系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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2:しばく

「……何か、災難っすね」

「はい」

 

 翌日、シエンさんへお詫びをしにやって来たものの、未だに何かと理由をつけられ、昨夜寝たときからずっと身体的接触を絶つことは許されていない。

 あの状態では流石に歩けないので、今はおんぶの形で運ばされている。

 スカートなんだからもっと、こう、恥じらいを持ってほしい。

 

 そんなこちらの様子を見て、彼は何かを言い淀んでいた。

 

「……子泣きじ……ば、いや、うん」

「軽いんでその表現は適当では無いですね」

「《ホワイトランス》」

「あっづぅ!? 何で!?」

 

 ああ、掠めた光槍で耳の端を軽く熱せられている。

 可哀想に。

 

「……重量のことを表す<マスター>様方の表現、ですよね?」

「はい、それで概ね合っているかと」

「……《ホーリー──」

「すんませんしたっ!?」

「──わかればいいんです。わかれば」

 

 シアさん、今度はちょっと強めの魔法撃とうとしたな。

 フィールドならまだしも、街の中でそれは止めて欲しい。流れ弾が普通に危ない。

 

「お嬢ちゃん。そないな魔法街中で撃ったら、怪我人出てまうわ」

 

 ほら見たことか、通りがかりの人にも注意され──

 

「もっとやるなら、こうやるん、よっ!」

「あっだぇ!?」

 

 ──えっ。

 

 えっ?

 

 その通りがかりの人が、着物美人が、シエンさんをぶん殴った。

 インパクトの瞬間、少し手が光っているのも見えた。

 ……恐らくは《魔法発動無詠唱化》辺りを使った回復魔法だろうが、何とも器用なことである。

 

 というか、よくよく見たら十二単じゃないか。

 よくそんな重量物着ていられるな。ほぼ布の重石だぞあれ。

 

「何で? 何で!?」

「乙女に重い言うた天罰や、甘んじて受けとき」

「えいっ!」

「なん゛!?」

 

 いつの間にやら降りたシアさんのグーパンが、シエンの腹を再び打ち据える。

 

「こう、ですか?」

「ええやんええやん。でも、もっと腰入れて、思いっ切り行った方がええよ」

「ありがとうございます! 次はそうしますね!」

「…………次が無いよう身の振り方に気をつけます」

 

 殊勝な心掛けだと思う。

 回復しているとは言え、痛覚を切っていないとそれなりに痛いだろう。

 ……そんなことより。

 

「……して、何用ですか?」

「なんや急に物々しい」

「物々しくもなりますよ。扶桑月夜さん」

 

 僕はこの人を知っている。

 

「あら、知っとったん? うちも有名になったもんやねぇ」

 

 扶桑月夜。

 クランランキングのトップに座する<月世の会>のオーナーにして、【教皇】の座を奪い【女教皇】となった……王国に在籍する<マスター>である。

 

「この方が、ですか?」

「あーはい、そうですよ。めちゃくちゃ強い人です」

「そーそー、めっちゃ強いん。だから本気で殴っとったら、この義腕ちゃんは木っ端微塵やったな」

「怖いこと言わないでもらえます?」

 

 ぬるりと会話に割り込み、そのまま中心に居座れるのは、流石の手腕と言うべきか。

 <月世の会>は現実にも存在する宗教法人であり、彼女はその教祖を務めている。

 こちらとあちらの顔と名前が全く同一なのは、その教義の故。

 

 “枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く”。

 “自由なる世界で、己の魂の赴くままに自由を謳歌せよ”。

 

 そしてこのデンドロ内を、その真なる魂の世界として活動しているのが、彼女のクラン<月世の会>である。

 

「は、はじめまして。私は──」

「──シアちゃんやね、知っとるよ。んで君はソウちゃん。フルネームで呼んだほうがええ? アレクシア・エルヴンルードちゃんに、タカキ・ソウちゃん」

「……よくご存知で」

「だって有名やもん、妙な<エンブリオ>の<マスター>が居るーって」

「……あの、ボクは……?」

「あ、君は知らん」

「あっはい」

 

 まあ、【猛王】の獲得やら何やらで、流石にここまで来たら噂にはなっているか。

 ……シエンさんはドンマイ。

 

「んで、ソウちゃんシアちゃんに用があって来たんやけど、でも、んー、そうやね……」

 

 ふと、何事かを考える素振りを見せる扶桑さん。

 

「立ち話もなんやし……うち来てお茶でも飲まん?」

 

 気さくそうにこちらへ話しかけるその姿は、何処か有無を言わさぬ威容を漂わせていた。

 

 ◆

 

 相手は所謂、絶対強者。こちらは所詮、超級職に運良く就けた程度のペーペー。

 そんな力量差の相手と茶をしばくというのは、幾ら命があっても足りる気がしないものだ。

 

 尚シエンさんは追っ払われた。

 少し悲しそうだったが、正直羨ましい。

 

「…………」

 

 盆の上に並ぶ茶菓子を眺めながら頭を回す。

 連れてこられた理由、不明。相手方の思惑、不明。

 考えるだけ無駄じゃねぇかこんなもん。

 

「なんや、お気に召さんかった?」

「いえ、そういう訳では」

「ははひはん!」

 

 母批判?

 

 とんでもない言葉に隣を見ると、目を輝かせながら茶菓子をもりもり食べるシアさんが居た。

 暫く咀嚼した後、嚥下して口を開く。

 

「これ、すっごくおいしいです!」

「……さいですか」

 

 能天気に食っている姿は大分羨ましい。

 ……いや、紛らわせているだけか。目が泳ぎ、手が若干震えている。

 ストレスで口いっぱいに餌を詰め込むハムスターを見ている気分になって来た。

 ストレス続きで申し訳ないが、耐えてくれ。

 僕もかなり堪えてるんだ。

 

 ……相手方をちらりと見遣れば、楽しそうににこにこと笑っている。

 あれが所謂、強者の余裕か?

 

「影やんがテキトーに作っただけやから、気にせずたーんと食べ」

「ありがとうございますっ」

「うんうん。……んで、もっかい聞こか。お口に合わへんかった?」

「いえ、だからそういう訳では……」

 

 この状況で物食おうって思えないことぐらい察せよ。

 お前は教祖だろう? 人心掌握が得意ならこっちの心情ぐらい汲んでくれ。

 

 ……仕方ない、食うか。

 

「…………あ、美味しい」

 

 ココア風味の甘さ控えめなクッキーは、思っている以上に出来が良い。

 プロの作ったペイストリー、といった風合いだ。

 一緒に出された茶も中々いける。紅茶なんだ。和室なのに。

 

 ……少し緊張が解けた。しかし警戒は続けねば。

 虎口に立たされているどころか、あまつさえその中で茶をしばいていることには変わり無いのだ。

 

「ふたりとも、ちょーっとリラックス出来たとこで、本題入ってもええ?」

「はい」

 

 シアさんも、頬張ったままに首肯を返す。

 

「ありがと。シアちゃんシアちゃん──」

 

「──超級職に、興味あらへん?」

 




お狐様です
出したほうが楽しそうでした
宗教関連でもあります
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