UA2000、お気に入り30件突破ですってよ
ありがとうございますほんとにね
──少し、外して頂けますか。
そう言われたシエンさんは、凄まじくデジャヴであった。
まあ今回は灰流さんも居るので、まあ、どうにかしてくれ。
現在地は相も変わらぬ共同墓地。
痩せぎすな青年……“冥王”さんは、何を考えているのかわからない。ただ……ちょっとばかりいい人そうには見える。
あの【女教皇】に比べて、威圧感が少ないからだろうか。
「……申し訳ありません。長旅でお疲れでしょうに、立ち話とは」
「いえいえ、大丈夫です。それよりも……僕に会いたかったと言うのは、一体?」
「ああ、そうですね。本題に入りましょう」
こちらへ向き直り、軽く咳が一つ。
「貴方は、ティアンを不死とする術を持っていると、聞き及びました」
「……なるごど、その事ですか」
間違いなく、《プロテクト》の事だ。
しかしあれは……。
「申し訳無いですが、それには少し誤謬がありまして」
「……はい?」
「僕も、詳しく理解している訳では無いのですが──」
この前【女教皇】の<エンブリオ>……カグヤさんから聞いた説明を、一言一句繰り返す。
曰く、彼女には僕の一部、厳密には<エンブリオ>が含まれる。
そのおかげで、プレイヤーと同等の保護と、再生効果を得られている。
「なる、ほど……」
それを伝え切ると、腕を組み、顎に手を当て、何事かを考え込む“冥王”さん。
やがて考えが纏ったのか、視線が再びこちらへ向けられる。
「お役に立てましたかね?」
「はい。欲していた知識ではありませんでしたが……別の推論には役立ちました」
「それは……」
役に立ってんのかそれ。
「……まあ、良かったです」
「はい。それでは、最後に一つ、質問をして良いですか?」
「構いませんが」
「貴方は、蘇りについて、どう考えますか?」
……まーた難しい問いを投げてきたものだ。
この世界には蘇生呪文もあるし、<マスター>についてはそれ無しですら蘇る。
命が軽い者と、重い者とが生きている。
その上でのこの問い、果たしてどう答えるべきか……。
「軽々しく行うべきでは無い、と思います」
「……そう、ですか──」
「ただ」
……シアさんのことを考える。
逃げ延び、殺されかけ、そして無限に近い生を、他ならぬ僕が与えてしまった存在。
とてつもない悲劇に見舞われ、それを乗り越え、生きる人。
「もしも不幸に見舞われて、理不尽に見舞われて、散った命があるならば」
「……もう一度、チャンスがあってもいいのではないか、と思います」
私利のためとはいえ、チャンスを与えた側だからな。
そこだけは否定出来ないし、譲れない。
「──なるほど」
僕の答えに、“冥王”さんは少し笑った。
「貴方とは、仲良く出来そうです」
「……そうですか」
まあ、何かがお気に召したらしい。
「連絡先は、要りますか?」
「……では頂きます」
◆
■
(どうしよう)
体のいい口実で逃げ出し、今現在は教会の清掃へ勤しむアレクシアの心中は、そればかりで埋まっていた。
彼女にとって、タカキ・ソウという存在は掛け替えのないものだ。
命を助けてくれた。そして力を与え、背中を押してくれて、隣で戦ってくれる。
我ながらちょろい、と自嘲するも、やられたことを考えれば十分だとも思っていた。
しかも顔が良い。
美醜で言えば間違いなく美であり、彼が醜であれば何処かで折れていた自信がある。
自分でも最悪だとは思っていたが、それでも……それこそ、物語から出てきた王子様のようで。
鯖を読み2分の1以下とした年齢を考えると痛々しくも思うが、それでも……まあ、“ときめいて”いた。
尚、年齢はこの前バレた。
彼女は泣いた。
……閑話休題。
(どうしよう)
昨晩のことを思い出す。
いつもは冷静で、たまにこちらがおかしなことをすると、しっかり反応してくれる。
そんな姿しか見ていなかったものだから、あんなに楽しそうに笑う姿は初めて見た。
──あぁ、きれいなひとだ。
あんなに熱っぽい視線も、初めて見た。
その後はほぼ覚えていない。気が付けば同衾していて、気づいたら彼は寝ていた。
こちらを抱きしめ幸せそうに眠る姿は、彼女の……所謂脳内フォルダに“秘蔵”のタグ付きで保存されている。
振り払えば離れられたろうが、それを選ばなかったのは自分。そのまま微睡みに身を任せたのも自分。
そのせいで居た堪れない朝を迎え、色々あって、今に至った。
「あぁ……腰痛い」
逃げた先へとついてきたミスティも、共にこの教会を清掃している。
そう、逃げた。逃げたのだ。
いつかは戻らねばならない。
(どう、戻れば……)
時間が解決してくれそうだが、その時間が全く足りない。
考えながら、教会の床掃除に専念し続けていると……不意に、頭上に気配がした。
「──もし、そこな少女」
見れば年の若い女の子が、此方を見下ろしている。
紫の髪と服。ドレスは、この辺りには似つかわしくない装いだ。
「す、すいません、気づかずに。教会のご利用でしょうか?」
「ああ、違う違う。妙な魂の者が居ると、気になって此処へ来ただけよ」
どことなく古めかしい言葉遣い。
自分と半分同じ長命種かと思ったが、そうでもなさそうな。
しかも、魂とは。
「えーっと、ごめんなさいねおチビちゃん。私たちはこの教会の人じゃなくてね?」
「だから違うと言っておろう! それにチビとはなんだチビとは! <超級エンブリオ>になっても伸びなかった背への当てつけか!?」
「は?」
<超級エンブリオ>。<超級>。
この少女はそれを自称した。
ミスティが思い至ったように口を開く。
「……人型の<エンブリオ>、ってことはメイデン?」
「そう!」
「んで<マスター>と逸れて、迷子になっちゃった?」
「ちがーうっ! 幼子扱いするでないわ!」
コホンと咳払いをする少女は、大人ぶっているようにしか見えない。
しかし全てが事実なのだろう。アレクシアの持つ《真偽判定》は、一切が反応をしなかった。
「妾はペルセポネ。メイデンにして、“冥王”ベネトナシュの<エンブリオ>だ」
◆
空いていた椅子に座る。
立っているよりはマシだが、如何せん頼りないのは仕方ないだろう。
管理を務める教導師が、酒を飲みに何処かへ消えたのだ。所変われば信心の強さも変わる、ということだろうか。
「さて、と」
ペルセポネが声を上げた。
「其方がアレクシア、で良いか?」
「は、はい」
「ふむ……聞いていた通り、ティアンらしいの」
「聞いてた? 誰から?」
「旦那様から。このアレクシアのパートナー……タカキだったか? それに用があると、汚い親父に頼み込んでな。それで色々聞いておる」
「じゃあ商談の相手って、もしかして……」
「そうじゃな、其方らの予想通り、旦那様じゃ」
マルクスの用意した今回のサプライズはこうだったらしい。
楽しい人ではあるし、命を救ってくれた恩もあるものの、如何せんどうなのかと思ってしまう。
「まあ、無駄骨だったようだがな……」
しかも、相手の期待には添えなかったらしい。
本当にどうなんだろうか。もっと事前に伝えてくれれば、出来ることもあっただろうに。
憤るも、それをぶつける相手は此処に居なかった。
「妾としてはそんな徒労でしかない寄り道ではなく、本命に集中して欲しいのだが……上手くいかんものでの」
「はは、大変なのね」
「そうだ。大変なのだ、全くもう!」
怒る彼女の威圧感は、この前感じたそれとは比べ物にならないほど低い。寧ろ無い。
単純な力といった強さでは、恐らく無いのだろうとあたりが付いた。
例えば、己に力を与えるタカキのような……とまで考えて、頭を振る。今は一旦頭に浮かべたくないのだ。
「……なん、何だ。急に慌てふためいて」
「すいません、何でもありません……」
「もしかして、タカキさんのこと考えてた?」
「タッ! なっ!? ん゛っ……い、いいえぇ?」
「図星かの。ついでに顔が愉快なことになっておる」
何故この人は、こんなにも人の心を読めるのだろうか。
何なら朝もそうだった。“もしかして一緒に寝たかっただけじゃ……”だなんて、見透かしたようなことを宣っている。
そして実際事実なのでぐうの音も出ない。
「タカキ……ああ、それをアレクシアは好いておるのだな?」
「ちっ……がっ、わないですけどっ!」
「なら、早く決めよ。添い遂げるか、諦めるか」
「ちょっ、そこまで言う? 早すぎじゃ──」
「寧ろ遅い。<マスター>とはいえ、死ぬ時は死ぬ」
「…………え?」
思考が止まる。
真面目な顔をしたペルセポネは、冗談を言っている雰囲気ではない。
不死の存在である<マスター>が、死ぬ?
<マスター>が、タカキが──。
「……ああ、なんと言えばよいか……こちら側で死のうとも<マスター>が蘇るのは、本当の魂があちら側にあるからだ。あちらの世界で害され、死ねば……それで終わる。あちらの世界に行ったきり、決して戻ってこなくなる」
「……ほんとう、なんです、か……?」
「まあ……そうね」
助けを求めたミスティへの視線は、そのまま首肯で潰された。
「そん、な……」
死。終わり。
幾らでも時間はあると思っていた自分を恥じる。
ぬるま湯に浸り、心地よさから抜け出せない自分に憤る。
何処か遠い世界へ、届かない場所で、助けられずに死んでしまうことを悲しむ。
いつか、暗い何処か夢の中へ、タカキの終わりと共に幽閉されることを、共に終われることを──。
「──全く、まだ死んでも居らんだろうに。恐れるなら早く決めよ」
「っ!」
「妾は、とっくに割り切ったからの」
そう言ったペルセポネの顔は、諦めていた。
いや、何処か遠くに、諦観と共に何かを置いてきたような……。
それが何かは、アレクシアには分からない。
分かりたくない、とも思う。
ただきっと、目の前の彼女は──
(──つよい、ひとだなぁ……)
今の自分よりも、きっと、よっぽど強いのだ。
◆
「ペルセポネ」
「おお! 旦那様か!」
教会の入り口に、見知らぬ青年が現れる。
その後には見知った顔ぶれが続き、ああ、あれが件の“冥王”かと合点が行った。
「用事は終わったな!? さぁ、早く行くぞ!」
「落ち着いて。街を出るのは、まだ先だよ」
ペルセポネの輝く瞳が告げている。
目の前の男のことが、大好きだと。
……だからこそ、彼女は諦められたのだろう。
(私は……)
どうするべき、なのだろうか。