『《パワープレイ》』
駆け出した少女のステータスを、独断でさらに高める。
MPを1万残し、それ以外を全て物理ステータスへ。
先程までとは倍近いバフ差だが、彼女はそれを上手く乗りこなす。
やはり筋はいいのだ。
それに見合ったステータスが、まだ整っていなかっただけなのだ。
「はぁぁぁぁぁ!」
「■■■!」
未だに盾へと食らいつくキングの横っ面へ、大振りな一撃。
駆動していない刃とはいえ、鋭利であることには変わりない。
しかしやはりと言うべきか、1つたりとも瑕疵を付けられてはいなかった。
「よし、動けるようになったな! 頃合いを見て退避──」
「いえ! ここで仕留めますっ!」
「正気か!? 無茶だ!」
『いえ、1つ手があります』
これは詭弁ではない。
但し、分の悪い賭けである。
『彼女と僕を、信じて下さい』
「……〜っ! あい解った!!」
「ここまで頑張ったんだから、もう勢いでやっちゃいましょう!!」
「そうだ、なっ!!」
拳の殴打をかいくぐり、盾によるアッパーカット。
シアさんが飛び上がり、上がった頭へ横薙ぎ、振り下ろし。
やはりダメージは無さそうだ。
チャンスは一度きり。
相手方の装備や武器は既に壊れているし、MPが1万あれば10秒は持つ。しかしその10秒が重い。
『合図をしたら、暫く食い止めて下さい! 10秒張り付く必要があります!』
「10秒!? 良いね! 燃えてきたっ!」
雨あられの如く降り注ぐ風の刃。
痛痒すら感じていなさそうに、そのまま腕で振り払われる。
どれだけ残りが居るかは分からないが、それら全部を乗り越えて、致命に達さねばならない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
『シアさん、一度離れて息を整えて』
「は、いっ!」
距離を取った目線の先では、今なおも激しい攻防が続いている。
「すぅ……ふぅ……よし」
『行けますか?』
「はい」
『では……お願いします!』
作戦、開始だ。
「あいよっ! 《
「──《
完全に盾へと向いた意識を縫って、四肢、胴、頸へと風が絡みつき、地面へと縫いつける。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
突撃。
膝をついた背中、左肩へ向けて、裂帛の勢いとともに刃を叩きつける。
勿論ダメージは無い。
だが、これで良い。
エンジンは動いている。
ならば、アクセルを入れるのみ。
『《フル──』
「──スロットル》ッ!!」
《フルスロットル》。
《コントラクト》によって生まれた2つの装備スキルのうちの、もう1つ。
効果は至ってシンプル。
駆動する刃1つごとに、攻撃力分のダメージを、1秒ごとにAGIの0.05%の回数与える。
MPを1秒間に1000消費する大技だが、幸いにも10秒は動かせるだけのMPは持ち合わせていた。
唸りを上げ、互い違いに4枚の刃が回転し始める。
掘削音にも似た、ぎゃりぎゃりという耳障りな音が響く。
多段ヒット故に敵の防御力に左右されやすいが、低いと祈る他にない。
防御力が仮に500だとしても、秒間で25万以上のダメージ。
それを以て、配下ごと挽き潰す。
「はぁぁぁぁぁっ……!!」
「■■■! ■■■■■!?」
3秒経過。
流石にこちらにヘイトが向いたのか、盾を無視して身悶えし始めるキング。
絡みつく風の鎖が悲鳴を上げた。
抵抗を出来る限り抑え込もうと、柄を握る手に力が入る。
「……っ、これで打ち止めだ、《ルアー・オーラ》!」
5秒経過。
一瞬とはいえ盾に向いた意識。それだけでも時間稼ぎには十分だった。
「くぅっ……ごめん、限界っ!」
「あああああぁぁぁぁぁぁ……っ!」
7秒経過。
残りMP3000。拘束も解けた。
それでも刃を押し当て続ける。膝をつかせ続ける。
8秒。
「■■■■■■■!!」
「ぎっ、あああああああ!!」
暴れた拳がシアさんの肩を掠める。嫌な音がして、左腕の力が抜ける。
それでも尚、刃を止めない。
9秒。
──ざり。
皮膚が、刮げる音。
刃が触れ、進み始める音。
「■■■■!? ■■■! ■■■!!」
鎖骨を、肩甲骨を砕き、心臓と肋骨を食い千切り、4枚の刃からなる
吹き出る血液なんて知ったことではない。ただ進む。突き進む。
……やがて腰骨の辺りで、刃が止まった。
──10秒。
「──■、■■」
キングの手が宙を掻く。
弱々しい喘鳴の後に、光の粒子となって、空気に溶けていく。
「やっ、たぁ……──」
『おっ、と」
姿を戻し、倒れ込む少女を受け止める。
安らかに目を閉じ、力なく身を預けてくる。
……息はしているので、気を失ったらしい。
「やっ、た……」
「やったぞおおおおおぉぉぉ!!」
「うるさい!」
「いぃってぇ!? ちったぁ喜ばせてくれよ!」
「シアちゃん寝てんでしょ! 起きたらどうすんの?」
「……わ、悪い……でも、やったな、マジか、やったのか俺ら」
「はい」
幸せそうな寝顔を眺めながら、力強く頷く。
「僕らの勝ちです」
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