系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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時系列的にはぐろーりあ章6話直後
使徒の取得よりも前です




EX3:あくしゅみ

 

「いつ籍入れんの?」

 

 羊の串焼き肉を食みながら、総一郎がこちらに囁く。

 久し振りの飲みではあるが、話題がはっちゃけ過ぎちゃいないか?

 

「流石に今はないだろ。被災後の処理もまだ残っているし、シアさんも色々とごたついてる」

「んじゃそれ終わったらか」

「終わって、暫く経って、ほとぼりが冷めたら、だな」

「おっっっっっそいなぁっ、と」

 

 呆れたように串を投げてくる。汚いし危ない。

 お前ダーツ得意なんだから止めろよ……取れるけどさ。

 

「そんな悠長なこと言ってると、マンネリ起こして、倦怠期きて、より面倒くせぇよ?」

「……マンネリ起こせる状況じゃないんだよ」

「おぅ、清くただしいねぇ……精々片手で数えられるぐらいか」

「ゼロだわ、ゼロ」

「…………え、ウッソでしょお前」

 

 目を丸くして驚く姿は、たまにしか見れぬレアなもの。

 しかしながらそれに気を取られていては、ここから来るだろう猛攻には備えられまい。

 ……ただでさえ、酔ってるせいで余計なことを言ってしまっているのだ。

 

「さすがに冗談だよな? なぁ? そうだと言ってくれ。マジでさぁ……!」

「……悪いか、まだ童貞で」

「うーわ……嘘だろ。あの距離感で?」

 

 何度か仕事の依頼をされ、受け取る際に顔を合わせることもある。

 その時の姿を言っているんだろうが、如何せん色々言われたくない。

 

「相手の居ない奴に、この微妙な距離感は分からんか。残念だよ」

「いや居るよアホ」

「…………はぁ!?」

 

 今日一の声が出た。

 居る……居るの? こいつに?

 

「声デケェよ……」

「誰だよ。おい。誰だって」

「オレの秘書。まあ籍入れてるだけだけどさ」

「どっちの」

「どっちも」

「……え2人?」

「1人だわ」

「……え秘書さんってあの秘書さんと同一人物なん?」

「急に関西弁。でもまあ……そうだよ?」

 

 こいつの秘書さん──現実でもこいつは社長なので、その補佐みたいな──には何度か会ったことがある。

 明朗で快活な、明るい人。

 慇懃どころか慇懃過ぎる、物静かなデンドロ内の姿とは、まるで結びつかない。

 

「秘書にゲーム内でも秘書やらすとか、職権乱用かお前」

「逆でーす、逆逆。ゲーム内で秘書にして、有能だったから会社に誘って、んで籍入れた」

 

 事も無さ気に言うことじゃない……よねぇ……?

 

「実家が煩かったらしくてさー。オレもちょうどハニトラ面倒くさかったから、これ幸いと」

「……義務仮面夫婦か」

「まあそんなとこ?」

 

 ……ならまあ、そんな影が無かったことも理解できる。

 ギリギリだけどな、ギリギリ。

 

「でさ」

「……何だ」

「まだお前が童貞だって話に戻ろうか?」

 

 チッ……クソ、覚えてやがったか。

 さて、どう誤魔化そ──

 

「──なあ、その話」

 

 …………え。

 なんで、聞き覚えのある声が?

 顔を向ければ──なんで居るの?

 

「うちも混ぜてくれへん?」

「……月夜、さ、ん?」

 

 ふと、その後方で動く人影が。

 そちらを見れば、利発そうな眼鏡の女性が後を駆けてきて、その後を更に店員さんが追って来ていた。

 

「すいません、知り合いがご迷惑を……」

「お客様、列から店内に入るのはご遠慮──」

「あー、すいません。待ち合わせしてるって言い忘れちゃってて。ドリンクバー2つ追加で」

「っ、え……」

「……そう、でしたか。かしこまりました」

 

 入り口側へ捌けていく店員さん。

 こういう機転が利くのは、流石の総一郎である。

 

「はーい、席変わるから詰めて、蒼介」

「ああ。お二方もどうぞお掛けに」

「ありがとなー」

「……本当に申し訳ありません」

 

 にこやかなのは相も変わらず。

 それに振り回されているのもいつもどおりっぽそうだ。

 

「んで、そこのお兄ちゃんはソウちゃんのお知り合い?」

「名乗るならそっちからじゃないかなぁ?」

 

 そしてなんでお前らはちょっと険悪なんだよ。

 

 ◆

 

 飲み物を取ってきて、再開。

 まずメガネの女性が頭を下げた。

 

「藤林梢と申します。T大の1年で──」

「──はぁ。扶桑月夜。T大2年」

「あら、後輩ちゃんなんだ」

「……だな」

「科類は?」

「私が文Ⅰで、扶桑先輩が理Ⅲです」

「言わんでえぇてもう……」

「あー法学部と医学部志望かぁ。何なら梢ちゃんはオレら直々の後輩じゃない?」

「確かに文学科だったが僕はⅢ類で文学部行きだ文Ⅱのアホ」

「……そだっけ?」

 

 バカはさておき、見事に分野が全員違うな。

 んで……医学部志望は、まあ、頷けるか。<月世の会>設立の由来が由来だからな。

 

「そうだったんですね……お名前をお伺いしても?」

「鳴海総一郎、実業家」

「……城田蒼介、無職」

「いや小説家でしょ」

「小説家やんな」

「ねー」

「なー」

 

 ……仲良いんだか悪いんだかはっきりしてくれないか。

 

「小、説……城田……えっ、あの高──、っあ、すいません」

 

 しかしメガネのまともそうな人は、話が通じそうでいい。

 何せ、立てた人差し指を口に宛てがっただけで伝わるのだ。

 この場に居る若干2名は黙れと言わないと止まることがないと考えると、本当にかなりいい。

 

「でも……そうなんですね。著作は幾つかご拝読致しまして……」

「梢ちゃん梢ちゃん、止めたげて。蒼介そういうの苦手だから」

「……失礼しました。私は、何も、見ていませんし、聞いていません」

「わぉ。めちゃめちゃ良い人だ」

「恐縮です」

 

 本当に出来た人だなこの……藤林さんか。

 それを見て、少し面白くなさそうな月夜さん。

 

「……で、ソウちゃん。何でこんなお店で寂しく2人飲みなんかしとるん?」

「久しぶりに誘われたんです、これに」

 

 左方向を指差す。

 

「時間空いたし、近場で飲もーって言ったらここになったんだよね。美味しいから良いけど、エスカルゴとか」

「私も好きです」

「あじゃ頼む? どうせ蒼介が払うし遠慮しなくていいよ」

「お前は遠慮と言うものを知れ」

 

 ◆

 

「──でよ、ソウちゃんずーっともだもだもだもだしとんねん」

「わっかるー……マジで腹立つ。あんなラブラブなのに」

 

 そして、色々運ばれてきた末に、酒の入った若干2名が愚痴り始めた。

 月夜さんはギリギリ20歳。藤林さんは現役合格と確定でアウトなので、ソフトドリンクをちびちび飲んでいる。

 

「……まさかゲームの中でも名義が同じとは」

「意外でしょ? こいつそういうとこあんだよね」

「セフィロスとかその辺りのノリだと思っていました。まさか本人が名義と顔を使うわけがない、と」

「言われとんよー」

「Shut up, please」

 

 自分でも今なら無いって解る。

 でも現実の顔以外でシアさんに惚れられるのもそれはそれで嫌だし、なかなか難しい。

 

「……まあ、後悔と半々ですが、良かったと思っていますよ。身近にそれの典型がいるお陰で、そうやって勘違いしてくれる方もいますし」

「マルクスさん、ですか」

「そゆことー」

「……え、あれ何かのキャラなん?」

「ボーダーランズの武器商人、マーカス・キンケイドですね」

「あら、梢ちゃんお詳しい」

「ファンなので。……3はくたばって欲しいですが」

「あー、3はなぁ……」

「そうですね……」

「……そんなあれなん?」

「前作の人気キャラが軽率に新キャラに殺される展開って、どう思います?」

「クソと違う?」

「だから僕はそういうの書かないんですよ」

「続き物じゃないしね」

 

 それはそ──

 

「──あ、蒼介! それオレの!」

 

 ──う、っとぉ!?

 

「……っぶねぇ」

「あーこっわ。介抱するのオレなんだからね?」

「悪い、ボーッとしてた」

「……愛しのシアちゃんのことでも考えとったんやろ」

「違います」

「いやどうせそうでしょ」

「うるせぇ既婚」

「黙れよ童貞」

「んぶっ……、ゲホッ、ゲホッ……!?」

 

 ああ、藤林さんが噎せている。

 その目はこちらへ……ああ嘘だろ君もか。

 

「けほっ……あまり、こういう話はしたくありませんが、本当に、その……やられていないんですか? シアさんとは」

「……はい」

「うわぁ……」

 

 そんなかな。そんな言われるぐらいかな。

 

「さっさと抱けっちゅうとんのにずーっともだもだもだもだもだもだもだもだ……腹立つわもう!」

「そーだそーだー、さっさと妊娠確定させろー」

「とんでもないこと宣うな平場で……」

 

 全く──う、わ、葡萄と酒精……?

 

「あ゛」

「あら」

「えっ」

 

 意識が、遠のいて──

 

 ◆

 

 ■

 

 

「やーべ、やらかした」

 

 もう一度同じ過ちをして、そのまま完遂に至るとは、流石の総一郎の目を以てしても見抜けなかった。

 

「なーんや、もうちょっと弄れる思うたんやけどなー」

「先輩、悪趣味かと」

 

 本当にそうだと、総一郎は心中で憤慨する。

 ……人のものを取るな、というそれに近い感情。

 強い、強い執着心と、■■とが、それを突き動かす。

 

 その■■が何かは、本人にすら今は解らなかった。

 解らないふりをしていた。

 

「……お前の悪趣味さもバラしたろ思うたんに」

「うるせぇよクソ女」

「あぁ?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 アレクシア関連については同意見だったが、それ以外ではやはり相容れない。

 割って入ろうとした梢すら、彼らの気迫に気圧される。

 

「今度会ったらぶっ潰すから」

「やれるもんならやってみぃや格下のクセして」

「……チッ、これ。お釣りは要らないから」

 

 財布から3枚の1万円札を出し、机へ叩きつける。

 そのまま倒れた友人を担ぐと、いそいそとその場を離れていった。

 

 ──そして、その様子を見送った月夜は。

 

「はぁ、嫌な顔見た。よっしゃー、この金全部使い果たすでー」

「……会長」

「ん、どうした……ん……?」

 

 隣に座る後輩の背に、鬼の顔を幻視したという。





ここで終わり
次章まで暫くお待ちを

重いキャラが好きです
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