気づけばお気に入り70件突破していました
遅ればせながら、ありがとうございます
ログインして、大急ぎで現場へ向かう。
疲れた体へ鞭を打つ気は無かったが、彼女は直ぐにグラインダーを携え、《救世の翼》で飛んでいった。
音を超える速度の飛行。いつぞや、あいつに戦闘機に乗せられたのを思い出して……少し苛立ちが復活し、消える。
──エルフィリアの殺害依頼のこと?
──国境辺りで待ってるね。じゃー。
何の気なしに、そんなことかと言いたげに、あいつは電話を切った。
……まあ、理由は解っている。
あいつは遊戯派だ。
僕とあいつはある意味では同類だ。尻派か胸派か、醤油か塩か、その辺りの好みや趣味嗜好は似通っている。
だからこそ友人付き合いが続いたのもあるし……。
……今はこんな事態だからはっきり言うが、あいつの突拍子も無い旅に付き合うのは、私利以外にちゃんと私欲もあった。
楽しくなきゃやってられねぇんだよあんな旅。
んで、あいつとなら楽しめたんだ。だからついて行って、同意を取って、小説のネタにもした。
だからこそ……あいつを、僕は殴らなきゃいけない。
確かに遊戯派であろう。ロールプレイヤーであろう。
でも……そんなに、そんなレベルで、物語へ感情移入出来ないやつじゃあ、無かった筈だ。
無辜の民なら救うし、悪人なら躊躇しない。目的の為なら仕方なく、しかし最低限に済ませる。そのぐらいの分別はあった筈だ。
じゃあ──これは何だ?
『……何が、あったんだよ……!』
話してくれよ。
友達じゃ、無いのかよ。
◆
着地とともに、武器から戻る。
そこに居たのはいつもの姿。無精髭を生やした中年の男。
「おぉ、早かっ──」
「──総一郎ッッ!!!」
拳が受け止められる。
「……リアルの名前叫ぶの反則じゃない?」
「受け止めてんじゃねぇよ……!」
「まーまー、そんな怒るな、よっ! ……と」
ロールプレイを抜きにした素の姿。
そのまま、あいつは握った僕の拳を投げ飛ばす。
此彼のSTR差はかなりのもので、僕は羽根のように飛んでいき……シアさんに受け止められた。
「そもそも、ソウって遊戯派でしょ? そんな怒る?」
「途中で変わっちゃ悪いかよ……!」
「ははは、結構なことで。でー、何だったっけ? ああそうだ、エルフィリア殺害の依頼だっけ──」
「──あれ、ちゃんとオレが出した依頼だからね」
「…………そうかよ、クソッタレ」
偽造じゃあないか。
シアさんが反応しなかった以上、線は薄かったが……そうであって欲しかった。
「国の損益に著しく加担出来ない、んじゃあ無かったのか?」
「没落貴族を非合法組織使って殺すぐらい、損益にこれっぽっちも関わってないでしょ。実際そうだったし」
「だから、殺したのか?」
「いや?」
何を言っているんだ、と言う顔。
ああ解ってるよ。理由無く殺す質じゃない。
だから何があって殺したのかを、僕は知りたいん──
「ソウのためだけど」
──は?
指は、僕に向けられている。
「何を、言って……?」
「いや、だからさぁ……あーどっから説明すれば良いかな……」
口を開いて、出てきたのは──醜悪な計画。
「いっちゃんはじめの頃さ、飲み行ったじゃん?」
ああ、確かに行った。
「その時のソウめちゃくちゃ酔っ払っててさぁ、<エンブリオ>の仕様全部言ってくれたんだよ。……お前覚えて無かったけどさ」
……ああ、覚えてない。
「でも、それ聞いてぽーんと来たオレが、これはお膳立てするしかない、って思い至りまして!」
馬鹿なことを言うな。
「ツテとか色々使って、シアちゃん見つけて、周り邪魔だったから消してー」
邪魔、じゃないだろ。
「そして亡命するところで引き合わせて、いい感じにアイツラに襲撃させれば、《コントラクト》使うかなーって思ったら……大成功!」
…………もう、良い。
「んで、シアちゃんとソウは幸せになりました、めでたしめでたし! いやー、良かったね」
黙れ。
「
黙ってくれ……!
「こっちがこのゲームに誘ったわけだしさ、やっぱ楽しんでほしいワケよ、わかる?」
語る顔は、徹頭徹尾、心の底からの笑顔。
握り込んだ爪の先で、掌に穴が空きそうになる。
「……誰が、頼んだ?」
「誰も? オレのおせっかいだしね」
「何で、殺す必要があった?」
「悲劇のヒロインなら、ソウも救いやすいでしょ?」
「ふざっ……けんじゃねぇ!!!」
やっぱり、殴らねば気が済まない。
受け止めてくれるなよ?
大股で助走をつけながら、拳を握りしめ──
「待ってください」
──その腕を、シアさんに止められた。
「ぶっ、ハハハ! 女の子に腕止められてんじゃん、だっさ!」
「マルクス様」
「……何?
「──何を、お隠しになっているのですか?」
マルクスの動きが、止まる。
……ふと、僕の脳裏に《託宣》の説明文が過ぎった。
《託宣》
隠されたものや真実、危険などの存在を、伺い知ることが出来る。
パッシブスキル
何かを……隠しているのであれば、彼女には全て筒抜けになる。
何をかも、どんなことかも解りはしないが、隠しているということだけは、確実に気取られる。
「ずっと、ずっと何かを隠したまま、お話をなさっています」
「……隠してねぇけど? 嘘もついてないけど?」
「嘘は、ついていなかったのでしょう。でも隠してはいる」
「隠してねぇよ」
「何か忘れたいことや、考えたくないことが──」
「──うるせぇんだよっ!!!」
拳を握りしめ、目を伏せるマルクス。
その震えが何を意味するのかは、解らない。
ただ、怒りでは無いように見えた。
「あー、もう頭来た」
わかりやすい嘘を吐き捨て、頭を乱雑に掻き毟るマルクスの姿が、溶ける。
どろりと溶けて、形が変わる。
黒いファーコートを羽織った、スーツ姿の男。
指にはいくつか指輪を嵌め、何処か成金のような様相。
「聞いたよ。オレのこと殴りに来たんだろ?」
「じゃあこっちの顔、存分に殴らせてやるよ」
「でも……全力で抵抗してやるから──」
北欧系の顔つきで、銀髪の知り合いは居ないが……確かに覚えのある面影をしていた。
「──覚悟しろよ、な?」
殺気。
「こんなっ、戦う意味は──」
「──NPCは黙ってろ!! これは人と人の戦いなんですー。どっちも代理戦争だろうけどな、アハハハ!!」
「……ああ、そうかよ」
冷えた頭がなお熱い。
隣から聞こえた息を呑む音に申し訳なくなっても、もう止まれない。
「それがお望みなら、やってやろうじゃねぇか」
「自分で戦う人が言ってもらえますー?」
「お前も人の事言えた口じゃないだろ、【死将軍】」
「うーわ、誰から……あぁ絶対ケージじゃんもう……」
「ご明察だな」
「はぁ……証拠もジェーンに消させようとしたのに“しくじった”って言われるしさぁ、最悪なんだけど? 雑魚すぎ」
「強かったぞ、秘書さんは」
「知ってるよ。オレが育てた」
友人同士の軽いくっちゃべり。
違うのは空気が剣呑かどうかぐらいのもの。
いつも通り過ぎて、怒りに震えた頭が冷えて、冴えて来る。
「……シアさん、巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「いえ……大丈夫です。それに、私も1回、あの人は殴りたくなってきました」
「そう、ですか……」
彼女は真面目な場面で、暴力に訴えかけるようなことをする人では無い。
恐らくは、嘘。こちらに負い目を与えぬ為の、優しい嘘。
……ありがたく、乗らせてもらおう。
「……なら、丁度良かった」
「イチャつかないで貰えますー? ラブプラスやってるダチ端から見てどう思うかわからない?」
「うるせぇ、シアさんは僕の嫁だ」
「よっ!? っま、まだですよ!?」
「あーものっそい腹立って来たー! これオレが殴っても許されるでしょ!?」
「ははは、かもな」
彼女と目を合わせれば、首肯が返される。
「行きましょうっ」
「……はい」
ああ。
どう決意したとて結局、僕はこうなるらしい。
彼女を死地へと誘い、戦わせるに至るらしい。
「…………はぁ、お熱いこった──《アウェイキング・アンデッド》ォ!!」
あいつの周囲に大量のアンデッドが生み出され、山を成していく。
その山の頂上に座るマルクス……いや、オルワンは、不敵な笑みを浮かべていた。
「来いよ」
「ああ』
「はいっ──」
僕もそれに応え、いつもの
「──行きます!」
みっともない、他人任せの大喧嘩が……始まった。