系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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2:みつゆ

 諸々の選択肢を奪われてから、とどのつまり<エンブリオ>が孵化してから、早数日が経った。

 何だかんだマルクスの奴は、ファーミング自体は手伝ってくれている。

 “誘った者の責任として、楽しんでもらいたい”そうだ。

 

 あの後飲みに付き合わせ愚痴を散々吐いた身としては申し訳なかったが、そう言われてしまっては仕方がない。

 ……専ら従魔のアンデッドに戦闘を任せ、僕らは後方待機。

 変なジョブも取らされた上に戦っている実感が薄いのが玉に瑕だが、ありがたいものはありがたい。

 

 ……というかそも、あいつは善性ではあるのだ。

 海外旅行に連れて行かれたと思えば、銃弾の飛び交う紛争地帯でボランティアに従事することになったり。

 カニを食べに行こうと誘われてみれば、カニ漁船での共に働くことになったり。

 サイクリングについて行けば地球一周コースだったり。

 例を出せば枚挙に暇がないし、突拍子もクソもへったくれも無いが、善性ではあるのだ。

 多分。

 

 

 ■

 

 

 しかし、トラブルメーカーであることは事実である。

 文字通りのメーカー(製造元)

 そこから運送と供給までもを手掛ける一大企業。

 

 こちら側においてはまあまあに名の知れた商人であるらしいが、まさかそうしてトラブルを売っているのだろうか。

 

「後、どれ位で着く?」

「もうすぐです」

 

 そんな輩の誘いに今なお乗って、よく分からない車両の中で、何度目かも分からない問答を続けているのは、単純に私利の為である。

 断じて私利私欲ではなく、私利のみだ。

 乗りたくはないが、乗った方が良いから乗っている。

 

 そも、僕は名の売れた物書きである。

 誇張でも何でも無く、それ以上でも以下でもない。

 故に色々書いては来たが、話の種は有限。いつかは尽きるもの。

 故にこそ、かの男の誘いは、話の種としては一級品だった。

 普通に生きていれば選択しない物事の、更にその先を知れる。

 作家としてこれ以上のことは無いだろう。

 

 この<Infinite Dendrogram>を欲したのも、ある意味その一環。

 正確にはあいつに頼らずとも、少しは話の種を探そうと試みた結果だった。

 尚、結果はこの通り。あいつから渡された機器を使って遊ぶゲームで、あいつと共にクエストへ赴いている。

 

 赴いている、のだが。

 

「はぁ…………」

 

 如何せん代わり映えしない車窓の景色に、少しばかり飽きが来た。

 何処ぞの銀河鉄道風味な客車の内装は、ノスタルジックな気分を想起させるものの既に食傷気味。

 もうすぐ着くとは言われるものの、具体的な目的地も、クエストの内容も知らされていない。

 いつも通りだが、いつも通りに飽きが来ている。

 

 その辺りの説明が成されるのは決まって手遅れに、要は逃げることが出来なくなったタイミング。

 逃げたら片方が死ぬなり何なりしそうな趨勢になった、その瞬間。

 ……何か、その瞬間の僕の表情を養分にして生きているタイプの化生な気がしないでもない。

 

 ◆

 

「……一旦、整理するぞ?」

「はいはい、どうぞ」

 

 何せ説明し終わった直後は決まって、今のようにこうして愉しそうに嗤っている。

 楽しそうに笑っている、ではない。その表現をするには邪悪に過ぎる。

 

 腹立たしいことこの上ないが、一先ずされた説明を反芻し、噛み砕き、飲み下す。

 

「先ず、今向かっているのは隣国であるレジェンダリア」

「正確にはその国境地帯である森ですがね」

 

 道理で移動がまあ長いと思ったよ。

 地理的には首都を突っ切り、国を縦断して更にその先だ。

 

「次。目的地にある荷物を回収次第、アルターへ戻る」

「ブツは見てのお楽しみ、期待しといて下さい?」

 

 茶々入れんな鬱陶しい。

 どうせ碌でもない何かなのは知っているし、モノが何であれ密輸になる筈だ。

 流石に犯罪行為に加担させられるのはこれが初めてだが、まあゲームだし良いとする。

 

「そして最後。モノを狙って来る賊がほぼ確で居るので、大規模とまでは行かずとも戦闘が予想される」

「ド派手にドンパチやりましょう! まあコレに関しちゃ、もっぱら私が対応しますがね」

「自害コマンド切らずに済んで良かったよ」

「意趣返しのつもりですかコノヤロウ」

「冗句だよ冗句。判ってるだろうに」

「……イイ笑顔ですね、全く」

 

 確かに意趣返しではあるのでそこは訂正しない。

 《真偽判定》とか言う物騒なスキルを保持しているらしく、こちらでは下手に嘘を吐けないのだ。

 吐いた所でどうでもいいのはそう。

 

「……いやでも、これ僕要るか? 荷物が増えるだけだろう」

「いーや、必要だから引っ張って来たんですよ。絶対に要る。それなら荷物が1つ2つ増えようが問題ありゃしません」

 

 そう胸を張って自慢げに豪語する辺り、よほど自信があると見える。その辺りは先達の面目躍如だろうか。

 荷物呼ばわりされたのが若干癪だが、頼らせてもらうとしよう。

 

「……それにココだけのハナシ、ティアンを殺した方が得られる経験値が多いらしいんで」

 

 何処からの情報なんだよそれは。まあ、どうせ聞いたとて答えやしないだろうが。

 

「それならいっそ、ファーミングに使ってやろうって次第で」

「となると、賊はティアン(NPC)である、と?」

「その通り」

「気でも引けますか?」

「全然。敵は敵だろう。無為に殺戮する気は無いが、向かってくるならもう……何と言うか、ユニークNPCな癖に不死属性(Essential)ではないのが悪いとしか」

「終わってる喩え止めてくれませんかね」

 

 煩い。これしか思いつかなかったんだよ。

 

「──マルクス様、タカキ様。ご歓談中失礼致します」

 

 ふと声を掛けられ、見れば通路側には御者の姿。いや、馬車ではないから車掌か運転手か。

 見かけは思い切り修道女、それもサブカル方面のカジュアルシスター。中々多芸らしく、マルクスの秘書でもあるそうだ。

 

「後5分程で“荷物”の場所へと到着致します」

「おっと。じゃ、そろそろ渡しておきましょうかね。ジェーン」

「は。只今御用意致します」

 

 一礼し掃けていった秘書さんが、何かを載せたトレーを持って戻って来る。

 

「ソウ様、此方を」

 

 差し出されたのは上等そうなブローチが1つと、不気味な雰囲気の漂う麻の人形が2つ。

 

「ブローチは【救命のブローチ】ってアクセサリーです。発動率100%な代わりに消費する“きあいのハチマキ”だと思って下さい」

「……絶対高いだろうこれ」

「そりゃ勿論」

 

 勿論、じゃねぇんだが。

 

「んで人形はそれぞれ【身代わり人形】と【仕返し人形】。前者がダメージを一定量まで肩代わりしてくれて、後者は攻撃してきた相手を【麻痺】させます」

 

 ……なるほど。

 大方、賊の対策だろうこれらのアイテム。

 過剰とも思えるが、僕は知っている。

 目の前の男は、無駄になる備えをしない。

 

 あの時渡された拳銃も、受けさせられた護身術の訓練も、全てが最終的には必要になった。

 要は効率厨。

 厳密に言えば違うのだろうが、そんな男が用意したアイテム群。

 

「まあ、ありがたく受け取っておく」

 

 意を決して受け取り、装備する。

 人形共はスロットを2つ食うらしく、ブローチを含めればこれでアクセサリー枠は満杯になった。

 

「代金は出世払いでお願いしますよ」

「金取るのかよ。まあ構わんが」

「言質取りましたからね? マジで雁首揃えて取り立てますよ?」

「最悪あっちの現金で」

「おいバカバカバカ法律考えろ!?」

「冗句だ」

「いや本気で言ってたでしょアンタ──っ、と」

 

 制動が掛かる感覚。きぃ、という甲高いブレーキ音。

 やがて、目まぐるしく過ぎていた車窓の景色がゆっくりと動きを止めた。

 ……ふう、誤魔化せて良かった。

 

「到着致しました。……“荷物”の搬入を確認。発車致します」

「早いな」

「いえ、此れでも遅い程かと」

「予定じゃノンストップで拾ってUターンでしたからね」

 

 理想に無理が有りすぎるだろう。

 と口にするよりも早く伝わって来たのは、シートに身体が軽く押し付けられる感覚。

 

「まぁ、過ぎたことを悔やむには早すぎる。気を引き締めて行きましょうか」

 

 車両が再び動き始めて、客車の扉が開かれる。

 

「こちらです」

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 案内されて入って来たのは、1人の少女だった。

 ぎぎぎ、と、錆びついた人形のような動きでマルクスの方を見る。

 

「……ご察しの通り、“荷物”のご到着ですよ」

 

 クソが。





9/22 改稿、一部表現を修正
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