終わってみれば、商談というか相談、だったような……気がする。
まあ兎に角物品は渡したし、代金も受け取った。
後は帰るだけ……だが、その前に。
「これで……はい。【僧侶】になれました」
「おめでと!」
「お、おめでとうございますー」
「おお、良かったな」
「おめでとうございます」
主目的であった【僧侶】への転職も、これにて完了。
尚、ついでに僕も【記者】へと転職した。
動体視力が上がるスキルがあるので、色々見逃さずに済むだろう。
「んじゃ、どうする? この辺りで少しファーミングでもするか?」
「それが……まあ、丸いんじゃ無いですかね。まあ浄化に秀でてるんで普通にそのまま<墓標迷宮>でー、とかでも良いとは思いますけど」
「私もそっちのがいいと思うな。シアちゃんはどうしたい?」
「少ないとは言え、教会でのお仕事を開けているので……」
「あーそっかぁ。じゃ、帰りましょうか」
……あれ、僕の意見は?
なんて、少しの寂しさを感じていると。
「んじゃあ、タカキさん!」
ミスティさんの手が、両肩に置かれた。
「お酒、飲まないでね?」
「飲みませんよ」
「本当に止めてくれよー」
「飲みませんって」
「ホントですかぁ? ──痛ってぇ!?」
拳は正義。
◆
まあ、とは言え行きとやることが変わるわけでもない。
酒以外は何も変わらず、定期的に快適末うエネミーを倒してもらい、その補助に回る。
その間も心構えを怠らない事が大切だ。
いつ、どのタイミングで、何が来るか、判ったものじゃない。
何が起きても可怪しくはないだろう、そう思うべきなのだ。
「考えすぎじゃねぇのか?」
「考え過ぎて困ることはありません」
そうかねぇ、と首を傾げる灰流さん。
あいつの事はよく知っているし、友人だとも思っている。
これはその上での、ある種の“信頼”なのだ。
「驚く顔が見てぇ、ってハナシなら、見えねぇ所でそんな大掛かりなことするかね?」
「全てが終わった後で、苦々しい顔をしている僕を見てゲラゲラ笑ってる事も、儘あります」
「……割と、何でも良いんだな……」
それはそうだと思う。
「やっぱ、何で友達やれてるんですか?」
「話の種になるもので」
「話のたn、あぁ、小説……」
「はぁ? あれ全部実体験なのか!?」
「実体験に勝る経験はありませんから」
何言ってんだこいつ……みたいに引かないで欲しい。シエンさんも灰流さんも。
自分が異常者みたいに思えて……まあ、異常者か。客観視出来ない程では流石にない。
「はーい、終わったわよ」
「おう、おっかれさん」
「お疲れ様でーす」
「ありがとうございます」
モンスターへの対処を終えたミスティさんが戻って来た。
……シアさんも一緒に行っていた筈だが、姿は見えない。
「ありゃ、嬢ちゃんは?」
「外の空気吸いたい、ってまだ残ってるよ」
「……戻るの気まずいだけなんじゃ──あでっ!」
「皆まで言わんでよろしい」
薄々気づき始めているが、シエンさんはコミュ強なんじゃなくてデリカシーが薄いだけなのか?
……いや、他はともかく今のはわざとかも知れない。
こちらを見る目が“行ってあげれば?”みたいに言っている。
2人になれるタイミングは今。
そこで、ちゃんとした謝罪をするべきだろう。
「……僕も、少し外で頭を冷やします」
「えっ、ちょっと──」
「まーまー、冷やすだけですもんね?」
「はい。では」
心配そうなミスティさんを抑え、こちらに笑顔を向けるシエンさん。
それを見て何かを察したらしい灰流さんも、頑張れよとの言葉をくれた。
……やっぱりあの人、コミュ強やもしれん。
まあ、デリカシーが無いということは、それはそれで美点たることもある。
他人の言えない正しいことを、空気を読めず、或いは読まずに、そのまま口に出せる。
彼は恐らく後者であろう。
……いや、偶に前者でもある、か。
◆
柵と結界に覆われたデッキの下、シアさんは聞いた通りにそこに居た。
日の暮れた外は、昼間の熱気が少し残るが肌寒く、これからどんどんと冷えるだろう事を報せている。
「隣、良いですか?」
「……タカキさ……は、はい……」
こちらを見て驚いたような顔を見せるのは、やはり今朝の諸々が原因であろう。
隣に腰掛け視線を同じくすれば、満天の星空が映る。なるほど、気晴らしには丁度いい筈だ。
……掘り返すべきでは無いのだろうが、謝るにはそれ以外に無い。
意を決して、口を開く。
「今朝は……というか、昨晩からの全ては、僕の責任です」
「……い、いえいえ、私も、ちょっとは、悪いことをしたので……」
「そうですかね」
「そうなんですっ」
何処か恥ずかしげな声と、そっぽを向く仕草。
確かに、STRは彼女のほうが高い。こちらは超級職ではあるものの、ステータスはAGI偏重、かつ2分の1となる【ヘファイストス】の補正や、60%減のデメリットもある。
一方で、《パワープレイ》で8万近いMPをステータスに変換している彼女。前衛系上級職までにも就き、僕の装備補正まで付いてくる。
……どちらが高いかは比べるべくもないだろう。
それを以て振り払わなかった事が、何を意味するか。その位は判る。
……それと、向き合うべきか、否か。
確かにゲームだ。この世界は、僕らにはゲームでしかない。
しかし、ここに確かに息づく人々は、この世界が全てなのだ。文字通りに、全て。
そんな人々と、向き合わずにいて、良いのだろうか?
否で良い理由が、あるだろうか?
……答えはとっくに出ている。
「…………シアさん」
「……はい」
「少し不躾な物言いになりますが、ご容赦下さい」
「なん……で、しょうか」
「貴女が僕を……恐らく好いている事は──」
「──ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ってください!?」
「はい」
……拙い、違ったか?
「そう、です、よね……バレてます、よねぇ……」
合ってた。
ああ良かった。良かったっ!!
これで違ったら痛過ぎた! 怖かった!
しかし顔は熱いぞ!? 今結構寒い筈なのに全然それを感じない!!
凄いな血管って。血流って。
「続き、宜しいですか?」
「……はい、大丈夫です」
「……ええと、まあ、好いているのは、察しています」
「…………はい」
「ですが」
「っ」
息を呑む音。
「ですが……僕は、それに応える資格がありません」
「…………そ、そんなこと」
「あるんです」
……残念ながら。
「僕ら<マスター>が、あちらの世界と呼ぶ場所では……こちらと同じように、生活が営まれています」
「……ペルセポネ様から、そのようなことをお聞きしました」
「そうでしたか」
「あちらで死ねば、こちらに、二度と戻れなくなると」
「……その通りです。あちらで生き、活動し、その末に死ねば、例え不死の<マスター>であろうとも終わります」
沈黙。
風を切るかすかな音だけが、耳に残る。
「故に、大半の<マスター>はあちらを軸としていて、本筋としていて……こちらを娯楽や、息抜きと考えている事が殆どです」
「……タカキ様は?」
「その……恥ずかしながら、その殆どと、思考を同じくしています」
「…………そう、ですか」
「だから──」
隣を向き、肩に手を置く。
今にも泣き出しそうなその顔が、目に入る。
「──だから、この世界を、僕が軸と出来たなら」
「この世界で、貴女と共に生きようと、心の底から思えたら」
「その時に……僕の方から、貴女に、貴女の想いに、応えさせて下さい」
答えを、僕は先送りにしてしまった。
きっと来ることのない、その日まで。
……それを、彼女もわかっていたのだろうか。
はらりと、目の端から、涙が溢れる。
「何時までも、待っています」
「……ごめんなさい」
「いいえ……良いんです。良いん、です……っ」
抱き寄せる。その資格はないが、そうするべきだと考えた。
胸の中で震える彼女を、僕は──
「キャッ♡(*ノェノ) 青春見ちゃった♡(*´艸`*)」
──は、あ?