乱雑に扉が叩かれる。チャイムまで鳴った。
『おい! 蒼介っ! 居るんだろ!?』
玄関先からのくぐもった声。
鍵は開いていた筈だし、チェーンも外してある。
勝手に入りたければ入ればいい。
バタバタという足音がこちらに来る。
「──おい! 何があった!? 竜車の信号が途切……れ……」
「…………ああ、おまえか」
「強盗か?」
「じぶんで、やった」
「マジで何があったんだよ!?」
荒れに荒れた部屋を見て、総一郎が慌てふためく。
そんな姿は久しぶりで、ちょっとだけ笑えた。
◆
「何が、あった。呼ばれて来て見たら全部が全部意味わかんないんですけど?」
多少体裁を取り戻したリビングルームで、ダイニングテーブル越しに問い詰められる。
「……しんだ」
「は?」
「しあさんが、しんだ」
「……何で?」
「すぺりおるが、きた」
「……超……ああ、クソ。アイツか……」
心当たりがあったようで、吐き捨てるように宣う総一郎。
目を向ける。
「おまえの、さしがね、か?」
「違う! 昔の得意先。気づいたら犯罪やってて、敵意も向けられてる。身に覚えは全くないの!」
確かにあれは総一郎……マルクスを探していた。
何の因縁かはさておき、そのとばっちりであったらしい。
最悪だ。もっと直接的な因があるなら、もう少し楽だったのに。
……そう友人思っている時点で、中々に僕は終わっているらしい。今更か。
「なら、いい」
「良かないだろ……お前はともかく、俺は大損害なんだからな? 利益金もどうなったか判ったもんじゃない。最悪ケージの奴に持ってかれてる場合もある」
「……けー、じ?」
「ああ? 知らねぇのか……お前が戦っただろうヤツ。ツギハギで似合わねぇツインテな地雷系女子!」
「ああ……なら、たおした」
「…………マ?」
「さしちがえた、しあさんが……しあさんがしんだ」
「あー……なるほどね」
ガシガシと頭を掻くマルクス……違う、総一郎。
大分混同しているらしい。嫌になってきた。
「でも生き返るんでしょ?」
「わからない」
「は? 自分で言ったんだろ生き返るって」
「わからないんだ……」
最後に流れたシステムログ。
正常に機能した証左か、或いはそれすら偽装か。
ともかく、僕も共に死んだ。それだけが事実──
「……まあ、死んだからってそうくよくよするな。ゲームなんだから割り切れ」
──。
「……ざけんな」
「ん?」
「ふざけんなっ!!」
机を叩く。拳の痛みで、頭が冷える。
「……すまん」
「…………一旦、落ちついた?」
「ああ」
「所詮はゲーム、って言ったのは誰?」
「僕だ」
「じゃあ今のお前は何派?」
「……わから、ない」
物語にのめり込みすぎているのか、はたまた本当に死を嘆いているのか。
もう自分ですらわからない。
「……世界派にしか見えないけど、ねぇ」
世界派。
あの世界を世界と尊び、尊重する者。
──じゃあ、なんで。
僕は、シアさんを、死地へと向かわせた?
◆
■
「ただいまー(*^^*)」
「……もう来るなって言ったのネ」
「いやー、掘り出し物に会えたよ\(^o^)/ 【ブローチ】どころか《ラスト・コマンド》まで使った(^q^)」
「…………へぇ」
「あ、興味出た?(´・ω・`)」
「全然なのネ……ってかよく生きてたのネ」
「元の体をリソースに還して(⌒▽⌒) 千切った肉芽から全身生やす(^v^) 死亡偽装は【
「……多分それアンタだけなのネ」
■
◆
1日を経て。
「……寒い、な」
制限もなくなり、ログイン。
コルタナの繁華街は明るいが、時刻的には気温が厳しい。
「──へくちっ!」
ふと、聞き馴染んだ声が聞こえる。
「……お、おはようございます、タカキ様」
隣りに居たのは、何時ものシアさんだった。
手を伸ばし、頬へ触れる。
柔らかで、ハリのある、人の肌。
「んぅっ、タ、タカキ様──きゃ!?」
生きている。
幻覚じゃない、生きて、ここに居る。
「良かった……良かった……っ!」
抱きしめる身体は、か弱く感じて。
「……はい、勝ちましたよ、私」
触れる温かみが、酷く痛かった。
◆
「あっ! 居た!!」
待ち合わせ場所に行くと、死んだ顔触れが勢揃いしていた。
「タカキさん! ……ま、災難だったわね」
「ああ、オレなんか真っ先に死んだぞ。ありゃ無理だわ」
「ボクは結構頑張った……んですけど、言いたいことがあるんですよね。解りますよね? ミスター・タカキ」
ミスティさんと灰流さんは仕方ないといった雰囲気だが、シエンさんはご立腹である様子。
さもありなん、逃げろと言われたのに戻ってきたのだから。
「……すいません」
僕が謝罪を入れる前に、シアさんがシエンさんへと頭を下げた。
「私が、あの<超級>に挑戦したいと言ったんです」
「……止めてくださいよ、保護者でしょうに」
「すいません」
言うとおりだと思います。本当に。
……本当に。
「めっっっちゃ頑張ったんですからね!?」
「まーまー、んで、負けたんだな」
「いえ、痛み分けです」
「はぁ!? ああでも確かに行けるか……?」
シエンさんがいつにも増して忙しない。
「後学のためになんですけど……《聖別の銀光》使いました?」
「は、はい」
「そりゃ行けるわー……あの人アンデッドですからね種族」
「そうなんですか?」
「あっ、知らなくてアレなんですね。あの、説明すると──」
シエンさん曰く。
あのケージという<超級>は、【
死霊術師から派生し、【大死霊】を経由する【
「──だからまあ、《聖別の銀光》で大ダメージ、って感じだったんじゃないですかね」
「なるほど……」
「運が良かったんですね、私たち」
「それは、そうね……ってか、取引のお金は?」
「手元に丸々、残っています」
確認した限りでは、だが。
「……本当に運いいわね」
ミスティさんがしみじみ呟く。
まあ、本当にそうだと思うよ。
◆
マルクスの出す迎えが来るまでは、一先ずコルタナへ足止めとなる。
そのため宿を取り、各自休息となったのだが……シアさんとの相部屋となった。
あの3人が共謀したらしい。
一先ずシアさんにベッドを使って頂き、僕はソファで寝ることにした。
そんな中、シアさんが隣へ座って来る。
「タカキ様」
「……はい、何でしょう」
「わがままを聞いてくださり、ありがとうございました」
「いえ……止められなかっただけです。そのせいで、貴女も死んでしまった」
「それでもですっ」
少しだけむっとするシアさん。
卑下するな、と言うことか。本当に優しい人だ。
「……あの時、あの<超級>が現れる直前、貴方が言ったこと、覚えてます?」
「はい」
忘れる訳もない。
「こちらを軸に出来たら、私の気持ちに応えてくれるって」
「……はい」
「だから……私は全力で、そうなるように手を尽くします」
手を取り、両手で握られる。
「私の事を、心の底から、あ、あ、愛して、もらって……その、あちら側じゃ満足できないくらいに、してみせます」
「だから、その時まで……一緒にいてください、ね?」
……は、ははは。
夢のゲームか、これが。
前も思ったが……やっぱり、悪夢だろう。
僕は彼女の隣にいる資格がない。
しかし彼女は僕を離さないし、離れる術がない。
《コントラクト》の解除には、両者の同意が不可欠だ。
ああ──なんたる皮肉か。
死地へと送り込み、自身の欲求を満たしたクソ野郎だというのに。
……それでも。
「解りました」
僕も、隣に在りたいと思っている。
このぬるま湯の心地良さに、身を預けている。
「……ふふっ、絶対ですよ」
ああ。
やっぱり僕は、クソ野郎だ。
一旦一区切り
ある意味での主題が
漸く書けました
楽しいです
次章をお待ち下さい
追記:
章の設定間違えてました
次章は出来上がってはいるんですが
推敲中ですのでお待ち下さい