系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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EX4:きょっこう

 

「きゃぁぁぁぁぁあああ!?」

『……っぶねぇ……』

 

 伸ばした《帯紐》でのワイヤーアクション。それで突進はどうにか避けたが、余波で遺跡が揺れに揺れる。

 これ以上暴れられても、崩れて生き埋めになりかねない。

 

『シアさん、《帯紐》で動きを止めましょう』

「っは、はいっ!」

 

 巨体を【拘束】するには手間が掛かるが、やるしかない。

 

 チャージャーへ変更して僕にも巻かせ、そのまま《エグゾースト》。

 【アラデメイル】を支点にぐるぐると周回すれば、どうにか3回は巻けた。

 

「Kryyy!?」

 

 【拘束】により【呪縛】も発動。

 こちらも同様に【呪縛】が掛かるが、MPでレジスト出来るので問題無い。

 そして動かないのであれば……後はこちらのものだ。

 

「もう一度──《エグゾースト》っ!」

『《フルスロットル》』

 

 直線的ではあるが、動かない相手なら問題無い。

 まっすぐに穂先は【アラデメイル】に吸い込まれていき、火花を散らす。

 散らす。

 ……散らす、だけだ。

 

『……しまっ、避けて!』

「っ、くぅっ……!?」

 

 避け切れずに肩を掠めたのは、束ねられた糸。

 突き進んだ先で岩を砕き、ようやく止まったそれを見れば、かすり傷で済んで良かったと思えた。

 あれは動けずとも身を守る手段、それをしっかり備えていたらしい。

 

「……《フルスロットル》で徹らないんですか……!?」

『あれは連続攻撃ですから、極端に堅い相手ならこうもなります。【セストラ】もそうだったでしょう?』

 

 空を飛び、毒を吐き、痩せている癖にやたら硬かった大鹿。

 あれはチャージャーの投擲と《再鍛》生まれた“手元への引き戻し(貴方と共に私は在る)”を繰り返してどうにか削りきった。

 が……今目の前にいるあれは、削れてすらいない。

 

 続け様に地を縫う糸を避けながら、ちょっとした作戦会議を行う。

 

「……倒す手段は、ありますよね」

『でも、分の悪い賭けですよ』

「【ゴブリン・キング】の時みたいですね」

『ははは……確かに』

 

 シアさんの脳裏にも浮かんだであろうそれは、確かに打開の手段となり得た。

 しかし消費が頭を抜いていて、《マナドライブ》ありでも運用に難がある。

 チャンスはそれ故一度きり。

 ……幸い相手は動かないが、妨害は多い。

 

『グラインダーへ戻します』

「はいっ……それっ!」

 

 追ってくる糸束の1本へ向けた一閃。

 手応えは渋いが、どうにか引き千切ることは出来た。こうして鞭のように動かせる分、強度は低いらしい。

 

 ……あの硬さになるまで、何本束ねて、何層重ねたのやら。

 見える頭部は小さいが、それを覆う兜のような糸が攻撃を阻んでいた。

 糸はあくまで外骨格と鎧で、中身はかなり小さいと見える。

 

 崩れた遺跡の壁から覗く白い壁もまた、束ねられたあれの糸だろう。

 自分が動いて崩れないよう、しっかりと補強されている。

 

 知能はかなり高い。

 隙を作るには……どうしたものか。

 

『シアさん、予行練習です。糸へ《ホーリーステイク》を』

「はいっ、《ホーリーステイク》!」

 

 聖属性ではあるが、光による高熱も帯びた魔法の杭。

 まっすぐ飛んでいったそれは、糸を易々と焼き切った。

 

「Kryyyy……!!」

 

 明らかに怯えるような蜘蛛の声。

 なるほど熱は弱点か、なら行ける。

 

『そのまま迎撃を《ホーリー……いや《ホワイトジャベリン》で続けて下さい』

「わかりました!」

 

 杭よりは細いが、熱源としては十分。

 焼き溶けるように切れていく糸は、さぞ蜘蛛を焦らせたのだろう。

 

「Kryyyyy───」

 

 周囲から殺到する無数の糸。

 壁の補強に使ったであろうそれすら、攻撃へ転じさせてきた。

 

「──aaaaaAAAAA!!!」

 

 裂帛の気合、だろうか。

 

 しかしこれは……想定内だ。

 

『今です!』

「《エグゾースト》っ!」

 

 殺到し、がぎん、と打ち合わせられる糸の数々。

 その中心に僕らは、もう居ない。

 

 急加速によって前方へと飛び出し、そのままの勢いで【アラデメイル】へと肉薄した。

 思い切り振りかぶり、彼女がスキルを宣言する。

 

「《聖別の──極光》っ!!!」

 

 瞬間、目を焼く極光が僕を包む。

 かなり痛いが、背に腹は代えられない。

 

 《聖別の極光》

 武器へ極光を成す聖属性を付与し、アンデッドへ与えるダメージを50倍化する。

 また、この効果はアンデッドの回復能力を阻害し、継続ダメージを与える。

 アクティブスキル

 

 あれはアンデッドではないにしろ、熱には弱い。

 そしてこのスキルで付与される聖属性は、莫大な熱を帯びている。

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 振り抜かれる感覚。

 刃が深く食い込み、焼き溶かしながら進む感覚。

 

「KRYYAAAAAAAAAAAA!?」

 

 そして、絶叫。

 1万のMPを1秒足らずで食い潰す極光は、たちまちの内に鎧を引き裂き、中身すら焼いたらしい。

 

 【<UBM>【纏糸硬蟲 アラデメイル】の討伐を確認】

 【MVPを選出します】

 【【アレクシア・エルヴンルード】がMVPに選出されました】

 【【アレクシア・エルヴンルード】にMVP特典【蜘蛛織手袋 アラデメイル】を贈与します】

 

 アナウンスを以て、その絶命が伝えられた。

 

「っ、く、うぅ……」

 

 着地音と、苦鳴。

 僕は未だに視覚が戻っていないので、音でしか何も分からない。

 

『大丈夫ですか?』

「大丈夫です。やけどしただけですから……《ファーストヒール》」

 

 握った手すら焼く諸刃の剣。

 これで最終奥義でも奥義ですらもでない、ただの自爆技なのだから、【使徒】の底は未だ知れない。

 

「それに……まだ、やらなきゃいけないことは残ってますから」

『そう、ですね』

 

 ガラガラと今にも崩れそうな音を響かせる玄室から、遺品を手早く回収し。

 僕らは来た道を引き返した。

 

 ◆

 

 遺跡については、封鎖の運びとなった。

 崩れかけているのもそうだが、入った所で利が無さ過ぎる。

 遺品も、しっかりと遺族へ届けられた。

 感謝の言葉を伝えられたが、正直悔やまれる結果である。

 

「……はぁ」

 

 机の上の【アラデメイル】を、ぼんやりとシアさんは眺めている。

 

 見た目は白いロンググローブ。シアさんの修道服姿にもよく合っている。

 性能は極めて高い。火には弱いが、ENDに25%の上昇補正がある。

 その上、外部からの衝撃に対して硬化することで、攻撃や防御にさえ転用が可能だ。

 

 しかしそれでも喜べないのは、やりきれない結果だったからだろう。

 

「そろそろお風呂の時間です」

「今日は……いいです」

「……水着を用意しました。さ、一緒に入りましょう」

「…………はい」

 

 物で釣ってようやく動く。中々重症であるらしい。

 ……まあ、今日はしっかり労うとしよう。

 例えこの身と心を削ってでも、その価値はある筈だ。




Ariadne(アリアドネ)+ Chainmail(鎖帷子)
→Arademail

久しぶりにちゃんと戦わせた気がする
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