臨戦態勢のまま、慎重に、かつ迅速に歩みを進める。
この中でAGIが低いのは僕──壁役の灰流さんですら400は超えていた──なので、既に武器になっている。
長く大きい得物は邪魔ではあるが、悲しいかな、シアさんに持ってもらった方が、僕が歩くよりはよっぽど速くなるのだ。
「待って」
ふと、ミスティさんが小声で制止する。
「何か見えた」
「どこだ?」
「ここからこの方向に真っ直ぐ」
ミスティさんが指差す先には、確かに何かが動いている。それも5つほど。
きりり、と柄が握りしめられるのがわかる。緊張するのも已む無しか。
「作戦は、昨日のとおりね」
「了解」
「はいっ」
返事のあと、各自が慎重に配置につき、合図を待つ。
目配せと頷き。指での3カウント。2、1。
「《
合図と同時に、一気に飛び出す灰流さん。構えた盾の前面が開かれ、中から灰紫の煙が勢いよく噴き出た。
指向性は聞いたとおりに無いらしく、煙は縦横無尽に広がっていく。
「《ウィンド・ジェイル》!」
その煙に巻かれた敵集団ごと、ミスティさんの魔法が絡め取る。
移動阻害効果と移動強制効果があるらしく、薄れ始めた煙の中でゴブリン達がのたうっていた。
身に付けていた筈の装備品はボロボロ。灰流さんのスキル様々である。
そして。
「はぁぁぁぁっ!」
拘束が解けた瞬間、シアさんが僕を振るい、敵を一掃する。
横薙ぎに振るわれた一閃は5体を余すことなく捕らえ、まるで草刈りのようにその命を絶った。
立ち上る光の粒子と、転がるドロップ品が、その何よりの証拠である。
火力は十分なれど、敵が怖いシアさん。
ならば動けなくして無力化してボコろう! というシンプルな作戦であった。
まあ、噛み砕いてしまえばお2人がいつもやっているコンボの最後にお邪魔するだけなので、あとは彼女の度胸次第だったが……どうにか上手く行った。
「やった……やったぁ!」
「ナイスだ嬢ちゃん」
「おめでとう、シアちゃん」
「どうですか、タカキ様? 私やりましたよ!?」
無邪気に喜ぶシアさんは実に可愛らしいが、どちらかと言えば安堵が勝った。
具体的には、うん、まあ、これならさすがに行けたか、という感じの。
『……おめでとうございます』
……さて、動く敵相手はいつになるだろうか。
◆
その戦法でさくさくと、しかし慎重に歩みを進め、暫く経った頃。
コンボは未だに有効であるものの、少しずつ敵の数も増え始め、若干乱戦に近い状況も出てきた。
こうなるとシアさんのメンタル面が危うい……と、思っていたのだが。
「やぁっ!」
「Gyaaaa……」
何か、普通に、戦え始めている。
若干手が震えているし、顔は青いし、息の切らし方も尋常ではないものの、動けている。
……さてとか何とか考えていた数十分前の僕よ、割と近いとだけ伝えておくぞ。
若い子の成長を舐めてはいけない。
『お疲れ様です、水を」
「ありがとう、ございます……はぁ……はぁ……」
「あんまり無茶しちゃダメよ?」
「……ふぅ……はい、大丈夫です。なんだか、動きが止まって見えてきて」
なるほど、軽くゾーンに入っているらしい。
「まあ、AGIの差がそんぐらいはあるからな」
違った。
「……よし、休憩も済んだな。先を急ぐぞ」
「了解!」
「お手を」
「はいっ」
気を取り直し、武器に戻り……いざ出発。
■
砕いて、千切って、噛んで、飲み下す。
砕いて、千切って、噛んで、飲み下す。
砕いて、千切って──
「Gyagya──」
「■■■■■■!!!」
「──Aaaaahhh……!?」
ソレは、邪魔されることが嫌いだった。故に慌てて入ってきた配下すら、磨り潰す。
理由も何も知ったことではない。
ただ、少し興が削げたらしい。食事を止め、部屋の外へと歩みを進める。
螺旋の階段状になった塔を登り、拉げた鐘がぶら下がる塔の上へ。
見晴らしはいいが、足りない。
もっと上が必要だと、ソレは考えていた。
その為には食らわねばならないことも、食い足りないことも、確りと理解していた。
「─────?」
ソレの目に、ふと、何かが目に留まる。
だがあれは、白くて細いあの
「─────!」
アレは自分のモノだ。
そう理解したソレは、鐘楼から飛び出す。
グシャリと同胞たちを潰したが知ったことではない。落下の衝撃を転嫁されて何匹も死んだが気にも留めない。
食えればそれでいい。ただそれだけでいい。
涎を垂らし、欲望のままに。
ソレが──小鬼の暴君が、やって来る。
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