系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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5:こうおう

 

 現指導者……それは、何とも、ビッグネームな。

 

「どうぞ、お掛けになって?」

「し、失礼しますっ」

「失礼します」

 

 客人とはいえ目上の方、席に着くのはそう言われてからだ。

 いそいそと座れば、早速と言わんばかりに本題が始まる。

 

「さて……此度はこのような場での挨拶、誠に申し訳無く思います。ですが非常事態ゆえ、ご容赦願いますわ」

「いえいえ、本来であればこちらから出向くのが礼儀です。態々お越し下さり、誠にありがとうございます」

「そう言って下さり助かりますわ」

 

 ……あー、労働のあとの硬式で公式な会話のキャッチボールは堪えるものがある。

 非礼が無いよう努めねば。苦手だけど。

 

「皇宮へもご招待したかったのですが……生憎、荒れておりまして」

「あのような事があった後では、無理も無いかと」

「いえ。あの【餓竜公】とは別件ですわ」

 

 何? 同日に別件でごたついた、のか……。

 運と間が悪過ぎるだろう。

 

「……私が、前皇王の遺言により就いた身であるとは、ご存知であることと思います」

 

 拙い、知らん。そうなんだ。

 ちゃんと話聞こう。

 

「彼の者が遺した言葉は“皇位継承権を持つ者で争え。頂点に立った者を次代の皇王とする”。その上で……他の継承者を全て弑し、私は皇王となりました」

 

 は、はあ……? 争え、って?

 思わず首を傾げるも、やはり意味がわからない。

 

 何だ、その血で真っ赤な玉座は。

 そんな血で血を洗った末の治世なんて……意味があるのか?

 ……いや、あるんだろう。前の王様の中には。知らんし知りたくもないが、多分。

 

 表面には出さんが、少し心の中で拍手をしておく。

 それは許容されるべきものではないだろうが……その健闘は、彼女が残ったという事実は、称えられて然るべきだろう。

 

「その治世に、犠牲に、疑問を持つのは当然のことです」

 

 まあ、はい。持ちましたよ。

 

「故にそれに異を唱えた有力貴族らが、指揮下にある戦力を以てクーデターを引き起こしました」

 

 ……えぇ……今?

 

「……間が、悪い……」

「本当に、そうですわね」

 

 苦々しい、といった声色のシアさんと、表情のクラウディア殿下。

 その目が、シアさんへ向けられる。

 

「故に、猊下と教会の方々の助力には、感謝してもしきれないのです」

「いえいえ……当然のことをしただけですから」

「……加えて、工房主たるフランクリンさんが場所をお貸し下さり、率いるクランである<叡智の三角>の皆さん、加えて他の<マスター>の方々が救助活動へ尽力して下さったお陰でもあります」

「彼の言うとおりですっ。私たちだけでは……決して出来ませんでした」

 

 なるほど、といった具合に頷く殿下。

 

「……では、後で彼らにも感謝を伝えさせて頂きます」

「はい。お願いします」

「僕からも、お願い致します」

「はい」

 

 こちらが頭を下げると、クラウディア殿下は少しだけ笑う。

 しかしすぐその笑みは消え、再び沈痛な面持ちへ。

 ……機械か何かが表情を出力してるみたいだが、流石に失礼だな。飽くまで見えるだけだし、そんな筈もない。

 

「……そして、1つ。私からも頼みがあるのです」

 

 そう言うと、彼女は──片腕を外した。

 

「な……」

「……やっぱり、そうでしたか」

 

 威容に飲まれて気付いていなかったが、シアさんは気付いていたらしい。いや、これすらも《託宣》の故か?

 まあどちらにせよ……殿下の腕は、片方無かった。

 包帯が巻かれ血が滲む先端は、失われてまだそう経っていないことを如実に語っている。

 

「先ほどお伝えしたクーデターの影響で、私は片腕を失いました……それを、猊下に治療頂きたいのです」

 

 なる、ほど。

 しかし、それは……。

 

「……そう、したいのですが……」

「今の僕らには、欠損を修復する術がありません」

 

 【使徒】には《敬虔なる祈り》……今日活躍した、回復効果を増大させ、消費を抑えるスキルがある。

 尚、その厳密な対象は“信仰の関わるジョブスキルの全て”なのだが、今は割愛しよう。

 

 そんな《敬虔なる祈り》ではあるが……あれは、回復効果を増やすだけ。

 回復量が増えるだけで、欠損を再生させる、といった効果を追加するまでには至らない。

 

 【使徒】のレベルが高ければ、そういった欠損再生のスキルもあるのかも知れないが……少なくとも、今の【使徒】のレベルは3だ。

 少し上がった程度のほぼ初期状態。故に……今は取れる手段が無い。

 

「レベルを上げさえすれば、可能性はありますが……」

「いえ、不確実なことに縋る程ではありません。無理であるならば、仕方のないことです」

「お役に立てず……申し訳ありません」

「いえいえ。頭をお上げになって下さい」

 

 引き継ぎや話し合いで手一杯で、レベルをあまりにも上げられていないのが災いした。

 道中ではレベルも上げないと、こういった事が増えかねん。この世界じゃ、全く何があるか分からないんだ。

 

 ◆

 

 話も終わり、工房の外。

 

「それでは、本日は失礼します。猊下、タカキ様。そして工房主様も、お時間をありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました」

「それでは──はい?」

 

 脇に控えさせていた従者らしき女性が、足早にこちらへと歩いてくる。

 いや早いのではなく、歩幅が大きいだけか? 背もまあまあに高い。

 まあとにかく、その女性は目の前までやって来た。

 謎のヤマアラシを腕へ抱えたまま、にこやかにこちらを見つめている。

 ……いや、この女性、メイデンだな。手の甲に紋章が……いや、あるぞ?

 

「……矮小な」

nope(だめだよ)

「はい、ベヘモット」

 

 にこやかに暴言を吐き、ヤマアラシに窘められて戻っていく女性。

 

「従者が……失礼しました。改めまして、それでは」

 

 去っていく後ろ姿を見送る。

 ……何とも、癖の強いメイデンだ。

 

 いや、彼女は手元のヤマアラシをベヘモットと呼んだ。

 ベヘモット、あるいはベヒモス、ないしベヒーモス。<エンブリオ>の銘としては相応しいが、いやしかし、紋章は女性の方に……。

 

「あの女性、恐らくはメイデンの方でしたね」

「ああ……やはりそうなんですね」

 

 ……なるほど、僕の感覚は合っていたらしい……いやシアさんが何で判ったんだ?

 僕はなんか、そういう<エンブリオ>的直感で説明が付く……いや《託宣》があるか。

 あの紋章がそういう偽装の類なら、偽装であると分かってしまう。凄いな、《託宣》。

 

「彼女らが、この国の“物理最強”だねぇ」

「……あの、ですか」

「そう、だったんですね……!」

 

 シアさんが目を輝かせる。

 確かにその武勇は、昔話にも通づるほどだ。そういう話好きなシアさんには大好物か。

 しかし、それなら“矮小”とこちらを揶揄したのも頷けるものだ。物理の頂点からすれば、全部矮小だとは思うが。

 

「凄い方にお二人……いえ、御三方も出会えてしまいました」

「こんな日で無ければ、喜べただろうねぇ……さぁ、中に戻ろう。キミたちの分も用意してあるから、食べていってくれ」

「本当ですか? ありがとうございますっ!」

「では、ご相伴に預からせて頂きます」

 

 なにはともあれ、一先ず腹ごしらえと行こう。

 ただでさえ多忙に多忙を重ね、その上から多忙を上塗りした1日だったんだ。栄養補給は急務だろう。

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