ギャグ寄りの回
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「《エグゾースト》!」
爆発的な急加速とともに振り抜かれる、6列の鋸刃。
それを叩きつけられた者は、例えボスモンスター……【ヴァイパーヘッド・ドラグワーム】ですら、ひとたまりもなかった。
……あの<超級>との戦いを経て、更には<UBM>と戦いも超えて、グラインダーの見た目は大きく変化している。
基部の厚みが増し、刃と反対側には《エグゾースト》用のマフラーが4対8本。
もはや打撃部と呼ぶべき刃の列は、6列にまで増えている。
チャージャーに関しては変わり無く、灰流の称した“スカイホーキーとブロンブースターを足して2で割って先端ドリル”という見た目を崩していない。
しかしながら強力な奥の手、そして
『逃げましたね……チャージャーで行きましょうか?』
「はい!」
逃げたもう1体の蛇の背を見ながら、巨大な突撃槍を構えるアレクシア。
腰だめにではなく、投げる姿勢で。
「もう一度──《エグゾースト》ッ!」
そのまま、巨大な槍は勢いよく放たれる。
“轟雷槍”とも呼ばれるようになった
「よしっ!」
そのまま、アレクシアはスキルを使用する。
《貴方と共に私は在る》
装備者から一定距離以上に離れた武器を、手元へと引き寄せる。
アクティブスキル
【セストラ】との戦いで用いた恐らく最後の《再鍛》、その結果生まれたスキル。
まっすぐ手元へ飛んできた槍を、こともなさげに掴むアレクシア。
「おかえりなさい、ソウ様」
『……只今戻りました』
これに加え前述した武器形態の強化、更に《マナドライブ》の回復所要時間の半減──50秒から25秒に──を以て、“タカキ・ソウ”という武器は一先ずの完成に至ったのだ。
◆
「ありがとうございます……!」
「おかげで集落も救われました、心より感謝を」
集落の長夫婦よりの礼を、笑顔で受け止めるアレクシア。
「当然のことをしたまでですよ」
彼女の目指す、理不尽を吹き飛ばす強者の姿には、未だ遠い。
理想が高すぎるとタカキには言われているが、高くなくては届かず、またあり得ない夢なのだ。
この世界には理不尽が溢れている。
例えば直近の<SUBM>。
船団の長が死に、その後を継いだ<マスター>醤油抗菌の姿は、正に夢の在り様。
曰く、共に戦い特典武具を得た【盗賊王】ゼタと同じく<超級>であると聞く。
身近な所であれば、【女教皇】。
国の様々な場所での問題解決に、決まって上がる<月世の会>の名は彼女のもの。
所属するマスターは誰も彼も熟練の<マスター>であり、月夜自身もそれに違わない。
そして──あの時だってそうだった。
殺されかけた自分を救ってくれた命の恩人にして、命を預ける武器でもあるひと。
その後ろ姿を追うのではなく、いつか隣に並べるように。
それもまた……彼女の目標であった。
◆
「神に感謝を!」
「はい、神に感謝を」
食卓へ並べられた、色とりどりの料理の数々。
“あちら側では満足出来ない”ように、先ず胃袋を掴もう、と意気込んで作ったは良いものの、どす黒い何かを錬成して失敗ばかり。
結果として日々の食卓はタカキが彩ることとなっていた。
献立はパンとシチュー、付け合わせにサラダ。
飲み物は野菜ジュースと、全てタカキの手製である。
「……美味しいです、流石はソウ様」
「ありがとうございます。食材の質が良いもので」
それを生かし切るのは流石の腕前があってのことだろうに、それを誇示しない辺りに人柄が出ている。
物書きと聞いてはいたが、料理も一流ときた。最早何が出来ないか数えたほうが早いのでは? とアレクシアは思っていた。
そんな料理も、あっという間に無くなり。
「今日も美味しかったです、ありがとうございましたっ」
「お粗末様でした」
器を片付け、流しへと運ぶ。それを洗うのは、今日はシアの役割である。
調理器具に関しては、既に洗われ、水気も拭き取り、軽く乾かして収納済み。
調理とともにそれをこなす手際に、アレクシアは感嘆するしかない。
「お風呂沸いてますから、先に入っていてください」
「はい。では、お先に」
テキパキと片付けを進める。早くしないと、彼が風呂から出てしまうのだ。
◆
風呂の構造は所謂“日本式”と呼ばれるもの。
アレクシアが聞いたところでは、この家を作った【大工】らに<マスター>が居り、その趣味であったとか、無いとか。
実際は全員<マスター>だったし日本人で、完全に趣味であった。
脱衣所があり、扉を隔てて湯船があり、体を洗うスペースがある。
湯船に浸かるという習慣の無かったアレクシアも、今ではすっかりその虜だった。
服を脱ぎ、籠へまとめ、タオルを巻き……扉に手を掛けて──意を決して、開く。
「失礼しまーす」
「……は、はあぁ!? ちょっ、何を!!」
ああ、もう後戻りはできない。
タオルを巻いているとはいえ、それ1枚だけの姿を、想い人へ晒している。
顔が熱いのは浴室内の熱気のせいではなく、恥ずかしさの故である。
「で、で、出て一旦待って下さい。直ぐに上がります──」
「いえ、一緒に入りますっ。お背中お流ししますので!」
「変な所で思い切りがいいなぁ……!?」
ここで背中を流し、あわよくば流してもらい。
意識させた上で……寝床へ。
彼女が考えたざっくりとしたプランは、こんなものだった。
昨日の今日ではあるが、同衾しているとは言え手を出されない現状にしびれを切らし、それを月夜の言葉で再認識した、とも言う。
もうひと月である。
ひと月も同衾している。
なのに一切無い。そういったことに全くならない。
名前呼びを解禁しようが、一切である。
(ならもうこれしかない……!)
タカキも彼女も知らぬことではあるが、管理者によって流布された、様々な文化の煮凝りが、今ここに結集していた。
「お隣、失礼しますねっ」
「…………ぐっ…………」
隣と言ったのに、これでは後方でないか。背を向けられたアレクシアは少し落胆する。
……いや、チャンスだと思い至ったらしい。
「……湯船にタオルを浸けるのは良くないですもんねー」
「はい!?」
するりと巻いたタオルを除き、畳んで絞り、頭の上へ。
その作法ですら流布された文化のアレであるが、一旦置いておこう。
らしくないとは自分でも理解していた。
しかしここまでやらねば進展はないだろうとも思っていた。
向けられた広い背中へ、ぴとりと体を触れさせる。
「……止めて下さい」
「いやです」
「どうしてですか」
「大好きで、え、え……えっち、したいからです」
「…………はぁ…………」
長い、長い溜め息。
意を決した発言を、受け流すためのような。
「……そんなに、魅力、無いですかね」
「そんな事はありません」
「じゃあ、どうしてですか?」
「…………どうして、でしょうね」
帰ってきた声色に、諦観が滲む。
ペルセポネのそれに、やはり似ていた。
◆
数日後。
「──で、結局そのまま普通に寝た……って?」
「……はい」
定期的な茶会の場で、月夜が死ぬほど呆れていた。
いや、ちょっとキレていた。
「おいコラ不能小説家」
「違います」
「どこが違うか言うてみぃやこの
「どれだけこっちが耐えたか分からないんですかねぇ!?」
「耐えずにパクッと美味しく頂けや据え膳やろこんなん!!」
その様子を見ながら、カグヤは微笑ましそうに笑い。
(次は……リボンを体に巻いてみましょう)
アレクシアは次の作戦を考えていた。
書いてて思ったけど
やってることが“好き!(挨拶)”の人じゃないかな
そして活きる管理者が文化を流布した設定
こんな活き方あるかね