系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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5:がんめた

 

「《エグ、ゾースト》っ!」

 

 刹那、悠々と死体の椅子へ座るオルワンへの猛進。

 笑みを絶やさぬその横っ面へ──

 

「《聖別の銀光》!」

『《フル──スロットル》!!』

 

 ──銀に光る、唸りを上げる鋸刃が、叩きつけられた。

 

 ……が、しかし、その笑顔は崩れなかったらしい。

 幾分の手傷も、痛痒すらも、与えられていないのだろう。

 見えなくても、よく解る。

 

「いきなり王手は甘いっての──《デッドリーミキサー》!」

「ぐ、あっ!?」

 

 怨念の奔流に押し流され、無理やり回復しながらも後退。

 そうしてこうしていつの間にやら、初期位置へと戻される。

 

「さぁ、始めようぜ?」

 

 死体の山の上、笑顔を浮かべるその顔には、余裕の色がありありと浮かんでいた。

 

 ◆

 

 戦闘開始から、数分。

 

 並み居るアンデッドを、縦横無尽に薙ぎ倒す。

 《銀光》だってあるのだから、音より遅い相手では話になりはしないのだ。

 しかし、相手は同格。年季で言えば遥かに上。

 

「《コープスプロージョン》」

 

 死霊術師系統の魔法。

 シンプルに、指定した死体を爆発させ、ダメージと共に怨念と【呪詛】を撒き散らすもの。

 HPが尽き死体となった、死亡直後の配下にも勿論使える。

 

 その爆発で死んだ配下が爆発し、さらに爆発し……それを避けた先に──

 

「《デッドリーミキサー》」

 

 ──荒れ狂う怨念の嵐。

 

「っ、とと」

「甘い甘い。《カース・バインド》……あー。まだ効かねぇか」

 

 《帯紐》をフックショットがわりに避けた先へ拘束呪文。

 しかしそれは【呪縛】を与えるもの。MPの高いシアさんなら余裕でレジスト出来る。

 

「《エグ……ゾースト》っ!!」

 

 そのまま、今度は《帯紐》を巻いた僕を振り回し、フレイルのようにして周囲を薙ぎ払う。

 荒っぽいが、これでかなりの量を削れた。

 ……しかし。

 

「はーい、次行くぞー! ──《クリエイション・アンデッド》!」

 

 再び補充されていくアンデッドの数々。

 それを為すのは、あいつの<エンブリオ>のお陰。

 

「オレの<エンブリオ>のコト、前に話したよねー!?」

『ああ! 覚えてるよ!!』

 

 あいつの<エンブリオ>の銘は【一巧値万金 カロン】。

 冥府の川の渡守であり、その船へ乗るものに金銭を要求する。

 物凄くざっくり言えばこんなもんだが、それをモチーフとしたあいつの<エンブリオ>は……あいつの支払うあらゆるコストをリルに変換出来る。

 スキルのMPコストであれば、1リルにつき10万ほどを賄える。

 そして支払う対象は、“()()()()()()()()()()()()

 アンデッド制作に掛かる材料コストも、時間的コストも、何もかもを支払えてしまう。

 

 故の──()()()()()

 減った配下を即座に補充し、ひたすら戦わせ続ける。

 出したアンデッドも弱くはないし、バフで更に強化され、本人からも定期的に妨害や攻撃が飛んで来る。

 死者を従える将軍に、相応しい戦いぶりだ。

 

「《ホーリーステイク》!」

 

 湧き出続けるアンデッドを嫌い、本体を狙ったとしても──

 

「だから、無駄だって」

 

 ──《青褪めた屍(ペイル・ブルー・デッド)》に阻まれる。

 見事に弾かれた光の杭が、その証左。

 

 【死将軍】の最終奥義であり、【ゴブリン・キング】の無敵の仕組みと同質のもの。

 配下へのダメージ転嫁を、あいつは持っているのだ。

 ……ここに来る前、Wikiを流し見しといて良かった。

 

 薙ぎ払う、薙ぎ払う。負った手傷を回復し、薙ぎ払う。

 見えなくなったのは《銀光》を発動したから。見えるようになったら骨の巨人が死んでいる。

 

「はぁ……はぁっ……!」

 

 先程の……秘書さんとの戦いの疲れが残っていそうだ。

 始まってそう経たないが、やはり辛いものがある筈。

 

 消耗は回復しきっていない。

 MPは残り3万を切り、装備の脇腹も自動修復が終わっていない。

 

 重ね掛けされる【呪詛】の影響を加味すると、爆発の余波ごとに《聖者の行軍》の利用は必須。

 あの爆発の紫色は見たことがある。【屍肉姫】の爆発だ。あれも、余波だけで【呪詛】が溜まる。

 溜まり過ぎれば、撃たれる【呪縛】へのレジストも困難になる。

 

 HPもじわじわ減っている。余波によるかすり傷ではあるが、それでも蓄積した分は回復が要る。

 

 配下を減らすのは一瞬だが、補充はそれ以上に一瞬。

 肉薄して《フルスロットル》で削ったとしても、その分を一瞬で補填される。

 

 イタチごっこのような戦況が、今も尚続いていた。

 

「……どうしますか!?」

『多くをより減らしましょう、いつかは金も尽きる筈……!』

「ホントにそう思ってる? どれだけ稼いだか知らないでしょー?」

 

 そりゃそうだ。

 こいつは商人。誰よりもとは言わないが、群を抜いて金を持っている人間。

 そんな奴の資産がどれほどか、それを削り切るにどんな時間が要るか、想像もしたくない。

 

「そうだな……だいたい10兆は稼いだから、頑張って削りなよー」

 

 チッ、こいつ、心を折りに来てやがるな……?

 

 ……上等だ。

 

『おう! 文無しにしてやるよ!!』

「はいっ、根こそぎ奪います!!」

 

 それは何か違うと思うぞシアさん。

 

 しかし。

 啖呵を切ったは良いが、削りきれそうな最大火力の技と言えば《暴撃》込みの《フルスロットル》一択。

 反動は甚大で、倒しても生きていられるかが分からない。

 あの時、【屍肉姫】へ使った時はまだしも、今はAGIも段違いに上がっている。

 ……最終手段だが、使わなければどのみちジリ貧か。

 

『シアさん! あの時の!』

「あの時……っ、解りました!」

『負担を強いることになりますが……申し訳ありません』

「いえ──《憐憫の讃歌》!」

 

 ……そうか、持続回復。

 あいつも範囲外だし、今ここで切れば、反動にも多少は耐えられる筈。

 

 チャージャーへと姿を変え、ベルトで固定される。

 そのまま広げられた翼とともに、宙へと飛び立った。

 

「おー、すごいすごい」

『拍手をどうもっ!』

 

 余裕かよクソッタレ。

 今直ぐ吠え面掻かせてやるからな。

 

 音の速度からは落ちるが、それでも十分な超高速。

 その速度のまま飛び回り、飛び交う矢や魔法を避けながら、穂先をあいつへと向ける。

 

「──《エグゾースト》っ!」

『《フルスロットル》!』

「《聖別の、銀っ光》っ!!」

 

 翼で方向支持を行い、盾になるウィスプを蹴散らしながら、狙いは真っ直ぐオルワンへ。

 

『《(ランペイジ・オブ・)──』

 

 ……何か、おかしい。

 ここに至るまでの抵抗が、これと言って見当たらない。

 強いて言うなら壁にされたアンデッドくらいだが、やる気が無さ過ぎる。

 

『──(ランペイジ)》ッッ!!』

 

 やけに感じる時間が長い。

 まるで、走馬灯のような──

 

「──オレ、いっつも言ってるじゃん」

 

「急いては事を仕損じる、でしょ?」

 

 光の奥から、声が聞こえる。

 

「そもそもさ、いろいろこっちは手札知ってんのよ。わかる?」

 

「だからさぁ──」

 

「──ガンメタ張って無いわけ、無いよねぇ!?」

 

 ギャリギャリと尖角が何かと擦れる音。

 しかし、手応えは一切無い。

 空転し続け、受け止め切られている。

 そして聞こえる、狂ったような笑い声。

 

「それは多段ヒット攻撃だ! 全体を見れば脅威だけど、1ヒットを見ればそうでもない!!」

 

「だから減算系のスキルに滅法弱いでしょ!? 単純な高防御力の相手もねぇ!!」

 

「全部知ってんだよ──()()()()だからさぁ!!!」

 

 光が止む。

 これ以上無駄と判断したのかは分からない。

 ただ、光が開けた先に見えたのは。

 

「っ……!?」

 

 驚愕に顔を歪めるシアさんと。

 

 見たことのない顔をしたオルワン(友人)の後ろへ並ぶ、無数の怨念の渦。

 

「──《デッドリィィィ……ミキサァァァァァ(デッドリーミキサー)》!!!」

 

 襲い来る渦の全てを、シアさんはもろに喰らい。

 

「あ──がぁぁ、っぐぅぅぅっ……!?」

『シアさんっ!!!』

 

 地面へと、叩き落された。

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