【屍肉姫】との再びの邂逅より十数日。
それから<UBM>だの何だのと色々あって、あっという間に時間が過ぎた。
「すぅ……すぅ……」
肩を枕にする寝息の主を、起こさぬように外へ向く。
何時ぞやというか、このゲームを始めて3日の辺りで見た景色が、そこに広がっていた。
見渡す限りの木々に囲まれた街道を、竜車は行く。
僕らが会ったあの国へ突き進む。
……正確には外縁であるが、まあ、国境は越えていたはずだ。
──そこから、停車は割とすぐだった。
降りて感じたのは、アルター王国よりも、倍近いファンタジーさ。
色々言いたいことはあるが、まずはそこだろう。
木や石をそのまま使ったような、自然様式の建築。
天を覆う蓋のような枝葉は遥か上空。その幹の太さは計り知れない。
そして行き交う、シアさんのそれより少し長く鋭い耳の人や、やたら小さく翅の生えた人。やたらと図体の巨大な人や、毛並みの良い獣人に、それに混ざり尚負けない変な格好の<マスター>たち。
様々な人種のサラダボウル。いや、人種どころか種族が違う。
「ここが、私のふるさとです」
「……凄いですね」
「ふふ、そうでしょう?」
ここが、レジェンダリア。
シアさんの故郷にして、妖精郷と呼ばれる地だった。
◆
早速ルーツを辿る、というわけにもいかない。
現地の教会への挨拶が先で、そこでの準備も少しはある。
そして今回に関しては、仕事も少しあった。
「──《憐憫の讃歌》」
広間に集めた老齢と思われるエルフたち。
彼らは“【使徒】の祝福を受けたい”と集まった、貴族たちである。
そんなスキルは持ち合わせていなかったが、代わりに使ったのが、この《憐憫の讃歌》であった。
《憐憫の讃歌》
範囲内の無差別な生物のHPを大きく回復し、その後も暫くの間持続的に回復させ、欠損を再生する。
アクティブスキル
効果はお壊れ申しているものの、無差別なので戦場では使いづらい。
覚えたは良いが、専らこうした場でしか披露することのないスキルだった。
……もうちょっと早ければ、皇王の腕も治せただろうに。
次に行った時会えるといいが、果たしてどうなるやら。
して、貴族の反応は。
「おお、ありがとうございます……!」
「流石はかの【使徒】様だ、身体が軽くなったように感じます」
「いえいえ、お疲れ様でした」
簡易的な洗礼……っぽいものを経ての祝福もどき。
特に健常な人では効果が無いが、まあ大衆の心理なんてこんなもんだろう。
良くてかすみ目や疲れが取れるぐらいじゃなかろうか。大体文官だろ……いや、魔法で戦うタイプの可能性もあるか。
とはいえ目立った外傷のある人も居ないし、まあ、大概の奴らはそんな効果しか出ていないだろう。
……多分。
貴族らが一頻りありがたがって、ぞろぞろと出ていく所を見送ると、現地教会の聖職者がこちらへやって来た。
「お疲れ様でした、【使徒】様」
「はい、おつかれ様でした」
「貴族の皆様も大変喜んでくださったようで……また、機会がありましたら、お願い出来ますでしょうか?」
「手が空いていましたら、お引き受けいたします」
「ありがとうございます。では」
笑顔を浮かべ、一礼して去っていく彼女は……何と言うか、現実で僕の周りに寄ってくる奴ら、みたいな雰囲気があった。主に金目当ての。
……多分、お布施目当てで貴族に吹聴したとか、その辺りだろうか。
生臭坊主も良いところだ。まあ、表面上だけでも取り繕っているのは評価してやらんでもない。
見え透け過ぎる奴だって居る中で、この人は上手くやってる方だ。
「今の方……」
「どうかしましたか? シアさん」
「……いえ、何でもありません」
頭を振って、何かを振り払う仕草。
……《託宣》も、便利で良いってだけじゃなさそうだな。
人を信じている彼女にとっては、まあ辛かろう。
◆
「【四霊万象 スーリン】、4か。4か……」
黄河に出たとされる3体目の<SUBM>。
その戦後を確認するためにも黄河には行こうとしていたのだが、予定ではレジェンダリアの後に2国を挟むことになっている。
彼らが逞しくあることを願うばかりだ。素手ビルドの王者がいるくらいだしな。
しかし、3体目、なのに4。やは【モビーディック・ツイン】が2番目で、1番目が密かに倒されただけなのでは?
というか、そもそも運営は何を考えてこれらを出したんだろうか。
今ある国家の駆逐なら、もうちょっと別の手もある筈で、結果として食い止められてもいる。
……判らんな、手札が足らな過ぎる。
何か、何か引っ掛かるんだが……解らん。
「……ソウ様、ソウ様!」
「ん? どうしました?」
思考を中断してシアさんの方を見ると、雲の形をしたベッドの上で、瞳を輝かせていた。
充てがわれた部屋のベッドが、それほどお気に召したらしい。
「すっごい柔らかいですよ! 雲みたいです!」
「そこまでですか? どれどれ……」
……っ!? すげぇなんじゃこりゃ柔らかっ。
家のマットレスも結構高いのを使っているが、それよりも寝心地が良さそうだ。
「……早いですけど、もう寝ちゃいませんか?」
「…………僕は構いませんが」
「私も問題ありません。それに、明日の英気を養わないと!」
「そうですね、そうしましょう」
明日は、シアさんの住んでいたらしいお家へと向かうことになっている。
心理的負担も大きいだろうし、早く寝るのは備えるのにも良い筈だ。
決して、これへ寝っ転がりたい欲求に負けた訳では無い。
彼女の目も輝いているが、きっとそういうことではない。
「では、湯浴みをしてきます」
「じゃあ私も一緒に」
「駄目です」
「でも早く終わりますよ」
「駄目です」
「あの時は水着ならいいって」
「あれは特別です。今日は駄目です」
「…………」
「むくれても可愛いですが駄目です」
「っ、か、かわ……っ!」
「では、お先に!」
怯んだ隙に猛ダッシュ。
「言った自分で照れないでくださいっ!」
後手でバタンと扉を閉め、鍵を掛ける。
……よし。
よくない。
顔熱い。