系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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誤字脱字を恐れに恐るのですが
色々あって推敲が終わりません

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本当にありがとうございます




たびじ
1:てんてん


 

 シアさんが【使徒】となり、10日ほど。

 

 諸々の引き継ぎは終わった。家の荷物も、一通り纏めた。

 愛着も湧いてきた場所ではあるが、全く仕方が無い。

 

「じゃあ……行きましょう」

「……はいっ」

 

 今日この日を以て──僕とシアさんは、アルター王国から離れることになった。

 

 ◆

 

 【使徒】という超級職は、国教であるかの“名もなき宗教”の、信仰の果てに存在する。

 いわばその象徴であり、伝説。

 有史上、就いた者は両手の指で数え切れる。

 そしてそれ故に……一国が有することの出来るものではない。

 各国に信者が居り、普遍的に信仰されるものであるからこそ、アルター王国所属、という立場であってはならない。

 

 ──どうか……理解して欲しい。

 

 そう説明した上でこちらへ頭を下げたのは、現国王たるエルドル・ゼオ・アルター。

 かの御仁直々にそこまで言われてしまったのだ、最早どうしようもない。

 

 ……あの女にしてやられた、という気は否めない。

 国教の勢力は、あの【グローリア】の影響で格段に数を減らした。

 指導者であったベルディンさんも、あの場で命を落としている。

 その後任を……要は体よく退かす為には、丁度いい口実だったのだろう。

 

 しかしまあ、恨みはない。

 下調べをきちんとせず、事を急いたツケであろう。

 こちらにもしっかりとした非があるのだから、それを棚上げするのは無理だろう──

 

「どういう、おつもりなんですか──月夜様っ!」

 

 ──シアさんを、除いては。

 

「どういうつもり、言われてもなー……見ての通り、他宗教の弱体化?」

「何を、言って……」

 

 事もなさ気に、ゆったりと寛ぎながら放たれた言葉。

 それ愕然とするシアさんは、手を震わせ、戦慄かせていた。

 

 面白くなさそうな顔の月夜さんは、更にそこへ追い打ちをかける。

 

「別に目ぇ掛けてたんはシアちゃんだけ。恋路も応援するにはする」

 

「でもな? それと()()とは話が別や」

 

「お友達やかて油断したらあかんよ?──異教は、異教やさかい」

 

 息を呑む。

 冷たい、本当に面白くなさそうな視線。

 あの飲みの時に現れ、総一郎に向けたそれと、酷く似ている。

 

「はぁ、用事は済んだやろ。さっさと帰り」

「ま、待って──っ、ぐ……!?」

 

 夜が広がる。体が重くなって、息がし辛い。

 ……これが、月夜さんの<エンブリオ>、【カグヤ】の《月面除算結界》だろう。

 

 受けてみれば良く解る……格が違い過ぎだ。

 

「……もう、来んでええよ。気ぃ悪いわ」

 

 一瞥すると、彼女はそっぽを向いて部屋を出ていく。

 

「どう、して……っ」

「……シアさん」

 

 倒れ伏し、手を伸ばすシアさんを、僕は見つめるしかなかった。

 

 ◆

 

「本当に、すみません」

 

 頭を、深く下げる。

 

「全ては僕の責任です。力を得ることに固執し過ぎて、その影響を考えていなかった」

「いえ、ソウ様は悪くないですよ。……本当に」

 

 顔を上げる。

 シアさんの顔は、やはり暗い。

 

 出奔する、というのは……まだ、まあ良い。

 しかし、ベルディンさんから彼女が託された国教の指導者という立場も、自分の手から離させねばならなかった。

 託された思いを、願いを、責務を、自分の手で捨てさせねばならなかった。

 ……咎としては、今まで以上に重い。

 

「もう少し、僕の考えが及んでいれば──」

「──もうっ、たらればは止めましょ?」

 

 下げた頭を、軽く上げられる。

 困ったような、泣きそうな顔をしながら、彼女は笑っていた。

 

「シア、さん……」

「いつかしたかったことが、やらなきゃいけないことになっただけですもん」

 

 彼女がどうなろうとしていたか、僕は知らない訳じゃない。

 強さと名声による、擬似的な抑止力。

 教えの名の下に座す、強大な力。

 

 その為の第一歩だった“国教の守人”の肩書。地盤固めの最初の一手。

 手の届く場所から、より遠くへ、より多くへ。少しずつ、少しずつその手を広げていく為に。

 いつか、全ての理不尽を打ち砕けるようになる、その日に向けて。

 

 ……その地盤が固まる前に、僕は世界へと手を伸ばさせてしまった。

 伸ばさざるを得ない、を作ってしまった。

 その重みに耐えきれる力もないままに。

 

「……それに……強さゆえのしがらみ、ってものですから」

 

 ……強くなったというのならば。

 この理不尽をどうにかする力を、願わくば……手に入れたいものだった。

 

 ◆

 

「早く行きましょう、遅れてしまいます」

「……そう、ですね」

 

 暗い顔の彼女を連れ、人の往来を縫い歩く。

 

 見送りを期待していた訳では無い。

 復興真っ只中では、みんな忙しいのは知っていた。

 でも、無いなら無いで……少し寂しいものだ。

 

 竜車の駅は人が多く、荷物を運び入れる駅員や、別れを惜しむ家族の姿が見える。

 そういう部分は、ファンタジーな世界でも、現実でも、さして変わりがな……ん?

 

 シアさんが立ち止まり、周囲を見回し始める。

 何かを、探しているような。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、何か──」

「──居た! ここです! ここ!」

 

 見知った声に、シアさんの顔色が変わった。

 

「……はぁ、はぁ……どうにか、間に合いました……!」

「おう……ふぅ、危ねえ」

「人が多いもんだから分かりづらくて……ごめんね、遅れて」

 

 息を切らすシエンさんに、続く灰流さんとミスティさん。

 ギリギリではあったが、どうにか間に合ったらしい。

 

「ありがとうございます、皆様」

「なーんか気づいたら天上人みたいになっちゃって。天狗みたく鼻っ柱伸びてたら折るつもりだったけど……」

「んな必要ねぇ、って言っても聞かなくてよ」

「実際見ないと分からないでしょ?」

「【天狗】は……東方のジョブですし、取っていませんが……」

「そういう言い回しがあるんです。鼻高々になり過ぎて、鼻の伸びた天狗になる、と」

「なる、ほど……」

 

 ああ、あんま納得いってないなシアさん。

 まあこっちの【天狗】ってジョブだし、鼻も伸びるわけじゃないからな。

 

 ……っっと、拙い。

 発着の用意を知らせる笛の音が響いた。そろそろ本当に乗らねば置いていかれる。

 

「では、僕らはこれで」

「皆様、お元気でっ!」

「おう、気ぃつけろよ!」

「元気でね!」

「ボクのこと、あっちでも広めてくださいねー!」

 

 知名度の低さを気にするんじゃない。

 その内に、ちゃんと広まるだろうさ。

 

 階段を登ると、直後に扉が閉められた。

 車内はよく見るマルクスのあれにそっくりだったが、今回は人がすこぶる多い。

 それでも2人で座れる位には空きがあったが、大体多くても……5人だったからなあ。

 

 窓の外に目を向ければ、こちらへ手を振る友人たちの姿。

 それに手を振り返すシアさんを見て、それに続く。

 

「間もなく発車致します」

 

 車掌らしきティアンの方がそう言うと、少しの揺れとともに身体が前へと引かれ、やがて景色が動き始める。

 

「……どんな場所、なんでしょうね」

「始めての場所ですから、気は引き締めて行きましょう」

「はいっ」

 

 大陸各地にある数々の教会。

 そこを転々とするのが、これからの僕たちの生活となる。

 

 まず向かう先は、お隣の国。

 蒸気と鋼鉄の国──ドライフ皇国だ。





オーバーパワーは制限されて仕方ないのです
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