系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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7:ふるすろっとる

『《パワープレイ》』

 

 駆け出した少女のステータスを、独断でさらに高める。

 MPを1万残し、それ以外を全て物理ステータスへ。

 先程までとは倍近いバフ差だが、彼女はそれを上手く乗りこなす。

 やはり筋はいいのだ。

 それに見合ったステータスが、まだ整っていなかっただけなのだ。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「■■■!」

 

 未だに盾へと食らいつくキングの横っ面へ、大振りな一撃。

 駆動していない刃とはいえ、鋭利であることには変わりない。

 しかしやはりと言うべきか、1つたりとも瑕疵を付けられてはいなかった。

 

「よし、動けるようになったな! 頃合いを見て退避──」

「いえ! ここで仕留めますっ!」

「正気か!? 無茶だ!」

『いえ、1つ手があります』

 

 これは詭弁ではない。

 但し、分の悪い賭けである。

 

『彼女と僕を、信じて下さい』

「……〜っ! あい解った!!」

「ここまで頑張ったんだから、もう勢いでやっちゃいましょう!!」

「そうだ、なっ!!」

 

 拳の殴打をかいくぐり、盾によるアッパーカット。

 シアさんが飛び上がり、上がった頭へ横薙ぎ、振り下ろし。

 やはりダメージは無さそうだ。

 

 チャンスは一度きり。

 相手方の装備や武器は既に壊れているし、MPが1万あれば10秒は持つ。しかしその10秒が重い。

 

『合図をしたら、暫く食い止めて下さい! 10秒張り付く必要があります!』

「10秒!? 良いね! 燃えてきたっ!」

 

 雨あられの如く降り注ぐ風の刃。

 痛痒すら感じていなさそうに、そのまま腕で振り払われる。

 どれだけ残りが居るかは分からないが、それら全部を乗り越えて、致命に達さねばならない。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

『シアさん、一度離れて息を整えて』

「は、いっ!」

 

 距離を取った目線の先では、今なおも激しい攻防が続いている。

 

「すぅ……ふぅ……よし」

『行けますか?』

「はい」

『では……お願いします!』

 

 作戦、開始だ。

 

「あいよっ! 《ルアー! オーラッ(ルアー・オーラ)》!」

「──《風よ、我が命に従え(ゼファー)》!」

 

 完全に盾へと向いた意識を縫って、四肢、胴、頸へと風が絡みつき、地面へと縫いつける。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 突撃。

 膝をついた背中、左肩へ向けて、裂帛の勢いとともに刃を叩きつける。

 勿論ダメージは無い。

 だが、これで良い。

 

 エンジンは動いている。

 燃料(MP)はまだある。

 ならば、アクセルを入れるのみ。

 

『《フル──』

「──スロットル》ッ!!」

 

 《フルスロットル》。

 

 《コントラクト》によって生まれた2つの装備スキルのうちの、もう1つ。

 効果は至ってシンプル。

 駆動する刃1つごとに、攻撃力分のダメージを、1秒ごとにAGIの0.05%の回数与える。

 MPを1秒間に1000消費する大技だが、幸いにも10秒は動かせるだけのMPは持ち合わせていた。

 

 唸りを上げ、互い違いに4枚の刃が回転し始める。

 掘削音にも似た、ぎゃりぎゃりという耳障りな音が響く。

 多段ヒット故に敵の防御力に左右されやすいが、低いと祈る他にない。

 防御力が仮に500だとしても、秒間で25万以上のダメージ。

 それを以て、配下ごと挽き潰す。

 

「はぁぁぁぁぁっ……!!」

「■■■! ■■■■■!?」

 

 3秒経過。

 流石にこちらにヘイトが向いたのか、盾を無視して身悶えし始めるキング。

 絡みつく風の鎖が悲鳴を上げた。

 抵抗を出来る限り抑え込もうと、柄を握る手に力が入る。

 

「……っ、これで打ち止めだ、《ルアー・オーラ》!」

 

 5秒経過。

 一瞬とはいえ盾に向いた意識。それだけでも時間稼ぎには十分だった。

 

「くぅっ……ごめん、限界っ!」

「あああああぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

 7秒経過。

 残りMP3000。拘束も解けた。

 それでも刃を押し当て続ける。膝をつかせ続ける。

 

 8秒。

 

「■■■■■■■!!」

「ぎっ、あああああああ!!」

 

 暴れた拳がシアさんの肩を掠める。嫌な音がして、左腕の力が抜ける。

 それでも尚、刃を止めない。

 

 9秒。

 

 ──ざり。

 

 皮膚が、刮げる音。

 刃が触れ、進み始める音。

 

「■■■■!? ■■■! ■■■!!」

 

 鎖骨を、肩甲骨を砕き、心臓と肋骨を食い千切り、4枚の刃からなるグラインダー(圧砕機)は進む。

 吹き出る血液なんて知ったことではない。ただ進む。突き進む。

 

 ……やがて腰骨の辺りで、刃が止まった。

 

 ──10秒。

 

「──■、■■」

 

 キングの手が宙を掻く。

 弱々しい喘鳴の後に、光の粒子となって、空気に溶けていく。

 

「やっ、たぁ……──」

『おっ、と」

 

 姿を戻し、倒れ込む少女を受け止める。

 安らかに目を閉じ、力なく身を預けてくる。

 ……息はしているので、気を失ったらしい。

 

「やっ、た……」

 

「やったぞおおおおおぉぉぉ!!」

「うるさい!」

「いぃってぇ!? ちったぁ喜ばせてくれよ!」

「シアちゃん寝てんでしょ! 起きたらどうすんの?」

「……わ、悪い……でも、やったな、マジか、やったのか俺ら」

「はい」

 

 幸せそうな寝顔を眺めながら、力強く頷く。

 

「僕らの勝ちです」

 

 





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