系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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6:ちょうし

 進むにつれて、敵の数はますます増えていく。休憩を取る間もない程度には。

 流石に集中力も切れて来るし、何より通常のゴブリンに加えて混じる、“ジェネラル”を冠する個体がやけに硬い。

 通常の何も冠さぬものであれば、1000を超えたSTRのお陰でシアさんは1撃で葬れるが、2撃3撃要るとなると途端に反撃のリスクが増え、メンタル面へのダメージもその分大きくなっている。

 

「ひゅぅ……ひゅぅ……ひゅぅ………」

『落ち着いて、深呼吸を』

「は、はぃっ……すぅ……ふぅ……」

 

 半狂乱になっていないのは助かるものの、武器の振り方も若干予想がつきづらい。

 そのせいで若干こちらも酔い始めている。

 一旦戻って深呼吸したいが、泣き言を言っていられる状況ではないので堪えるしかない。

 

「Gyagyagyagya!」

「またおかわりかよ!?」

「ごめん! ポーション飲ませて!」

「悪い、嬢ちゃん! カバー出来るか!?」

「っは、はいっ!」

 

 上段からの振り下ろしで1体、続けざまの薙ぎ払いで3体。

 そのまま振り抜けるかと思われたが、件のジェネラルがそれを受け止める。

 柄を握る手に動揺が現れ、震えが一層大きくなるも……それを押し殺し、力任せに得物を押し込む。

 それに怯んで体制を崩した所に、1撃、2撃。3撃目を振ろうとした所で、光の塵になっていることに気づき、止まる。

 

 この急制動がきついので止めて欲しいが、流石に贅沢は言ってられないだろう。

 

「……よし! MP補充完了!」

 

 数少ないMPポーション。

 浴びるなどしても効果はあるが、その分ロスも出てしまう。

 そしてそのロスが、今は致命的になりかねない。

 

「オーケー、行くぞ! 《旧きは劣れり(タマテバコ)》!」

 

 ◆

 

「さっすがに……堪えるな……!」

「はい、水」

「あんがと、ミスティ」

 

 場数を踏んだベテランでさえこうなのだ。

 シアさんなんてもう、言うまでもないほどに疲弊している。

 

「シアちゃんも……要るよね?」

「はい、はいっ。っは、はいっ」

「落ち着いて。今は一旦休めるから」

「ありがと、う、ございます」

「タカキさんも。一旦戻って休んだほうが良いんじゃない?」

『……では、お言葉に甘えて」

 

 吸って、吐く。

 単調な繰り返しで、吐き気を抑え込む。

 何処か焦げ臭い空気は清涼感があるとはいえないが、何もしないよりはマシだった。

 

 ふと、何かが視界の端に映る。

 中心に収めて理解した。あれが恐らく──

 

「……酷いな」

 

 襲われた隣村、であろう。

 少し小高い位置だからか、全貌がはっきりと見渡せる。崩れ、燃え、人の気配がまるっきり無い。

 代わりに蠢くのは緑色の点……恐らくゴブリン。

 その内の1体が、赤い線を描きながら、何かを引きずっているのが見えた。

 眼鏡生活の現実では到底見えなかったろうが、この体ではギリギリ見えてしまった。

 

 ……赤色の正体については、あまり考えたくない。

 これ本当に全年齢対象のゲームか?

 

 ふと、村の中央、一際高い塔が、半ばから折れて崩れていく。戦火に耐えきれなかったのだろう。

 上がる土煙。少し遅れて、崩壊の音。

 

「っ!?」

「うわっ、何だ?」

「塔が崩れました」

「なるほど……いや、ちょっと待て」

 

 灰流さんが耳を澄ませると、ハッとしたように地面を見る。つられて見れば、草が揺れていた。

 風のものではない、地面からの揺れで。

 

 ……地響きがしている。

 それも、少しずつ大きくなっている。

 

「不味い、来るぞ!」

「な、何が──」

 

「──■■■■■■■!!!」

 

 世界がスローになる。

 心胆を寒からしめる、耳障りな雄叫び。体格の良い灰流さんよりも一回り大きい体躯。

 醜悪に肥えたにも関わらず、機敏に動く身体能力。

 

 大口を開き、涎を垂らし、両腕を伸ばし。

 それは真っ直ぐに、シアさんへと──

 

「──《シィィィルドチャァァァァジ(シールドチャージ)》っ!!」

 

 裂帛の気合と共に、大盾の突進が繰り出される。

 軽くノックバックしたエネミーは、しかしながら無傷であった。

 

「敵襲! 《ルアーオーラ》ッ!」

「ぼさっとしない! 早く動くっ!!」

「っ、はい!」

 

 大声で我に返る。

 今の自分は生身で、シアさんからも離れていた。

 慌てて駆け寄り、へたり込んで震えているシアさんを横抱きに抱え、その場から少し離れる。

 

「チィッ、【ゴブリン・キング】かよコイツっ!!」

「あと取り巻き何体いるのよ!?」

「わかる訳ぁねぇだろ!!」

 

 【ゴブリン・キング】、頭に情報は入れている。

 取り巻き……というか、配下のゴブリンを全員殺さない限り、その配下にダメージを転嫁し続ける。

 とどのつまり無敵。

 

 抱えたシアさんを地面に置くと、うずくまって震え始めた。

 

「シアさん、大丈夫ですか?」

「むっ、む、むむむ無理です。もう駄目です。無理なんです……」

 

 大丈夫ではない、それは判っている。

 

「シアさん、シアさん!」

「死んじゃう、死んじゃう、みんな死んじゃう。やだ、嫌だ、お母さ──」

「──アレクシアっ!!」

「っ」

 

 強引に起こし、手を両肩に置き、目を合わせる。

 

「タカキ、さま……」

「戦えますか?」

「むり、ですっ。あん、あんなの、無理ですっ!」

「本気ですか? ジェネラルだって倒せた筈だ。あれだって戦える。というか、僕らが居ないと駄目なんです。灰流さん達では倒せない」

「無理って言ってるでしょ!?」

 

 悲鳴にも似た叫び。

 目の端に涙を浮かべ、怒りと恐怖が混じり合ったような顔のまま、吐き捨てるように言葉が続く。

 

「わ、私はただの一般市民なんですっ」

 

 ──……は?

 

「あなたのお陰で凄い力を得られただけの、ちょっと調子に乗った小娘なんですっ!」

「──」

 

 急に、何を──

 

「おもちゃを与えられた子どもみたいに悦に浸って」

「……おい」

「部屋の隅っこでウジウジしてる方がお似合い──」

「喧しいっ!!」

 

 ──言い出すのかと、思えば。

 

「そんな事は判ってるんですよ端から!」

 

 一瞬の間隙。

 

「……えっ?」

「徹頭徹尾!!」

「えぇ?」

「勢いで貴女と《コントラクト(契約)》したことはとっくに後悔し終えてるんですよこちとら!!!」

 

 きょとんとするんじゃないバカタレ。

 

「じゃ、じゃあ契約解除してくださいよ! 今この場で──」

「馬鹿かお前は!? 死ぬんだぞ!?」

「私は死んだっていいですもうっ!」

「貴女が、じゃねぇんだよ!!」

 

 肩を握る手に力が入る。

 

「貴女は良いかも知れませんが、ここにキングが来た。何が目的かは解りませんが、行軍が始まったのかも知れない」

 

「追加の<マスター>が来るのは早くとも明日。それよりゴブリンの行軍は早いと見ていい」

 

「ここで僕らが食い止めなければ、スコト村の人々が死ぬんです!!」

「──っ」

 

 ハッとしたような顔。

 実際そうなのかは全部知らない。要するに詭弁だ。

 しかしここで彼女を奮い立たせねば、折れたままにしてしまったら、夢を砕いてしまったら。

 夢を与えるもの(小説家)として、そんな悪夢(バッドエンド)を齎したなら──

 

「それで良いんですか?」

 

「貴女は、貴女を許せますか?」

 

 ──僕が、僕を許せない。

 

「……め、です。駄目です。嫌です!」

「なら、すべきことは?」

「…………手を」

「はい」

 

 右手を離し、彼女の手を握る。

 

「《ウェポンシフト:グラインダー》」

 

 武器へと変じる。視界が広がり、体の内からエンジン音が鳴り響く。

 両手で確りと握られながら、瞑目し何かを呟くシアさんを見守る。

 

「……きゃ、やらなきゃ。私がやらなきゃ」

 

 目が開かれ、握り直される。

 いつものポジションへ、戦う時の構えへ。

 

「私が……やるんだっ!!」





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