系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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UA2000、お気に入り30件突破ですってよ
ありがとうございますほんとにね




8:とい

 

 ──少し、外して頂けますか。

 

 そう言われたシエンさんは、凄まじくデジャヴであった。

 まあ今回は灰流さんも居るので、まあ、どうにかしてくれ。

 

 現在地は相も変わらぬ共同墓地。

 痩せぎすな青年……“冥王”さんは、何を考えているのかわからない。ただ……ちょっとばかりいい人そうには見える。

 あの【女教皇】に比べて、威圧感が少ないからだろうか。

 

「……申し訳ありません。長旅でお疲れでしょうに、立ち話とは」

「いえいえ、大丈夫です。それよりも……僕に会いたかったと言うのは、一体?」

「ああ、そうですね。本題に入りましょう」

 

 こちらへ向き直り、軽く咳が一つ。

 

「貴方は、ティアンを不死とする術を持っていると、聞き及びました」

「……なるごど、その事ですか」

 

 間違いなく、《プロテクト》の事だ。

 しかしあれは……。

 

「申し訳無いですが、それには少し誤謬がありまして」

「……はい?」

「僕も、詳しく理解している訳では無いのですが──」

 

 この前【女教皇】の<エンブリオ>……カグヤさんから聞いた説明を、一言一句繰り返す。

 曰く、彼女には僕の一部、厳密には<エンブリオ>が含まれる。

 そのおかげで、プレイヤーと同等の保護と、再生効果を得られている。

 

「なる、ほど……」

 

 それを伝え切ると、腕を組み、顎に手を当て、何事かを考え込む“冥王”さん。

 

 やがて考えが纏ったのか、視線が再びこちらへ向けられる。

 

「お役に立てましたかね?」

「はい。欲していた知識ではありませんでしたが……別の推論には役立ちました」

「それは……」

 

 役に立ってんのかそれ。

 

「……まあ、良かったです」

「はい。それでは、最後に一つ、質問をして良いですか?」

「構いませんが」

「貴方は、蘇りについて、どう考えますか?」

 

 ……まーた難しい問いを投げてきたものだ。

 

 この世界には蘇生呪文もあるし、<マスター>についてはそれ無しですら蘇る。

 命が軽い者と、重い者とが生きている。

 その上でのこの問い、果たしてどう答えるべきか……。

 

「軽々しく行うべきでは無い、と思います」

「……そう、ですか──」

「ただ」

 

 ……シアさんのことを考える。

 逃げ延び、殺されかけ、そして無限に近い生を、他ならぬ僕が与えてしまった存在。

 とてつもない悲劇に見舞われ、それを乗り越え、生きる人。

 

「もしも不幸に見舞われて、理不尽に見舞われて、散った命があるならば」

 

「……もう一度、チャンスがあってもいいのではないか、と思います」

 

 私利のためとはいえ、チャンスを与えた側だからな。

 そこだけは否定出来ないし、譲れない。

 

「──なるほど」

 

 僕の答えに、“冥王”さんは少し笑った。

 

「貴方とは、仲良く出来そうです」

「……そうですか」

 

 まあ、何かがお気に召したらしい。

 

「連絡先は、要りますか?」

「……では頂きます」

 

 ◆

 

 ■

 

 

(どうしよう)

 

 体のいい口実で逃げ出し、今現在は教会の清掃へ勤しむアレクシアの心中は、そればかりで埋まっていた。

 

 彼女にとって、タカキ・ソウという存在は掛け替えのないものだ。

 命を助けてくれた。そして力を与え、背中を押してくれて、隣で戦ってくれる。

 我ながらちょろい、と自嘲するも、やられたことを考えれば十分だとも思っていた。

 

 しかも顔が良い。

 美醜で言えば間違いなく美であり、彼が醜であれば何処かで折れていた自信がある。

 自分でも最悪だとは思っていたが、それでも……それこそ、物語から出てきた王子様のようで。

 鯖を読み2分の1以下とした年齢を考えると痛々しくも思うが、それでも……まあ、“ときめいて”いた。

 

 尚、年齢はこの前バレた。

 彼女は泣いた。

 

 ……閑話休題。

 

(どうしよう)

 

 昨晩のことを思い出す。

 いつもは冷静で、たまにこちらがおかしなことをすると、しっかり反応してくれる。

 そんな姿しか見ていなかったものだから、あんなに楽しそうに笑う姿は初めて見た。

 

 ──あぁ、きれいなひとだ。

 

 あんなに熱っぽい視線も、初めて見た。

 その後はほぼ覚えていない。気が付けば同衾していて、気づいたら彼は寝ていた。

 こちらを抱きしめ幸せそうに眠る姿は、彼女の……所謂脳内フォルダに“秘蔵”のタグ付きで保存されている。

 振り払えば離れられたろうが、それを選ばなかったのは自分。そのまま微睡みに身を任せたのも自分。

 そのせいで居た堪れない朝を迎え、色々あって、今に至った。

 

「あぁ……腰痛い」

 

 逃げた先へとついてきたミスティも、共にこの教会を清掃している。

 そう、逃げた。逃げたのだ。

 いつかは戻らねばならない。

 

(どう、戻れば……)

 

 時間が解決してくれそうだが、その時間が全く足りない。

 考えながら、教会の床掃除に専念し続けていると……不意に、頭上に気配がした。

 

「──もし、そこな少女」

 

 見れば年の若い女の子が、此方を見下ろしている。

 紫の髪と服。ドレスは、この辺りには似つかわしくない装いだ。

 

「す、すいません、気づかずに。教会のご利用でしょうか?」

「ああ、違う違う。妙な魂の者が居ると、気になって此処へ来ただけよ」

 

 どことなく古めかしい言葉遣い。

 自分と半分同じ長命種かと思ったが、そうでもなさそうな。

 しかも、魂とは。

 

「えーっと、ごめんなさいねおチビちゃん。私たちはこの教会の人じゃなくてね?」

「だから違うと言っておろう! それにチビとはなんだチビとは! <超級エンブリオ>になっても伸びなかった背への当てつけか!?」

「は?」

 

 <超級エンブリオ>。<超級>。

 この少女はそれを自称した。

 ミスティが思い至ったように口を開く。

 

「……人型の<エンブリオ>、ってことはメイデン?」

「そう!」

「んで<マスター>と逸れて、迷子になっちゃった?」

「ちがーうっ! 幼子扱いするでないわ!」

 

 コホンと咳払いをする少女は、大人ぶっているようにしか見えない。

 しかし全てが事実なのだろう。アレクシアの持つ《真偽判定》は、一切が反応をしなかった。

 

「妾はペルセポネ。メイデンにして、“冥王”ベネトナシュの<エンブリオ>だ」

 

 ◆

 

 空いていた椅子に座る。

 立っているよりはマシだが、如何せん頼りないのは仕方ないだろう。

 管理を務める教導師が、酒を飲みに何処かへ消えたのだ。所変われば信心の強さも変わる、ということだろうか。

 

「さて、と」

 

 ペルセポネが声を上げた。

 

「其方がアレクシア、で良いか?」

「は、はい」

「ふむ……聞いていた通り、ティアンらしいの」

「聞いてた? 誰から?」

「旦那様から。このアレクシアのパートナー……タカキだったか? それに用があると、汚い親父に頼み込んでな。それで色々聞いておる」

「じゃあ商談の相手って、もしかして……」

「そうじゃな、其方らの予想通り、旦那様じゃ」

 

 マルクスの用意した今回のサプライズはこうだったらしい。

 楽しい人ではあるし、命を救ってくれた恩もあるものの、如何せんどうなのかと思ってしまう。

 

「まあ、無駄骨だったようだがな……」

 

 しかも、相手の期待には添えなかったらしい。

 本当にどうなんだろうか。もっと事前に伝えてくれれば、出来ることもあっただろうに。

 憤るも、それをぶつける相手は此処に居なかった。

 

「妾としてはそんな徒労でしかない寄り道ではなく、本命に集中して欲しいのだが……上手くいかんものでの」

「はは、大変なのね」

「そうだ。大変なのだ、全くもう!」

 

 怒る彼女の威圧感は、この前感じたそれとは比べ物にならないほど低い。寧ろ無い。

 単純な力といった強さでは、恐らく無いのだろうとあたりが付いた。

 例えば、己に力を与えるタカキのような……とまで考えて、頭を振る。今は一旦頭に浮かべたくないのだ。

 

「……なん、何だ。急に慌てふためいて」

「すいません、何でもありません……」

「もしかして、タカキさんのこと考えてた?」

「タッ! なっ!? ん゛っ……い、いいえぇ?」

「図星かの。ついでに顔が愉快なことになっておる」

 

 何故この人は、こんなにも人の心を読めるのだろうか。

 何なら朝もそうだった。“もしかして一緒に寝たかっただけじゃ……”だなんて、見透かしたようなことを宣っている。

 そして実際事実なのでぐうの音も出ない。

 

「タカキ……ああ、それをアレクシアは好いておるのだな?」

「ちっ……がっ、わないですけどっ!」

「なら、早く決めよ。添い遂げるか、諦めるか」

「ちょっ、そこまで言う? 早すぎじゃ──」

「寧ろ遅い。<マスター>とはいえ、死ぬ時は死ぬ」

「…………え?」

 

 思考が止まる。

 真面目な顔をしたペルセポネは、冗談を言っている雰囲気ではない。

 

 不死の存在である<マスター>が、死ぬ?

 <マスター>が、タカキが──。

 

「……ああ、なんと言えばよいか……こちら側で死のうとも<マスター>が蘇るのは、本当の魂があちら側にあるからだ。あちらの世界で害され、死ねば……それで終わる。あちらの世界に行ったきり、決して戻ってこなくなる」

「……ほんとう、なんです、か……?」

「まあ……そうね」

 

 助けを求めたミスティへの視線は、そのまま首肯で潰された。

 

「そん、な……」

 

 死。終わり。

 幾らでも時間はあると思っていた自分を恥じる。

 ぬるま湯に浸り、心地よさから抜け出せない自分に憤る。

 何処か遠い世界へ、届かない場所で、助けられずに死んでしまうことを悲しむ。

 いつか、暗い何処か夢の中へ、タカキの終わりと共に幽閉されることを、共に終われることを──。

 

「──全く、まだ死んでも居らんだろうに。恐れるなら早く決めよ」

「っ!」

「妾は、とっくに割り切ったからの」

 

 そう言ったペルセポネの顔は、諦めていた。

 いや、何処か遠くに、諦観と共に何かを置いてきたような……。

 

 それが何かは、アレクシアには分からない。

 分かりたくない、とも思う。

 ただきっと、目の前の彼女は──

 

(──つよい、ひとだなぁ……)

 

 今の自分よりも、きっと、よっぽど強いのだ。

 

 ◆

 

「ペルセポネ」

「おお! 旦那様か!」

 

 教会の入り口に、見知らぬ青年が現れる。

 その後には見知った顔ぶれが続き、ああ、あれが件の“冥王”かと合点が行った。

 

「用事は終わったな!? さぁ、早く行くぞ!」

「落ち着いて。街を出るのは、まだ先だよ」

 

 ペルセポネの輝く瞳が告げている。

 目の前の男のことが、大好きだと。

 ……だからこそ、彼女は諦められたのだろう。

 

(私は……)

 

 どうするべき、なのだろうか。

 

 

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