一旦閑話です
本編でも良いんですが
ちょっと
概ね本筋に関係が無い
シアさんの額から、汗が流れる。
眼前に鎮座するは、人型の機械。
右肩に記された“MGFX-001-Δ”の文字が、その機体の名である。
僕らは、これからこの機体と──
「よーい、始め!」
──模擬戦……を、しなければならない。
◆
皇国への滞在を始め、ある程度経った日のこと。
<叡智の三角>の皆さんとの交流は、今もなお続いていた。
「んで、これが【マーシャルⅡ】!」
今日はアリカさんに連れられての、作業場内部の見学である。
<マジンギア>の話は以前から聞き及んでいた。人型のロボット……そこにロマンを感じない人種では生憎無い。
故に初対面でのあの要望に応えた節はあるし、シアさんも目新しいものが見れて楽しそうだ。
眼前に鎮座し、装甲板が外され配線やら基板やらが丸見えになった、二腕二脚の人型。
頭身は凡そ六頭身、高さは5メートル前後だろうか。
「この前ご活躍した機械鎧ですね!」
「そうそう! まあ戦闘面じゃまだまだ弱いけど、これからどんどん研究を進めて、次の機体につなげていくんだ」
「……あのエース、弱いってはっきり言うのやめてくれませんか?」
「事実は事実として伝えないと!」
げんなりした整備士さんの、今後の活躍を願うばかりだ。
……亜竜級まで行けるって聞いてるし、十分な気もするんだがなあ。
「んで、こっちがアタシのワンオフ」
綺麗に整備された蒼い機体は、【餓竜公】の事変で戦線へと赴いた彼女が駆ったワンオフ……専用の機体。
「【MGFX-001 ブルー・オペラ】。すごいうるさいけど、すごい速い機体だよ」
オペラ。
その名称に、記憶の欠片が引っかかる。
「ああ、オペラ、とはあの音ですか」
「そう! アタシも含めてみんな“歌声”って言ってるけど、実際にはコアの稼働音なんだよねー」
魔力、MPをエネルギーに変えて駆動する都合上、それを担う変換器が搭載されている。
その稼働音が、あの独特な……“歌声”、に繋がる訳か。
「静音化は試さなかったんですか?」
「それすると変換効率下がっちゃうんだよ。困ったちゃんだよねー……そこが良いんだけどさ!」
……どんなオカルトなんだそれは。
しかしながらいい笑顔でサムズアップするアリカさんは、心からそう思っているようだった。
確かに、明るい彼女とはお似合いやも知れない。
「キレイな音でしたよね……!」
「そうでしょー? 動かしただけでモロバレだけど、当たんなきゃ問題なし! アタシはそれが出来るからね!」
全く凄い自信である。
いや……自信満々、というか、出来て当然、だろうか。
その位の自信があり、そして事実そうなのだろう。否定するメンバーは見る限り周囲にはいない。
「エースの<エンブリオ>は、それをするにはぴったりですしね」
「そうそう! 【カサンドラ】のお陰だよ!」
……“カサンドラ”。
予言の力を持ち、しかしその言を誰にも信じられない呪いを受けたトロイアの姫、か。
予言、予期、予知……《危機察知》。
そして避ける、ということに絶対の自信を持つ辺り……。
「……危険予知の<エンブリオ>ですか?」
「おお! よくわかったね!?」
「やはり、そうですか」
モチーフが分かりやすくて良かった。
<エンブリオ>というのは、その能力がモチーフに左右されることも多い。
僕を例に挙げれば、武器へと己を作り変える力に相応しい、鍛治の神“ヘファイストス”の銘が。
ミスティさんは風魔法コスト削減の<エンブリオ>で銘が“ゼファー”だし、灰流さんは何かを老いさせる……要は劣化させる“玉手箱”。
シエンさんは磁力の操作ではあるが、元を辿れば電気の蓄積。雷のことである“ケラウノス”とも合致する。
……ついでに月夜さんなら、敵の全ての値を6分の1にする【カグヤ】だ。
月の重力は6分の1で、月の姫たる“かぐや姫”のモチーフにも合っている。
「……では、なんで避けなかったんですか?」
「何が?」
「私が、その……手を払い除けてしまったときに……」
「ああ、あれか!」
あれは……ただ危険じゃなかっただけなのでは無かろうか。
「確かに見えたけど……女の子に払い除けられるなんて信じられなくてね!」
「…………そうですか」
……全く、凄い自信である。
「……ん?」
少し呆れていると、ふと工房の隅が目に留まる。
正確にはそこに置かれた機体。【ブルー・オペラ】とは対照的な鈍色で、形は似通うが細部が異なっていた。
「ん? あれが気になるの?」
「ああ、はい。何となく」
「あれはさっき言った、【オペラ】の静音性を上げようとした……失敗作だよ」
「……ああ、なるほど」
装甲板が追加されているが、あれが静音加工か。
そしてそのせいで変換効率が下がった、と。……やっぱどんなオカルトだよ。
「んー、あのまま置いとくのも邪魔だし、折角ならアレと模擬戦してみない?」
「……はい?」
急に何を言い出すんだこの人は。
「スクラップにしても問題ないしさ。……ねー!? 良いでしょー!?」
少し遠くにいたフランクリンさんが、すっっっごい悩んだ上で丸を出す。
絶対嫌だったろあれ。ただ止まらないだろうからOK出しただけでさあ。
「よし、じゃあやろっか!」
「え、えぇ? 本当にいいんですか……?」
「だいじょぶだいじょぶ。オッケー貰ったし、アタシの実力も見せたいしね」
シアさんの助けを求める視線。
……こちらとしても、大型の敵相手は経験としてありがたい。
何より、増えたスキルの練習にもちょうどいい。
「やりましょう、シアさん。いい経験です」
「……はいっ!!」
少し声が震えているが、問題はあるまい。
そして我々は、山岳の麓の荒地へと場を移し──
◆
──冒頭に戻るのだ。
歌うような音はないが、あの【オペラ】と同様に空へ飛び立つ“失敗作”。
それに対抗して……こちらも手札を切る。
「──《救世の翼》」
【使徒】のレベルが50に上がり、発現したスキルの1つ。
《救世の翼》
3対6枚の翼を背に顕現させ、飛行能力を獲得する。
アクティブスキル
それだけのスキルだが、実際ありがたいものだろう。
何せ地上という平面だけではなく、空中という3次元戦へと足を踏み入れられるのだから。
尚、2枚で顔を、2枚で脚を隠す……といったことはなく、単純に6枚全てで飛んでいる。
現在の僕のAGIはどうにか1万を超え、グラインダーのAGI補正は……+110%を少し上回る程度。
160%近くになるものだと思っていたが、どうやら成長曲線的なものがあったらしく、そのキャップに引っ掛かったらしい。
まあ2倍になるだけ素晴らしかろう。
そこに加わるのは、シアさんのMP約15万のうち、10万強を贅沢に消費した《パワープレイ》。
素のAGIと僕の補正を込みとして、そのAGIは6000を超えている。
だだだだん、という発砲音とともに放たれるのはペイントボール。
但し弾速を侮るなかれ。マジカル物理法則や素材のおかげで、しっかり音速を超えていた。
その癖、防御力のお陰でダメージは無いのだから面白い。
降り注ぐ弾丸の嵐を縫うように避けながら、時にペイント弾を僕で打ち払いながら、機体を追従する。
それを為せるのはひとえにAGIもあるが、《託宣》の影響も大きそうだった。
断続的に鳴り響き続ける発砲音と、掠めた弾丸が風を切る音。
それが止む瞬間は──リロードの隙。
『《エグゾースト》』
グラインダー形態ではあるが、急加速には十分だ。
一瞬ではあるが音速を超え、鋸刃の一撃は勢いよく突き進み……見事に寸前で躱される。
発動も僕の方が行い、捉えきれぬ空隙を突いたつもりだったが……流石は【撃墜王】か。
『うわ、はっやいねぇ! でもこっちだって──』
そのままカウンターの構え。
ギリギリ反応するも、武器で受けた形になり、大きく後退する。
『けっこー速いでしょ?』
「はいっ! すごいです!」
『はっはっはー、どんどん褒めてくれていいんだよー?』
再び始まる弾丸の嵐。迂回するように動きながら、作戦を練る。
『どこかのタイミングでチャージャーに、そして全速力』
「……行けるでしょうか」
『行くしか──』
『何を話してるのかなー?』
『──後ろです!』
「は、いっ!」
音はないが、僕は全周が見えている。
急加速で取られた後ろから、今度は追尾式のミサイル。
……あれ本当にペイント弾だよな? ああペイント弾だ。着弾地点が緑に染まってい──る?
「しまっ──」
『シアさん!?』
翼が消える。
《救世の翼》はMP持続消費式のスキル。……まさかMP切れか?
クソ、見ていなかった。
『貰ったっ!』
そのまま放たれる弾丸の嵐。
拙い、翼なしでは避けきれない。
「──なんちゃって♪」
へ?
突然切り替わった体の感覚。《
もしや、チャージャーを? しかしMPは?
そんな困惑をよそに、真っ直ぐ穂先は“失敗作”へ。
「《エグゾースト》っ!!」
そのまま、急加速。
……速度的に、MPが無いどころかたんまりあっただろこれ。
まあ、ベルトが使えた時点で気づけって話か。
しかしブラフとは……結構嘘上手だよな、シアさん。
グラインダーのそれとは違い、チャージャーは《エグゾースト》特化の形態。
AGIの補正こそ下がるが、その最高速は音すら超える。
「《フル──」
再び顕現させた翼で、多少の方向制御を行いながら、先程とは比べ物にならない速度で“失敗作”へと肉薄し──
「──スロットル》!」
『だっ、よっ、ねーっ!?』
その右肩を、大きく抉り取った。
しばらく突き進み続けると、エネルギー放出が止み、翼による急制動が掛かる。
そのまま軽く翻ると、シアさんはふわりと地面へ着地した。
その顔には、勝利の喜びが浮かんでいる。
「よしっ!」
『お疲れ様です、シアさ──』
『──あぁあぁあぁぁ! 待って! バーニアが! 墜ちる! 墜ちるか──』
──背後で響く轟音。
シアさん、結構キメてたのに目が丸くなってます。
『……生きてる……! せーふ……!』
「す、すみません! すみません!」
チャージャーの僕を持ったまま、ペコペコと頭を下げるシアさん。
遠くの方で頭を抱えて崩れ落ちたフランクリンさん。
それを支えたり、歓声を上げたり多種多様なクルーの方々。
勝ったけど……やっぱなんか、申し訳無いな。
◆
■
「やっぱ失敗作遅いよー、フーちゃん!」
「……うん、そうみたいね……」
友人の背の煤け方を尻目に、機体の速度に文句を垂れる。
「……っていうか、そんなに落ち込むなら、オッケー出さなきゃよかったんじゃない?」
「いや……アリカなら行けると思ったのよ……うん……」
「あー、ごめんね?」
「いや、相手の方が1枚上手だった、ってだけね。よし、切り替えましょ」
少しばかり煤け気味、ぐらいになった友人を見て、必殺スキルを切るべきだったかと少し思うアリカ。
(でも──訓練だったしね)
そこまでするのは大人気ないと抑えたは良かったが、結果は大破。
失敗作のため支障はないが、あの速度には驚かされた。
いつもの機体と同じ動かし方では避け切れず、流石にラグが出た。
あと少し遅ければ、コクピットを貫かれて死んでいただろう。
その後の墜落は……まあ、【カサンドラ】のお陰で問題無かったが。
「もっと腕磨かないとなー……あちっ」
コーヒーを飲み、熱さに顔を顰める。
目のおかげで判っていたが、これは戒め。
少し傷をつけてしまった自身の自信への、埋め合わせだった。
久し振りの戦闘でした
やっぱ苦手
この頃のカサンドラは6を想定しています
そのせいでギリ避けきれませんでした
超級だったら絶対避けてる
補足:
使徒のステータス上昇の方向性はだいぶ特殊です
その人の資質や素質をもとに伸びるので
マスターであろうとも
それぞれ伸び方が違ったでしょう
シアの場合はMP極です
一方で前も触れましたが
猛王のステータス上昇の方向性はネジが飛んでいます
下級上級はAGI型の前衛な方向性ですが
超級だけなんかAGI以外捨てます
“攻撃は最大の防御”“避ければノーダメ”を地で行きます