系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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9:やしき

 

 翌日。

 シアさんの先導で街を歩く。

 紹介を受けると、どういう仕組みなのかも良く理解出来て、なるほどとても面白い。

 ガイドというのはその観光地でも重要だが、ファンタジー世界なら尚の事そうだった。

 

 街道を抜け、少し森へ入る。

 そのまま、何度か曲がりながら森を抜けると──

 

「ここが、私が生まれて、育って……逃げ出した場所です」

 

 ──そこは、焼け跡だった。

 

 門扉であったろう残骸を越え、石畳を歩き、玄関口らしき場所へ。

 

「あっちがキッチンで、あっちが居間で、あそこが──」

 

 時折目を閉じながら、指を差して位置を伝えてくれる。

 少し小さめのお屋敷、といった具合で、階数は2階。

 建屋は小さいが、生け垣に囲まれた庭はそれなりに広いようだった。

 

「5歳までは両親と、使用人の方が3人。5歳になってからはお父様がここを離れたので、5人でここで暮らしていました」

 

「フョードルは家令でした。もっとも年長のエルフで、お母様に古くから仕える方でした。厳格ですが、立派で、いつも冷静な……柱のような方でした」

 

「ルフィエールは料理の得意なメイドで、パイやクッキーの残りを、お母様に内緒で私に分けてくれました。……最後は結局バレちゃったんですけどね」

 

「ノリンは一番年若く、でも一番頑張っている見習いでした。フョードルに見習いから執事への昇格を言い渡されたときは、私も泣いちゃうぐらいでした」

 

「そして、お母様。お話が好きで、食べることが好きで、お父様が大好きで……私のことも大好きな、優しい、優しい母でした」

 

「ずっと幸せに暮らすのだと、そう思っていました」

 

 ゆっくりと、思い出すように告げられた思い出の数々。

 彼女の横顔は、何かを慈しんでいるように見えた。

 憧憬を、なぞるような。

 

 ……ふと、シアさんが後ろを振り返る。

 

「どなたかは知りませんが……出てきてくださると、助かります」

 

 ……誰かがつけて来ていたらしい。全く気づかなかった。

 しかし、誰が何の目的で?

 その疑問のうち、1つはすぐに氷解した。

 

「……盗み聞きをするつもりは、無かったのだが。申し訳ない」

 

 門扉の柱、崩れずとも古ぼけたその陰から姿を現したのは……“冥王”さんの<エンブリオ>である、ペルセポネさんだった。

 

 ◆

 

「見知った顔があるからと後をついて行ってみれば、まさか、このような……本当に申し訳ない」

「いえ、気づいていながら、大丈夫だろうと放置していた私も悪いですし……」

「……妾は脅威にすらならん、か……」

 

 何かにショックを受けたように、更に項垂れるペルセポネさん。

 《託宣》が解るのは諸々の不都合が存在するか否かと、その大小。

 故に【屍肉姫】につけられた時はすぐに知らされたし、今回は……まあ、その、脅威にはならず、特段報告もなかった、と。

 

「まあ、ここへ来るまでの道中も、お主らに怯えてモンスターらは逃げておった。それに比べれば、妾は確かに弱いな。ははは……」

「す、すいませんっ」

「いや、いい。謝るでない。事実だからな。何より【獣王】やらのそれと違って、妾はスキル特化だ」

 

 確か、【獣王】とは“物理最強”の就く超級職。

 戦士系統獣戦士派生で、配下の従魔のステータスを自身のそれに加算するスキルを持っている。

 そして“物理最強”の<エンブリオ>はガードナー系列。従魔型の<エンブリオ>であり、前述のスキルの対象となる。

 その高いステータスを加算され、比類無きまでの力を得たのが、“物理最強”である所以となっている。

 

 一方で、“冥王”の<エンブリオ>は、死者を蘇らせることが出来るらしい。

 一応会ったからと調べはしたが、フリーということもあって情報が少なく、詳しいことは分からなかった。だが……そう、“らしい”。

 

「……して。時に、アレクシアよ」

「は、はい」

「死者と話せる機会があれば、どうする?」

「それ、は──」

 

 少し言葉に詰まるシアさん。

 ……恐らくは“冥王”の、というか【冥王】のスキル。

 死者の魂を視て、会話することが出来る《霊観眼》。それのことだったろう。

 

「──ペルセポネ!」

 

 今しがた到着したらしい、彼の。

 森の中から草をかき分けて出てくる姿は、不健康そうな細身でありながら、実に逞しい。

 

「良かった、無事……ああ、貴方がたは」

「お久しぶりです、ベネトナシュ様」

「お久し振りです」

 

 ……ああ、ベネトナシュって名前なのか。

 あの時聞きそびれたせいで知らなかったのだ。

 良かった良かった。今さら聞くのもあれだろうし、な。

 

「ええ、お久し振りです。……彼らを追ったのかい?」

「そうだ。結局ここでも無駄に終わると分かっていたからな、手慰みだ!」

「確かに、そうだったけれど……急にいなくならないでくれ。特にフィールドの方には」

「それはそうでしょうね。大切な仲間がフィールドに駆けて行ったら、気が気ではないでしょう」

「ぐ、っ……」

 

 僕の援護射撃にぐうの音も出ないらしい。

 でも事実だので仕方ないだろう。自業自得だ。

 

「……すまなかった」

「うん。でも、もう大丈夫だよ。彼らなら、変なことはしなかっただろうし」

「勿論っ!」

「はい」

 

 とりあえずは仲直り、だな。

 

「それで……旦那様」

「どうかした?」

「彼女の……アレクシアの家族と、話す機会を与えてやってはくれんかの?」

 

 ……なる、ほど。

 

「いいけれど……ああ、お詫びに、かな」

「そうだ。勝手についてきてしまったからな……見えるな?」

「うん……彼女のご子息様への非礼を、謝罪します」

「っ、見、見えるんですね!?」

 

 食いつきが非常に良い。

 そりゃあ……まあそうか。

 

「ありがとうございます。ええと、お名前を…………フョードルさん、ルフィエールさん、ノリンさんに……エルフィリアさん。ああ、アレクシアさんのお母様で。ご丁寧に、ありがとうございます」

「あ、ああ……っ!」

 

 何もいない場所へ向け、ベネトナシュさんが一礼する。

 それを見たシアさんが、口を覆い、膝から崩れ落ちた。

 

 名前は彼女の言と一致していたし、恐らくご母堂についても、そうだったのだろう。

 ……末恐ろしいな、【冥王】の力は。

 《真偽判定》のある世界で良かった。無ければきっと、これを騙る者は1人や2人では足らなかっただろう。

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