系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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4:あらがって

 

 気づいた切っ掛けは少し前。

 旅立つ直前のわが家で、食事をして、その日は僕が食器を洗う番だった。

 その時、彼女が少し気に入っていた皿を、僕は取り落とし──

 

 ──あぶっ、な、あぁ……。

 

 ──脇から顔を出した彼女が、それを見事にキャッチしたのだ。

 ……()()()()()()()()()()()()()、である。

 

「…………それで色々調べた結果、目の前であれば当然の如く。それ以外でも、彼女自身が直に関わるのであれば、どんな些細な“負の物事”も探知できるようでして──」

「──ちょ、ちょっと待って!」

 

 こちらの言葉を遮るアリカさん。

 

「それって──」

 

 彼女は何か重大な事実に気づいたように、わなわなと震えている。

 

「──さっきアタシが払い除けられたのって、そのせいってこと!?」

「緊急警報鳴ってる時に人遮ってまで言うことじゃないねぇ」

 

 ◆

 

『緊急警報! 緊急警報!』

 

『<厳冬山脈>より、超大量のモンスターの群れが接近!』

 

『付近の住民は避難し、戦える者は防衛に回れ! 繰り返す──』

 

 屋上に出ると、警報システムか何かを介し、誰かが叫んでいた。

 

「これ、は……!」

「……シアさん」

 

 ヘリポートのような発着場に上がれば、遠くに見える惨状が、火の手が、土煙が……山肌から駆け下りた何かが、蠢き、犇めく姿が、よく見える。

 

「これは……かなり危ない状態だね」

『フーちゃん! ちょっと行ってくる!』

「気をつけて。見た限り、1体1体がかなり……面倒そうだ」

『わかった!』

 

 歌うような音と共に飛び去る、蒼い人型の機体。

 こちらにまで響く交戦の音へ、歌声は混じって消えた。

 

「……私は、後方で治療に回ります」

 

 見る限り、砲火や範囲攻撃、薙ぎ払うような光線でどうにか対応しているような状況。

 一方シアさんは多少魔法は使えるものの、基本的には近接戦闘が主。

 飛び込んでいっても巻き込まれるか、邪魔になるだけだ。

 

「解りました。では──」

「じゃあここを使うといい。人の入れられる場所は山のようにある」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げ、シアさんに連れ添って階下へ移動する。

 少しすると、スピーカーからフランクリンさんの声が聞こえてきた。

 

『あーあー、諸君。聞こえるかなぁ?』

 

『我々の手元にある武器では、残念ながらアレの対処は不可能だ』

 

 淡々と事実を述べるように、しかし残念そうに響く声。

 少しの溜め息を挟み、言葉はさらに続き……。

 

『出力的に、行ったところで食われて糧になるだけだろう』

 

『しかし』

 

 ──雰囲気が、変わった。

 

『しかしだ。運の良いことに、この場には丁度腕の秀でた聖職者……回復魔法を使える人員が居る。まぁ、お客人だがねぇ』

 

『故に全員。総力を以て怪我人の救助へ回れ』

 

 語気は強く、信念を内に秘めたような、芯のある言葉。

 

『これよりここは急場の診療所だ、片っ端から要救護者を集めろ』

 

『戦えない者は戦えないなりに、脅威へ抗ってみせようじゃあないか──』

 

『──皆、良いな!?』

 

 建物中から聞こえる、歓声のような返答。

 建物が揺れんばかりのそれに続くのは、活気のある皆々の声。

 

「よーっしゃレスキューアームズ起☆動っ!」

「ふざけてねぇでさっさと動かせ!」

「それ整備終わってないんだけどー!?」

「知るかー! 動きゃ良いんだ動きゃ!」

 

 本当にバイタリティがすごいな。

 いつも、いつまでも。

 

「騒がしい連中だが、いざって時は頼りになるんだよねぇ」

 

 いつの間にやら降りてきたフランクリンさんが、笑いながらそう言う。

 

「そうみたいですね……では我々も準備を」

「ああ、手伝うよ。正直私は戦えないからねぇ」

 

 ◆

 

 運び込まれる要救助者の数々。

 

「薬師の方ー! 痛み止めが切れました!」

「はい! 追加です!」

「ありがとうございますー!」

 

 途中から、フランクリンさんがざっくりと作った即席のトリアージで対応を分けた。

 

 軽症者は各種ポーションでの処置を行う。

 緑や黄色のタグの方がここに当たる。

 

 重症者はシアさんや、他の【司祭】らの魔法で、処置を行う。

 赤のタグの方がここだ。

 MPは出来るだけ重症者のために使いたい。

 

「……あ、ああ、子どもと……子どもと逸れたんです……」

「どこで逸れましたか? どんな特徴でしたか?」

「──の、──区の辺りで……髪は──、──の服を……」

「はい、ありがとうございます! 動ける<マスター>の方! 居られましたら──」

 

 避難所も実質兼ね始め、迷子や要救助者の情報も続々と集まっていく。

 

 その人々の奥、若干隔離された位置で、シアさんと僕は対応を行っていた。

 

「次の方を!」

 

 幕を開け、担架を中へと呼び込むのは僕の役割。

 入れられた患者は腕から骨が露出し、脚が千切れてはいるものの、切断された部分は残存している。

 

「痛み止めの投与と、口に布巾を噛ませてください。腕の位置を直します」

 

 指示通りに噛ませ、分担して体を押さえ……一気に動かす。

 痛み止めありですら悲痛な叫び声が上がるものの、死ぬよりマシだと思ってもらうしかない。 

 

「接合面を……ありがとうございます。では──《グレーターヒール》!」

 

 初期解放スキルのうちのもう1つ、《敬虔なる祈り》。

 その効果で倍加され、消費を半減された回復呪文が、見る見る内に傷を癒す。

 

 加えて何があるかわからないからと、昨日のうちに《パワープレイ》の閾値を5割にしていて良かった。

 こうして上位の回復魔法を連発しても、まだどうにか余裕が残っている。

 

「終わりました。次の方を!」

 

 入り口と出口は別方向。運んでいかれた処置済みの患者を見送る前に、さっさと入り口へと向かう。

 現実と異なって、機器の消毒やら何やらは不要なのが良い。

 幕を開き、声を張り上げる。

 

「次の方っ!」

 

 ケガ人はまだまだ多い。時間との勝負だった。

 

 ◆

 

 その後も、死に物狂いで対応を続け……戦況が終息したとの一報が入り。

 その喜びも束の間に、怪我人の受け入れはまだまだ続き。

 

 ようやく終わったのは、夕暮れをとっくに過ぎた辺りのことだった。

 

「皆様、お疲れ様でした」

「いえいえ、【使徒】様が居られて、我々も心強かったです」

 

 現地の教会の司祭らと挨拶を交わし、見送った。

 元々教会へ滞在する予定ではあったものの、時間も時間だと言うことで、今日は<叡智の三角>の工房へ泊まらせてもらうことになっている。

 

「お疲れさま」

「お疲れ様です」

「フランクリン様、ありがとうございました」

 

 背後のフランクリンさんへ、シアさんが一礼し、僕もそれに続く。

 

「いやいや、君たちの活躍あってこそ、だからねぇ」

「それでも、数々のご判断や慧眼には、目を見張るものがありました」

「彼女の言う通りかと」

「称賛はありがたく受け取っておくよぉ。それと……まだ少し用を頼めるかなぁ?」

 

 困ったような顔を見る限り、どうやら何かあったらしい。

 

「手伝えることであれば、ぜひ!」

「いや、手が欲しいわけじゃないんだ。君達に……お客さんがいてねぇ?」

「お客人、ですか」

「そう。君達に、用があるんだ。私やメンバーじゃなくてねぇ」

 

 ……客人に心当たりがない、が。

 

「わかりました」

「はい、応対致します」

「ありがとう。下の階の、……えぇと、突き当たりを右か左に曲がると応接間がある。そこにいらっしゃるからねぇ」

 

 どっ……ち?

 まあ、行けば解るか。

 

「ありがとうございます」

「ありがとうございますっ」

 

 階下に降り、突き当たりを……右にしか曲がれないので右に曲がる。

 その先のドアをノックすると、はいという返事。

 聞き覚えはやはりないが、女性の声だった。

 

「失礼します」

「お待たせして、申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず」

 

 中にいたのは、やはり知らぬ人。

 大人びているがかなり若い少女。外見年齢だけを見ればシアさんよりも少し若いぐらいか。

 金の髪を巻いた姿は、どこぞのお嬢様、といった風合いだったが……その背に負う威容は、それ以上の位であることを知らせている。

 

 向かいの椅子へとシアさんが向かい、僕はその横の椅子へ。

 

「はじめまして。かの【使徒】……アレクシア猊下と、その従者、タカキ・ソウ様にお目通り出来て、誠に嬉しく思いますわ」

 

 恭しく、所作の丁寧な一礼は、実に見事なものだった。

 

「私はクラウディア・ラインハルト・ドライフ」

 

「この国の皇王……現指導者に当たる者です」

 

 …………あっぶねぇ声出そうだった。




あと猊下って普通に知らなくて
勉強になりました
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