翌日。
シアさんの先導で街を歩く。
紹介を受けると、どういう仕組みなのかも良く理解出来て、なるほどとても面白い。
ガイドというのはその観光地でも重要だが、ファンタジー世界なら尚の事そうだった。
街道を抜け、少し森へ入る。
そのまま、何度か曲がりながら森を抜けると──
「ここが、私が生まれて、育って……逃げ出した場所です」
──そこは、焼け跡だった。
門扉であったろう残骸を越え、石畳を歩き、玄関口らしき場所へ。
「あっちがキッチンで、あっちが居間で、あそこが──」
時折目を閉じながら、指を差して位置を伝えてくれる。
少し小さめのお屋敷、といった具合で、階数は2階。
建屋は小さいが、生け垣に囲まれた庭はそれなりに広いようだった。
「5歳までは両親と、使用人の方が3人。5歳になってからはお父様がここを離れたので、5人でここで暮らしていました」
「フョードルは家令でした。もっとも年長のエルフで、お母様に古くから仕える方でした。厳格ですが、立派で、いつも冷静な……柱のような方でした」
「ルフィエールは料理の得意なメイドで、パイやクッキーの残りを、お母様に内緒で私に分けてくれました。……最後は結局バレちゃったんですけどね」
「ノリンは一番年若く、でも一番頑張っている見習いでした。フョードルに見習いから執事への昇格を言い渡されたときは、私も泣いちゃうぐらいでした」
「そして、お母様。お話が好きで、食べることが好きで、お父様が大好きで……私のことも大好きな、優しい、優しい母でした」
「ずっと幸せに暮らすのだと、そう思っていました」
ゆっくりと、思い出すように告げられた思い出の数々。
彼女の横顔は、何かを慈しんでいるように見えた。
憧憬を、なぞるような。
……ふと、シアさんが後ろを振り返る。
「どなたかは知りませんが……出てきてくださると、助かります」
……誰かがつけて来ていたらしい。全く気づかなかった。
しかし、誰が何の目的で?
その疑問のうち、1つはすぐに氷解した。
「……盗み聞きをするつもりは、無かったのだが。申し訳ない」
門扉の柱、崩れずとも古ぼけたその陰から姿を現したのは……“冥王”さんの<エンブリオ>である、ペルセポネさんだった。
◆
「見知った顔があるからと後をついて行ってみれば、まさか、このような……本当に申し訳ない」
「いえ、気づいていながら、大丈夫だろうと放置していた私も悪いですし……」
「……妾は脅威にすらならん、か……」
何かにショックを受けたように、更に項垂れるペルセポネさん。
《託宣》が解るのは諸々の不都合が存在するか否かと、その大小。
故に【屍肉姫】につけられた時はすぐに知らされたし、今回は……まあ、その、脅威にはならず、特段報告もなかった、と。
「まあ、ここへ来るまでの道中も、お主らに怯えてモンスターらは逃げておった。それに比べれば、妾は確かに弱いな。ははは……」
「す、すいませんっ」
「いや、いい。謝るでない。事実だからな。何より【獣王】やらのそれと違って、妾はスキル特化だ」
確か、【獣王】とは“物理最強”の就く超級職。
戦士系統獣戦士派生で、配下の従魔のステータスを自身のそれに加算するスキルを持っている。
そして“物理最強”の<エンブリオ>はガードナー系列。従魔型の<エンブリオ>であり、前述のスキルの対象となる。
その高いステータスを加算され、比類無きまでの力を得たのが、“物理最強”である所以となっている。
一方で、“冥王”の<エンブリオ>は、死者を蘇らせることが出来るらしい。
一応会ったからと調べはしたが、フリーということもあって情報が少なく、詳しいことは分からなかった。だが……そう、“らしい”。
「……して。時に、アレクシアよ」
「は、はい」
「死者と話せる機会があれば、どうする?」
「それ、は──」
少し言葉に詰まるシアさん。
……恐らくは“冥王”の、というか【冥王】のスキル。
死者の魂を視て、会話することが出来る《霊観眼》。それのことだったろう。
「──ペルセポネ!」
今しがた到着したらしい、彼の。
森の中から草をかき分けて出てくる姿は、不健康そうな細身でありながら、実に逞しい。
「良かった、無事……ああ、貴方がたは」
「お久しぶりです、ベネトナシュ様」
「お久し振りです」
……ああ、ベネトナシュって名前なのか。
あの時聞きそびれたせいで知らなかったのだ。
良かった良かった。今さら聞くのもあれだろうし、な。
「ええ、お久し振りです。……彼らを追ったのかい?」
「そうだ。結局ここでも無駄に終わると分かっていたからな、手慰みだ!」
「確かに、そうだったけれど……急にいなくならないでくれ。特にフィールドの方には」
「それはそうでしょうね。大切な仲間がフィールドに駆けて行ったら、気が気ではないでしょう」
「ぐ、っ……」
僕の援護射撃にぐうの音も出ないらしい。
でも事実だので仕方ないだろう。自業自得だ。
「……すまなかった」
「うん。でも、もう大丈夫だよ。彼らなら、変なことはしなかっただろうし」
「勿論っ!」
「はい」
とりあえずは仲直り、だな。
「それで……旦那様」
「どうかした?」
「彼女の……アレクシアの家族と、話す機会を与えてやってはくれんかの?」
……なる、ほど。
「いいけれど……ああ、お詫びに、かな」
「そうだ。勝手についてきてしまったからな……見えるな?」
「うん……彼女のご子息様への非礼を、謝罪します」
「っ、見、見えるんですね!?」
食いつきが非常に良い。
そりゃあ……まあそうか。
「ありがとうございます。ええと、お名前を…………フョードルさん、ルフィエールさん、ノリンさんに……エルフィリアさん。ああ、アレクシアさんのお母様で。ご丁寧に、ありがとうございます」
「あ、ああ……っ!」
何もいない場所へ向け、ベネトナシュさんが一礼する。
それを見たシアさんが、口を覆い、膝から崩れ落ちた。
名前は彼女の言と一致していたし、恐らくご母堂についても、そうだったのだろう。
……末恐ろしいな、【冥王】の力は。
《真偽判定》のある世界で良かった。無ければきっと、これを騙る者は1人や2人では足らなかっただろう。