系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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3:しゅうらい

 ■

 

 

 そんな幸せで──若干1名にとっては苦難に満ちた──楽しい日々の最中。

 その報せは、突然のものであった。

 

「……ルニングス、公爵領の、壊滅……?」

 

 新聞の号外。

 王都の通りで配られたそれを、2人で読み進めていく。

 

 加えて書かれるは、<雷竜山>の長、【雷竜王 ドラグヴォルト】の死。

 異常事態であることは分かりやすく、そしてその理由も分かりやすい。

 

「【三極竜 グローリア】……」

「2の次に、3か……何でだ……?」

 

 グランバロアに続き、現れた──<SUBM>。

 それが、この悲劇の……理不尽の、理由であった。

 

 ◆

 

 すぐに動く、とは行かなかった。

 

 ──まずは様子見、したほうがええよ。

 

 知り合いたる【女教皇】からそう言われたのもそうだが、未曾有の脅威から救いを求めてやってくる人々で、教会がパンクしたのだ。

 対応に追われ、忙殺され……気づけば報せから4日が経ち。

 

 積み上げられた<マスター>らの死が、その様子見を正しいと語っていた。

 

「これより、私はクレーミルへと向かいます」

「枢機卿閣下まで、ですか」

 

 そして、その様子見の最中。

 応接間に呼び出され、枢機卿に覚悟を明かされた。

 

 現国教の実質的な指導者である彼が赴く先では、かの【グローリア】を待ち構えるべく、多数の聖職者たちが派遣されている。

 そこへ彼まで向かうとなれば、士気は高まるだろう。

 そうすれば行われる儀式魔法──《天罰の柱(ジャッジメントピラー)》の発動に、確かに有用だ。

 あれは皆の信仰を一つにし、敵へと放つ天罰の儀式。

 恐怖を和らげ、心を一つにするには、精神的支柱としては最適解だった。

 

 しかし。

 

「危険に過ぎます。考え直しては頂けませんか」

「いえ……行かねばならないのです」

 

「私が居ればこそ、恐怖も和らぐ。皆の信仰を一つとして、あの竜を討てる」

「それは正しいでしょう。しかし……国教の指導者の身に何かがあれば、今度こそ瓦解しかね──」

「──今は」

 

 遮る言の葉が纏う威に、意に、息を呑んだ。

 真っ直ぐな瞳が、こちらへ向けられている。

 何かのために何かを諦め、それでも前に進む人の瞳。

 

「今は、貴女が居る」

 

(ああ──この人は)

 

 そこには、自分の命を賭してでも、人を守る覚悟があった。

 そして、此方に全てを託せるからこそ、後顧の憂いもなく、行けるのだと。

 

 ──貴女は……生きて……っ!

 

(……ああ、本当に)

 

 脳裏に浮かぶ、託される重み。

 母の笑顔と……その最期。

 家令に担がれ、手を伸ばす笑顔が遠ざかっていき、そこへ突き立てられる刃。

 火の中に、散る鮮血。

 

 それに見合う成長を、出来ているのだろうか。

 ……彼女には、分からなかった。

 

 でも、今は。

 今の自分は、戦える。

 

「では、私も行きます」

「…………そうですか。では、支度を」

 

 言葉を返す暗い顔に、シアは見て見ぬふりをした。

 こちらの意思も固いのだ。申し訳ないが押し通させてもらう。

 いざという時は、身を挺して守れるように。

 

「はいっ」

 

 ◆

 

 タカキも呼び寄せ、馬車の中。

 

 無数の馬車が連なるのは、その運ぶ身柄の故ではない。

 単純に、<バビロニア戦闘団>、その一部メンバーの行軍とかち合ったのだ。

 確かに彼らはクレーミルの守護者。その危機とあれば、馳せ参じるのは自明であった。

 

「マルクス様に、竜車をお借りした方が良かったのでは?」

「いや……掛け合ったんですが、無理だと」

「やはり、そうですか」

 

 訳知り顔で頷くベルディンと、少し驚いたようなタカキ。

 

「ご存知でいらっしゃるんですね」

「はい。かの御仁は<魔王商店>、及び<魔王骨董品店>より、直々に競合商品を用いた営業の許可を貸し与えられている……と」

「その通りです。そして、その際の契約により、国の損益に著しく加担することを許可されていません」

 

 タカキは、苦々しい顔で首を振る。

 やれやれ、といったような、諦めるに仕方ない、といったような。

 

「災害時に支援するといったことも、勿論契約違反に当たる。そして<UBM>に依る国家への影響も……また災害です」

「そう、だったんですね」

 

 だとすれば、自分を助けてくれたのは相当な綱渡りだった筈だ。

 没落しきっていたとはいえ、一応は貴族の末子である。

 

 アレクシアはその手腕に息を巻き、また感謝した。

 突拍子のないサプライズを旅の途中に用意する茶目っ気はあるが、それにもう少し目を瞑れる位には。

 

「もうすぐ、クレーミルに着きます」

「ありがとう」

 

 御者の言葉に、顔を合わせるタカキとベルディン。

 

「……タカキ様」

「本当に良いのですか?」

「責任は……私にあります」

 

 溜め息を吐くタカキに、アレクシアは嫌な予感が走った。

 

「解りました……《パワープレイ》」

「──え、?」

 

 身体から力が抜ける。

 【脱力】のバッドステータス……ではない。

 

「なん、で」

「……申し訳ありません」

 

 申し訳なさそうな顔をしないで欲しかった。

 

 彼が何をしたのかは、理解している。

 《パワープレイ》による一時的なMP最大値の低下、その全てを解除し、物理ステータスの全てを減少させたのだ。

 前衛系上級職である【教会騎士】に就いているとは言え、それ以外は専ら魔法職。

 故に彼女のMPは高く、その分で上がっていたステータスも大きいものだった。

 

 再び使えるまでは24時間。

 この脱力感では、動くことでやっと。

 その間……彼女は戦えない。

 

 怒りと困惑。

 それを向けるべきは、恐らく彼では……タカキではない。

 そう察していた彼女は、視線を──

 

「……ベルディン枢機卿閣下。何故、ですか?」

 

 ──その横へ。

 目を伏せ、暗い顔をするベルディンこそが、これの首謀者であると直感していた。

 

「私の身に万が一があれば、混乱が生じる。その混乱を収めるには、新たな指導者が要る」

「知っています。故に、私もそこへ──」

「──ですが、貴女も死んでしまっては意味が無い」

「私は死んでも蘇りますっ!!」

「それがどうしたというのですかっ!!」

 

 怒号。

 

「蘇られることと、死んでもよいということは、決して同義ではありません」

「……っ」

 

 ──……私にとっては、<マスター>様方の命も、我々ティアンの命も、等しく大切なんです。

 

 ──だから、死んでも大丈夫なんて、言わないで下さい……ね?

 

 過去の己の言葉が、己自身に突き刺さる。

 

「……クレーミルで、人々の治癒をお願いします」

「…………わかり、ました」

 

 無力な己の身を、酷く悔いる。

 

 ◆

 

 失意の中、辿り着いた治療院は混迷を極めていた。

 人手が圧倒的に足らず、ごった返す院内。

 隣の彼に肩を借りながらも、バタバタとしている人々の中、働いているであろう女性へと、声を掛ける。

 

「……すいません」

「ごめんちょっと忙し……あ、もしかして教会の方!?」

「はい、お手伝いに、と」

「ありがとう……だけど、大丈夫?」

 

 力の抜けた身を心配しているのだろう、気遣わしげな視線が飛んでくる。

 この非常事態でなお人の心配が出来るのは、流石と言わざるを得ないだろう。

 

「治癒の魔法を使う程度であれば、問題ないかと」

「僕も、何か手伝えることがあれば」

「そう、ありがとう! ……なんてお呼びすればいいかしら?」

「アレクシアと、申します」

「タカキとお呼び下されば」

「そう。アレクシアさんに、タカキさんね。わたしはエーリカ、ここの【薬師】です」

 

 そう言って、エーリカはにこりと笑った。




比較的安全なクレーミルに残し
自分が死んだとしてもシアが生きていることで
早急な体制の維持を図ろうとしたのでしょう
恐らくは、ですが
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