「きゃぁぁぁぁぁあああ!?」
『……っぶねぇ……』
伸ばした《帯紐》でのワイヤーアクション。それで突進はどうにか避けたが、余波で遺跡が揺れに揺れる。
これ以上暴れられても、崩れて生き埋めになりかねない。
『シアさん、《帯紐》で動きを止めましょう』
「っは、はいっ!」
巨体を【拘束】するには手間が掛かるが、やるしかない。
チャージャーへ変更して僕にも巻かせ、そのまま《エグゾースト》。
【アラデメイル】を支点にぐるぐると周回すれば、どうにか3回は巻けた。
「Kryyy!?」
【拘束】により【呪縛】も発動。
こちらも同様に【呪縛】が掛かるが、MPでレジスト出来るので問題無い。
そして動かないのであれば……後はこちらのものだ。
「もう一度──《エグゾースト》っ!」
『《フルスロットル》』
直線的ではあるが、動かない相手なら問題無い。
まっすぐに穂先は【アラデメイル】に吸い込まれていき、火花を散らす。
散らす。
……散らす、だけだ。
『……しまっ、避けて!』
「っ、くぅっ……!?」
避け切れずに肩を掠めたのは、束ねられた糸。
突き進んだ先で岩を砕き、ようやく止まったそれを見れば、かすり傷で済んで良かったと思えた。
あれは動けずとも身を守る手段、それをしっかり備えていたらしい。
「……《フルスロットル》で徹らないんですか……!?」
『あれは連続攻撃ですから、極端に堅い相手ならこうもなります。【セストラ】もそうだったでしょう?』
空を飛び、毒を吐き、痩せている癖にやたら硬かった大鹿。
あれはチャージャーの投擲と《再鍛》生まれた“
が……今目の前にいるあれは、削れてすらいない。
続け様に地を縫う糸を避けながら、ちょっとした作戦会議を行う。
「……倒す手段は、ありますよね」
『でも、分の悪い賭けですよ』
「【ゴブリン・キング】の時みたいですね」
『ははは……確かに』
シアさんの脳裏にも浮かんだであろうそれは、確かに打開の手段となり得た。
しかし消費が頭を抜いていて、《マナドライブ》ありでも運用に難がある。
チャンスはそれ故一度きり。
……幸い相手は動かないが、妨害は多い。
『グラインダーへ戻します』
「はいっ……それっ!」
追ってくる糸束の1本へ向けた一閃。
手応えは渋いが、どうにか引き千切ることは出来た。こうして鞭のように動かせる分、強度は低いらしい。
……あの硬さになるまで、何本束ねて、何層重ねたのやら。
見える頭部は小さいが、それを覆う兜のような糸が攻撃を阻んでいた。
糸はあくまで外骨格と鎧で、中身はかなり小さいと見える。
崩れた遺跡の壁から覗く白い壁もまた、束ねられたあれの糸だろう。
自分が動いて崩れないよう、しっかりと補強されている。
知能はかなり高い。
隙を作るには……どうしたものか。
『シアさん、予行練習です。糸へ《ホーリーステイク》を』
「はいっ、《ホーリーステイク》!」
聖属性ではあるが、光による高熱も帯びた魔法の杭。
まっすぐ飛んでいったそれは、糸を易々と焼き切った。
「Kryyyy……!!」
明らかに怯えるような蜘蛛の声。
なるほど熱は弱点か、なら行ける。
『そのまま迎撃を《ホーリー……いや《ホワイトジャベリン》で続けて下さい』
「わかりました!」
杭よりは細いが、熱源としては十分。
焼き溶けるように切れていく糸は、さぞ蜘蛛を焦らせたのだろう。
「Kryyyyy───」
周囲から殺到する無数の糸。
壁の補強に使ったであろうそれすら、攻撃へ転じさせてきた。
「──aaaaaAAAAA!!!」
裂帛の気合、だろうか。
しかしこれは……想定内だ。
『今です!』
「《エグゾースト》っ!」
殺到し、がぎん、と打ち合わせられる糸の数々。
その中心に僕らは、もう居ない。
急加速によって前方へと飛び出し、そのままの勢いで【アラデメイル】へと肉薄した。
思い切り振りかぶり、彼女がスキルを宣言する。
「《聖別の──極光》っ!!!」
瞬間、目を焼く極光が僕を包む。
かなり痛いが、背に腹は代えられない。
《聖別の極光》
武器へ極光を成す聖属性を付与し、アンデッドへ与えるダメージを50倍化する。
また、この効果はアンデッドの回復能力を阻害し、継続ダメージを与える。
アクティブスキル
あれはアンデッドではないにしろ、熱には弱い。
そしてこのスキルで付与される聖属性は、莫大な熱を帯びている。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
振り抜かれる感覚。
刃が深く食い込み、焼き溶かしながら進む感覚。
「KRYYAAAAAAAAAAAA!?」
そして、絶叫。
1万のMPを1秒足らずで食い潰す極光は、たちまちの内に鎧を引き裂き、中身すら焼いたらしい。
【<UBM>【纏糸硬蟲 アラデメイル】の討伐を確認】
【MVPを選出します】
【【アレクシア・エルヴンルード】がMVPに選出されました】
【【アレクシア・エルヴンルード】にMVP特典【蜘蛛織手袋 アラデメイル】を贈与します】
アナウンスを以て、その絶命が伝えられた。
「っ、く、うぅ……」
着地音と、苦鳴。
僕は未だに視覚が戻っていないので、音でしか何も分からない。
『大丈夫ですか?』
「大丈夫です。やけどしただけですから……《ファーストヒール》」
握った手すら焼く諸刃の剣。
これで最終奥義でも奥義ですらもでない、ただの自爆技なのだから、【使徒】の底は未だ知れない。
「それに……まだ、やらなきゃいけないことは残ってますから」
『そう、ですね』
ガラガラと今にも崩れそうな音を響かせる玄室から、遺品を手早く回収し。
僕らは来た道を引き返した。
◆
遺跡については、封鎖の運びとなった。
崩れかけているのもそうだが、入った所で利が無さ過ぎる。
遺品も、しっかりと遺族へ届けられた。
感謝の言葉を伝えられたが、正直悔やまれる結果である。
「……はぁ」
机の上の【アラデメイル】を、ぼんやりとシアさんは眺めている。
見た目は白いロンググローブ。シアさんの修道服姿にもよく合っている。
性能は極めて高い。火には弱いが、ENDに25%の上昇補正がある。
その上、外部からの衝撃に対して硬化することで、攻撃や防御にさえ転用が可能だ。
しかしそれでも喜べないのは、やりきれない結果だったからだろう。
「そろそろお風呂の時間です」
「今日は……いいです」
「……水着を用意しました。さ、一緒に入りましょう」
「…………はい」
物で釣ってようやく動く。中々重症であるらしい。
……まあ、今日はしっかり労うとしよう。
例えこの身と心を削ってでも、その価値はある筈だ。
Ariadne(アリアドネ)+ Chainmail(鎖帷子)
→Arademail
久しぶりにちゃんと戦わせた気がする