系統樹に触れた物書きの話   作:ヘッドカノン

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7:ばつ

 ■

 

 

 鳴海総一郎は、裕福な家庭に生まれた。

 故に友人は多かったが、真の意味での友人は1人も居なかった。

 

(全員、どうせ金目当てだろ)

 

 小学校の窓から外を見る彼は、達観していたし、事実そうだったのだから救えない。

 そこで彼が考えたのが……無茶振りだった。

 

 旅行先で危険な目に共に遭いに行くとか。

 変で妙に危険な作業に付き合わせるとか。

 

 そういったことをし続けていれば、篩掛けにあった友人から、1人ぐらいは残るのでは、と。

 

 ……そして。

 

 彼の周りには、誰も残らなかった。

 

 ◆

 

 転機は中学生の頃。

 

「城田蒼介と申します」

 

 転校してきたその顔に、また再び篩掛けをする。

 するとなんというか、どうにかこうにか付いてきて、文句を言いながら、付き合ってくれる。

 

 総一郎には初めてのことだった。

 どうすればいいか解らず、そのままエスカレートしていき。

 ……気づけば中学はおろか高校での大半も、そうしたイベントに染まっていた。

 

「なんで、さぁ」

「……は?」

 

 そんな蟹工船でのバイトの最中、ふと彼に問うてみる。

 

「蒼介はオレの無茶振りに付き合ってくれるワケ?」

「小説のネタになる」

「……えぇ……即答?」

 

 そんなことのために、付いてくるのか。

 結局、自分を見ている訳ではないのか。

 そう、少し落胆しかけて──

 

「ああ、あと……お前となら、こういうのも案外楽しめる」

 

 ──口角が上がったのが、自分でもわかった。

 

「ほうほう……?」

「…………ん、ちょっと待て、今言わんでいいこと言ったな」

「そっかぁ、そんなに蒼介くんはオレのこと大好きなんだぁ、へぇー?」

「違えわバカが! ……ただの友達だろ」

「……そうそう、友達だよね、うん。うん!」

「何なんだよもう……」

 

 友達。

 少し気恥ずかしくて、とても嬉しくて。

 総一郎は初めて、友達が出来た。

 

 ◆

 

 大学に入り、出て、気づけば互いに仕事を持ち。

 気づけばそういうイベントごとも、めっきり誘う機会がなくなってきた。

 

 そんな中でリリースされたのが──

 

「……ははは、すっげぇや……!」

 

 ──<Infinite Dendrogram>だった。

 

 価値あるもの(スキル)に金を払い、行使できる【カロン】を携え、彼は決意した。

 

「ここにあいつが来るまでに……いろいろ準備しとこう!」

 

 ──そうして始まった日々は、なんと楽しいことか。

 

 冒険。出会い。そして別れ。

 何処まで見ても、何処もかしこも、ゲームに見えないリアルさで……。

 

(いやいや、そこは分けて考えないと)

 

 リアルなだけでリアルではない。

 所詮はゲームと、ゲームでしかないと、彼は一線を引き続けた。

 

 そしてそのせいで、大きく(たが)うことになった。

 

 ◆

 

 始めて1年、遂に友人を招待する日がやって来て。

 ……出来上がったその<エンブリオ>に、目を白黒させた。

 そしてその内容を、酔った友人に聞かされて……決意した。

 

(オレが、蒼介をサポートしよう)

 

 友人の為にあらゆる手を尽くし、そうして見つけたNPC。

 

(……これも、あいつの為なんだ)

 

 心は痛むが、所詮はゲーム。

 

 ──全然。敵は敵だろう。

 

 ──無為に殺戮する気は無いが、向かってくるならもう……。

 

 ──……何と言うか、ユニークNPCな癖に不死属性(Essential)ではないのが悪いとしか。

 

 故にこう宣ってのけた友人の姿を見て、総一郎は大きく安堵した。

 ああ、彼もそういう考えだ、と。

 やることのために邪魔なら、仕方ないと割り切れるのだと。

 

 そう思って、心から、安心した。

 

 ◆

 

 安心したのに。

 

「──どうすれば、いいと思う?」

 

 目の前の友人は、少しばかり酒が入って気が緩んだのか、瞳に恋情を宿していて。

 その先は、あのNPC(アレクシア)に向いていて。

 

「……とりあえず抱けば?」

 

 そう言った自分は、どこまで笑えていたのだろう。

 彼は今でも気がかりだった。

 

 世界派に傾きゆく友人を見て、それを食い止めなければと思って。

 

「あ」

 

 ……なんで食い止めたいのか、わからなくて。

 

「あ、ああ──」

 

 解ってしまって。

 

「──あぁ、ぁっ、が、ぁっ……!」

 

 酷く、後悔した。

 トイレで1人、えづき吐き戻す。中身が無くなれば胃液を吐く。

 

 目を背けていたことを、直視する。

 あそこに息づく人々は、まるで生きた人間で。

 

「違う」

 

 幸せそうな姿は、守られるべき存在で。

 

「違うっ」

 

 それを、己が壊した。

 

「違うっ!!」

 

 違わない。

 

 ……彼らを殺したことに、後悔はない。

 後悔するにはもう遅いし、したとて許されざる行為。決して許されてはならない業。

 

 故に、知られてはならない。

 知られれば最後──友達を失う。

 

「……ぃ、ゃだ」

 

 後悔したとて、もう、遅かった。 

 

 ◆

 

 彼女を喪ったかも知れないと嘆く友人は、もうすっかりと世界派だった。

 その因を……かつての知己をけしかけた自分は、一体何なんだと問うた。

 

 そしていつしか顔は晴れやかになって。

 それを見た己の仮面の内は、いつも軋んでひび割れた。

 

 どの面を下げて。どの口で。

 自分は物を言っているのか。

 

 強い執着心と、後悔。

 

 嫌われたくない一心で。

 仕出かしたことの大きさを噛み締めて。

 知られ得る全てを抹消しようと、どうにか手を回して。己自身も潰して回って。

 

『ごめん、失敗した』

 

 その報せを聞いて、何かが壊れた。

 

 彼に知られる。嫌われる。

 それは嫌だ。友達を失う。

 たったひとり残った友を。

 

(…………もう、仕方ないだろ)

 

 己の手はこんなに汚れている。

 彼をあの娘と引き合わせた理由は、酷く血に塗れている。

 その結果成した血の道に、今、自分は立っている。

 手を汚したのに足を洗ったとて、もうどうにもなりはしない。

 

 なら、嫌われるしかない。

 いっそとことん、疎まれるまで。

 縁を切られ、忘れられるぐらいまで。

 

 そうすれば──諦められるから。

 

 ◆

 

(……負けた)

 

 そうして臨んだ戦いに、彼は負けた。

 金を費やし、命は失い。しかし不思議と後悔はない。

 どれもこれも、全てが全て、掛けた価値があった。心からそう思えていた。

 

「まだ、生きてたか」

「っ、あ……」

 

 呆れた顔の友人が、倒れたこちらを覗き込む。

 

「下半身無い癖に、よくもまあ……」

「《ラスト・コマンド》と、アンデッドの特性のおかげだと思うよ。ほっとけばもうすぐ死ぬ気がする」

「そうか……よ、っと」

 

 友人はそう言うと、横たわる総一郎の隣に腰掛けた。

 

「似合わんぞ、お前に悪党は」

「知ってるよ。でも、こうしないと嫌ってもらえないだろうし」

「あれでも嫌いきれんわ。下手糞過ぎる。シアさんじゃなくても気付けるぞ? 何かあるなって」

「……あの子ずるくない?」

「それは少しわかる。隠されたものが分かるスキルらしい」

「そりゃ、隠し事なんて無理だねー……あはは、はぁ」

 

 全ては筒抜けだった、らしい。

 少なくとも、あの少女……友達の想い人には。

 

「……何で、嫌われようなんてしたんだよ」

「取り返しのつかないことをしたから」

「ちゃんと償え、って言って終いだわそんなん。一生涯掛けて、罪を背負え」

「そのつもりだったんだけどなぁ……」

「どこがだよ。全部ぶん投げて逃げる気満々だっただろ」

「君に嫌われたままね」

「……僕の好感度がそんなに重要か?」

「オレにとっては、金より命より重要かな」

「…………そうか」

 

 暫しの沈黙が、辺りを支配する。

 表情は見えないが、これだけのことをしたのにも関わらず、何故か怒っていないように感じた。

 

「……もう、2度とこんな事するんじゃねぇぞ」

「え?」

「僕の為だの何だのと言って、他人の人生奪って、その後で丸投げしようとするな。2度とな」

「うん、しない。どんな罰でも──」

「──よし。じゃあこれでこの話終わりな」

「えっ」

「は? 何だよ」

 

 立ち上がろうとした友人を、思わず手で引き留めた。

 

「も、もっと、こう、さ、何か、罰とか……無いの?」

「無いわ。殴って殴って殴り抜いただろ。それで終わりだ」

「駄目だろ! それじゃ……意味が無い」

「何のだよ」

「許されないことをしたんだから、罰せられるべき、でしょ」

「お前が許されたいだけだろそれ。一生許さんぞ。その上で──」

 

「──一生、友人で居てやるよ」

 

 こちらを再び覗き込む顔は、優しい笑みを湛えていた。

 その顔が、滲む。輪郭がぼやけて、何も見えなくなる。

 

「ろくな罰も与えられずに、一生良心の呵責に苛まれろ。それがお前への罰だ」

 

 許されることはない業と、どれだけ願おうとも、金を積んでも決して得られぬもの()

 その2つだけが、彼に残された唯一の(たから)

 自分と隣の男とを繋ぐ、唯一の糸。

 

「ほんっ、と、いい性格、してるよね……っ」

「知ってるよ」

 

 暗く、静かに沈んでいく。

 きっとこれが死なのだろう。

 

(──ああ、本当に)

 

「……そう、すけ」

「ん? 何だよ」

 

 最後の最後で。

 全部手遅れになったあとに、ようやく言えた。

 

「……あり、がとう……」

「…………はいはい、どういたしまして」

 

 ぶっきらぼうな言葉に。

 いつも通りの態度に。

 

 本当に心から、救われたのだ。

 

 

 ■

 

 ◆

 

 光に還るオルワンを見送り、尻についた土を払う。

 

 今の会話の筋書きは、全てシアさんの立案だ。

 といっても一言一句指定された訳では無い、ただ一言……“赦してあげて下さい”、と。

 

「おつかれ様です、ソウ様」

「はい……ですが、本当にこれで、良かったんですか?」

「はい。殴ってスッキリしましたし、仇も取れましたから」

 

 なんともアグレッシブなことで。

 

「……それに……」

「それに?」

「到底許されることではありませんし、許し難いですが……その動機は、きっと悪とは言えないのでしょうから」

 

 俯きがちにそう言う瞳には、憐憫の色が籠もっていた。

 

 ……何とも、寛大な心だと思う。

 肉親と、長年連れ添った人々を殺されて、尚も心から言い切れる。

 これは聖職者の故だろうか?

 いや、そうであったとしても、これは……人柄に依るものが大きいだろう。

 そしてそれ故に、彼女は【使徒】なのだろう。

 

 就職条件だとか、そういう話ではなく、ただ……そう思った。

 

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