系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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9:さきおくり

 終わってみれば、商談というか相談、だったような……気がする。

 まあ兎に角物品は渡したし、代金も受け取った。

 後は帰るだけ……だが、その前に。

 

「これで……はい。【僧侶】になれました」

「おめでと!」

「お、おめでとうございますー」

「おお、良かったな」

「おめでとうございます」

 

 主目的であった【僧侶】への転職も、これにて完了。

 尚、ついでに僕も【記者】へと転職した。 

 動体視力が上がるスキルがあるので、色々見逃さずに済むだろう。

 

「んじゃ、どうする? この辺りで少しファーミングでもするか?」

「それが……まあ、丸いんじゃ無いですかね。まあ浄化に秀でてるんで普通にそのまま<墓標迷宮>でー、とかでも良いとは思いますけど」

「私もそっちのがいいと思うな。シアちゃんはどうしたい?」

「少ないとは言え、教会でのお仕事を開けているので……」

「あーそっかぁ。じゃ、帰りましょうか」

 

 ……あれ、僕の意見は?

 なんて、少しの寂しさを感じていると。

 

「んじゃあ、タカキさん!」

 

 ミスティさんの手が、両肩に置かれた。

 

「お酒、飲まないでね?」

「飲みませんよ」

「本当に止めてくれよー」

「飲みませんって」

「ホントですかぁ? ──痛ってぇ!?」

 

 拳は正義。

 

 ◆

 

 まあ、とは言え行きとやることが変わるわけでもない。

 酒以外は何も変わらず、定期的に快適末うエネミーを倒してもらい、その補助に回る。

 その間も心構えを怠らない事が大切だ。

 いつ、どのタイミングで、何が来るか、判ったものじゃない。

 何が起きても可怪しくはないだろう、そう思うべきなのだ。

 

「考えすぎじゃねぇのか?」

「考え過ぎて困ることはありません」

 

 そうかねぇ、と首を傾げる灰流さん。

 あいつの事はよく知っているし、友人だとも思っている。

 これはその上での、ある種の“信頼”なのだ。

 

「驚く顔が見てぇ、ってハナシなら、見えねぇ所でそんな大掛かりなことするかね?」

「全てが終わった後で、苦々しい顔をしている僕を見てゲラゲラ笑ってる事も、儘あります」

「……割と、何でも良いんだな……」

 

 それはそうだと思う。

 

「やっぱ、何で友達やれてるんですか?」

「話の種になるもので」

「話のたn、あぁ、小説……」

「はぁ? あれ全部実体験なのか!?」

「実体験に勝る経験はありませんから」

 

 何言ってんだこいつ……みたいに引かないで欲しい。シエンさんも灰流さんも。

 自分が異常者みたいに思えて……まあ、異常者か。客観視出来ない程では流石にない。

 

「はーい、終わったわよ」

「おう、おっかれさん」

「お疲れ様でーす」

「ありがとうございます」

 

 モンスターへの対処を終えたミスティさんが戻って来た。

 ……シアさんも一緒に行っていた筈だが、姿は見えない。

 

「ありゃ、嬢ちゃんは?」

「外の空気吸いたい、ってまだ残ってるよ」

「……戻るの気まずいだけなんじゃ──あでっ!」

「皆まで言わんでよろしい」

 

 薄々気づき始めているが、シエンさんはコミュ強なんじゃなくてデリカシーが薄いだけなのか?

 ……いや、他はともかく今のはわざとかも知れない。

 こちらを見る目が“行ってあげれば?”みたいに言っている。

 

 2人になれるタイミングは今。

 そこで、ちゃんとした謝罪をするべきだろう。

 

「……僕も、少し外で頭を冷やします」

「えっ、ちょっと──」

「まーまー、冷やすだけですもんね?」

「はい。では」

 

 心配そうなミスティさんを抑え、こちらに笑顔を向けるシエンさん。

 それを見て何かを察したらしい灰流さんも、頑張れよとの言葉をくれた。

 ……やっぱりあの人、コミュ強やもしれん。

 

 まあ、デリカシーが無いということは、それはそれで美点たることもある。

 他人の言えない正しいことを、空気を読めず、或いは読まずに、そのまま口に出せる。

 彼は恐らく後者であろう。

 ……いや、偶に前者でもある、か。

 

 ◆

 

 柵と結界に覆われたデッキの下、シアさんは聞いた通りにそこに居た。

 日の暮れた外は、昼間の熱気が少し残るが肌寒く、これからどんどんと冷えるだろう事を報せている。

 

「隣、良いですか?」

「……タカキさ……は、はい……」

 

 こちらを見て驚いたような顔を見せるのは、やはり今朝の諸々が原因であろう。

 隣に腰掛け視線を同じくすれば、満天の星空が映る。なるほど、気晴らしには丁度いい筈だ。

 

 ……掘り返すべきでは無いのだろうが、謝るにはそれ以外に無い。

 意を決して、口を開く。

 

「今朝は……というか、昨晩からの全ては、僕の責任です」

「……い、いえいえ、私も、ちょっとは、悪いことをしたので……」

「そうですかね」

「そうなんですっ」

 

 何処か恥ずかしげな声と、そっぽを向く仕草。

 

 確かに、STRは彼女のほうが高い。こちらは超級職ではあるものの、ステータスはAGI偏重、かつ2分の1となる【ヘファイストス】の補正や、60%減のデメリットもある。

 一方で、《パワープレイ》で8万近いMPをステータスに変換している彼女。前衛系上級職までにも就き、僕の装備補正まで付いてくる。

 ……どちらが高いかは比べるべくもないだろう。

 

 それを以て振り払わなかった事が、何を意味するか。その位は判る。

 ……それと、向き合うべきか、否か。

 

 確かにゲームだ。この世界は、僕らにはゲームでしかない。

 しかし、ここに確かに息づく人々は、この世界が全てなのだ。文字通りに、全て。

 そんな人々と、向き合わずにいて、良いのだろうか?

 

 否で良い理由が、あるだろうか?

 

 ……答えはとっくに出ている。

 

「…………シアさん」

「……はい」

「少し不躾な物言いになりますが、ご容赦下さい」

「なん……で、しょうか」

「貴女が僕を……恐らく好いている事は──」

「──ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ってください!?」

「はい」

 

 ……拙い、違ったか?

 

「そう、です、よね……バレてます、よねぇ……」

 

 合ってた。

 ああ良かった。良かったっ!!

 これで違ったら痛過ぎた! 怖かった!

 しかし顔は熱いぞ!? 今結構寒い筈なのに全然それを感じない!!

 凄いな血管って。血流って。

 

「続き、宜しいですか?」

「……はい、大丈夫です」

「……ええと、まあ、好いているのは、察しています」

「…………はい」

「ですが」

「っ」

 

 息を呑む音。

 

「ですが……僕は、それに応える資格がありません」

「…………そ、そんなこと」

「あるんです」

 

 ……残念ながら。

 

「僕ら<マスター>が、あちらの世界と呼ぶ場所では……こちらと同じように、生活が営まれています」

「……ペルセポネ様から、そのようなことをお聞きしました」

「そうでしたか」

「あちらで死ねば、こちらに、二度と戻れなくなると」

「……その通りです。あちらで生き、活動し、その末に死ねば、例え不死の<マスター>であろうとも終わります」

 

 沈黙。

 風を切るかすかな音だけが、耳に残る。

 

「故に、大半の<マスター>はあちらを軸としていて、本筋としていて……こちらを娯楽や、息抜きと考えている事が殆どです」

「……タカキ様は?」

「その……恥ずかしながら、その殆どと、思考を同じくしています」

「…………そう、ですか」

「だから──」

 

 隣を向き、肩に手を置く。

 今にも泣き出しそうなその顔が、目に入る。

 

「──だから、この世界を、僕が軸と出来たなら」

 

「この世界で、貴女と共に生きようと、心の底から思えたら」

 

「その時に……僕の方から、貴女に、貴女の想いに、応えさせて下さい」

 

 答えを、僕は先送りにしてしまった。

 きっと来ることのない、その日まで。

 ……それを、彼女もわかっていたのだろうか。

 はらりと、目の端から、涙が溢れる。

 

「何時までも、待っています」

「……ごめんなさい」

「いいえ……良いんです。良いん、です……っ」

 

 抱き寄せる。その資格はないが、そうするべきだと考えた。

 胸の中で震える彼女を、僕は──

 

「キャッ♡(*ノェノ) 青春見ちゃった♡(*´艸`*)」

 

 ──は、あ?

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