転がった、死に体の少女の前に、あいつは降り立つ。
「冥土の土産に教えてあげるよ」
「【死将軍】の最終奥義は、《
「配下へ受けたダメージを分散した
「オレが一撃食らうごとに使い減りはするけど、その分補充できりゃ問題ナッシング」
「オレに……ピッタリだよね?」
……ちょっと待て、あと小首傾げてんじゃねぇ。
『Wikiには書いてなかったぞ、そんなこと……!!」
「そりゃそう! あれ書いたのオレだもん」
誤謬、どころか誤情報。
文献が散逸した超級職であればこそ出来る、情報戦術。
「ついでに、ビルドの相談ありがとね?」
「……ああそうかよ……っ!」
毎度毎度、色々相談したよ。お前と戦うなんざ想定に入れて無かったからな。
《フルスロットル》も《エグゾースト》も初見殺し的な面が強い以上、対策されると容易に詰む。
だから親しい間柄……それこそ友人位にしか、仕様も内容も教えちゃいない。
とどのつまり、全部、あいつの掌の上。
勝ち誇ったみたいに講釈垂れるな悪役ぶりやがって……!
だったら何で──
「……まだ」
「ん?」
「まだ、終わってません……っ!」
……シアさんが立ち上がった。
傷はまだまだ癒えていくが、その上で重傷だ。
足は震え、立つのがやっとに見える。
もう良い。無理をしないでくれ。
これは僕の我儘で、戦う意味なんて更々無い。
「いやー、丈夫だね。NPCの補正ってヤツ?」
「また……何かを、隠して……っ! そんなに秘密がお好きですか……!?」
「…………うるっさいなぁ、もう」
辟易したような口ぶりで、背後に浮かべるのは怨念の渦。
「んじゃ、とにかく……オレの勝ちだね」
「……待て」
「待たないよ。《デッドリー──」
「──待てって言ってんだろ!!」
ガラ空きの頬を張る。
ダメージは無いだろうが、それで十分だったらしい。渦は霧散し、怨念が散逸する。
よろよろと、ダメージも無かろうに後退する姿は、弱々しく見えた。
勝ち誇るのは癪だがいい。
NPC呼ばわりしたのも許してやる。
でも、ならどうして──
「最後まで悪役ぶるなら、泣きそうな顔してんじゃねぇ!!」
──そんな顔してやがんだ。
指摘されて初めて気付いたのか、目を丸くして、苦笑する。
そんないつも通りの姿が垣間見えて、すぐに消える。
「……もういいだろオレの勝ちで」
「良くねぇよ」
「オレのこと、嫌いになってくれよ」
「何でだよ……!」
「オレはっ、
歯を食いしばり、何かを耐える姿。悪役だなんて到底言えない、壊れてしまいそうなひとの姿。
……そんなあいつの顔、僕は初めて見た。
「何、言って──」
「煩い、煩いうるさいうるさいうるさい! このまま消えて……居なくなれっ!!!」
散逸した怨念が、再び渦を成す。
先程よりも色濃くなったその渦が、解き放たれようとしていた。
ゆっくりとした時間の中で、僕はそれを──
「──待てって……言ってんだろうがぁぁぁあああっ!!」
止める為に、手を伸ばす。
◆
守らなければいけない。助けなければいけない。
彼女を。そして、他ならぬ友を。
友人の泣きそうな顔。
聞き出せていない真実。
それら全てが、手の届く場所にある。
知りたい。
いや、違う──助けたい。
個人の知的興味好奇心ではなく、心根からの信条に従う。
小説のネタなんかよりよっぽど大切なものを。
今にも壊れそうな友人の心を。
今、この場で、僕は救わねばならない。
そうでなければ、一生。
僕は、僕を許せそうにない。
◆
──視界が、白と黒に染まった。
「…………は、あ?」
何が、起こって……いる?
光の渦。白と黒との螺旋。
その中心に在るのは、僕とシアさん。
しかし成したのは彼女でもないようで、呆気にとられて固まっていた。
「これ、は……?」
その問いに答える術を、生憎持ち合わせてはいない。
……いや、嘘だ。解っている。
形態変化に伴う光のエフェクト。それを強めたような奔流。
一度だけ、資料として見たことがある。
「……<超級>への、進化……!」
「っ、え、えぇ!?」
驚くのも無理はないだろう。僕だって驚いている。
今来るのか。タイミングが良過ぎはしないか。トリガーは……まあ、一旦置いとく。
でも……そうか。
メニューを開き、手早く確認する。
増えたスキルは1つと……なるほど。
《再鍛》
このスキルは《コントラクト》の効果下でのみ機能する。
条件を満たしている場合、新たな装備スキルや機能の向上が発生する。
利用可能回数は装備者1名につき(到達段階/2)回まで。また、条件を満たしていなかった場合は回数を消費しない。
現在の残り回数は
アクティブスキル
そこが増えるか。
「シアさん!」
「っ、は、はいっ!」
「もう一度、我儘を聞いてください」
……切る意味は、ある。
「あいつを、ぶん殴る為に──」
そして、助ける為に。
「──《再誕》を、使います」
◆
■
「《再鍛》」
渦の内から、友人の声が聞こえる。
そのまま渦が一層勢いを増し、やがて止む。
……そこに居るのは、徒手のアレクシアだ。
少し治ったものの、傷だらけの姿のまま。首には見慣れぬペンダントを下げて、顔は少し俯いている。
友人がペンダントに変じた瞬間も、しっかりと彼は見ていた。
『……行きましょう、シアさん』
「はいっ」
決意に満ちた顔が、向けられる。
(虚勢を張っても……遅い)
渦への驚きで魔法は解けたが、もう一度編めば問題無い。
進化中に攻撃しなかったのは、話し合いを邪魔しなかったのは、相性の故。
その上でねじ伏せ、決別するため。
決意をどうしようが、知ったことではない。
全てに終わりを告げる為、オルワンは魔法を編む。
「《聖別の銀光》」
『《
「《デッドリー──」
この一撃で、終わらせる。
そんな暗い意思が──
「──《
「が、はっ……!?」
動揺と衝撃で、掻き消される。
なぜ、タカキのスキルを、アレクシアが使っているのか。
そんな疑問も束の間。腹部に突き刺さる拳撃で、大半のゾンビが消し飛んだ。
編んだ魔法も、拳撃の余波で吹き飛ばされる。
その膂力と【
早く補充しなければ、死ぬ。
再び揃えて──
「はっ!!」
「ゔっ、ぐ、うぅ……」
──再び削られる。
しかも今度は、より多くの配下を削られた。凡そ数は倍だ。
(まさか……
思い至るのは【猛王】の奥義。
1ヒットごとにAGIを1上昇させる、《
今のAGIがどれほどか分からないが、少なくとも……1撃放たれるごとに、数万の攻撃を受け、数万のAGIが上がっている。
そして、それすらもアレクシアが扱えるということは。
……目の前の相手は、【使徒】であり、【猛王】なのだ。
閾値を越えてはまずいと、ゾンビとスピリットを大量に投入する。
それらすらも続く蹴撃、拳撃の2撃で消し飛ばされ続け……気づけばレッドライン。
一撃で配下の全てごと、何もかも持っていかれる、瀬戸際までやって来た。
ノックバックで逃げられれば良かったのだろうが、最終奥義はその衝撃すら配下へ転嫁する。
仮に逃げたとて、倍々ゲームで最早数十万となったAGIからは、逃れられそうもない。
完膚無きまでの逆転。
まごうこと無き、詰み。
「…………は、ははは」
乾いた笑いしか出ない。
(これが、<超級>)
【女教皇】には相性差で負けたと思っていた。
彼らは相性差でどうとでもなると思っていた。
しかし……そんな相性差で捲れるようなら、<超級>ではあり得ないのだ。
そのことを、心から理解して。
「……すぅぅ……はぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」
鋭く吸われた息から、裂帛の気合と共に繰り出された正拳突き。
それを腹部にもろに受け。
【ブローチ】が粉々に砕け散り。
オルワンのHPは……底を突いた。