系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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6:よろしく

 翌日。

 初死亡後の、初ログイン。

 

「ちょ、ちょっと、待ってください……?」

「はい、幾らでも」

 

 目の前には慌てふためくシアさん。

 ……もとい、アレクシア・エルヴンルードさん。

 

 メニュー画面から相手の情報が見えてしまうのは誤算に過ぎた。

 彼女の名前はおろか、【司祭】しか就いていないジョブ欄も……何か妙に高い、8万を超えるMP最大値も、すべて見えてしまっている。

 

「《真偽判定》も反応してない……」

 

 ああ、持ってたのか。油断も隙もないなこの世界。

 戦慄きながら、興奮した面持ちが、ゆっくりとこちらへ向けられる。

 

「本当に……」

 

「本当に、私は、<マスター>に……?」

 

 その言葉にゆっくりと頷くと、シアさんは白目を剥いてぶっ倒れた。

 整った顔が台無しである。

 

 ◆

 

 状況を整理しよう。

 

 あの時、死ぬ間際に私が使ったスキルは、《コントラクト》という。

 

 

 《コントラクト》

 <マスター>を除く人間範疇生物を対象として、自身の装備者を固定する。

 その際、装備者に応じた武器としての形状、並びに装備スキルが生成される。

 双方の同意によってのみ、このスキルの効果は適用・解除される。また解除時には全ての装備スキルが消去され、形状も同様に初期化される。

 アクティブスキル

 

 

 これを前提として、僕の<エンブリオ>が持つスキル群は機能する。

 そのため、あの時あの瞬間までは邪魔な文鎮でしか無かったのだ。

 そしてこのスキルを使用して死亡したため、今度は《プロテクト》が発動した。

 

 

 《プロテクト》

 このスキルは《コントラクト》の効果下でのみ機能する。

 《コントラクト》の対象へプレイヤー保護機能と同等の保護効果を与え、ログアウト時及び死亡時には対象の回収を行う。

 加えて対象が致死ダメージを受けた際・死亡した際に、代わりに死亡する。

 死亡後初めてのログイン時、対象の傷や欠損を再生し、HPを最大値の100%まで回復し、正常な状態へ復帰させた上で蘇生する。

 パッシブスキル

 

 

 破格の性能。

 ティアン1人に対して、疑似的に不死身の肉体を……それも、<マスター>と同等のそれを与える。

 今回に関しては僕の死に巻き込む形だったが、今後は彼女も死ななくなってしまった。

 

 そこが問題なのだ。

 殺しても契約は解除されず、双方の同意があってのみ《コントラクト》は解除される。

 もしも、僕が相手の人格を見誤っていたら?

 純真さを装う邪悪であり、この力を以て悪逆を尽くさんとする、非道の存在であったら?

 

 そうなったらもう、僕はこのゲームにログインできないだろう。

 実質的な封印である。

 なんせ僕がログインしなければ、相手は格納されたままになる。

 

 ……尤も。

 

「えぇぇぇぇ……<マスター>? 私<マスター>?? 嘘でしょちょっとすご、えっ、えぇ……???」

 

 何故か、大丈夫な気はしてならないのだが。

 

「そう言えば!」

「はい?」

「ここはどこなんでしょうか!」

「今更では?」

 

 あとテンションもどこかおかしい。

 起き上がったと思えばずっとこれだ。

 

「……まあ一応、マルクスの奴が経営する商館です」

「ありがとうございます!」

 

 ずっとペーパーカンパニーか何かだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。

 調度品も、手入れの行き届いた室内も、ドッキリにしてはちゃんとし過ぎていた。

 

 ◆

 

「落ち着きました……申し訳ありません……」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 数十分後、シアさんは己の言動を顧みて項垂れていた。

 忙しない人である。

 

「ではまず、色々と確認をさせて下さい」

「よろしく、お願いします」

 

 そんなに頭は下げなくていい。

 そも隣に座ってるんだから、その方向には誰もいない。

 

「先ず、貴女は擬似的ながら<マスター>となりました」

「ぅ、ふひっ。あっ、すいません」

 

 澄ましても遅かろうに。

 

「次。僕がこちら側にいる限り、貴女は動けます。なるべくこちらに居るようにはしますので、不自由はあまりないかと」

「……えっ、ちょっと待ってください。もしかして<マスター>様って、別の世界とこちら側を……自由に、行き来できるんですか?」

「ああ……」

 

 確か、流布されている<マスター>の言説には、“不死身であるが、頻繁に“別の世界”にその身を飛ばされてしまう。”とあった気がする。

 この問いはそれについてのことだろう。

 

「……まあ、頑張れば」

「頑張れば」

「はい。頑張れば」

 

 嘘ではない。

 トイレを我慢し、風呂をキャンセルし……とにかく頑張れば、こちらには居続けられるだろう。

 そこまでする気はないけれども。

 

「そうなんだ……凄いなぁ……」

 

 ファンガか貴女は。

 ……まあ、ファンガか。

 

「そして、最後。一番大事ですので、よく考えてお答えください」

「は、はいっ」

 

 姿勢を正すシアさん。礼儀正しくていい。

 

「貴女に、僕という武器を使う意思はありますか? 本当に、僕を正しく使いたいと思いますか?」

「……」

「ある意味、僕らは一蓮托生となります。それでも構いませんか?」

「……もちろんです!」

 

 シアさんは自信満々に頷く。

 ……《真偽判定》が無い身としては解らないが、少なくとも嘘は言っていない、と信じたい。

 

 そもそも、僕は夢を叶えたいという気持ちに応えたのだ。

 これが嘘だったら流石にちょっと萎える。ソングバードルートぐらい萎える。

 

「では、まあ、一旦──」

 

 右手を差し出すと、勢いよく握られる。

 勢いよく上下にも振られる。それも両手で。怖い。

 

「これから、よろしくお願いします」

「はいっ! 不束者ですが!」

「婚約じゃないですからね?」

 

 不束なのは確かだと思うが。

 ……もうちょっと考えて使ったほうがいいかもしれなかったが、もう後には引けない。

 一先ずは腹を括って、彼女と共に、この世界を歩む他ないのだ。

 

 ……憂鬱だ。




一旦一区切り

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