系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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遅ればせながら、ありがとうございます


4:えがお

 ログインして、大急ぎで現場へ向かう。

 疲れた体へ鞭を打つ気は無かったが、彼女は直ぐにグラインダーを携え、《救世の翼》で飛んでいった。

 音を超える速度の飛行。いつぞや、あいつに戦闘機に乗せられたのを思い出して……少し苛立ちが復活し、消える。

 

 ──エルフィリアの殺害依頼のこと?

 

 ──国境辺りで待ってるね。じゃー。

 

 何の気なしに、そんなことかと言いたげに、あいつは電話を切った。

 ……まあ、理由は解っている。

 あいつは遊戯派だ。

 僕とあいつはある意味では同類だ。尻派か胸派か、醤油か塩か、その辺りの好みや趣味嗜好は似通っている。

 だからこそ友人付き合いが続いたのもあるし……。

 

 ……今はこんな事態だからはっきり言うが、あいつの突拍子も無い旅に付き合うのは、私利以外にちゃんと私欲もあった。

 楽しくなきゃやってられねぇんだよあんな旅。

 んで、あいつとなら楽しめたんだ。だからついて行って、同意を取って、小説のネタにもした。

 

 だからこそ……あいつを、僕は殴らなきゃいけない。

 

 確かに遊戯派であろう。ロールプレイヤーであろう。

 でも……そんなに、そんなレベルで、物語へ感情移入出来ないやつじゃあ、無かった筈だ。

 無辜の民なら救うし、悪人なら躊躇しない。目的の為なら仕方なく、しかし最低限に済ませる。そのぐらいの分別はあった筈だ。

 じゃあ──これは何だ?

 

『……何が、あったんだよ……!』

 

 話してくれよ。

 友達じゃ、無いのかよ。

 

 ◆

 

 着地とともに、武器から戻る。

 そこに居たのはいつもの姿。無精髭を生やした中年の男。

 

「おぉ、早かっ──」

「──総一郎ッッ!!!」

 

 拳が受け止められる。

 

「……リアルの名前叫ぶの反則じゃない?」

「受け止めてんじゃねぇよ……!」

「まーまー、そんな怒るな、よっ! ……と」

 

 ロールプレイを抜きにした素の姿。

 そのまま、あいつは握った僕の拳を投げ飛ばす。

 此彼のSTR差はかなりのもので、僕は羽根のように飛んでいき……シアさんに受け止められた。

 

「そもそも、ソウって遊戯派でしょ? そんな怒る?」

「途中で変わっちゃ悪いかよ……!」

「ははは、結構なことで。でー、何だったっけ? ああそうだ、エルフィリア殺害の依頼だっけ──」

 

「──あれ、ちゃんとオレが出した依頼だからね」

「…………そうかよ、クソッタレ」

 

 偽造じゃあないか。

 シアさんが反応しなかった以上、線は薄かったが……そうであって欲しかった。

 

「国の損益に著しく加担出来ない、んじゃあ無かったのか?」

「没落貴族を非合法組織使って殺すぐらい、損益にこれっぽっちも関わってないでしょ。実際そうだったし」

「だから、殺したのか?」

「いや?」

 

 何を言っているんだ、と言う顔。

 ああ解ってるよ。理由無く殺す質じゃない。

 だから何があって殺したのかを、僕は知りたいん──

 

「ソウのためだけど」

 

 ──は?

 

 指は、僕に向けられている。

 

「何を、言って……?」

「いや、だからさぁ……あーどっから説明すれば良いかな……」

 

 口を開いて、出てきたのは──醜悪な計画。

 

「いっちゃんはじめの頃さ、飲み行ったじゃん?」

 

 ああ、確かに行った。

 

「その時のソウめちゃくちゃ酔っ払っててさぁ、<エンブリオ>の仕様全部言ってくれたんだよ。……お前覚えて無かったけどさ」

 

 ……ああ、覚えてない。

 

「でも、それ聞いてぽーんと来たオレが、これはお膳立てするしかない、って思い至りまして!」

 

 馬鹿なことを言うな。

 

「ツテとか色々使って、シアちゃん見つけて、周り邪魔だったから消してー」

 

 邪魔、じゃないだろ。

 

「そして亡命するところで引き合わせて、いい感じにアイツラに襲撃させれば、《コントラクト》使うかなーって思ったら……大成功!」

 

 …………もう、良い。

 

「んで、シアちゃんとソウは幸せになりました、めでたしめでたし! いやー、良かったね」

 

 黙れ。

 

ティアン(NPC)とイチャイチャできてさ、楽しそうでこっちも嬉しいよ」

 

 黙ってくれ……!

 

「こっちがこのゲームに誘ったわけだしさ、やっぱ楽しんでほしいワケよ、わかる?」

 

 語る顔は、徹頭徹尾、心の底からの笑顔。

 握り込んだ爪の先で、掌に穴が空きそうになる。

 

「……誰が、頼んだ?」

「誰も? オレのおせっかいだしね」

「何で、殺す必要があった?」

「悲劇のヒロインなら、ソウも救いやすいでしょ?」

「ふざっ……けんじゃねぇ!!!」

 

 やっぱり、殴らねば気が済まない。

 受け止めてくれるなよ?

 

 大股で助走をつけながら、拳を握りしめ──

 

「待ってください」

 

 ──その腕を、シアさんに止められた。

 

「ぶっ、ハハハ! 女の子に腕止められてんじゃん、だっさ!」

「マルクス様」

「……何? NPC(ティアン)如きが──」

「──何を、お隠しになっているのですか?」

 

 マルクスの動きが、止まる。

 ……ふと、僕の脳裏に《託宣》の説明文が過ぎった。

 

 

 《託宣》

 隠されたものや真実、危険などの存在を、伺い知ることが出来る。

 パッシブスキル

 

 

 何かを……隠しているのであれば、彼女には全て筒抜けになる。

 何をかも、どんなことかも解りはしないが、隠しているということだけは、確実に気取られる。

 

「ずっと、ずっと何かを隠したまま、お話をなさっています」

「……隠してねぇけど? 嘘もついてないけど?」

「嘘は、ついていなかったのでしょう。でも隠してはいる」

「隠してねぇよ」

「何か忘れたいことや、考えたくないことが──」

「──うるせぇんだよっ!!!」

 

 拳を握りしめ、目を伏せるマルクス。

 その震えが何を意味するのかは、解らない。

 ただ、怒りでは無いように見えた。

 

「あー、もう頭来た」

 

 わかりやすい嘘を吐き捨て、頭を乱雑に掻き毟るマルクスの姿が、溶ける。

 どろりと溶けて、形が変わる。

 

 黒いファーコートを羽織った、スーツ姿の男。

 指にはいくつか指輪を嵌め、何処か成金のような様相。

 

「聞いたよ。オレのこと殴りに来たんだろ?」

 

「じゃあこっちの顔、存分に殴らせてやるよ」

 

「でも……全力で抵抗してやるから──」

 

 北欧系の顔つきで、銀髪の知り合いは居ないが……確かに覚えのある面影をしていた。

 

「──覚悟しろよ、な?」

 

 殺気。

 

「こんなっ、戦う意味は──」

「──NPCは黙ってろ!! これは人と人の戦いなんですー。どっちも代理戦争だろうけどな、アハハハ!!」

「……ああ、そうかよ」

 

 冷えた頭がなお熱い。

 隣から聞こえた息を呑む音に申し訳なくなっても、もう止まれない。

 

「それがお望みなら、やってやろうじゃねぇか」

「自分で戦う人が言ってもらえますー?」

「お前も人の事言えた口じゃないだろ、【死将軍】」

「うーわ、誰から……あぁ絶対ケージじゃんもう……」

「ご明察だな」

「はぁ……証拠もジェーンに消させようとしたのに“しくじった”って言われるしさぁ、最悪なんだけど? 雑魚すぎ」

「強かったぞ、秘書さんは」

「知ってるよ。オレが育てた」

 

 友人同士の軽いくっちゃべり。

 違うのは空気が剣呑かどうかぐらいのもの。

 いつも通り過ぎて、怒りに震えた頭が冷えて、冴えて来る。 

 

「……シアさん、巻き込んでしまい、申し訳ありません」

「いえ……大丈夫です。それに、私も1回、あの人は殴りたくなってきました」

「そう、ですか……」

 

 彼女は真面目な場面で、暴力に訴えかけるようなことをする人では無い。

 恐らくは、嘘。こちらに負い目を与えぬ為の、優しい嘘。

 ……ありがたく、乗らせてもらおう。

 

「……なら、丁度良かった」

「イチャつかないで貰えますー? ラブプラスやってるダチ端から見てどう思うかわからない?」

「うるせぇ、シアさんは僕の嫁だ」

「よっ!? っま、まだですよ!?」

「あーものっそい腹立って来たー! これオレが殴っても許されるでしょ!?」

「ははは、かもな」

 

 彼女と目を合わせれば、首肯が返される。

 

「行きましょうっ」

「……はい」

 

 ああ。

 どう決意したとて結局、僕はこうなるらしい。

 彼女を死地へと誘い、戦わせるに至るらしい。

 

「…………はぁ、お熱いこった──《アウェイキング・アンデッド》ォ!!」

 

 あいつの周囲に大量のアンデッドが生み出され、山を成していく。

 その山の頂上に座るマルクス……いや、オルワンは、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「来いよ」

「ああ』

「はいっ──」

 

 僕もそれに応え、いつものグラインダー(姿)で携えられて。

 

「──行きます!」

 

 みっともない、他人任せの大喧嘩が……始まった。

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