ちょっと雑かも
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ありがとうございます
■
「申し訳ありません」
一通りの治療を終え、待合室。
先ほどが嘘のようにガラリとしている理由は、どうあがこうともかの【グローリア】が因であった。
「枢機卿から、こうして欲しいと頼まれまして」
「……そうだろうなって、思ってました」
タカキは目を伏せ、此方と合わせようとしない。
「ソウ様は、悪くないです」
「いえ……悪いんです。僕が」
頭を抱え、肘を膝に突く。
苦悩と、何かがごちゃ混ぜになっていると、見て取れる。
「そうすることに反対しなかった、僕が」
「…………いいえ、そんなことありません。蘇られるだなんて、死んでもいいなんて、言っちゃだめだったんです」
彼を抱きしめて、伝えた想い。
それを蔑ろにしたのは、他ならぬ己だった。
「だって私が、貴方にそう言ったんですもん」
「……そう、でしたね」
「覚えててくれました?」
「勿論です」
忘れられる訳が無いと、タカキは言った。
◆
「……あ、ここにいらしたんですね!」
「エーリカさん、お疲れ様で……っとと」
「本当に大丈夫? 座ってていいのよ、アレクシアさん」
「はい、問題ありません」
「お疲れ様です。まだ何かあるようでしたら、是非」
「いえいえ、ありがとうございました。大分楽になりましたよ。これなら残っている人員でも回し切れます」
ごった返した原因も、人のいない原因も、全ては【グローリア】によるもの。
エーリカが座るのを見て、アレクシアとタカキも椅子へ掛ける。
「人が少なくてもう大変で……お隣良いですか?」
「いえいえ! 全然全然、お手伝いに来た身で先に休憩してしまって……」
「良いんですよ、手伝ってもらっちゃったんですから。避難した薬師や治療師を責めるわけには行かないですけど……ちょっとだけ怒れてきちゃいます」
そう言って笑うエーリカの顔には、やはり色濃く疲れが出ていた。
「軽くですが、癒しの呪文を」
「あっ、ありがとうございます」
手を翳し、《ファーストヒール》を唱える。
気休めではあるが、無いよりはマシだろう。
「……だいぶ楽になりました」
「良かったです」
嘘ではきっとないのだろうが、やはり疲れは強そうだった。
……そんな中で、ふと気になったらしいことを、タカキが訊ねる。
「……エーリカさんは、何故ここに残られたのですか?」
「助けの要る患者さんが残ってますから。この街から動けない人達のためにも、離れるわけにはいきません」
その問いに、当然だと言わんばかりに答える女傑。
人を助けるというその一心で、治療棟に残った動けぬ者のために、今なお働き続けていた。
自分の命が危ういというのに、なんたる精神力であろうか。
「それに……夫が戦っているんです。だから安心してここに残れる」
「……なるほど。失礼でなければ、旦那様の名前をお聞かせ願えますか?」
「フォルテスラ、です。タカキさんも<マスター>様でしょうから、ご存知でしょう?」
「フォルテスラさんですか、それは……凄いですね」
エーリカの手の甲を見るが、紋章はない。
ティアンと<マスター>の夫婦。アレクシアは驚愕し、そして納得した。
自身も同じ立場であれば、きっとこうして、人々の為に専念するだろうから。
……それが死なないことからの余裕なのかは、最早解らなかったが。
「……そういえば、アレクシアさんってもしかして、“国教の守人”の……?」
「ああ……そう、ですね」
「やっぱり! 夫がよく話してくれたんです。わたしたちみたいに仲のいいティアンと<マスター>様がいらっしゃるって」
「そうなんですね」
なるほど、確かにそうだった。
尤も、眼前の女性は自分たちよりも前に進んでいるのだが。
「……け、結婚にこぎつける秘訣って」
「シアさん……?」
「押すことと、やっぱり胃袋じゃないですかね?」
「エーリカさん……???」
「料理はちょっと苦手で……」
「じゃあ──」
困惑するタカキだが、この場に彼の味方は居ない。
◆
<マスター>を愛する者同士、通づるものが確かにあった。
その間タカキは置き去りで、だんだんやせ細っていったが、まあ問題はあるまい。
今後されうることを、全部目の前で言われただけなのだから。
今に見てろよ、というのがアレクシアの本音である。
「あら、もうこんな時間。すいません、長々と」
「いえいえ。お話、楽しかったで──っ!?」
爆発音と閃光が、窓から流れ込む。
慌てて見れば何もなく……いや、天を裂く光の柱が一本、城壁の向こう……【グローリア】が居るだろう方角に生まれていた。
「……シアさん、あれが……?」
「はい。儀式魔法である、《天罰の柱》です」
「……そうでしたか。では、先ほどの爆発は【大賢者】の徒弟方々によるものでしょう」
合点が行くも束の間、柱が消え、今度は爆発音。
空間が少し歪んでいるのも見える。
「加えて……皇国軍からの援軍があったと、ベルディンさんから聞いています。これは恐らく、その攻撃かと」
……訪れた静寂。
それに耐えかねたのか、エーリカが口を開く。
「……倒せた、んでしょうか?」
「きっとそうですよ、枢機卿閣下までいらしたんですから」
言葉ではそう言ったが、判っていた。
きっと、まだ生きている。
あの災害は、【グローリア】は。
「……っ!?」
「これ、は……!」
殺気。
先程までの静寂が嘘のような、濃密なもの。
恐怖に震え、腰を落としたエーリカを、シアは抱きとめる。
「っ、シアさん、エーリカさんをお願いします。僕は治療棟を!」
「はい!」
駆け出すタカキを見送りながら、背を擦り、心を落ち着かせようと試みる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
「落ち着いてください! まだ何も──」
ふと、空に何かが見えた。
「……光の、柱?」
《天罰の柱》は先程放たれた。
そして、あれは連発できるものではない。
儀式に参加した者は皆、【気絶】してしまうが故に。
何より、あれは天より降り注ぐ。
斜めに伸びたそれは、まるで地から放たれて──
「えっ」
──城壁が、消える。
伸びた光がゆっくりと動き、その消えた範囲が広がっていく。
まるで、白い絵の具で塗りつぶしたように。
「なに、それ……?」
理不尽に立ち向かうための力を得た。
しかし、目の前のこれは、何だ?
これは、理不尽と呼んで、足りるのか?
……頭を振る。弱音を追い払う。
(ここで折れちゃいけない)
彼女は誓った。己の夢と向き合うと。
他ならぬ想い人の前で誓い、見事に<超級>を討ち取った。
相対してさえいないのに、折れる訳にいかない。
そして何より……。
「フォルテスラ、さ……」
「信じましょう」
「っ、シア、さん」
「彼なら、勝てると」
恐怖に怯える人がいる。
理不尽に晒される人がいる。
(例えステータスがなくなったとしても……!)
別の戦い方が、ある筈だ。
「……祈りましょう」
「……は、はいっ!」
勝利を願う。
激しい戦闘の音は、窓の向こう、城壁を越え、戦場から響くもの。
(どうか、彼等に勝利を……!)
祈る、祈る。
戦闘の音は激化する。炸裂音に光、ありとあらゆる何かが、奮闘し、脅威を食い止めんとしている。
(どうか、どうか──)
祈る、祈る、祈り続ける。
──しかし。
……その願いを易々と塗りつぶせるのが、<SUBM>である。
無数の光条が伸びた。
城壁が消え、崩れた。
上階が蒸発し、跡形もなくなった。
崩れた外壁の、土煙の上がる、その奥に。
黄金に輝く、死が見えた。
「……そん、な」
何か手立ては──
「──シアさん」
ふと、呼び止められる。
見れば、エーリカさんが、微笑んでいた。
涙を流しながら、笑っていた。
世界がゆっくりと動いている。
「どうかあなたに、不死たる
「どうか、あの人に、夫に伝えてください」
「あなたの妻であれて、わたしは幸せでした」
「いつまでも──愛しています」
見たことがある顔だった。
あの時ペルセポネがしたような。
タカキが近頃するような。
諦める者の、顔だった。
「エーリカ、さ