系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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6:さいたん

 

 転がった、死に体の少女の前に、あいつは降り立つ。

 

「冥土の土産に教えてあげるよ」

 

「【死将軍】の最終奥義は、《旧い肉、新鮮な骨、奪った魂、青褪めた屍(サム・ダイイング・フォー)》」

 

「配下へ受けたダメージを分散した()()、配下のゾンビ系(肉ありの)アンデッドが防御力を、スケルトン系(骨だけの)アンデッドが属性耐性を、スピリット系(実体のない)アンデッドが物理耐性を、それぞれ引き上げる」

 

「オレが一撃食らうごとに使い減りはするけど、その分補充できりゃ問題ナッシング」

 

「オレに……ピッタリだよね?」

 

 ……ちょっと待て、あと小首傾げてんじゃねぇ。

 

『Wikiには書いてなかったぞ、そんなこと……!!」

「そりゃそう! あれ書いたのオレだもん」

 

 誤謬、どころか誤情報。

 文献が散逸した超級職であればこそ出来る、情報戦術。

 

「ついでに、ビルドの相談ありがとね?」

「……ああそうかよ……っ!」

 

 毎度毎度、色々相談したよ。お前と戦うなんざ想定に入れて無かったからな。

 《フルスロットル》も《エグゾースト》も初見殺し的な面が強い以上、対策されると容易に詰む。

 だから親しい間柄……それこそ友人位にしか、仕様も内容も教えちゃいない。

 

 とどのつまり、全部、あいつの掌の上。

 

 勝ち誇ったみたいに講釈垂れるな悪役ぶりやがって……!  

 だったら何で──

 

「……まだ」

「ん?」

「まだ、終わってません……っ!」

 

 ……シアさんが立ち上がった。

 傷はまだまだ癒えていくが、その上で重傷だ。

 足は震え、立つのがやっとに見える。

 

 もう良い。無理をしないでくれ。

 これは僕の我儘で、戦う意味なんて更々無い。

 

「いやー、丈夫だね。NPCの補正ってヤツ?」

「また……何かを、隠して……っ! そんなに秘密がお好きですか……!?」

「…………うるっさいなぁ、もう」

 

 辟易したような口ぶりで、背後に浮かべるのは怨念の渦。

 

「んじゃ、とにかく……オレの勝ちだね」

「……待て」

「待たないよ。《デッドリー──」

「──待てって言ってんだろ!!」

 

 ガラ空きの頬を張る。

 ダメージは無いだろうが、それで十分だったらしい。渦は霧散し、怨念が散逸する。

 よろよろと、ダメージも無かろうに後退する姿は、弱々しく見えた。

 

 勝ち誇るのは癪だがいい。

 NPC呼ばわりしたのも許してやる。

 でも、ならどうして──

 

「最後まで悪役ぶるなら、泣きそうな顔してんじゃねぇ!!」

 

 ──そんな顔してやがんだ。

 

 指摘されて初めて気付いたのか、目を丸くして、苦笑する。

 そんないつも通りの姿が垣間見えて、すぐに消える。

 

「……もういいだろオレの勝ちで」

「良くねぇよ」

「オレのこと、嫌いになってくれよ」

「何でだよ……!」

「オレはっ、()()なんだよっ!!」

 

 歯を食いしばり、何かを耐える姿。悪役だなんて到底言えない、壊れてしまいそうなひとの姿。

 ……そんなあいつの顔、僕は初めて見た。

 

「何、言って──」

「煩い、煩いうるさいうるさいうるさい! このまま消えて……居なくなれっ!!!」

 

 散逸した怨念が、再び渦を成す。

 先程よりも色濃くなったその渦が、解き放たれようとしていた。

 ゆっくりとした時間の中で、僕はそれを──

 

「──待てって……言ってんだろうがぁぁぁあああっ!!」

 

 止める為に、手を伸ばす。

 

 ◆

 

 守らなければいけない。助けなければいけない。

 彼女を。そして、他ならぬ友を。

 

 友人の泣きそうな顔。

 聞き出せていない真実。

 それら全てが、手の届く場所にある。

 

 知りたい。

 いや、違う──助けたい。

 

 個人の知的興味好奇心ではなく、心根からの信条に従う。

 小説のネタなんかよりよっぽど大切なものを。

 今にも壊れそうな友人の心を。

 

 今、この場で、僕は救わねばならない。

 

 そうでなければ、一生。

 僕は、僕を許せそうにない。

 

 ◆

 

 ──視界が、白と黒に染まった。

 

「…………は、あ?」

 

 何が、起こって……いる?

 

 光の渦。白と黒との螺旋。

 その中心に在るのは、僕とシアさん。

 しかし成したのは彼女でもないようで、呆気にとられて固まっていた。

 

「これ、は……?」

 

 その問いに答える術を、生憎持ち合わせてはいない。

 ……いや、嘘だ。解っている。

 形態変化に伴う光のエフェクト。それを強めたような奔流。

 一度だけ、資料として見たことがある。

 

「……<超級>への、進化……!」

「っ、え、えぇ!?」

 

 驚くのも無理はないだろう。僕だって驚いている。

 今来るのか。タイミングが良過ぎはしないか。トリガーは……まあ、一旦置いとく。

 でも……そうか。

 

 メニューを開き、手早く確認する。

 増えたスキルは1つと……なるほど。

 

 

 《再鍛》

 このスキルは《コントラクト》の効果下でのみ機能する。

条件を満たしている場合、新たな装備スキルや機能の向上が発生する。

 利用可能回数は装備者1名につき(到達段階/2)回まで。また、条件を満たしていなかった場合は回数を消費しない。

 現在の残り回数は1()()

 アクティブスキル

 

 

 そこが増えるか。

 

「シアさん!」

「っ、は、はいっ!」

「もう一度、我儘を聞いてください」

 

 ……切る意味は、ある。

 

「あいつを、ぶん殴る為に──」

 

 そして、助ける為に。

 

「──《再誕》を、使います」

 

 ◆

 

 ■

 

 

「《再鍛》」

 

 渦の内から、友人の声が聞こえる。

 そのまま渦が一層勢いを増し、やがて止む。

 

 ……そこに居るのは、徒手のアレクシアだ。

 

 少し治ったものの、傷だらけの姿のまま。首には見慣れぬペンダントを下げて、顔は少し俯いている。

 友人がペンダントに変じた瞬間も、しっかりと彼は見ていた。

 

『……行きましょう、シアさん』

「はいっ」

 

 決意に満ちた顔が、向けられる。

 

(虚勢を張っても……遅い)

 

 渦への驚きで魔法は解けたが、もう一度編めば問題無い。

 進化中に攻撃しなかったのは、話し合いを邪魔しなかったのは、相性の故。

 その上でねじ伏せ、決別するため。

 

 決意をどうしようが、知ったことではない。

 全てに終わりを告げる為、オルワンは魔法を編む。

 

「《聖別の銀光》」

『《■■の■に僕は■る(ヘファイストス)》』

「《デッドリー──」

 

 この一撃で、終わらせる。

 そんな暗い意思が──

 

「──《暴撃(ランペイジ・オブ・ランペイジ)》!」

「が、はっ……!?」

 

 動揺と衝撃で、掻き消される。

 

 なぜ、タカキのスキルを、アレクシアが使っているのか。

 そんな疑問も束の間。腹部に突き刺さる拳撃で、大半のゾンビが消し飛んだ。

 編んだ魔法も、拳撃の余波で吹き飛ばされる。

 その膂力と【アラデメイル(特典武具の手袋)】が纏う銀光によって放たれたのは、配下のアンデッド達によって上がった防御力を遥かに上回る、()()()()

 

 早く補充しなければ、死ぬ。

 再び揃えて──

 

「はっ!!」

「ゔっ、ぐ、うぅ……」

 

 ──再び削られる。

 しかも今度は、より多くの配下を削られた。凡そ数は倍だ。

 

(まさか……()()()()を!?)

 

 思い至るのは【猛王】の奥義。

 1ヒットごとにAGIを1上昇させる、《致命の猛撃(フェイタル・ランペイジ)》。

 今のAGIがどれほどか分からないが、少なくとも……1撃放たれるごとに、数万の攻撃を受け、数万のAGIが上がっている。

 

 そして、それすらもアレクシアが扱えるということは。

 ……目の前の相手は、【使徒】であり、【猛王】なのだ。

 

 閾値を越えてはまずいと、ゾンビとスピリットを大量に投入する。

 それらすらも続く蹴撃、拳撃の2撃で消し飛ばされ続け……気づけばレッドライン。

 一撃で配下の全てごと、何もかも持っていかれる、瀬戸際までやって来た。

 

 ノックバックで逃げられれば良かったのだろうが、最終奥義はその衝撃すら配下へ転嫁する。

 仮に逃げたとて、倍々ゲームで最早数十万となったAGIからは、逃れられそうもない。

 

 完膚無きまでの逆転。

 まごうこと無き、詰み。

 

「…………は、ははは」

 

 乾いた笑いしか出ない。

 

(これが、<超級>)

 

 【女教皇】には相性差で負けたと思っていた。

 彼らは相性差でどうとでもなると思っていた。

 

 しかし……そんな相性差で捲れるようなら、<超級>ではあり得ないのだ。

 そのことを、心から理解して。

 

「……すぅぅ……はぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

 鋭く吸われた息から、裂帛の気合と共に繰り出された正拳突き。

 それを腹部にもろに受け。

 【ブローチ】が粉々に砕け散り。

 

 オルワンのHPは……底を突いた。

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