系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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3:じょうけん

 

 なる、ほど。それは……。

 

「んくっ、超級職、ですかっ!? けほっ、けほっ……!」

「あーあー、お茶飲みやー……でも、その感じは興味ありそうやね」

 

 盛大に噎せていたが、無理はない。

 何せ、あれだけむくれた末に“根に持つ”とまで言った代物だ。

 喉から手が出て、そのせいで茶菓子が喉につっかえることだってあるだろう。

 

「も、もちろんですっ」

「じゃあ話も早そうやね。ここになー──」

 

 懐から取り出したのは、古そうな紙束。

 羊皮紙か何かだろうか? 質感はそのように見える。

 

「──うちの信者が見つけた古文書があるねんけどー……」

 

「これにな、()()()()()()()()()()が載っとんねよー」

「ほ、ホント、ですか……!?」

「うちが嘘ついとるように見えるんー? 心外やわー」

「い、いえいえ! 《真偽判定》も反応していませんし……」

「せやろー?」

 

 嘘は吐いていない、か。そうなるといよいよ拙い。

 恐らくは交渉。あの古文書をを差し出す代わりに、こちらに何かを提示する。

 そこでどんな条件を出されるかが解らないが、下手をすれば二つ返事で了承しかねない。

 それをこちらが遮っても、“本人が言うとるんよー?”とか何とか言って取り消せなくなることは明白だ。

 そういう事をする凄みが、あの女にはある。

 

「それで、これを渡してもええんやけど、条件があってなー──」

 

 ほら来た。

 

「──<月世の会(うち)>に入信して欲しいんよ」

「お断りします」

 

 うわあやっぱり二つ返事で了しょ……違う、断った。

 断った? ええ?

 

 ……いや、まあ……それは、そうか。

 

「えー? もうちょっと悩んでくれてもええやんー?」

「私はこの地の国教を信仰する者です。その信を容易く心変わりさせるわけには、いきませんので」

 

 その通り。

 シアさんはかなり敬虔な信徒である。50年近く続けただろう信仰を、今更変えるなんてことをする筈もない。

 例え超級職をエサにされたとて、だ。

 その辺りの良識を、彼女はしっかり持ち合わせている。

 

 力に溺れかけようが。

 無断でスキルを使おうが。

 人前で異性に張り付こうが。

 スカートでおんぶをせがもうが。

 急に街中で攻撃魔法を使おうが。

 その信心だけは、非常にまともなのだ。

 

 ……信心以外がまともに見えなさすぎるな。まあ良い。

 

「……あー! そういう事なー」

 

 そんなシアさんの言葉に、扶桑さんは声を上げる。

 先程の残念そうな声色はどこへやら、合点が行ったというような雰囲気だ。

 

「ちゃうちゃう、ちゃうんよー。<月世の会>に入るんはシアちゃんやなくて」

 

 そのたおやかな指が指し示すのは、僕。

 

「ソウちゃんの方よ?」

 

 なるほど……そう来たか。

 

「……<月世の会>の皆様は、あちら側での名前をこちらでもお使いになられていると見受けられます。そこに全く異なる僕が入るのは──」

「──そんな程度じゃ理由にならへんよ。それに、その名前も使っとるやん? それなら問題あらへんよ」

 

 畜生、やはり知っていたか。

 

「高木草、代表作は“Close Dawn”に“天地想像”。どれも傑作やねー」

 

 しかもしっかりと知っているタイプだ。別の意味で面倒臭い。

 やっぱあいつのように、見た目も名前も全く違う何かに捻るべきだったか?

 まああれは単純に、ボーダーランズのマーカスのロールプレイ(もどき)だろうが、現実とは似ても似つかないのはそうなのだ。

 もっと捻って、こう……今更思いつかんな。

 

「お褒めに預かり光栄です、が……」

「よーく悩んでええよ。時間はようさんあるしなー」

 

 ……戦力の増強という点では、確かにありだろう。

 カルトに入るという今後の作家人生に響きかねない点を除けば、だが。

 何より超級職。就けるかどうかも解らず、就こうとした時には既に埋まっている可能性もある。

 

「……タカキ様」

 

 ふと、か細い声。袖も引かれる。

 見れば、そこに居るシアさんと目が合った。

 気遣わしげな、申し訳なさそうな表情。そのまま、ゆっくりと首を横に振る。

 

 ……ええ、解りました。

 

「申し訳ありませんが、謹んでお断り申し上げます」

「よーく悩んで、って言うたやん。早なーい?」

「結構悩みましたよ。僕にしては。それに……」

「それに?」

「彼女が、シアさんが、それを望んでいないようでしたから」

 

 隣からほっとしたような雰囲気が伝わって来る。

 良かった、合っていた。申し訳無いが入ってくれ、じゃあなかった。

 

 その返答を聞いて、何かを満足したのか。

 残念そうだった表情が、ころりと笑顔に変わった。

 

「……うん、やっぱ最高や」

 

 言葉から察するに、何かがお気に召したらしく──

 

「はいお願いしますー言われたら、つまらんし殺そうと思っとったんよ」

 

 ──それに気を緩めたのが、拙かった。

 

 ふっ、と眼前に現れる扶桑さん。

 こちらのバランスが崩れたのは、手を前へと引かれたから。

 手首を持って、自分の方へと引き寄せる形。

 右の手で引き、左の手は伸ばされた腕の肘に添えられている。

 

「こんなふうに」

 

 ぼぐん、という鈍い音。

 体の内側から響くそれは、発生源を肘としていた。

 ……今しがた、逆方向へと折り曲げられたそこを。

 

「う、ぐっ……!?」

「タカキ様っ!!」

 

 腕をぱっと離され、慌てて後方へと飛び退る。

 そこへ駆け寄って来たシアさんは、驚愕と怒りと、よくわからない混ざった感情を露わにしている。

 

「今すぐ回復を──」

「ああ、だめだめ。治したらまた折るよー? 次は左の肘、その次は……膝にしとくわ。歩いて帰りたいやろ?」

「──何で、ですか、何でこんな事をっ!?」

「何で、って……あの狸親父へのお手紙?」

 

 狸親父……まさか。

 

「……マルクスですか」

「そうそう。厭やわー、言葉に出すだけで口が汚れた気分になるんよねー」

「相当お嫌いなようで……!」

「そらもちろんよ。どこに好きになる要素があるん?」

 

 ……何したんだよあいつ。

 

「まあ、その腕と一緒にあれに伝えておいてーな」

 

「“次舐めた真似したら捻り潰す”、って」

 

 マジで何したんだよあいつっ!!

 

 シアさんが震えている。

 怒りに、ではない。向けられた殺気に、だ。

 笑顔とは威嚇、なんて雑学があるが、確かにそうなのだろう。

 眼前の相手の笑顔には、明確な害意が見受けられた。

 

「──そこまでにしておきましょう?」

 

 ……そんな最中、ふと、涼やかな声が響く。

 眼前の女のものではない。その後ろに現れた、もう1人のものだ。

 

「……何よカグヤ、寝とるんと違うたん?」

「騒ぎになったから起きただけ。それに、彼は関係ないでしょう? 伝言だけでも十分なはずよ」

「むぅ……」

 

 見事に言いくるめる、その“カグヤ”と呼ばれた女性。

 見る限り、扶桑さんとは大層仲が良さそうである。

 しかし……何処から現れた?

 

「……あら、失礼」

 

 そんな疑問に答えるように、カグヤさんは丁寧にお辞儀をして見せた。

 

「此は【カグヤ】」

 

「月夜の、<エンブリオ>よ」

 

 ……人型の?




主人公が<エンブリオ>ですからね
こういうのとも話させましょう
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