「かいぱーんっ!」
「……乾杯」
掲げられたジョッキに応えると、マルクス……もとい、
あちらとは打って変わっての好青年、或いは軽薄そうな姿。
ピアスがバチバチに空いてはいるが、それを差し引いても顔は整っていて様になる。
僕はそれについていけるほど強くはないので、一先ずは一口に留め置く。
麦とホップの香り、喉を刺す発泡。ああ、痛い。
炭酸は好きだが苦手なのだ。
尚、今はクエストの打ち上げ中。
それを、僕が死んだこともあって行きつけの居酒屋で行っていた。
因みに名物は茶碗蒸しである。主に不味さで有名だ。
「はぁー、上手くいってマジで良かったー」
飲み干して開口一番、漬物か何かを噛みながらの一言。
よほど安堵しているのか、若干語気が弱かった。
「依頼者は生存、コレだけでリザルト的にはトリプルSってカンジ?」
「海外向けでもあるんだから、どちらかと言えばA++か、或いはEX評価だろうよ」
「あーそっか。まあどっちでも良いだろ?」
「それはそう」
胡瓜を食む。美味い。
「てかジェーンちゃんから聞いたんだけどさ、なんなんそれ?」
「……悪い、どれだ」
「光ってシアちゃんごとデスペナるヤツ」
「ああ」
面倒なことになった。
説明する気は毛頭なかったのだが、誤魔化すには知られ過ぎている。
「言ってなかったか。<エンブリオ>の効果だよ」
「やーっぱメリット効果隠れてんじゃん! 何だよデメリットしかないみてぇな言い方しやがってよぅ……あ、すいません生中2つ」
「はいよろこんでー」
「そうだったか?」
「そうだったわさ」
きっ、と睨まれても言いたくなかったのだから仕方ない。
「洗いざらい吐けやーい、酒と一緒に」
「酒は吐かん。ただ、説明はしてやる」
「……え良いの?」
「良い。悪用はしないだろ、お前だったら」
わずかな沈黙。
こちらがまっすぐに見つめてみれば、ばつが悪そうに目を逸らし、頬を掻く。
やがて沈黙を破るように、総一郎がぽつりと漏らした。
「……どうだろなぁ……?」
「おい止めろ馬鹿。色々台無しだろうが」
◆
そんな具合でじゃれ合いながら、駄弁りながら、ゆっくりと説明を進めて、終えて。
「……ロクでもない、っていうかヤバすぎるだろそれ?」
総一郎の反応はこんな具合であった。
いやはや、つまみが進む。
下戸である故に、酒が進むとぶっ倒れるのでその代替だ。
「ああ、ヤバいな」
「良く使う気になったね、遊戯派なのにさー」
「……ん? 何だそれ」
聞き慣れない単語に首を傾げると、説明しよう! と言わんばかりに総一郎が牛串を掲げる。
行儀が悪い。個室で良かったなお前。
「あのゲーム、リアルすぎるでしょ? だからさ、そういう世界として扱うやつと、ゲームはゲームって割り切れるやつで2派閥出来てんのよ」
「なる、ほど?」
「んで、前者は世界派。後者は遊戯派って呼ばれてる。で、
「ああ……まあ、ゲームはゲームだからな」
「でしょ?」
食べ終えた串をこちらに向けられる。汚い。
なお、蒼介とは僕の実名である。
「でも、……あー少なくともジェーンちゃんから聞く限りは、だけど。感情的になって割って入った、んだよね?」
「まあ、そうなるな」
「何でよ」
「何で、と聞かれても……僕は小説家だぞ?」
「んえ?」
「話に感情移入出来る感受性が無いとでも思ってるのか?」
僕がそう言うと、あいつは串を皿に置き、腕を組んで何かを考え始めた。
「あー……あーはいはい。なるほど。そりゃそうだわ」
「納得、出来たか?」
「もろちん」
「陰茎を出すな馬鹿が」
■
──ティアンを<マスター>にする<エンブリオ>ってなんなんだよ……。
は、何て?
──いやだから、ティアンを、<マスター>にするんだよ。
……どうやって?
──ティアンをひとりえらんで、さわって、スキルをつかうだけ。でもかいじょにかんしてはどういがいる……。
──へたにつかえねぇんだってこんなんじゃよぉ……!
なーるほど……?
◆
「はは、笑えねー」
打ち上げの帰り道。程よく酔いの回った頭で、総一郎はいつぞやのことを思い返す。
具体的には、友人の<エンブリオ>が孵り、自分が勢いで自害し、結果飲みに付き合わされたあの日。
わけのわからないことを言い出したから、叩けば埃が出るわ出るわ。
その癖、ベロベロに酔っ払っていたせいで本人は覚えていないと来た。
故にあの長ったらしい、既に知っている物事の説明を、今度は呂律の回った相手から聞くことになってしまった。
初見らしい反応ができたかどうか、総一郎はイマイチ不安だった。
尤も蒼介も軽く酔っていた以上、あまり考えなくてもいいだろうと、この男はアタリをつけている。
「でも、まあ」
酔っ払うと口が軽くなり、その上何を話したか一切覚えていない。
「……いや、マジで笑えねぇって」
今後とも、自分の目の届く場所以外では呑ませないようにしよう。
得た情報を都合よく使い、高い素質を持ったティアンを体よく<マスター>にさせた自分を棚上げしながら、総一郎は固く心に誓った。
9/22 改稿