翌日。
「で、やらんかったんやな」
「…………」
目を逸らす。
「やらんかったんやなっ!!」
「……あ、あはは……」
シアさんの苦笑いに、月夜さんがクソデカ溜め息を漏らし散らす。
色々あったのであろう事を、月夜さんに思いっ切り看破され。
そこへ至った理由を問い詰められた結果……こうなった。
泣いて、泣いて、泣き疲れて。
母に抱かれる子のようにして、ゆっくりと眠ったのだ。やる気力なんて無い。
それを馬鹿正直に言うことはないが。
「……やれるわけ無いでしょうに。人死に見た直後ですよ。情緒どうなってんですか」
「ゔ」
「何で、シアさんがダメージを受けてらっしゃるんで?」
「やる気満々やったんやろ、多分……あの下着付けとったんと違う?」
「つ、つつつつけてないですけどどどどど」
動揺し過ぎなシアさんと、それを見て爆笑する月夜さん。微笑ましそうなカグヤさんはいつもの通りか。
……んで、僕は憮然としていない。
いつも通りだな、この面子だと。
ひとしきり笑ったのち、気が済んだのか居住まいと顔とを澄まして、月夜さんが口を開く。
「……して、今日はどないしたんよ。そっちからお茶しよーって言うん初めてと違う?」
「ええと、ソウ様がご用があると」
「そうですね。1つだけですが」
「やってませんよーって?」
「違う違う違う違う」
態々言いに来るかそんな事を、全く。
……まあ、このタイミングでやるのは癪だが、やるしかあるまい。
「ん?」
一旦席から離れ、足を揃え、膝を揃え。
「え、ちょ──」
三指を突いて、土下に座す。
昨日に引き続き2度目だが、下げねばならない理由がある。
「──え、何?」
「超級職──【
系統なし超級職、【使徒】。
それが大分前、月夜さんが僕らを釣ろうとしたエサであり、今シアさんが取得しうる唯一の超級職である。
「ちょ、ソウ様……!? 私聞いてないですよ!?」
「言っていませんので」
尚、これは僕の独断であり、彼女の意思は介在しない。
正真正銘、僕の意思で、彼女に頭を下げている。
──超級職は、ちょっと惜しいですけど……。
──タカキ様にご迷惑を掛けてまで、得なければならない訳でも、ないですから。
あの時の帰り道、シアさんはそう言っていた。
……ならば。
僕が迷惑でないのなら。いや迷惑ではあるけども。
それでも僕が僕の意思で、彼女にこれを捧ぐなら。
きっと、問題は無い筈だ。
「……ふーん、どんな心変わりなんか知らんけど……とーぜんタダで貰おうなんて──」
「──思う訳がありません。以前の条件に加え、何か1つ言い値で付けて下さい」
「本気で言うとるん?」
「本気です」
ここまでしなければ、誠意を相手に見せることも出来ないだろう。
作家人生も財として、この交渉にペイする。
……女性にあそこまで言わせたのだ。
自分に向き合ってもらったんだ。
こうでもしなければ、その価値に見合わない。
何より──
「彼女の夢の為なら」
「理不尽を打ち砕く強者となる、その礎となるなら」
「僕としては、本望です」
その言葉を聞いて、彼女は深い、深い溜め息を吐いた。
「…………全く……アホな男やな」
「文才以外が無かったもので」
「何やそれ、嫌味か」
「事実です」
そこまでを聞いて、月夜さんは押し黙った。
何かをきっと考えているのだろう、うんうんと唸っている音は聞こえる。
「影やん」
「此処に居ります」
「紙と筆、あと硯と墨も」
「は、只今」
……よし。
失ったものは大きいかも知れないが、問題無い。
どうせ元々無かったものだし、金なら別に沢山ある。
生きるには到底困らないのだ。
書けなくなるのは……まあ、つまらないが。
ケータイ小説なんかに手を出してみるのも──
「ほい、顔上げ」
──おっと、呼ばれたか。
頭を上げると、いつもの笑顔を浮かべた月夜さんが、何か畳んだ紙を持っている。
「はい」
「これ、うち直筆の推薦状や。今しっかりこの場でしたためて、拇印もしっかり押しとる。十分使える筈」
「……ありがとうございます」
差し出された紙を懐へ収め、一息。
さて、信者生活のスタートか。
全く嫌な気分になるが、全く後悔はない。
「まあ対価としては……入信なんか願い下げやし、うちをモデルに1冊書いてーな」
……。
…………ん?
あれ?
なんか思ってたのと違う。
一冊、この人で書く……はい?
え、それ、それだけでいいんですかね???
こちらの呆気にとられた顔すらけらけらと笑うのは、流石の上位者と言うべきだろうか。
……癪に障るな、全く。いい意味でな。
「1冊で構わないんですか?」
「そないに目立ちたくないもん」
「教祖で<超級>が今更何を」
「ははは…………それも、そうやね」
なんでちょっと寂しげなんですかね。
強くなったが故の孤独ってか? 嫌味かよ。
まあ、とにかく余計なことは言わん。
貰えるものは、ありがたく受け取ろうじゃあないか。
◆
「さて……やっとですね」
「……はいっ」
聖堂の地下。
そこに浮かぶのは、【使徒】専用の転職クリスタル。
■【使徒】[転職可能]
┣◯1つの宗教を100年以上信仰する
┣◯信仰の関わるジョブの合計レベル500達成
┣◯【教皇】/【女教皇】からの推薦を受ける
┗◯一度死に、既存の魔法やスキルに依らず蘇る
就くための条件については、既に月夜さん側から受け取った古文書で知っていたが……改めて見た後だと何が就くことを想定したジョブなのだと突っ込みたくなる。
33年以上このゲームが続けば<マスター>にも就けただろうが、全く気が長過ぎるだろう。
……ついでにこれのお陰──せい──でシアさんが55も鯖を読んでいることが発覚したのだが、それはまた別の話。
「では……いきます!」
「はい」
シアさんがクリスタルに触れると、周囲の様子が書き換わる。
やはりと言うべきか、否か。
僕もこの試練の場へ入れたようだ。
「……よかった」
「そうですね」
何が来るのかは知らないが、僕とシアさんは2人で1つ。
戦闘以外ならまだ目はあるが、その戦闘であれば問題が生じかねない。
空間の中央、試練の扉にはこう記されていた。
【試練の道を歩みきれ】
【成功すれば、次代の【使徒】の座を与える】
【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】
失敗後のクールダウンは【猛王】と同様。
しかしながら、道を進むだけ……? 絶対に何か仕掛けがあるのは明白だ。
「なるほど……では!」
「え──はい?』
なんて僕の思案を尻目に、シアさんは僕をチャージャーへと変えた。
何か、見覚えがあるな。
その僕を右手に携えたまま、左手で扉へ触れる。
すると扉が開き、暗い、奥へ続く道が現れた。道幅はチャージャーが通っても問題ない程度に広い。
……ふと、【ラトゥ=ノゥエ】のベルトが巻き付き、シアさんの体が固定された。
何か、察したな。
「じゃあ、行きますね」
『本気で言ってます???』
「もちろんっ!!」
元気に返事をするんじゃないよ。
「──《エグゾースト》っ!!」
『で、す、よねぇぇぇぇ!?──』
◆
体感3秒ぐらいで通りきった。
◆
光が炸裂するようなエフェクトの中から姿を現したのは、
「お疲れ……様です……」
無駄に疲弊しながらも背を擦る僕と、
「ゔぅ……お゛ぇっ……」
擦られながらひたすらえづくシアさんである。
……通行中の反応を見るに、過去のトラウマや悲劇を再体験させられるタイプのものだったらしい。
あの速度で、その全部を一気に注ぎ込まれたのだ、こうもなろうて。
まあ、でも。
「お疲れ様です」
「あり、がとゔっ……ええ゛っ……ご、ざぃます……」
全く締まりはしないものの。
僕たちには、これぐらいがちょうどいい。
一旦一区切り
明日ちょっとEX出します
読みからわかるかも知れませんが
あの四文字の息子さんモチーフなので
条件がこうなりました
信仰の頂点が【女教皇】なのに対し
信仰の体現が【使徒】です
そしてそれ故に
柵も大きいものになります
タカキは頭が回りますが、短絡的です
事を急くと大概碌なことになりません
10/14 指摘があったので修正