「《エグ、ゾースト》っ!」
刹那、悠々と死体の椅子へ座るオルワンへの猛進。
笑みを絶やさぬその横っ面へ──
「《聖別の銀光》!」
『《フル──スロットル》!!』
──銀に光る、唸りを上げる鋸刃が、叩きつけられた。
……が、しかし、その笑顔は崩れなかったらしい。
幾分の手傷も、痛痒すらも、与えられていないのだろう。
見えなくても、よく解る。
「いきなり王手は甘いっての──《デッドリーミキサー》!」
「ぐ、あっ!?」
怨念の奔流に押し流され、無理やり回復しながらも後退。
そうしてこうしていつの間にやら、初期位置へと戻される。
「さぁ、始めようぜ?」
死体の山の上、笑顔を浮かべるその顔には、余裕の色がありありと浮かんでいた。
◆
戦闘開始から、数分。
並み居るアンデッドを、縦横無尽に薙ぎ倒す。
《銀光》だってあるのだから、音より遅い相手では話になりはしないのだ。
しかし、相手は同格。年季で言えば遥かに上。
「《コープスプロージョン》」
死霊術師系統の魔法。
シンプルに、指定した死体を爆発させ、ダメージと共に怨念と【呪詛】を撒き散らすもの。
HPが尽き死体となった、死亡直後の配下にも勿論使える。
その爆発で死んだ配下が爆発し、さらに爆発し……それを避けた先に──
「《デッドリーミキサー》」
──荒れ狂う怨念の嵐。
「っ、とと」
「甘い甘い。《カース・バインド》……あー。まだ効かねぇか」
《帯紐》をフックショットがわりに避けた先へ拘束呪文。
しかしそれは【呪縛】を与えるもの。MPの高いシアさんなら余裕でレジスト出来る。
「《エグ……ゾースト》っ!!」
そのまま、今度は《帯紐》を巻いた僕を振り回し、フレイルのようにして周囲を薙ぎ払う。
荒っぽいが、これでかなりの量を削れた。
……しかし。
「はーい、次行くぞー! ──《クリエイション・アンデッド》!」
再び補充されていくアンデッドの数々。
それを為すのは、あいつの<エンブリオ>のお陰。
「オレの<エンブリオ>のコト、前に話したよねー!?」
『ああ! 覚えてるよ!!』
あいつの<エンブリオ>の銘は【一巧値万金 カロン】。
冥府の川の渡守であり、その船へ乗るものに金銭を要求する。
物凄くざっくり言えばこんなもんだが、それをモチーフとしたあいつの<エンブリオ>は……あいつの支払うあらゆるコストをリルに変換出来る。
スキルのMPコストであれば、1リルにつき10万ほどを賄える。
そして支払う対象は、“
アンデッド制作に掛かる材料コストも、時間的コストも、何もかもを支払えてしまう。
故の──
減った配下を即座に補充し、ひたすら戦わせ続ける。
出したアンデッドも弱くはないし、バフで更に強化され、本人からも定期的に妨害や攻撃が飛んで来る。
死者を従える将軍に、相応しい戦いぶりだ。
「《ホーリーステイク》!」
湧き出続けるアンデッドを嫌い、本体を狙ったとしても──
「だから、無駄だって」
──《
見事に弾かれた光の杭が、その証左。
【死将軍】の最終奥義であり、【ゴブリン・キング】の無敵の仕組みと同質のもの。
配下へのダメージ転嫁を、あいつは持っているのだ。
……ここに来る前、Wikiを流し見しといて良かった。
薙ぎ払う、薙ぎ払う。負った手傷を回復し、薙ぎ払う。
見えなくなったのは《銀光》を発動したから。見えるようになったら骨の巨人が死んでいる。
「はぁ……はぁっ……!」
先程の……秘書さんとの戦いの疲れが残っていそうだ。
始まってそう経たないが、やはり辛いものがある筈。
消耗は回復しきっていない。
MPは残り3万を切り、装備の脇腹も自動修復が終わっていない。
重ね掛けされる【呪詛】の影響を加味すると、爆発の余波ごとに《聖者の行軍》の利用は必須。
あの爆発の紫色は見たことがある。【屍肉姫】の爆発だ。あれも、余波だけで【呪詛】が溜まる。
溜まり過ぎれば、撃たれる【呪縛】へのレジストも困難になる。
HPもじわじわ減っている。余波によるかすり傷ではあるが、それでも蓄積した分は回復が要る。
配下を減らすのは一瞬だが、補充はそれ以上に一瞬。
肉薄して《フルスロットル》で削ったとしても、その分を一瞬で補填される。
イタチごっこのような戦況が、今も尚続いていた。
「……どうしますか!?」
『多くをより減らしましょう、いつかは金も尽きる筈……!』
「ホントにそう思ってる? どれだけ稼いだか知らないでしょー?」
そりゃそうだ。
こいつは商人。誰よりもとは言わないが、群を抜いて金を持っている人間。
そんな奴の資産がどれほどか、それを削り切るにどんな時間が要るか、想像もしたくない。
「そうだな……だいたい10兆は稼いだから、頑張って削りなよー」
チッ、こいつ、心を折りに来てやがるな……?
……上等だ。
『おう! 文無しにしてやるよ!!』
「はいっ、根こそぎ奪います!!」
それは何か違うと思うぞシアさん。
しかし。
啖呵を切ったは良いが、削りきれそうな最大火力の技と言えば《暴撃》込みの《フルスロットル》一択。
反動は甚大で、倒しても生きていられるかが分からない。
あの時、【屍肉姫】へ使った時はまだしも、今はAGIも段違いに上がっている。
……最終手段だが、使わなければどのみちジリ貧か。
『シアさん! あの時の!』
「あの時……っ、解りました!」
『負担を強いることになりますが……申し訳ありません』
「いえ──《憐憫の讃歌》!」
……そうか、持続回復。
あいつも範囲外だし、今ここで切れば、反動にも多少は耐えられる筈。
チャージャーへと姿を変え、ベルトで固定される。
そのまま広げられた翼とともに、宙へと飛び立った。
「おー、すごいすごい」
『拍手をどうもっ!』
余裕かよクソッタレ。
今直ぐ吠え面掻かせてやるからな。
音の速度からは落ちるが、それでも十分な超高速。
その速度のまま飛び回り、飛び交う矢や魔法を避けながら、穂先をあいつへと向ける。
「──《エグゾースト》っ!」
『《フルスロットル》!』
「《聖別の、銀っ光》っ!!」
翼で方向支持を行い、盾になるウィスプを蹴散らしながら、狙いは真っ直ぐオルワンへ。
『《
……何か、おかしい。
ここに至るまでの抵抗が、これと言って見当たらない。
強いて言うなら壁にされたアンデッドくらいだが、やる気が無さ過ぎる。
『──
やけに感じる時間が長い。
まるで、走馬灯のような──
「──オレ、いっつも言ってるじゃん」
「急いては事を仕損じる、でしょ?」
光の奥から、声が聞こえる。
「そもそもさ、いろいろこっちは手札知ってんのよ。わかる?」
「だからさぁ──」
「──ガンメタ張って無いわけ、無いよねぇ!?」
ギャリギャリと尖角が何かと擦れる音。
しかし、手応えは一切無い。
空転し続け、受け止め切られている。
そして聞こえる、狂ったような笑い声。
「それは多段ヒット攻撃だ! 全体を見れば脅威だけど、1ヒットを見ればそうでもない!!」
「だから減算系のスキルに滅法弱いでしょ!? 単純な高防御力の相手もねぇ!!」
「全部知ってんだよ──
光が止む。
これ以上無駄と判断したのかは分からない。
ただ、光が開けた先に見えたのは。
「っ……!?」
驚愕に顔を歪めるシアさんと。
見たことのない顔をした
「──《
襲い来る渦の全てを、シアさんはもろに喰らい。
「あ──がぁぁ、っぐぅぅぅっ……!?」
『シアさんっ!!!』
地面へと、叩き落された。