんれすよ!飲んで忘れたいんです特に今日は色々と!……ぐわぁ、思い出したら普通に死にたくなってきたな…他の女と仲良く喋ってるのを見た次の日にちょっと連絡取れないからって不安になるなんて私はメンヘラですか!?いや、そりゃ、連絡なしにいなくなられたら寂しいのはもうしょうがないとは言え!!……あーこれ数年はベッドで思い出して寝る前に悶えるやつ!!黒歴史確定!忘れろ私、わーすーれーろー!」
「……いなくなんねーよ」
「……?なんか言いました?」
「べっつにー!何も言ってませんがー?」
「うぅまた怒られちゃいました……飲んだら全部忘れられますよね!不安をいっとき忘れられるから私はお酒を飲むんれす!夜の王舐めレスなおこちゃまにはわかんないでしょうけどねーへっへっへ」
「…将来就職する職場は選んだほうがいいぞあんた」
笑って泣いてまた笑って。
オトナは忙しい。
社畜戦士ともなればその苦労は一押しだろう。
俺は適当に作ったしじみの味噌汁を保温容器に入れテーブルに置くと、メモを残してその場をあとにした。
翌日空っぽの一升瓶を抱えてグロッキーになりながらしじみの味噌汁を飲み干す宇宙人がいたが、彼女のなけなしの尊厳のためにできるだけそちらを見ないようにするのだった。
なんでこんな話をしたかって?
別に、大した理由はない。
久しぶりにあの顔を見たせいでちょっと寂しくなったりなんか全然していない。
ただ、こんな夢を見た今日。
こんな夢を見たんだから、きっと。
明日の召喚はとってもいいことがあるよね、抑止太郎!
へけっ!
愉悦部)へけっ!
今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。
ありがたいことに、新作日間の方に一桁台のランキングに載せていただくことができました。
本当にありがとうございます。
毎度のことながら感想と評価、ここすきを主食としている乞食作者のためにもしお暇でしたら餌を与えていただけたら幸いです。