評価者様がた、誠にありがとうございます
<エンブリオ>。
目の前のカグヤさんは、自身のことをそう告げた。
Wikiでギリギリ知識にはあるが、なるほどあれがメイデンというやつか。
「……月夜。少し席を外してくれる?」
「んぅー……わかった。込み入った話もあるやろうしなー」
襖を開け、何処かへと足を運ぶ扶桑さん。
……込み入った話、か。
人と<エンブリオ>の合いの子として、ある意味では親近感もあるが……一体何だ?
「どうぞ、座って」
促されるまま、再び座布団へと腰を掛ける。
ぶらんとした右腕の居場所が置きづらいが、まあ我慢しよう。
「……ああ。その腕、もう治してもいいと思うわ。あの子も気が済んだだろうし」
良いなら先に言ってくれ。
傍らに居るシアさんに任せれば、見る見る内に元通りになっていく。
それを見留めて頷いたカグヤさんは、ゆっくりと口を開いた。
「初めまして。私たちに最も近く、そして最も遠い、<エンブリオ>にして<マスター>」
「……タカキ・ソウと申します」
「ええ。そしてその身体は【ヘファイストス】でもある」
そこまで知っているのか。
なんて呆気にとられていると、カグヤさんは両手を伸ばし、シアさんと僕と指し示す。
「2人とも、ね」
……何を、言っている?
「どういうこと、ですかっ?」
「貴女の身体には、彼が混じり込んでいる。正確には彼と同じ【ヘファイストス】が、だけれど」
おい。
ちょっと、待て。
「だからこそ、彼の一部があるからこそ、貴女は守られている。<マスター>と同等の保護を、同一の存在であるとして、受け取ることが出来ている」
それじゃあ──
「蘇られるのも同じ。身体の再構成を、彼の体の一部として、受けることが出来ている」
──
ステータスを開き、スキルの説明を今一度読む。
《プロテクト》
このスキルは《コントラクト》の効果下でのみ機能する。
《コントラクト》の対象へプレイヤー保護機能と同等の保護効果を与え、ログアウト時及び死亡時には対象の回収を行う。
加えて対象が致死ダメージを受けた際・死亡した際に、代わりに死亡する。
死亡後初めてのログイン時、対象の傷や欠損を再生し、HPを最大値の100%まで回復し、正常な状態へ復帰させた上で蘇生する。
パッシブスキル
やはり、今の話と食い違いが多すぎる。
「……どういう、ことだ……?」
「それが、私たちだから。人と共生し、共に生きる。それが<エンブリオ>。半物質半情報共生体の持つ特性」
何だそれは。
色々待ってくれ頭が追いつかない。
「そして貴方は、というよりその体は、それを模した。私たちの在り方を模し、人と共生し、だけど致命的に異なった」
「……何処が、でしょうか」
「それは自分で考えて。きっと貴方ならわかるはず」
今の情報をヒントにしろ、ということか。
……奥が深い世界だことで。
「……私が言いたかったのはこれだけ。貴方はメイデンでも、アポストルでもないから、きっと知ることはなかったでしょうから」
「<エンブリオ>のTYPE、ですか?」
「そうよ。私はメイデン。そしてテリトリーの上位形態でもある」
人であるだけ、という訳ではないのか。
確かに僕と似ているが、そんなメイデンなんて文字は欄の何処にもない。何か知らんがアポストルも同様だ。
「じゃあ、また会いましょう」
ふと、突然に。カグヤさんはそう告げて笑う。
「ちょっと待って──」
「質問はなしよ。これ以上を話すのは良くないし、本当は貴女にも席を外して欲しかった」
「…………」
「でも、貴女には知る権利がある。何と共に在って、どうなっているのかを」
何と共に在るのか……僕が一体何なのか。
変な<エンブリオ>手に入れただけの変人、という訳では無かったらしい。
ああ、頭が痛い。
「……何なんだ全く……」
「ふふ、あまり深く悩まなくても良いわよ。結局はただのお節介だし、理解したところで……あなたたちなら、あまり関係ないだろうし」
……は?
はあ???
つまりはあれか、意味深なこと言うだけ言ったってか。
いやふざけんなよお前?
そんなこちらの怒りもなんのその、カグヤさんは部屋を後に……しようとして、くるりとこちらへ振り返る。
「そうね。最後に一つだけ」
「……これ以上謎を増やす気ですか」
「違うわ。伝言のこと。マルクスとか言う男に、ちゃんと伝えてね」
……ああ、そうだった。
情報の奔流ですっかりと飛んでいたが、そんな事を言われていたな。
「私も、あの男は大嫌いだから」
そう言うと、カグヤさんはにっこりと笑った。
……流石は扶桑さんのエンブリオ、威圧感がよく似ている。
んで。
本当にあいつは何をしたんだよ。
◆
■
「本当に良かったの?」
眼下の道を、仲睦まじそうに歩く2つの人影。
最上階よりそれを眺めていると、ふと自らの<エンブリオ>よりそう問われる。
帰りの間際、永仕郎に渡させたのはかの古文書の写し。
それも、超級職への条件が載っている個所を切り取ったものだ。
最初に宣った交換条件が条件ゆえ、確かに惜しいには惜しかったが……。
「まあ、別にええよ。あれだけ渡しても今はどうにもならへんし?」
条件は4つだが、その内の1つは今のところ、あのティアンの少女……アレクシアにしか達成出来ない。
そしてもう1つも同様で、1つは誰でもどうにかなり得るが、残る1つは自分が居なければどうにもならない。
「……今は、ね」
「何よ。含みのある言い方しよってからに」
「結構気に入ってるでしょう? あの子たちのこと。いつか心変わりするかも」
「まー、そんなこともあるかも知らんなー。例えば──」
脳裏に浮かべるのは、あの男。
何度か彼らに接触しようとして、その度に妨害を繰り返し、妨害し返したのも束の間、最終的には対峙する羽目にもなった準<超級>。
──アイツらはオレのなんで、手ぇ出さないでもらえます?
下卑た笑みでそう告げる姿は、今でも目に焼き付いている。
まるで、自分のおもちゃに手を出されたかのような、そんな言い草。
尚、結果は痛み分け。
こちらは勝ったが、もう1つの戦場……色々と工作し、彼男の商社が使う交通路に差し向けた<UBM>は、ものの見事に撃退された。
他ならぬ、あの2人……タカキとアレクシアの手によって。
「──あのクソに吠え面掻かせたい、とか言ってくれたら、変わるかも知れんけど」
「……優しいわね」
「うるさーい」
頭を撫でられ、子供扱いされた気分になってくる。
居心地の悪さに抗議するも、どこ吹く風。
カグヤはいつも通りに、微笑んでいた。
ある意味でヘファイストスも
“多機能”かつ“分裂能力”持ちで
“ステータス補正マイナス”です
以下駄文
お狐様は色々ありますが
自身の立場や柵も無ければ
割といい人だと思うんですよね
そもメイデンのマスターですしその能力も
自身に掛かる
自己以外の変な宗教を流行らせないように
根回ししきって牽制することで
社会を乱させない必要悪になろうとしている
そんな気がしています
なにせ国教があれなので
それはそれとして自分の趣味追求もしそう
教祖とはいえ年頃のお嬢さんですからね