系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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8:ようせいきょう

 

 【屍肉姫】との再びの邂逅より十数日。

 それから<UBM>だの何だのと色々あって、あっという間に時間が過ぎた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 肩を枕にする寝息の主を、起こさぬように外へ向く。

 何時ぞやというか、このゲームを始めて3日の辺りで見た景色が、そこに広がっていた。

 

 見渡す限りの木々に囲まれた街道を、竜車は行く。

 僕らが会ったあの国へ突き進む。

 ……正確には外縁であるが、まあ、国境は越えていたはずだ。

 

 ──そこから、停車は割とすぐだった。

 

 降りて感じたのは、アルター王国よりも、倍近いファンタジーさ。

 色々言いたいことはあるが、まずはそこだろう。

 

 木や石をそのまま使ったような、自然様式の建築。

 天を覆う蓋のような枝葉は遥か上空。その幹の太さは計り知れない。

 そして行き交う、シアさんのそれより少し長く鋭い耳の人や、やたら小さく翅の生えた人。やたらと図体の巨大な人や、毛並みの良い獣人に、それに混ざり尚負けない変な格好の<マスター>たち。

 様々な人種のサラダボウル。いや、人種どころか種族が違う。

 

「ここが、私のふるさとです」

「……凄いですね」

「ふふ、そうでしょう?」

 

 ここが、レジェンダリア。

 シアさんの故郷にして、妖精郷と呼ばれる地だった。

 

 ◆

 

 早速ルーツを辿る、というわけにもいかない。

 現地の教会への挨拶が先で、そこでの準備も少しはある。

 そして今回に関しては、仕事も少しあった。

 

「──《憐憫の讃歌》」

 

 広間に集めた老齢と思われるエルフたち。

 彼らは“【使徒】の祝福を受けたい”と集まった、貴族たちである。

 そんなスキルは持ち合わせていなかったが、代わりに使ったのが、この《憐憫の讃歌》であった。

 

 《憐憫の讃歌》

 範囲内の無差別な生物のHPを大きく回復し、その後も暫くの間持続的に回復させ、欠損を再生する。

 アクティブスキル

 

 効果はお壊れ申しているものの、無差別なので戦場では使いづらい。

 覚えたは良いが、専らこうした場でしか披露することのないスキルだった。

 

 ……もうちょっと早ければ、皇王の腕も治せただろうに。

 次に行った時会えるといいが、果たしてどうなるやら。

 

 して、貴族の反応は。

 

「おお、ありがとうございます……!」

「流石はかの【使徒】様だ、身体が軽くなったように感じます」

「いえいえ、お疲れ様でした」

 

 簡易的な洗礼……っぽいものを経ての祝福もどき。

 特に健常な人では効果が無いが、まあ大衆の心理なんてこんなもんだろう。

 良くてかすみ目や疲れが取れるぐらいじゃなかろうか。大体文官だろ……いや、魔法で戦うタイプの可能性もあるか。

 とはいえ目立った外傷のある人も居ないし、まあ、大概の奴らはそんな効果しか出ていないだろう。

 ……多分。

 

 貴族らが一頻りありがたがって、ぞろぞろと出ていく所を見送ると、現地教会の聖職者がこちらへやって来た。

 

「お疲れ様でした、【使徒】様」

「はい、おつかれ様でした」

「貴族の皆様も大変喜んでくださったようで……また、機会がありましたら、お願い出来ますでしょうか?」

「手が空いていましたら、お引き受けいたします」

「ありがとうございます。では」

 

 笑顔を浮かべ、一礼して去っていく彼女は……何と言うか、現実で僕の周りに寄ってくる奴ら、みたいな雰囲気があった。主に金目当ての。

 ……多分、お布施目当てで貴族に吹聴したとか、その辺りだろうか。

 生臭坊主も良いところだ。まあ、表面上だけでも取り繕っているのは評価してやらんでもない。

 見え透け過ぎる奴だって居る中で、この人は上手くやってる方だ。

 

「今の方……」

「どうかしましたか? シアさん」

「……いえ、何でもありません」

 

 頭を振って、何かを振り払う仕草。

 ……《託宣》も、便利で良いってだけじゃなさそうだな。

 人を信じている彼女にとっては、まあ辛かろう。

 

 ◆

 

「【四霊万象 スーリン】、4か。4か……」

 

 黄河に出たとされる3体目の<SUBM>。

 その戦後を確認するためにも黄河には行こうとしていたのだが、予定ではレジェンダリアの後に2国を挟むことになっている。

 彼らが逞しくあることを願うばかりだ。素手ビルドの王者がいるくらいだしな。

 

 しかし、3体目、なのに4。やは【モビーディック・ツイン】が2番目で、1番目が密かに倒されただけなのでは?

 

 というか、そもそも運営は何を考えてこれらを出したんだろうか。

 今ある国家の駆逐なら、もうちょっと別の手もある筈で、結果として食い止められてもいる。

 ……判らんな、手札が足らな過ぎる。

 何か、何か引っ掛かるんだが……解らん。

 

「……ソウ様、ソウ様!」

「ん? どうしました?」

 

 思考を中断してシアさんの方を見ると、雲の形をしたベッドの上で、瞳を輝かせていた。

 充てがわれた部屋のベッドが、それほどお気に召したらしい。

 

「すっごい柔らかいですよ! 雲みたいです!」

「そこまでですか? どれどれ……」

 

 ……っ!? すげぇなんじゃこりゃ柔らかっ。

 家のマットレスも結構高いのを使っているが、それよりも寝心地が良さそうだ。

 

「……早いですけど、もう寝ちゃいませんか?」

「…………僕は構いませんが」

「私も問題ありません。それに、明日の英気を養わないと!」

「そうですね、そうしましょう」

 

 明日は、シアさんの住んでいたらしいお家へと向かうことになっている。

 心理的負担も大きいだろうし、早く寝るのは備えるのにも良い筈だ。

 決して、これへ寝っ転がりたい欲求に負けた訳では無い。

 彼女の目も輝いているが、きっとそういうことではない。

 

「では、湯浴みをしてきます」

「じゃあ私も一緒に」

「駄目です」

「でも早く終わりますよ」

「駄目です」

「あの時は水着ならいいって」

「あれは特別です。今日は駄目です」

「…………」

「むくれても可愛いですが駄目です」

「っ、か、かわ……っ!」

「では、お先に!」

 

 怯んだ隙に猛ダッシュ。

 

「言った自分で照れないでくださいっ!」

 

 後手でバタンと扉を閉め、鍵を掛ける。

 

 ……よし。

 よくない。

 顔熱い。

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