戦況は悪化の一途を辿っている。
両手からばら撒かれる鉛玉の嵐を、木々を盾に避け続ける。
片手の銃は牽制に、もう片方は顔を出した所へ。
そう使い分けているのだろうが、弾丸の嵐は止まることがない。
そして立ち止まって木の後ろに隠れたら──
「無駄です」
──バズーカの連射だ。休む隙も暇も無い。
『弾切れは無いのかよ……っ!』
何時ぞやの長銃もそうだが、やはり弾倉のサイズはおかしいらしい。
いつぞやのアリカさんとの模擬戦のように、リロードの隙を狙うといったことも出来ない。
空も飛んだとて蜂の巣だ。
動きを止める《帯紐》も、巻く時間を与えちゃくれない。
器用貧乏ってレベルじゃねえだろこんなもん……!
そんな最中、シアさんが口を開く。
「行きますっ」
『……解りました……!』
行く、どこへ? 勿論銃弾の嵐の根元へ。
……正直やらせたくない。危険が高すぎる。彼女への負担は計り知れない。
でも、状況を打破するには、やるしかない。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
木々を縫う軌道から、一気に肉薄する軌道へ。
当然銃弾は飛んでくるが、頭と首への弾丸は腕でガードで出来る。【アラデメイル】様々か?
「……っ」
「っぐ、うぅぅぁぁぁあああ!!」
脚への被弾は回復呪文で耐える。
悲痛な声を気合で塗り潰し、シアさんは尚も猛進する。
……そして、相手を目前に捉えた。
「《エグゾースト》っ!!」
『《フルスロットル》……!!』
急加速による殴打は、見事に秘書さんを真芯に捉え──
「《アストロガード》」
──その身で、受け止められた。
『なっ!?』
《アストロガード》は【鎧巨人】のスキルだ。
というかこの鎧どっから出て──消えた!?
「っ、あっ」
回転する鋸刃を押し付ける対象を失い、バランスを崩した所へ、今度は散弾銃。
「《バーストファイア》」
そして今度は【炸裂銃士】のスキルだ。
【大盾士】、【狙撃手】、【鎧巨人】に【炸裂銃士】……上級職が計4つ。
どう考えてもあり得ないが、あり得ている。手札が多いって次元じゃない。
銃声、装填音から、また銃声。銃声。
「っぐ、あ゛っ!?」
『シアさんっ!!』
1発は避けたが、右腕と、腹部に1発ずつ。
咄嗟にチャージャーに代わって防御力への補正を上げたが、それでもダメージは甚大だ。
衝撃で転げながら木の幹へ叩きつけられ、その手がチャージャーから離れる。
その様子を見ながら、あの時の長銃を手にした秘書さんが、無機質な顔でこちらへ近付いて来る。
「……はぁ、中々に手間取りましたが──」
その銃口はがシアさんの額に突き付けられた。
「──之で、終わりです」
目に光はない。
いつぞやのような生暖かい視線からは、想像出来ない程に冷たく、暗い、無感情な瞳。
そのままゆっくりと、引き金に力が込められていき──
「まだ、終わってません……!」
──その銃口が、左手で覆われた。
「……無駄な抵抗ですね」
「どうでしょうかね? 弾丸はこの
「どうでしょうか」
「じゃあ……早く撃ってみて下さいよ」
……沈黙。
両者の視線が交錯する。
その引き金が──引かれた。
「っ!?」
瞬間、弾かれた銃口が上へ反れる。
そのまま右手へと引き寄せられた僕を携え、シアさんが宣言するスキルは。
「《エグゾースト》っ!」
いつものスキルの名前。
「無駄で──え、っ?」
一瞬、顕現する先ほどの鎧。
それが消えても尚、まだ攻撃は当たっていない。
それはそうだ。何せ、スキルに注ぎ込んだMPは1なのだから。
たったの1。発動はしても、碌に加速することなんて無い。
あの鎧がどういうスキルかは不明だが、クールタイムはまだ明けていない筈。
このまま、思いっきりぶつけてやろう。
「しまっ──」
「──《聖別の……極光》っ!!」
『──《フル、スロットル》!!』
何もかもを溶断し得る鋸刃が、唸りを上げて喰らいつく。
そのまま、上半身と下半身を泣き別れさせたのだろう。光は止み、唸りも止まった。
久し振りだが、少しは慣れたらしい。視力も割とすぐに戻ってきた。
光の塵が還るのが見える。
【屍肉姫】のように死亡を偽装したので無ければ、どうやら本当に殺せたようだ。
「はぁ……はぁ……っ、ぐ……!」
『シアさん、お怪我は……!?」
抱き抱えた体を見れば、出血は酷いものだった。
酷いなんて話じゃない。若干抉れて、中身が見えている。
「……《憐憫の讃歌》」
その傷を、自らのスキルで癒す。
……肉が盛り上がり、骨が継がれ、皮膚が再建されていく姿は、随分と人間離れしてきた。
これが強さと成長の証になってしまうのは、正直避けたい所ではある。
「どうにか……治りました……はあぁ……」
「お疲れ様です」
勝利を労いたいが……しかし、そんな暇は今は無い。
ここからは72時間以内に、あいつを殴らねばならんのだ。
「今からあちら側で、あいつをアルターとレジェンダリアの国境に呼び出します」
「……わかりました……その後、ですね」
「はい。ログアウト中がどうなのか分かりませんが……少し、休んでいて下さい」
「……はいっ」
◆
よし。
まずはあいつに電……ん?
件名:[件名なし]
送信元:****.***@******.**
内容:ご武運を
秘書さんからのメールだった。
どういう意図なのかよく解らなかったが……
まあとにかく置いといて……まずはあいつへの電話か。
「……もしもし」
『あー、蒼介? どした?』
「ああ、それが──」
『──エルフィリアの殺害依頼のこと?』
思考が、止まった。
『とりま、レジェンダリアにいるんだろーし……国境辺りで待ってるね。じゃー』
「っ! ちょ、待っ……切りやがった……!」
動き出しても時既に遅く、ぶつりと切られた通話は、再び掛け直しても繋がらない。
「……総一郎…………クソッ!」
スマホを投げると、カランカランと音を立てて、窓のサッシで止まる。
その音に、少しだけ冷静になれた。
「……お前は」
本当に、何がしたいんだ?
次話は閑話です