系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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4:とうひ

「御二方、此方へ御乗り下さい」

 

 何がしかのスキルだろうか、2頭の馬が眼前に現れる。2人乗り用の鞍ではないが緊急事態だ、致し方ないだろう。

 ……乗馬の経験があって良かったよ全く。

 

「よっ、と。シアさん、手を!」

「は、はい!」

 

 先に跨り、シアさんを引き上げるようにして自分の前に跨らせる。

 【身代わり人形】がある以上、僕の身体は防壁に最適の筈だ。

 

「わ、わわっ」

「見知らぬ男に抱き抱えられて不愉快でしょうが、どうかご容赦下さい!」

「い、いえいえ不愉快だなんてそんな!」

「先導します、追従を!」

「はい! ……っと、行け!」

 

 指示を出せば、流石はゲーム内の馬。体格が良いとは思っていたが明らかに速い。

 草木生い茂る森の中だというのに、そんな事は知らんと言わんばかりに駆け抜けていく。

 ちらりと後方を見遣ると、少し開けた枝葉の隙間から、黒く巨大なドームが見えた。

 位置は丁度、車両を乗り捨てた辺りだろうか。

 

「なん、だあれ……?」

「マルクス様の特典武具です。敵の攻撃では有りませんので御心配無く」

「ご説明ありがとうございます、っ!?」

 

 特典武具が何かはさておき、それに思考を割く暇はなさそうだ。耳の辺りを何かが掠めて飛んでいく。遠ざかっていき木の幹に刺さったそれは、短い矢のようだった。

 

「追手ですか……私が殿に成ります。兎に角真っ直ぐ御進み下さい!」

「解りました!」

 

 後方へ移動していく秘書さんが懐から取り出したのは、あのクリップ排出音で有名な名銃だった。

 そのまま姿が見えなくなったが、あり得ない速度で連発している。

 装填数も連射速度も段違いなのはやはりゲームらし──

 

「ひっ!」

「ぐっ、お、お怪我は?」

「だ、大丈夫です……っ!」

 

 脇腹辺りに何かが当たる感覚。

 流石【身代わり人形】、貫通はしていないようで助かる。

 後方遠くから落馬の音も聞こえたが、銃声が続く辺り秘書さんではない……となると【仕返し人形】か。

 痛覚を切っておけばよかったと今更ながら後悔したが、メニュー操作の隙を追手が与えてくれるとも思えない。

 そして避けようにも今は馬上、秘書さんが数を減らしてくれることを願うしかないだろう。

 何ならいっそ当ててくれた方が良い。【麻痺】で数を減らせる。

 

 ◆

 

 暫く進み続けるも、状況は好転しない。

 数は減ったが未だに居る追手、馬をやられて離脱した秘書さん。

 ぎりぎり僕らが乗っている馬はやられていないが、スタミナ切れか速度が落ちてきている。

 

 しかし、こうも鬱蒼とした木々の間を駆け続けると、如何せん気が滅入ってくる。

 自分の脚を酷使する羽目になっていないのが幸いだろうか。

 馬の脚は軽快に地を蹴り、手綱を持つ腕の間で抱えた少女からは、柔らかな良い香りが漂って来る。

 

「……クソッ」

 

 ……現実逃避気味な思考に頭を振った。

 別に嗅ぎたくて嗅いでる訳じゃあないだろう。息が切れ、呼吸器をフルに活動させているせいだ。

 口だけでは飽き足りず、鼻からも同時に吸って吐く。

 そうでもしなければ逸る鼓動には追いつかない。

 かなり焦っているのは明白で、定期的に訪れる軽い痛みが思考を妨げる。

 

「だ、大丈夫、です……か?」

「ええ、ご心配無く──っ!?」

「え──」

 

 ぐるりと視界がひっくり返る。続いて感じる、チュートリアル直後のような浮遊感。

 重力に引かれて落下する感覚。

 

 妙にゆっくりとした視界の上端に、派手にひっくり返った馬が見えた。

 

 不味い。

 

 そう思う間もなく、懐の少女を抱き抱え──地面に打ち付けられる。

 

「がっ!? ゔっ、ぐっ……!」

「〜〜〜っ!?」

 

 衝撃で肺の空気が全て抜ける。

 転げる視界がぐるぐる回り、三半規管を乱してくる。

 流石はリアリティを謳うゲームと言いたいが、正直ここまでしないで欲しい。気持ちがすこぶる悪い。

 加えて、バキン、という甲高い音が響く。

 恐らくは【身代わり人形】の破損を告げる音だろう。

 

「っ、お、お怪我はっ……?」

「わ、私は大丈夫です。それより、タカキ様は──きゃっ!?」

 

 爆音。再び転がされる。いよいよ吐くぞ。

 そして今度の破損音は恐らく【救命のブローチ】のもの。いよいよ不味い。

 

「全く、手間取らせてくれる」

 

 下手人と思われるのは、黒尽くめの身なりの人影。

 声から察するに男……いや、変声の魔法やらがあるかも知れない。

 

「っあ゛っ!?」

「お前1人を殺すのに、何人死んだと思っている」

 

 転げた少女の腹部を踏みしめ、憎々しげに呟く推定男。

 

「ぅ、うる、さいっ……! おかあさま、を……うっ!」

「煩いのはお前だ、女」

 

 少女は頭を蹴られ、ゴロンゴロンと転がり、木の幹にぶつかって止まる。

 フードが開け、露わになった頭の側方からは、彼女の肌の色と同じ色の突起がそれぞれ1つずつ。

 

「なぁ、半長命種(ハーフハイエルフ)。もう十分生きたろう? さっさと死んでくれ。今なら楽に殺してやる」

「いや、ですっ……!」

「……そうか、じゃあ苦しんで死ね」

 

 懐から取り出されるのは、何かの小瓶。切られた封から沸き立った紫色の煙を見る限り、どうせ毒薬か何かだろう。

 分かりやすいことこの上無い。

 

 ……なら。

 

「待て、クソ野郎」

「……あぁ?」

 

 僕はそこに立ち塞がるだけだ。

 

 懐からダガーを取り出す。攻撃力が得られるわけじゃないが、少なくとも素手よりは鋭い。

 丁度僕の傍へと来たのは行幸と言えるだろう、こうして身を挺して庇うことが出来るのだから。

 

「英雄気取りか? <マスター>。その身で何が出来ると思っている」

「やらないよりはマシだ。何より──」

 

 ──僕の<エンブリオ>は、武器になれる<エンブリオ>だった。

 

 そも、このゲームを欲した理由は小説のネタ集め。結局のところそれ以上の理由はない。

 ライトノベルのような世界観で、ライトノベルのような出来事を目の当たりにする。新たな刺激を得て、新しい創作を始めるためのカンフル剤。

 

 しかし、自分の手でそれを成す必要はない。

 極論。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それで十二分。

 

 だからこその、この形。

 【ヘファイストス(鍛冶の神)】の名を冠し、自らを武器へと打ち直す。

 自分だけでは何も出来ない。

 振るう者が居なければ、何も成せない。

 

 だからといって──

 

「──ここで何もしないのは、僕の心が許せない……っ!」

 

 ◆

 

 ■

 

 

「シアさんっ!!」

 

 ぼろぼろになった男が声を荒げる。

 

「貴女には夢があるのでしょう! ここで終わっていいのですか!?」

「……いい、わけっ、ないですっ!!」

「そうですか、なら──」

 

 男が振り返り、女へ手を差し伸べる。

 

「僕の手を、取って下さい」

 

(何をする気か知らんが、遅い)

 

 喧しい男をまず殺し、手慰みに女を嬲り殺す。

 それで少しは溜飲が下がるだろうと、暗殺者は手際良く、素早く、男の背へ短刀を突き立てた。

 AGIは低く、ブローチも潰している。

 故に当然の如く、これで終わる筈。

 

 ……そう思っていたのも束の間、何かがおかしい。

 

(……何故、まだ動いている?)

 

 心臓を刺し貫いた。血もだくだくと吐いている。

 

(……っ! まさか!)

 

 暗殺者は知らない。

 友人に“ファーム中に死なれると面倒だから”という馬鹿げた理由で取らされたそのジョブを。

 しかし、少し聞き齧ったことがあった。汎用下級職に、死ぬまでを遅らせるスキルを持つものがあると。

 尤も実用性は低いので、暗殺者は勿論そのジョブを採ってはいない。

 

 しかし、眼前の男は。

 

(こいつは【戦士】じゃ……違う! 【死兵】の《ラスト・コマンド》は()()()()()!)

 

 抜いた刃で頚椎を断つ。まだ動く。

 逡巡もつかの間、女が男へ手を伸ばす。

 男の手首を刎ねる。まだ動く。

 

(しまっ──)

 

 手首の断面が、女と触れ合う。

 瞬間、光が弾けた。

 

「ぐっ……!?」

 

 顔を腕で覆い、堪らずその場から飛び退く暗殺者。

 光は一瞬のうちにして止んだが、その場にいる者たちにとっては、酷く長く感じられた。

 

 光が止んだ直後。

 頸から、腕から、背から血を流す男が、光の粒子となって消えていく。

 その頸がゆっくりと振り返り、確かにこう言った。

 

 ──ざまあみろ。

 

 そのまま、男は死んだ。光となって消え失せた。

 ……()()()()

 

「は、あ?」

 

 理解が追い付かぬまま、暗殺者が最後に認識出来たのは。

 

「任務を達成──」

 

「──此れより、目撃者の殲滅を行います」

 

 そんな声と、後頭部に突きつけられた、冷たい金属の感触だった。

 

 

 ■

 

 

 暗幕──列車周囲に展開された、黒いドーム──の中では、複数の暗殺者が懸命な奮闘をしていた。

 攻撃する素振りのない中年親父なんて、すぐに殺せる筈だった。

 しかし。

 

「なんで傷1つ負わない!?」

「化け物めっ……!」

 

 眼前の男は、振るおうが射ろうが、何も痛痒を感じていない。

 矢は尽き、刃は毀れ、攻撃手段が失われていく。

 相手は只の【死霊群師】。その筈だったのに。

 

「ん? あー、はいはい。聞こえてますよ」

 

 終いには何事かを話し出す始末。《テレパシーカフス》で連絡を取っているようだった。

 徒労感と絶望感。それを噛み殺し再び柄を握りしめる。

 

「……おお! 上手く行きましたか。じゃあこっちも終わらせますよ。あちらで落ち合いましょう──」

「はああああぁぁぁぁぁっ!」

「──では、また後で」

 

 気迫を込めて突き立てた刃は、やはり弾かれる。

 

「さて、とっ!」

「な──っがっ!?」

 

 突如、腹部に突き立てられる拳。反撃の素振りが無かった相手からの、突然のカウンター。

 

「まぁ、ずいぶん好き勝手やってくれちゃってさぁ。こっちもフラストレーション? 溜まりまくってんだよね」

 

(口調が変わった……違う。声そのもの?)

 

 そう暗殺者が思ったのも束の間。中年の身体が、衣服が、顔が……()()()()()()()()()()()()()()()、溶けていく。変わっていく。

 

「なん、で──」

「冥土の土産に教えてやる。聞かなくたって答えてやる。オレの持つ特典武具、【他人羽織 セウ】は、見た目も、声も、ステータスも、何もかも、全部別人に変えられるんだわ。よっしゃ! いっぺんこういうのやってみたかったんだよねー」

「──なんで、ここにお前がっ!?」

「まあ、味方以外で変身見せるのティアンだけだし? そもそも見たヤツ全員殺してるから、コレの情報全然入ってなかったっしょ? ごめんごめん──」

 

「──じゃあ、死ね」

 

 直後。

 アンデッドの濁流が、彼らに押し寄せ──





9/22 改稿 表現を修正
10/5 一部表現を修正※透明文字で詳細
   ・なんで、ここに<超級職>が
    →なんで、ここにお前が
   ・スケルトンの濁流
    →アンデッドの濁流
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