系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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 ■

 

 

 立ち昇る砂煙が晴れる。

 がしゃんと音を立てて落ちたのは彼の義腕だ。

 その直後に光の塵となり、消えた。

 

「……やっ……てて、くれないと、困るんだけど……」

 

 そして、未だに向けられる殺気は。

 

「──すごいね」

 

 未だ生きている、<超級>のもの。

 達成感と諦観。やりきったとも、しくじったとも。

 若干の瑕疵が残る相手は、素直な称賛の目を、こちらへ向けていた。

 

「【ブローチ】がやられるとは思わなかったな。名前、教えて? 覚えるから」

 

 その耐久力に【救命のブローチ】は反則だと思うが、これは別に公平な試合ではない。

 命の取り合いで、どうあがいても負けは確定した。

 

「シエンと、申します」

「シエン。覚えたよ。ぼくはケージ」

「知ってます。“既死の怪物(アンデッド・デッド)”のケージ」

「有名だからね(*^^*)」

 

 どんな意図で鳥籠(ケージ)なんて名乗るのか、見当もつかない。

 しかし碌なものじゃあないのだろう。多分。

 

「じゃあ──」

 

 刃と化した爪が、横薙ぎに振るわれる。

 

「──ばいばい」

 

(……悔しいなぁ、クソッ)

 

 後悔もその辺に、しかし時間稼ぎは出来た。

 街には“冥王”がいる以上、どうにか身の安全は確保出来た筈。

 

 首から血を噴き出し、そのまま意識が遠のく。

 最期にC&が感じたのは、確かな満足感と──

 

「──はあああああああああああああっ!」

 

(……はぁ!?)

 

 ──此処に来てはいけない、逃がした筈の相手への、困惑だった。

 

 

 ■

 

 ◆

 

 爆発の際に受けた【呪詛】──呪怨系状態異常であり、他の状態異常の効果を引き上げる──のせいでログアウトによる即移動が出来ず、全速力での移動を敢行する、その最中。

 

 後方で時折聞こえる爆音は、一体どちらのものなのか。

 解らないが一先ずは急ぐのみ……で、あったのだが。

 

『……シア、さん?』

 

 シアさんがふと立ち止まり、握った僕を見つめる。

 

「私は……私は、理不尽に立ち向かう為に、貴方と共にあるつもりです」

 

 それは、知っている。

 

 そしてその時点で……何を考えたのかも判った。

 

『無茶です。受け取った代金も手元にある以上、リスクが高過ぎる。“冥王”に助力を──』

「──それじゃあダメなんです」

 

 正気の沙汰とは思えないが、その目は本気だ。

 しかしそれを選べば、シエンさんの努力は無に帰る。その上確実性も著しく低い。

 

「私は、私の夢と、ちゃんと向き合うべきなんです」

 

 しかし。

 

 自分の中の奥底で、心が嘯く。

 

「貴方が、私と向き合おうと、してくれたように」

 

 “これを見たくて、ここに来たんだろう?”と。

 

 理解する。

 己の心に。

 

 ……ああ。

 そうか。

 色々合点が行った。

 

「だって──貴方が、大好きだから」

 

 ……これじゃあ、いつまで経っても、この娘の気持ちには応えられそうにない。

 

「大好きな貴方と、夢を叶えたいから」

 

 先送りした甲斐がある、というものか?

 ……最悪だな。

 

「何処まで行けるか、試させて下さい」

『……解りました』

 

 自己嫌悪と好奇と、あと歓喜か。

 その辺りを混ぜ合わせて、吐瀉物とともに煮沸した気分だ。

 こんなにも高潔なひとの前で、自己の欲求を満たせることに喜びを抱き、それを嫌悪する。

 根本的にはあいつに付き合う心と同じもの。それでいて似て非なる純粋な私利私欲。

 

 なるほど、確かにこれは違う。

 <エンブリオ>はその人の望みを叶えるものだ。

 対して僕は、人に願いを押し付けている。

 それがたまたま、彼女の望みと一致しただけだ。

 

 ()()なんて程遠い()()

 それが僕だ。

 僕の、【ヘファイストス】だ。

 

 ──理解したところで……あなたたちなら、あまり関係ないだろうし。

 

 何処がだよ。メンタル結構キてんだが。

 

『では、《再鍛》を使いましょう』

「いいんですか?」

『こういう時の為のものですから、惜しみなく』

 

 全く何が惜しみなくだ。嘲笑えるが、笑えない。

 

「……わかりました、では──《再鍛》」

 

 宣言と共に、書き換わる感覚。

 組み変わり、模り、生まれ変わる(再誕する)

 クソ野郎が変わった所で、クソ以外には成れっこないのに。

 

「……槍、ですか、ね?」

 

 しかしどうやら生まれ変われたようだ。

 それは槍と断言できない、異形の槍であるらしい。

 

 増えただろうスキルを見れば……なるほど、ある意味では丁度良いらしい。

 恐らく刃でなく別の……回転槍か何かが付いているのだろう。“駆動する攻撃部位”の減少についての言及がされている。

 しかし、グラインダーと同等かそれ以上の可能性を秘めていることは明白だった。

 

 理不尽に突っ込み、そのままぶち抜く力。

 それがこの“チャージャー”だ。

 

「少し、作戦を練ります」

『解りました』

 

 ◆

 

「……よし」

 

 僕を腰だめに構えると、【ラトゥ=ノゥエ】のベルトで、体をガッチリと固定する。

 

 

 《拘縛の帯紐》

 ベルトを伸長させ、対象へ巻き付ける。

 これによって【拘束】されたものは、同時に【呪縛】を受ける。

 また、使用した側も同様に【呪縛】の効果を受ける。

 ベルトによる【拘束】が解除されるまで、【呪縛】は継続する。

 アクティブスキル

 

 

 いつぞやの車両内で縛られたベルトだが、今は僕が自分の足で動くわけじゃない。デバフは十分無視出来る。

 その片端を握るシアさんも同様の効果を受けるが、彼女には《聖者の行軍》があるし、元のMP量で何ならレジストできてしまう。

 結局デメリット足り得ないのだ。

 

 ……しかし巻かれた輪の大きさを見るに、チャージャーのサイズは僕が思ったよりもでかいらしい。

 大型バイク位はありそうだ。

 

「…………ふぅ」

 

 深呼吸。

 チャンスは一度きりで、一発限りの秘策。

 避けられたら終わり。ただ、少し試した速度的に、避けられることはないと思う。思いたい。

 

「お願いしますっ!」

『はい──《エグゾースト》』

 

 

 《エグゾースト》 

 マフラーからエネルギーの放出を行う。

 消費するMPに応じて威力と反動が増大する。

 アクティブスキル

 

 

 おそらく穂先の反対、石突側についているのであろう気筒。

 そこから、エネルギーの奔流が溢れ出すのは見える。

 

 ──瞬間、急加速。

 

 普通であれば一瞬で終わるのであろうエネルギーの放出は、しかしチャージャーの特性によって、長く、長く続く。

 

 

 《ウェポンシフト:チャージャー》

 変形を行い、《エグゾースト》の発動に最適化する。

 駆動する攻撃部位が減少し《フルスロットル》のヒット数が低下するが、《エグゾースト》によるエネルギーの放出時間と推力、及びそのクールダウン速度が大幅に上昇する。

 アクティブスキル

 

 

 目指すは遥か後方。

 先程、巨大な落雷が起きたあの場所へ。

 

「……っ、ぐ」

 

 壮絶な負荷に呻きが上がる。

 武器である僕ですら若干堪えるのだ、生身のシアさんにとっては推して知るべし、だろう。

 速度は分からない。しかし音の速さは超えていそうだ。

 目が追いつけるのはひとえに【記者】のお陰だ。

 いや、汎用スキルで助かった。ジョブを変えてもしっかり──

 

『っ!』

 

 ──見えた。

 

 まっすぐ前方に人影。今しがた首から噴血したシエンさんと、それを成した犯罪者。

 

「《聖別の銀光》──」

『《フルスロットル》』

「──はあああああああああああああっ!!」

 

 ダメ押しで火力を《聖別の銀光》で少しは伸ばし、《フルスロットル》で尖角を稼働させる。

 もう何も見えないが、裂帛の気合とともに、槍の穂先は女へと吸い込まれていき──

 

『──《暴撃(ランペイジ・オブ・ランペイジ)》』

 

 起動させた【猛王】の最終奥義とともに、きっと炸裂したのだろう。

 

 

 《暴撃》

 発動中、攻撃のヒット数と反動が(AGI✕1)倍される。

 ヒット毎のダメージは減衰しない。

 最終奥義/アクティブスキル

 

 

 今の僕のAGIは5000。

 フルスロットルの秒間ヒット数は、駆動部位につき100回強。

 それらを掛け合わせ……毎秒50万回の攻撃。

 そこへ諸々のスキルも乗るのだから、当たりさえすれば、ダメージさえ透れば殺せる筈。

 

「──あああああああああっ!?((((;゚Д゚))))」

「ぐゔううううううっ……!!」

 

 身体が軋む。グラインダーのようにAGIと装備攻撃力ではなく、武器耐久力にENDの補正、加えて装備防御力にまでに秀でたチャージャーを以てしても、反動は甚大だ。

 その補正の数値には、最も高い僕のAGIを参照しているのにも関わらず、である。

 

 でも……彼女の痛みに比べれば、どうということもない。

 

 ぶちり、と先端で何かを引きちぎる感覚。

 そのまま、急制動と共に勢いが殺される。砂地か何かに突き立ったような、そんな感触。

 

 ……光が止む。エネルギーの奔流も、穂先の駆動も止まる。

 MPが切れたか、或いは相手が事切れたか。

 そうして見えた彼女の姿に──血が凍った。

 

「……ご、ばっ、ぁ……」

『──シアさんっ!!」

 

 僕はかなり痛手を負ったが、まだ生きていられる。チャージャーの補正や耐久度の向上もあってのことだろう。

 しかし抱きとめたシアさんは、血の塊と濁流を吐き、腕が引き裂け、骨が露出し……もう助からないのは明白だった。

 ……己の特異性に安堵して、慄く。

 

 僕は何度も死んだ。そして蘇った。

 しかし()()()()()()()()()()()()()

 そして、《プロテクト》はその説明文に誤謬がある。

 

 蘇るように書かれていた。そうだろうとも言われた。

 その認識にも、誤謬があったとしたら?

 “本当にティアンが生き返るのか”は、未だ誰にも分からない。

 僕を含めて、誰にも。

 

 焦りながら後方を見る。

 光の塵となって消えゆく何かは、恐らく犯罪者。

 追撃の心配はないが、鼓動は煩いままだ。

 

「……が、かぢ、まじだ……」

「喋るんじゃないっ! ポーションを──」

「も、もっだいなぃ、でず。いきかぇ、るから」

「勿体無い訳があるかっ!!」

 

 拙い、拙い。

 どうすれば──

 

「たが、ぎ……っさ、ま」

 

 彼女の手が、力無く僕の頬へ触れ。

 

「あり、がと……ござ……ま…………」

 

 ずるり、と、力無く垂れ下がった。

 虚ろな目が、星空を反射していた。

 

「……シア、さ──」

 

 

【《コントラクト》対象が死亡】

【《プロテクト》効果により死亡の代行が発生】

【デスペナルティ:ログイン制限24h】




エンブリオになりたいという動機が
まともであるわけがない

なお、今回で発覚しタカキも理解しましたが
武器としての形態ごとの装備補正は

AGI補正ならタカキのAGI、
装備防御力であればタカキのEND
という形ではなく

“1番高い数値”“次点の数値”“3番目の数値”……etc
のそれぞれが何処かに補正をかける
いわゆるバルドルと同じ形式ですし
複数の補正を1つの値が担う場合もあります

タカキはそれと知らず
かつグラインダーの性能ありきでAGI極になりました
まあ結果オーライと言えるでしょう
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