誤字脱字を恐れに恐るのですが
色々あって推敲が終わりません
4000UA・お気に入り60件達成しました
本当にありがとうございます
1:てんてん
シアさんが【使徒】となり、10日ほど。
諸々の引き継ぎは終わった。家の荷物も、一通り纏めた。
愛着も湧いてきた場所ではあるが、全く仕方が無い。
「じゃあ……行きましょう」
「……はいっ」
今日この日を以て──僕とシアさんは、アルター王国から離れることになった。
◆
【使徒】という超級職は、国教であるかの“名もなき宗教”の、信仰の果てに存在する。
いわばその象徴であり、伝説。
有史上、就いた者は両手の指で数え切れる。
そしてそれ故に……一国が有することの出来るものではない。
各国に信者が居り、普遍的に信仰されるものであるからこそ、アルター王国所属、という立場であってはならない。
──どうか……理解して欲しい。
そう説明した上でこちらへ頭を下げたのは、現国王たるエルドル・ゼオ・アルター。
かの御仁直々にそこまで言われてしまったのだ、最早どうしようもない。
……あの女にしてやられた、という気は否めない。
国教の勢力は、あの【グローリア】の影響で格段に数を減らした。
指導者であったベルディンさんも、あの場で命を落としている。
その後任を……要は体よく退かす為には、丁度いい口実だったのだろう。
しかしまあ、恨みはない。
下調べをきちんとせず、事を急いたツケであろう。
こちらにもしっかりとした非があるのだから、それを棚上げするのは無理だろう──
「どういう、おつもりなんですか──月夜様っ!」
──シアさんを、除いては。
「どういうつもり、言われてもなー……見ての通り、他宗教の弱体化?」
「何を、言って……」
事もなさ気に、ゆったりと寛ぎながら放たれた言葉。
それ愕然とするシアさんは、手を震わせ、戦慄かせていた。
面白くなさそうな顔の月夜さんは、更にそこへ追い打ちをかける。
「別に目ぇ掛けてたんはシアちゃんだけ。恋路も応援するにはする」
「でもな? それと
「お友達やかて油断したらあかんよ?──異教は、異教やさかい」
息を呑む。
冷たい、本当に面白くなさそうな視線。
あの飲みの時に現れ、総一郎に向けたそれと、酷く似ている。
「はぁ、用事は済んだやろ。さっさと帰り」
「ま、待って──っ、ぐ……!?」
夜が広がる。体が重くなって、息がし辛い。
……これが、月夜さんの<エンブリオ>、【カグヤ】の《月面除算結界》だろう。
受けてみれば良く解る……格が違い過ぎだ。
「……もう、来んでええよ。気ぃ悪いわ」
一瞥すると、彼女はそっぽを向いて部屋を出ていく。
「どう、して……っ」
「……シアさん」
倒れ伏し、手を伸ばすシアさんを、僕は見つめるしかなかった。
◆
「本当に、すみません」
頭を、深く下げる。
「全ては僕の責任です。力を得ることに固執し過ぎて、その影響を考えていなかった」
「いえ、ソウ様は悪くないですよ。……本当に」
顔を上げる。
シアさんの顔は、やはり暗い。
出奔する、というのは……まだ、まあ良い。
しかし、ベルディンさんから彼女が託された国教の指導者という立場も、自分の手から離させねばならなかった。
託された思いを、願いを、責務を、自分の手で捨てさせねばならなかった。
……咎としては、今まで以上に重い。
「もう少し、僕の考えが及んでいれば──」
「──もうっ、たらればは止めましょ?」
下げた頭を、軽く上げられる。
困ったような、泣きそうな顔をしながら、彼女は笑っていた。
「シア、さん……」
「いつかしたかったことが、やらなきゃいけないことになっただけですもん」
彼女がどうなろうとしていたか、僕は知らない訳じゃない。
強さと名声による、擬似的な抑止力。
教えの名の下に座す、強大な力。
その為の第一歩だった“国教の守人”の肩書。地盤固めの最初の一手。
手の届く場所から、より遠くへ、より多くへ。少しずつ、少しずつその手を広げていく為に。
いつか、全ての理不尽を打ち砕けるようになる、その日に向けて。
……その地盤が固まる前に、僕は世界へと手を伸ばさせてしまった。
伸ばさざるを得ない、を作ってしまった。
その重みに耐えきれる力もないままに。
「……それに……強さゆえのしがらみ、ってものですから」
……強くなったというのならば。
この理不尽をどうにかする力を、願わくば……手に入れたいものだった。
◆
「早く行きましょう、遅れてしまいます」
「……そう、ですね」
暗い顔の彼女を連れ、人の往来を縫い歩く。
見送りを期待していた訳では無い。
復興真っ只中では、みんな忙しいのは知っていた。
でも、無いなら無いで……少し寂しいものだ。
竜車の駅は人が多く、荷物を運び入れる駅員や、別れを惜しむ家族の姿が見える。
そういう部分は、ファンタジーな世界でも、現実でも、さして変わりがな……ん?
シアさんが立ち止まり、周囲を見回し始める。
何かを、探しているような。
「どうかしましたか?」
「いえ、何か──」
「──居た! ここです! ここ!」
見知った声に、シアさんの顔色が変わった。
「……はぁ、はぁ……どうにか、間に合いました……!」
「おう……ふぅ、危ねえ」
「人が多いもんだから分かりづらくて……ごめんね、遅れて」
息を切らすシエンさんに、続く灰流さんとミスティさん。
ギリギリではあったが、どうにか間に合ったらしい。
「ありがとうございます、皆様」
「なーんか気づいたら天上人みたいになっちゃって。天狗みたく鼻っ柱伸びてたら折るつもりだったけど……」
「んな必要ねぇ、って言っても聞かなくてよ」
「実際見ないと分からないでしょ?」
「【天狗】は……東方のジョブですし、取っていませんが……」
「そういう言い回しがあるんです。鼻高々になり過ぎて、鼻の伸びた天狗になる、と」
「なる、ほど……」
ああ、あんま納得いってないなシアさん。
まあこっちの【天狗】ってジョブだし、鼻も伸びるわけじゃないからな。
……っっと、拙い。
発着の用意を知らせる笛の音が響いた。そろそろ本当に乗らねば置いていかれる。
「では、僕らはこれで」
「皆様、お元気でっ!」
「おう、気ぃつけろよ!」
「元気でね!」
「ボクのこと、あっちでも広めてくださいねー!」
知名度の低さを気にするんじゃない。
その内に、ちゃんと広まるだろうさ。
階段を登ると、直後に扉が閉められた。
車内はよく見るマルクスのあれにそっくりだったが、今回は人がすこぶる多い。
それでも2人で座れる位には空きがあったが、大体多くても……5人だったからなあ。
窓の外に目を向ければ、こちらへ手を振る友人たちの姿。
それに手を振り返すシアさんを見て、それに続く。
「間もなく発車致します」
車掌らしきティアンの方がそう言うと、少しの揺れとともに身体が前へと引かれ、やがて景色が動き始める。
「……どんな場所、なんでしょうね」
「始めての場所ですから、気は引き締めて行きましょう」
「はいっ」
大陸各地にある数々の教会。
そこを転々とするのが、これからの僕たちの生活となる。
まず向かう先は、お隣の国。
蒸気と鋼鉄の国──ドライフ皇国だ。
オーバーパワーは制限されて仕方ないのです