滞在して半月経つが、色々あった。
……まあ、本当に。
そして。
「やっほー(#^^#)」
その“色々”の中でも、今回は群を抜いていた。
「…………」
「なんで、貴女が……!?」
継ぎ接ぎの肌。血色の悪い顔。
ジップアップパーカーを前開きにして、ホットパンツとチューブトップ以外を着ていない、ツインテールの似合わぬ女。
「企業秘密(*´艸`*) まあとにかくさ──」
あの時討ち取った【屍肉姫】が、“既死の怪物”ケージが、僕らの目の前に、姿を現した。
「──ちょっと、駄弁ろうよ(ΦωΦ)」
◆
──後を付けられている。
その予感が確信に変わったのは、門を四回右に曲がって、尚も付いてくる気配があったから。
人気の無い路地を抜け、太陽の位置も確認したのだから、間違いなかった。
そのままフィールドに出て、砂漠の廃墟群にまで足を運び……尚もひたすら付いてくる。
ずさんに過ぎて僕ですら気付くものだったが、相手が分からず、目的も分からない。
街の付近では危険と判断し、ここで対処をしようと振り返った僕らを待ち受けていたのが──
「あれ、結構けんのん(゜-゜)」
──ぼごぼごと吹き上がる屍肉が成した、彼女の姿だった。
今は呑気にぽかんとしているが、危険な相手でない理由にはならない。
「……剣呑にもなるでしょう。敵ですから」
「え、敵なの?(;O;)」
「…………そもそも、なんで<監獄>へ送られていないんですか……?」
「だから企業秘密(´艸`) 2度もいわすな(・д・)」
一瞬殺気が向けられたが、すぐに収まった。
本当に話す気はないのだろうし、敵意もない……のか?
「シアさん」
「……嘘は、言っていないと思います」
「お、《真偽判定》?(^ν^) ありがとね(・∀・)」
……シアさんが震える。
スキルの判定すら信じられないくらいに、異常な状況。
「嘘じゃないってわかってもらっただろうし(-.-)」
「さっそく駄弁ろうぜ(#^^#)」
……本当に、何が目的なんだ。
「まあ、そうだね( ´∀`) 座ってよ適当に(・・)」
「……ここの主、なんですか?」
「違うよ(^o^;)」
……まあ、今は従うか。
適当な瓦礫に腰掛けた相手を見て、僕も近くへ腰掛ける。
少し狼狽えたシアさんも、それに続いた。
それを見て、下卑た笑みを浮かべた女が口を開く。
「じゃあ早速なんだけどさ──君たち好きピ同士なん?(*´ω`*)」
…………。
…………はあ?
「はい?」
「好き、ぴ……?」
「好きなpeople、略して好きピです……ではなくて!」
こいつは何を言ってるんだ? マジで。
「だってさだってさ(*´∀`) 竜車の中でこっそりほっぺにチュー──」
「殺しましょう、ソウ様」
「待って待って待って。え、はい? いつです?」
「2週間前、車内でスヤってる時に、そーっと……(*´艸`*)」
「わーっ! わーーっ!!」
真っ赤な顔で殴りかからんとする彼女を、羽交い締めにして食い止める。
これが火事場の馬鹿力か? STR負けてんだぞこっち。
「そんでもって2人に初めて会ったときもさ(゚∀゚) 何か抱き合ってたし(●´ω`●) 絶対
「……やっぱ殺したほうが良いんじゃ……?」
「ですよ!」
「──殺せると思ってる?」
殺気。
「あれは不意打ち。今は会敵」
「流石に舐め過ぎ。お前ら雑魚敵」
「……なんちゃって(´・ω・`)」
気づけば、息が切れるのが解る。
重みがスッと消え、あとに残されたのは……もんにょりとした表情の【屍肉姫】。
「韻を踏もうとしすぎた(〃ω〃)」
……然程踏めても無かったぞ。
しかし、言っていたことは真っ当だ。
あのときは不意打ちで、全速力の《エグゾースト》で突貫し、倒し切ったのだ。
今目の前にいる相手には、同じ手が通用するとは思えない。そもそもさせてくれる訳が無い。
……運よく倒せたとはいえ、格上は格上だ。
まあでも、今の言葉で激昂して襲って来ない辺り、本当に敵意は無さそうで。
「本当に駄弁りに来た、それだけなんですか」
「だーかーらー(=_=;) そうだって言ってるしウソも言ってないでしょ(´・ω・`) 信用できないのわかるけどさ(TдT)」
シアさんも頷いている。嘘はない。
そろそろ……もう、仕方が無いか。
「わかり、ました」
「そ、ソウ様……!?」
……いや、根まで信じる気は無い。
ただ戦っても勝てないし、拒否して暴れられてもそれはそれで困る。街が結構近いし……とにかく。
だから、こう……伝われ……伝われ……!
「……わかり、ました」
よし! 目配せが通じて良かった。
ここはあの女を信じて、駄弁に臨むしかないのだ。
◆
信じるんじゃなかった。
……いや別に、結局戦う羽目になった訳では無い。
「いやー(#^^#) りょーしつなお砂糖だこと(*´﹃`*)」
「……はぁ……」
「……もう、やぁ……っ!」
全部聞かれたし、ぜんっっっっぶ言わされた。
眼前の継ぎ接ぎカプ厨女に、懇切丁寧に隅から隅まで、僕らの諸々を……もだもだし尽くしてる沙汰を説明させられた。
お陰でこちらは疲弊しっぱなしだ。
あまり死にたくはないし、街に被害も出したくないし……何より、シアさんにはもう、意味の無い戦いをさせたくない。
満足させて帰すために、色々なものを削り過ぎた。
ホクホク顔してんじゃねぇよお前さぁ。
「でもあれだね(・o・) なのにマルクスの友達なんだ(・_・;)」
「……まあ、はい」
「私たちの出会ったきっかけですし……命を間接的にお救いいただいていますから……」
「へーめずらしー(゚д゚)」
「……珍しい?」
そう言えば、この犯罪者を“昔の上客”とか言っていたな、あいつ。
昔のあれがどんなプレイをしてたのかは少し気にはなるし……まあ、一旦聞いてみるのもありだろう。
助けたのを珍しいという辺り、大体の想像は付くが。
「どんな感じでしたか、その、貴女から見たマルクスは」
僕の言葉に【屍肉姫】は、少し考えるような素振りを見せた。
「んー……ティアンをティアンとしてしか見てない?(ー_ー;) サイアク材料かも(・.・;)」
「なっ……そんなこと無いですよ!」
「いえ、シアさん」
「っ、ぇ…………?」
荒げる気持ちも解るが、僕は知っている。
というか、やっぱりとしか思っていない。
「あいつは、そういう奴です」
「……え、えぇ……?」
「人当たりのいいフリ、はすると思います。ここはそういう世界ですし、
ただあいつは、ロールプレイヤーなだけなのだ。
ここへ来た当初の僕のように、ゲームはゲームと割り切れる。
……そして僕が出来なくなった今も、あいつは出来続けている。
きっとそれだけなのだ。
「恐らく……見た目や名前も違ったのでは?」
「そうそう、オルワンくん( ^ν^) シュッとした美形だのにわざわざデブヒゲに変えてる( ゚д゚)」
「オルワン……あの“葬儀屋”、ですか?」
「はい。そうです」
“葬儀屋”オルワン・ロー・シーリング。
マルクスの営む、<屍財工務店>の屋台骨。
「しかし……やっぱりそうでしたか。現実の名前の捩りですからね」
「へー( ゚Д゚)」
鳴海総一郎。
いつ見てもローの部分どうにかしろよとしか思えない、どうしようもない名前。
随分前に気付いてはいたが、あちらから言い出すまでは何も言っていない。そういうロマンは理解しているつもりだ。
「他には、どんな事をしていましたか?」
「気になる(・・?」
「まあ、一応は」
「そうだなー……(~_~)」
勿体ぶらないでくれ。興味あるにはあるけどそこまでじゃないんだよ。
「もうちょっと興味あるなら、レジェンダリア行ったほうが早いかも(*´ω`*)」
「レジェンダリア、ですか?」
「っ」
隣から、息を呑む音。
シアさんの故郷。
アルターへ逃げ延びる前の、居場所。
そのまま【屍肉姫】が“場所は”、と続け、言い始めたのは“どこどこからどこのあたりの森の中”というアバウトな情報。
「死霊術って割とアングラだからさ(ー_ー;) 隠れ家で色々やってたんだよ(ΦωΦ)」
「なる、ほど……」
「マルクス様って、死霊術師だったんですか?」
「ええ。【死霊群師】と聞いています」
「いや【死将軍】ね(;´Д`)」
「…………」
「超級職、だったんですか……?」
【死将軍】。死霊群師系統の超級職、だったか。
可哀想なマルクス、諸々のロマンを全部バラされていやがる。
まあ、言うタイミングが遅いあいつの自業自得だ。
「んじゃ、ぼくは帰ろうかな(*^▽^*)」
「……ありがとうございます」
帰ってくれて。
「いやいやこちらこそm(_ _)m それと──」
眼前に迫る顔。
唇に触れる、柔らかく、腐臭の漂う何か。
「──<超級>になったら、リベンジしにくるよ」
ペロリと舌を出し、いたずらっぽく笑う、継ぎ接ぎの女。
「じゃあね(^o^)」
「……あっ!! ああああああああっ!!!!」
【屍肉姫】はそのまま、打ち放たれる光の杭の数々を軽々と避けながら飛び去っていった。
それを見送り、ゼェゼェと息を切らすシアさんの背には、ありありと怒りが滲んでいる。
「ソウ様っ! 何黙ってちゅーされてるんですか!?」
「……あの速度を僕が避けられる訳無いでしょうに……最悪だマジで」
役得とは全く思わない。腐臭や元敵対者という故も相まって、どう足掻こうとも不快感が勝る。
「上書きしますか? しますよね?」
「…………」
「照れるなら今しますっ!!」
「えっ、止め、んぶ……っ」
「ゔっ……ぅえっ、腐った肉の味……」
……マジで何だったんだ、あの女。
でも、そうか。
──もうちょっと興味あるなら、レジェンダリア行ったほうが早いかも(*´ω`*)
興味があるなら、なあ……。
道程としても、次の国はレジェンダリアだし。
…………うん。
「……シアさん」
「うぅ、は、はい?」
「次の国へは、もう少しゆっくり落ち着いてから、行きましょう」
「……そう、ですね。まだ、半月はここにいられますから」
気になりはするが、時間は無駄に沢山ある。
そんなに焦ることもないだろう。