系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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5:りざると

「かいぱーんっ!」

「……乾杯」

 

 掲げられたジョッキに応えると、マルクス……もとい、総一郎(そういちろう)は中身を一気に飲み干す。

 あちらとは打って変わっての好青年、或いは軽薄そうな姿。

 ピアスがバチバチに空いてはいるが、それを差し引いても顔は整っていて様になる。

 

 僕はそれについていけるほど強くはないので、一先ずは一口に留め置く。

 麦とホップの香り、喉を刺す発泡。ああ、痛い。

 炭酸は好きだが苦手なのだ。

 

 尚、今はクエストの打ち上げ中。

 それを、僕が死んだこともあって行きつけの居酒屋で行っていた。

 因みに名物は茶碗蒸しである。主に不味さで有名だ。

 

「はぁー、上手くいってマジで良かったー」

 

 飲み干して開口一番、漬物か何かを噛みながらの一言。

 よほど安堵しているのか、若干語気が弱かった。

 

「依頼者は生存、コレだけでリザルト的にはトリプルSってカンジ?」

「海外向けでもあるんだから、どちらかと言えばA++か、或いはEX評価だろうよ」

「あーそっか。まあどっちでも良いだろ?」

「それはそう」

 

 胡瓜を食む。美味い。

 

「てかジェーンちゃんから聞いたんだけどさ、なんなんそれ?」

「……悪い、どれだ」

「光ってシアちゃんごとデスペナるヤツ」

「ああ」

 

 面倒なことになった。

 説明する気は毛頭なかったのだが、誤魔化すには知られ過ぎている。

 

「言ってなかったか。<エンブリオ>の効果だよ」

「やーっぱメリット効果隠れてんじゃん! 何だよデメリットしかないみてぇな言い方しやがってよぅ……あ、すいません生中2つ」

「はいよろこんでー」

「そうだったか?」

「そうだったわさ」

 

 きっ、と睨まれても言いたくなかったのだから仕方ない。

 

「洗いざらい吐けやーい、酒と一緒に」

「酒は吐かん。ただ、説明はしてやる」

「……え良いの?」

「良い。悪用はしないだろ、お前だったら」

 

 わずかな沈黙。

 こちらがまっすぐに見つめてみれば、ばつが悪そうに目を逸らし、頬を掻く。

 やがて沈黙を破るように、総一郎がぽつりと漏らした。

 

「……どうだろなぁ……?」

「おい止めろ馬鹿。色々台無しだろうが」

 

 ◆

 

 そんな具合でじゃれ合いながら、駄弁りながら、ゆっくりと説明を進めて、終えて。

 

「……ロクでもない、っていうかヤバすぎるだろそれ?」

 

 総一郎の反応はこんな具合であった。

 いやはや、つまみが進む。

 下戸である故に、酒が進むとぶっ倒れるのでその代替だ。

 

「ああ、ヤバいな」

「良く使う気になったね、遊戯派なのにさー」

「……ん? 何だそれ」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げると、説明しよう! と言わんばかりに総一郎が牛串を掲げる。

 行儀が悪い。個室で良かったなお前。

 

「あのゲーム、リアルすぎるでしょ? だからさ、そういう世界として扱うやつと、ゲームはゲームって割り切れるやつで2派閥出来てんのよ」

「なる、ほど?」

「んで、前者は世界派。後者は遊戯派って呼ばれてる。で、蒼介(そうすけ)はどっちかってーと遊戯派じゃんね、ってハナシ」

「ああ……まあ、ゲームはゲームだからな」

「でしょ?」

 

 食べ終えた串をこちらに向けられる。汚い。

 なお、蒼介とは僕の実名である。

 

「でも、……あー少なくともジェーンちゃんから聞く限りは、だけど。感情的になって割って入った、んだよね?」

「まあ、そうなるな」

「何でよ」

「何で、と聞かれても……僕は小説家だぞ?」

「んえ?」

「話に感情移入出来る感受性が無いとでも思ってるのか?」

 

 僕がそう言うと、あいつは串を皿に置き、腕を組んで何かを考え始めた。

 

「あー……あーはいはい。なるほど。そりゃそうだわ」

「納得、出来たか?」

「もろちん」

「陰茎を出すな馬鹿が」

 

 

 ■

 

 

──ティアンを<マスター>にする<エンブリオ>ってなんなんだよ……。

 

 は、何て?

 

──いやだから、ティアンを、<マスター>にするんだよ。

 

 ……どうやって?

 

──ティアンをひとりえらんで、さわって、スキルをつかうだけ。でもかいじょにかんしてはどういがいる……。

 

──へたにつかえねぇんだってこんなんじゃよぉ……!

 

 なーるほど……?

 

 ◆

 

「はは、笑えねー」

 

 打ち上げの帰り道。程よく酔いの回った頭で、総一郎はいつぞやのことを思い返す。

 具体的には、友人の<エンブリオ>が孵り、自分が勢いで自害し、結果飲みに付き合わされたあの日。

 

 わけのわからないことを言い出したから、叩けば埃が出るわ出るわ。

 その癖、ベロベロに酔っ払っていたせいで本人は覚えていないと来た。

 故にあの長ったらしい、既に知っている物事の説明を、今度は呂律の回った相手から聞くことになってしまった。

 

 初見らしい反応ができたかどうか、総一郎はイマイチ不安だった。

 尤も蒼介も軽く酔っていた以上、あまり考えなくてもいいだろうと、この男はアタリをつけている。

 

「でも、まあ」

 

 酔っ払うと口が軽くなり、その上何を話したか一切覚えていない。

 

「……いや、マジで笑えねぇって」

 

 今後とも、自分の目の届く場所以外では呑ませないようにしよう。

 得た情報を都合よく使い、高い素質を持ったティアンを体よく<マスター>にさせた自分を棚上げしながら、総一郎は固く心に誓った。

 





 9/22 改稿
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