ガリガリと土を掘り進め……地下から森へと飛び出た。
突然チャージャーに変えられたと思ったら、そのまま上に向けられて、《エグゾースト》と《フルスロットル》。
普段は《帯紐》で固定した上で使うが、今回はなし。
腕への負担が心配だが──
「ふぅ、危なかった……」
──割と余裕そうだな。
いや、確かに危なかったと言ってるけどさ、ちょっと軽く無いかな? 危機一髪だったんだぞ。
……まあ、そんなことより。
『書類は?』
「ボックスに入れました」
『ありがとうございます』
部屋は想像するに滅茶苦茶だが、これでどうにか証拠は残っている。
これを後は……いや、今は目の前のことを考えよう。
先程まで《フルスロットル》で掘り進めた穴から、誰かが飛び出て来る。
まあ大凡下手人だろうし、誰かも当たりはついている。
「……良く、御避けに成りましたね」
やっぱり、貴女か。
「どの様な仕組みでしょうか、気取られている積りは無かったのですが」
「……その前に、こちらの質問に、答えてください」
「構いませんが」
「なぜ──」
シアさんがアイテムボックスから取り出したのは、先ほど手に入れた文書。
この地下にいたらしき暗殺者集団への、依頼書だ。
その表にはこう書かれている。
□依頼:エルフィリア・エルヴンルードの殺害
[遂行済]
エルフィリア。
それは、彼女の母の名である。
そして、その下。依頼人の欄の名は。
□依頼人:オルワン・ロー・シーリング
「──なぜ、マルクス様は、オルワンはっ……お母様に、刺客を差し向けたのですか……っ!?」
剣幕と反比例するように、いつにも増した無表情を浮かべる秘書さん。
「……其れには、御答え出来兼ねます」
「どうしてっ!?」
「聞きたくば、本人へ直に聞くのが宜しいかと」
目を閉じ、静かに息を吐く。
「わかりました、じゃあ直接聞きます」
「御聞きになった後、どう為さいますか?」
『理由はどうあれ、僕が1発殴ります』
「そう、ですか──」
秘書さんが、ゆっくりと目を開く。
「──其れを成すと云うのならば……私は、此処で立ちはだかる義務が有ります」
その両手には、いつの間にか機関銃──確か、UZIというサブマシンガン──が1丁ずつ握られていた。
殺気が漏れ出て、空気がひりつく。
……言葉選びを間違えた。苛立ち過ぎたな。
せめて少しは穏便に暈しておけば、邪魔も入らなかっただろうに。
『殺したところで蘇りますよ。そしてあいつの所へ行く』
「ええ、そうでしょう。ですので──リスキル致します」
『……ふざけたことを、言わないで下さい』
「巫山戯ては居りません、
『それだけの労力を割く意味がありますか?』
「悪事を防ぐには不可欠かと」
ああ、はいはい。そうですね。
人を殴るのは悪いこと。わかりますよ。ええ。
『──バカやった友人を1発ぶん殴って何が悪いっ!?』
だったらどうしたよこのヤロウ。
解っててこっちは行くんだよ。
最初の頃なら僕だって許容出来ただろう。
所詮はゲームと、誰が死のうが一歩引けた。
でも、今は……シアさんが居る。
そしてそのシアさんの家族が、親しい人々が、あいつのせいで死んだんだ。
そんなこと、許容出来る筈が無い。
「……そうですね。其れが、屹度正しいのでしょう」
怒号へ返すように、銃口と、明確な敵対の意思が、こちらに向けられた。
「ですが──仕事ですので」
『ああっ……クソがっ!』
こんな所で足止めされている場合じゃない。
早くあいつに何もかも全部吐かせて、シアさんに土下座でも何でも──
「──ソウ様っ!」
『……シア、さん』
…………落ち着け。本当に。
一番真実を知りたいであろう本人よりも、お前が慌ててどうする。
彼女の瞳は震えているが、確かな正気が見て取れる。強い女性だ。
『すいません。冷静になりました』
「良かったです」
『じゃあ……戦いましょう』
足止めが何だ。
そも現実でだって聞ける筈で、事実確認だってまだ済んでいない。
偽造の可能性だって……線は薄いが、十二分にある。
「……本気、ですか?」
『はい。彼女は、あちら側でもあいつの部下です。ここで引き下がっても、妨害が無いとは言い切れない』
……ならば。
『だから……ここで彼女を倒して、オルワンを呼び出し、ぶん殴ります。そして全てを吐かせます』
「……やるしか、無いんですね」
シアさんの母親を殺すように指示し、理不尽にもその幸せを奪った。
その理由を、事実かどうかを、洗い浚いに知るために。
握られたグリップに、力が入る。
目を閉じ、深呼吸して……その目が見開かれた。
「──行きますっ!」
『──行きましょう!』
瞬間、引き金が引かれ。
銃声とともに、戦いの火蓋は切って落とされた。
◆
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
放たれる弾丸の雨を、縫うようにして掻い潜る。
そのまま肉薄して、上段から勢いよく振り下ろされるグラインダー。
それを受け止めるのはライオットシールドだ。……どっから出てきたんだよ。
「《ガードパリィ》」
盾士系列のスキルにより、受け流され若干バランスを崩した所に、散弾銃での追撃。
腹部を若干掠めたが、致命傷は免れた。回復呪文で対応しながら距離を取る。
「《デッドリー・エイム》」
今度はそこへ長銃の銃撃。【狙撃手】のスキルと共に、頭を的確に狙って来る。
腕の【アラデメイル】でどうにか弾き、バランスを取り直して……。
「《エグゾースト》っ!」
再度肉薄。
「《パワーガード》」
しかし、やはり受け止められる。今度は【大盾士】かよ。
追撃の拳銃を掴んで反ら……そうとしたら消えて、散弾銃がお見舞いされる。
咄嗟に僕でガード出来たが、続く銃撃に耐えかねてチャージャーへ。
何とか戦えているが、かなり苦しい。
今のシアさんのメインジョブのレベルは200ちょっとで、MP最大値はおよそ30万。
そのうち20万を使った《パワープレイ》は、補正を抜きにしても5000ずつはSTR・END・AGIを上げている。
グラインダーならば1万も超え、超音速の域に足を踏み入れてもいた。
にも関わらず、先ほどの通りにいなし切られた。
──生産も戦闘も出来るって時点で器用貧乏っぽいですけど、いざ戦うとなると面倒臭いでしょう。
いつだったか、そうシエンさんが称した理由が、今なら良く解った。
手札が、圧倒的に多い。
距離を取りながら、銃撃を僕で防ぐ。
そこに飛んできたのは……先程部屋を吹き飛ばした爆発弾。
『ぐっ……!』
「うっ!?」
すんでの所で避けたものの、爆風でダメージ。
そのままガードが崩れた所を狙って、弾丸が1発、また1発。
頭を的確に狙ったそれを、どうにか躱して──
「──《エグゾースト》!」
ベルトの固定はなく、真っ直ぐに僕だけが飛んでいく。
破れかぶれではあったが、どうにか避けに回らせ、攻撃の手を止められた。
噴射が終わり、呼び戻されて手元に戻る。
その形状は既にグラインダーになっていた。
振り下ろしを盾で防がれ、そのまま横薙ぎ。これも防がれる。
連撃、防御。それなりにある攻撃力を、盾で全ていなされて受け止められる。
……ライオットシールドといい、マシンガンやバズーカといい、可変形態式の武器だろう。
しかしそれにしてはやたら防御力が高──っ!
『避けて!』
「っ! 熱……っ!?」
後方へ回避したと思ったら火炎放射か。どんな特典武具だクソッタレ……!
距離が離れて、再び掃射が襲う。
完璧に仕切り直されてしまった。