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立ち昇る砂煙が晴れる。
がしゃんと音を立てて落ちたのは彼の義腕だ。
その直後に光の塵となり、消えた。
「……やっ……てて、くれないと、困るんだけど……」
そして、未だに向けられる殺気は。
「──すごいね」
未だ生きている、<超級>のもの。
達成感と諦観。やりきったとも、しくじったとも。
若干の瑕疵が残る相手は、素直な称賛の目を、こちらへ向けていた。
「【ブローチ】がやられるとは思わなかったな。名前、教えて? 覚えるから」
その耐久力に【救命のブローチ】は反則だと思うが、これは別に公平な試合ではない。
命の取り合いで、どうあがいても負けは確定した。
「シエンと、申します」
「シエン。覚えたよ。ぼくはケージ」
「知ってます。“
「有名だからね(*^^*)」
どんな意図で
しかし碌なものじゃあないのだろう。多分。
「じゃあ──」
刃と化した爪が、横薙ぎに振るわれる。
「──ばいばい」
(……悔しいなぁ、クソッ)
後悔もその辺に、しかし時間稼ぎは出来た。
街には“冥王”がいる以上、どうにか身の安全は確保出来た筈。
首から血を噴き出し、そのまま意識が遠のく。
最期にC&が感じたのは、確かな満足感と──
「──はあああああああああああああっ!」
(……はぁ!?)
──此処に来てはいけない、逃がした筈の相手への、困惑だった。
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◆
爆発の際に受けた【呪詛】──呪怨系状態異常であり、他の状態異常の効果を引き上げる──のせいでログアウトによる即移動が出来ず、全速力での移動を敢行する、その最中。
後方で時折聞こえる爆音は、一体どちらのものなのか。
解らないが一先ずは急ぐのみ……で、あったのだが。
『……シア、さん?』
シアさんがふと立ち止まり、握った僕を見つめる。
「私は……私は、理不尽に立ち向かう為に、貴方と共にあるつもりです」
それは、知っている。
そしてその時点で……何を考えたのかも判った。
『無茶です。受け取った代金も手元にある以上、リスクが高過ぎる。“冥王”に助力を──』
「──それじゃあダメなんです」
正気の沙汰とは思えないが、その目は本気だ。
しかしそれを選べば、シエンさんの努力は無に帰る。その上確実性も著しく低い。
「私は、私の夢と、ちゃんと向き合うべきなんです」
しかし。
自分の中の奥底で、心が嘯く。
「貴方が、私と向き合おうと、してくれたように」
“これを見たくて、ここに来たんだろう?”と。
理解する。
己の心に。
……ああ。
そうか。
色々合点が行った。
「だって──貴方が、大好きだから」
……これじゃあ、いつまで経っても、この娘の気持ちには応えられそうにない。
「大好きな貴方と、夢を叶えたいから」
先送りした甲斐がある、というものか?
……最悪だな。
「何処まで行けるか、試させて下さい」
『……解りました』
自己嫌悪と好奇と、あと歓喜か。
その辺りを混ぜ合わせて、吐瀉物とともに煮沸した気分だ。
こんなにも高潔なひとの前で、自己の欲求を満たせることに喜びを抱き、それを嫌悪する。
根本的にはあいつに付き合う心と同じもの。それでいて似て非なる純粋な私利私欲。
なるほど、確かにこれは違う。
<エンブリオ>はその人の望みを叶えるものだ。
対して僕は、人に願いを押し付けている。
それがたまたま、彼女の望みと一致しただけだ。
それが僕だ。
僕の、【ヘファイストス】だ。
──理解したところで……あなたたちなら、あまり関係ないだろうし。
何処がだよ。メンタル結構キてんだが。
『では、《再鍛》を使いましょう』
「いいんですか?」
『こういう時の為のものですから、惜しみなく』
全く何が惜しみなくだ。嘲笑えるが、笑えない。
「……わかりました、では──《再鍛》」
宣言と共に、書き換わる感覚。
組み変わり、模り、
クソ野郎が変わった所で、クソ以外には成れっこないのに。
「……槍、ですか、ね?」
しかしどうやら生まれ変われたようだ。
それは槍と断言できない、異形の槍であるらしい。
増えただろうスキルを見れば……なるほど、ある意味では丁度良いらしい。
恐らく刃でなく別の……回転槍か何かが付いているのだろう。“駆動する攻撃部位”の減少についての言及がされている。
しかし、グラインダーと同等かそれ以上の可能性を秘めていることは明白だった。
理不尽に突っ込み、そのままぶち抜く力。
それがこの“チャージャー”だ。
「少し、作戦を練ります」
『解りました』
◆
「……よし」
僕を腰だめに構えると、【ラトゥ=ノゥエ】のベルトで、体をガッチリと固定する。
《拘縛の帯紐》
ベルトを伸長させ、対象へ巻き付ける。
これによって【拘束】されたものは、同時に【呪縛】を受ける。
また、使用した側も同様に【呪縛】の効果を受ける。
ベルトによる【拘束】が解除されるまで、【呪縛】は継続する。
アクティブスキル
いつぞやの車両内で縛られたベルトだが、今は僕が自分の足で動くわけじゃない。デバフは十分無視出来る。
その片端を握るシアさんも同様の効果を受けるが、彼女には《聖者の行軍》があるし、元のMP量で何ならレジストできてしまう。
結局デメリット足り得ないのだ。
……しかし巻かれた輪の大きさを見るに、チャージャーのサイズは僕が思ったよりもでかいらしい。
大型バイク位はありそうだ。
「…………ふぅ」
深呼吸。
チャンスは一度きりで、一発限りの秘策。
避けられたら終わり。ただ、少し試した速度的に、避けられることはないと思う。思いたい。
「お願いしますっ!」
『はい──《エグゾースト》』
《エグゾースト》
マフラーからエネルギーの放出を行う。
消費するMPに応じて威力と反動が増大する。
アクティブスキル
おそらく穂先の反対、石突側についているのであろう気筒。
そこから、エネルギーの奔流が溢れ出すのは見える。
──瞬間、急加速。
普通であれば一瞬で終わるのであろうエネルギーの放出は、しかしチャージャーの特性によって、長く、長く続く。
《ウェポンシフト:チャージャー》
変形を行い、《エグゾースト》の発動に最適化する。
駆動する攻撃部位が減少し《フルスロットル》のヒット数が低下するが、《エグゾースト》によるエネルギーの放出時間と推力、及びそのクールダウン速度が大幅に上昇する。
アクティブスキル
目指すは遥か後方。
先程、巨大な落雷が起きたあの場所へ。
「……っ、ぐ」
壮絶な負荷に呻きが上がる。
武器である僕ですら若干堪えるのだ、生身のシアさんにとっては推して知るべし、だろう。
速度は分からない。しかし音の速さは超えていそうだ。
目が追いつけるのはひとえに【記者】のお陰だ。
いや、汎用スキルで助かった。ジョブを変えてもしっかり──
『っ!』
──見えた。
まっすぐ前方に人影。今しがた首から噴血したシエンさんと、それを成した犯罪者。
「《聖別の銀光》──」
『《フルスロットル》』
「──はあああああああああああああっ!!」
ダメ押しで火力を《聖別の銀光》で少しは伸ばし、《フルスロットル》で尖角を稼働させる。
もう何も見えないが、裂帛の気合とともに、槍の穂先は女へと吸い込まれていき──
『──《
起動させた【猛王】の最終奥義とともに、きっと炸裂したのだろう。
《暴撃》
発動中、攻撃のヒット数と反動が(AGI✕1)倍される。
ヒット毎のダメージは減衰しない。
最終奥義/アクティブスキル
今の僕のAGIは5000。
フルスロットルの秒間ヒット数は、駆動部位につき100回強。
それらを掛け合わせ……毎秒50万回の攻撃。
そこへ諸々のスキルも乗るのだから、当たりさえすれば、ダメージさえ透れば殺せる筈。
「──あああああああああっ!?((((;゚Д゚))))」
「ぐゔううううううっ……!!」
身体が軋む。グラインダーのようにAGIと装備攻撃力ではなく、武器耐久力にENDの補正、加えて装備防御力にまでに秀でたチャージャーを以てしても、反動は甚大だ。
その補正の数値には、最も高い僕のAGIを参照しているのにも関わらず、である。
でも……彼女の痛みに比べれば、どうということもない。
ぶちり、と先端で何かを引きちぎる感覚。
そのまま、急制動と共に勢いが殺される。砂地か何かに突き立ったような、そんな感触。
……光が止む。エネルギーの奔流も、穂先の駆動も止まる。
MPが切れたか、或いは相手が事切れたか。
そうして見えた彼女の姿に──血が凍った。
「……ご、ばっ、ぁ……」
『──シアさんっ!!」
僕はかなり痛手を負ったが、まだ生きていられる。チャージャーの補正や耐久度の向上もあってのことだろう。
しかし抱きとめたシアさんは、血の塊と濁流を吐き、腕が引き裂け、骨が露出し……もう助からないのは明白だった。
……己の特異性に安堵して、慄く。
僕は何度も死んだ。そして蘇った。
しかし
そして、《プロテクト》はその説明文に誤謬がある。
蘇るように書かれていた。そうだろうとも言われた。
その認識にも、誤謬があったとしたら?
“本当にティアンが生き返るのか”は、未だ誰にも分からない。
僕を含めて、誰にも。
焦りながら後方を見る。
光の塵となって消えゆく何かは、恐らく犯罪者。
追撃の心配はないが、鼓動は煩いままだ。
「……が、かぢ、まじだ……」
「喋るんじゃないっ! ポーションを──」
「も、もっだいなぃ、でず。いきかぇ、るから」
「勿体無い訳があるかっ!!」
拙い、拙い。
どうすれば──
「たが、ぎ……っさ、ま」
彼女の手が、力無く僕の頬へ触れ。
「あり、がと……ござ……ま…………」
ずるり、と、力無く垂れ下がった。
虚ろな目が、星空を反射していた。
「……シア、さ──」
【《コントラクト》対象が死亡】
【《プロテクト》効果により死亡の代行が発生】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
エンブリオになりたいという動機が
まともであるわけがない
なお、今回で発覚しタカキも理解しましたが
武器としての形態ごとの装備補正は
AGI補正ならタカキのAGI、
装備防御力であればタカキのEND
という形ではなく
“1番高い数値”“次点の数値”“3番目の数値”……etc
のそれぞれが何処かに補正をかける
いわゆるバルドルと同じ形式ですし
複数の補正を1つの値が担う場合もあります
タカキはそれと知らず
かつグラインダーの性能ありきでAGI極になりました
まあ結果オーライと言えるでしょう