系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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3:ごぶうん

 

 戦況は悪化の一途を辿っている。

 

 両手からばら撒かれる鉛玉の嵐を、木々を盾に避け続ける。

 片手の銃は牽制に、もう片方は顔を出した所へ。

 そう使い分けているのだろうが、弾丸の嵐は止まることがない。

 

 そして立ち止まって木の後ろに隠れたら──

 

「無駄です」

 

 ──バズーカの連射だ。休む隙も暇も無い。

 

『弾切れは無いのかよ……っ!』

 

 何時ぞやの長銃もそうだが、やはり弾倉のサイズはおかしいらしい。

 いつぞやのアリカさんとの模擬戦のように、リロードの隙を狙うといったことも出来ない。

 

 空も飛んだとて蜂の巣だ。

 動きを止める《帯紐》も、巻く時間を与えちゃくれない。

 器用貧乏ってレベルじゃねえだろこんなもん……!

 

 そんな最中、シアさんが口を開く。

 

「行きますっ」

『……解りました……!』

 

 行く、どこへ? 勿論銃弾の嵐の根元へ。

 ……正直やらせたくない。危険が高すぎる。彼女への負担は計り知れない。

 でも、状況を打破するには、やるしかない。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 木々を縫う軌道から、一気に肉薄する軌道へ。

 当然銃弾は飛んでくるが、頭と首への弾丸は腕でガードで出来る。【アラデメイル】様々か?

 

「……っ」

「っぐ、うぅぅぁぁぁあああ!!」

 

 脚への被弾は回復呪文で耐える。

 悲痛な声を気合で塗り潰し、シアさんは尚も猛進する。

 

 ……そして、相手を目前に捉えた。

 

「《エグゾースト》っ!!」

『《フルスロットル》……!!』

 

 急加速による殴打は、見事に秘書さんを真芯に捉え──

 

「《アストロガード》」

 

 ──その身で、受け止められた。

 

『なっ!?』

 

 《アストロガード》は【鎧巨人】のスキルだ。

 というかこの鎧どっから出て──消えた!?

 

「っ、あっ」

 

 回転する鋸刃を押し付ける対象を失い、バランスを崩した所へ、今度は散弾銃。

 

「《バーストファイア》」

 

 そして今度は【炸裂銃士】のスキルだ。

 【大盾士】、【狙撃手】、【鎧巨人】に【炸裂銃士】……上級職が計4つ。

 どう考えてもあり得ないが、あり得ている。手札が多いって次元じゃない。

 

 銃声、装填音から、また銃声。銃声。

 

「っぐ、あ゛っ!?」

『シアさんっ!!』

 

 1発は避けたが、右腕と、腹部に1発ずつ。

 咄嗟にチャージャーに代わって防御力への補正を上げたが、それでもダメージは甚大だ。

 衝撃で転げながら木の幹へ叩きつけられ、その手がチャージャーから離れる。

 

 その様子を見ながら、あの時の長銃を手にした秘書さんが、無機質な顔でこちらへ近付いて来る。

 

「……はぁ、中々に手間取りましたが──」

 

 その銃口はがシアさんの額に突き付けられた。

 

「──之で、終わりです」

 

 目に光はない。

 いつぞやのような生暖かい視線からは、想像出来ない程に冷たく、暗い、無感情な瞳。

 そのままゆっくりと、引き金に力が込められていき──

 

「まだ、終わってません……!」

 

 ──その銃口が、左手で覆われた。

 

「……無駄な抵抗ですね」

「どうでしょうかね? 弾丸はこの【アラデメイル】(手袋)を徹せません。このまま撃てば、弾が詰まって……爆発するんじゃないですか?」

「どうでしょうか」

「じゃあ……早く撃ってみて下さいよ」

 

 ……沈黙。

 両者の視線が交錯する。

 

 その引き金が──引かれた。

 

「っ!?」

 

 瞬間、弾かれた銃口が上へ反れる。

 そのまま右手へと引き寄せられた僕を携え、シアさんが宣言するスキルは。

 

「《エグゾースト》っ!」

 

 いつものスキルの名前。

 

「無駄で──え、っ?」

 

 一瞬、顕現する先ほどの鎧。

 それが消えても尚、まだ攻撃は当たっていない。

 それはそうだ。何せ、スキルに注ぎ込んだMPは1なのだから。

 たったの1。発動はしても、碌に加速することなんて無い。

 

 あの鎧がどういうスキルかは不明だが、クールタイムはまだ明けていない筈。

 このまま、思いっきりぶつけてやろう。

 

「しまっ──」

「──《聖別の……極光》っ!!」

『──《フル、スロットル》!!』

 

 何もかもを溶断し得る鋸刃が、唸りを上げて喰らいつく。

 そのまま、上半身と下半身を泣き別れさせたのだろう。光は止み、唸りも止まった。

 久し振りだが、少しは慣れたらしい。視力も割とすぐに戻ってきた。

 

 光の塵が還るのが見える。

 【屍肉姫】のように死亡を偽装したので無ければ、どうやら本当に殺せたようだ。

 

「はぁ……はぁ……っ、ぐ……!」

『シアさん、お怪我は……!?」

 

 抱き抱えた体を見れば、出血は酷いものだった。

 酷いなんて話じゃない。若干抉れて、中身が見えている。

 

「……《憐憫の讃歌》」

 

 その傷を、自らのスキルで癒す。

 ……肉が盛り上がり、骨が継がれ、皮膚が再建されていく姿は、随分と人間離れしてきた。

 これが強さと成長の証になってしまうのは、正直避けたい所ではある。

 

「どうにか……治りました……はあぁ……」

「お疲れ様です」

 

 勝利を労いたいが……しかし、そんな暇は今は無い。

 ここからは72時間以内に、あいつを殴らねばならんのだ。

 

「今からあちら側で、あいつをアルターとレジェンダリアの国境に呼び出します」

「……わかりました……その後、ですね」

「はい。ログアウト中がどうなのか分かりませんが……少し、休んでいて下さい」

「……はいっ」

 

 ◆

 

 よし。

 まずはあいつに電……ん?

 

 

  件名:[件名なし]

 送信元:****.***@******.**

  内容:ご武運を

 

 

 秘書さんからのメールだった。

 どういう意図なのかよく解らなかったが……こちら(現実)で邪魔はしない、ということだろうか。

 

 まあとにかく置いといて……まずはあいつへの電話か。

 

「……もしもし」

『あー、蒼介? どした?』

「ああ、それが──」

 

『──エルフィリアの殺害依頼のこと?』

 

 思考が、止まった。

 

『とりま、レジェンダリアにいるんだろーし……国境辺りで待ってるね。じゃー』

「っ! ちょ、待っ……切りやがった……!」

 

 動き出しても時既に遅く、ぶつりと切られた通話は、再び掛け直しても繋がらない。

 

「……総一郎…………クソッ!」

 

 スマホを投げると、カランカランと音を立てて、窓のサッシで止まる。

 その音に、少しだけ冷静になれた。

 

「……お前は」

 

 本当に、何がしたいんだ?




次話は閑話です
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