9/25追記:
話の内容としては、あまり王道を外れない方針です
1:さっかけん
もし、もしもだ。
無限の可能性を秘めた体を手に入れて、別の世界で活躍する機会を与えられたとして。
その可能性を一気に、一挙に狭められたならば。
果たしてどうするべきだろうか。
……僕の場合。
「えっ」
困惑し、
「えぇ……?」
落胆し、
「…………はぁ」
手ごろなベンチで溜息を吐いた。
人間、予期せぬ事態が起きたらば大体こうなる。
“予期せぬ事態”に慣れていて、且つ具体的な命の危険が差し迫っていないなら尚更だ。
ここに至るまで5分しか掛かっていないのだから、寧ろ判断は早かろう。
夢のゲームだの何だのと持て囃されていたからどんなものかと思っていれば、イカれた自由度の砂場に放り出されて……文字通りに放り出されて、かと思えば急に手枷足枷を嵌められる。
何と言うか、整理したらより酷くなった。
この分ならいっそ前々に出た粗悪品の方が……いや、あれはあれで酷かった。
健康被害であいつ共々ひと月程度転がされたからなあ。
よく考えてみれば、そもそもあの“次代の世界”を謳ったゲームを持ってきたのもあいつだった。
──<Infinite Dendrogram>。
“無限の系統樹”を謳い、日本での愛称を“デンドロ”というそれは、全世界へ向け、極めて痛烈なデビューを果たした。
現実と寸分狂わぬリアリティ。
現実よりも早い時間の経過。
生きているとしか思えないNPC。
人によって異なる変化を遂げる固有アイテム。
そしてそんなものを全て内包した上で、サーバは一つだけ。
こんな、“あったらいいな”の詰め合わせセットが現実になったのだ。
世界中が大騒ぎし、一大ブームを一瞬にして築き上げたのも頷けた。
かく言う僕は、かの粗悪品が頭をよぎったお陰で初動が遅れ、品薄続きで手に入らず。
あいつが実機を携え家へ突撃してこなければ、在庫が安定するまで夢のまた夢のような存在だったろう。
今となっては悪夢の似姿を模っているが。
はは、全く笑えない。
◆
このゲームの目玉の一つに、<エンブリオ>と呼称されるものがある。
プレイヤー一人一人に与えられる、成長する武器。
ないし、ペットや乗り物……まあとにかく、専用の何かしら。
数日前に始めて、こうして今項垂れている僕にも例外なく、それは与えられている。
そしてそのせいで、諸々の選択肢を奪われている。
「まあ、そうなるか」
レベルが10に上がり、少しずつ楽になってきた戦闘も、<エンブリオ>が孵化した今はこの通り。
狼に似たモンスターに再び1分を費やしている。
初めに貰ったナイフより素手で殴ったほうが遥かに早いし、実際話は早かった。
名の売れた物書きの身ではあるが、身体を動かすことには慣れている。
主にあいつのせいであるが、それがこんな所で生かされるとは思っても見なかった。
「……あぁ、居た居た。探しましたよ、タカキさん」
噂をすれば影が差す、心中でもこの法則は適用されるらしい。
声の主は件の
名前をマルクスという、古くからの知己が作成し、運用しているアバターであった。
尚、こんなアバターではあるが同い年の26である。
「遅かったな」
「遅いって、探させといてソレですかい? 平原辺りで待ち合わせとは言いましたけど、ここなんてもうほぼ森でしょう」
「悪いな、少しばかし惨状を確認しておきたかった」
「惨状ったって……そんなにヤバいんですか?」
よくぞ聞いてくれた。まあ、聞くか。勿体ぶって電話口でも話さなかったんだから。
どん、と近場の切り株に腰掛け、溜息を一つ。
「聞いて驚くなよ? 全ステータス2分の1、そこから更に6割減、加えて装備攻撃力・装備防御力の無効化だ」
言い終わって見れば、髭面が非常に怪訝な顔をしていた。
3ヶ月以上先に始めたこいつを以てしてこの反応。もしや軽めのデメリットなのでは、などと考えていた己の希望が潰えたのを感じる。
全く儚い希望だった。元からあって無いようなものだったが。
「…………それ何かの呪いじゃねぇんですかね」
「わかるー」
「ああ重症だこりゃ」
呪いではあるだろうし、重症といえば重症だろう。何せ本当に何も出来ないんだから。
戦闘だけ、と思うかもしれないが、ものづくりの道に足を向けようにもDEXやMP、SPが足りない。ギャンブラー紛いで一山当てようにもLUCが満たない。
レベルを上げて補おうにも、その上昇量さえ5分の1だ。上げた所で焼け石に水だし、そも上げたとて先がない。
ステータスという可視化された指標がある世界に於いて、その減少はかなり酷なのだ。電子的・機械的に制御されたゲームの中においては尚更だろう。
「“無限の系統樹”の癖して取れる選択肢を縛ってくるのはどういう了見なんだよコノヤロウ……」
「まあまあ、なっちまったモンは仕方ありやせんよ。それに──」
「それに?」
「おおぅ、食い気味ですね。いやあの、そんだけのデメリットなんですから、メリットもデカいんでしょう? ならそっち生かしましょう」
「メリット、か。ははは、メリットなぁ……よくぞ聞いてくれた。話が早くて助かるよ、全く」
指でこちらへ来るよう促し、奇妙だと顔に書きながら近づいてきた中年に手を差し出す。
こちらの動きにマルクスは暫く怪訝な顔をしていたが、手を引っ込める気配が無いと悟ったか、やがて折れて手を取った。
「行くぞ」
「……何か嫌な──うおぉっ!?」
視界がぐるりと回る。違うな、回るというか広がる。
360度全天全周、余す所なく見える。
魚眼のようなものなのだろうが、その癖視界に歪みは無いのだから気持ちが悪い。
夜の森も、先ほどまで座っていた切り株も、夜空に淡く輝く三日月も……驚いて僕を
「は、なん、剣?」
『ああ、剣なのか。どんな剣だ? 自分じゃ見えんのだが』
「第一声ソレですか!? まず説明してくださいよ!」
『説明も何も見た通りだ。剣になれる。今はこれだけだ』
「……ステータス激下がりしてそれだけですか? って言うかショートソードの癖してやたら重いですね? 短小の癖して」
『言い直さんでいい』
余計なことしか言えんのかこいつ。
しかし剣か。作家兼、剣。作家剣。
まあ、中々良い冗句だ。
『まあ、という訳で、だ』
「どういうワケです?」
『取り敢えずお前は、僕を振るって戦え』
“何言ってんだこいつ”みたいな顔をするんじゃない。
『元々何の用で呼び出したと思ってる。電話口でも伝えただろう? “レベリングを手伝え”と』
「いや言ってましたけど……私【
『煩い。一旦これしかないんだよ、うだうだ言わず戦え』
「絶対イヤです」
『はぁ?』
「イヤなもんはイヤなんです! 近接格闘の心得もセンスもカケラすら無いことは自分が一番分かってんだ!」
『知るか何度もやって磨けよその位! 毎度毎度僕に無茶振りさせる癖に自分は嫌だとか道理が通ると思ってるのか!?』
「ロクに躊躇もせず毎回来るの選んでるのはアンタでしょうが!」
『はぁぁぁぁ!? 事前予告の一つは寄越せや聞いてたら流石に躊躇するわ!』
「でも結局来るでしょう!?」
『うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
◆
この後小一時間程度言い争い続け、最終的には逃げるようにマルクスは自害でのログアウトを敢行した。
そこまでやるかあいつ。
絶対誤字脱字がある
それがたまらなく怖い
9/22 改稿
9/29 まえがきの位置修正