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鳴海総一郎は、裕福な家庭に生まれた。
故に友人は多かったが、真の意味での友人は1人も居なかった。
(全員、どうせ金目当てだろ)
小学校の窓から外を見る彼は、達観していたし、事実そうだったのだから救えない。
そこで彼が考えたのが……無茶振りだった。
旅行先で危険な目に共に遭いに行くとか。
変で妙に危険な作業に付き合わせるとか。
そういったことをし続けていれば、篩掛けにあった友人から、1人ぐらいは残るのでは、と。
……そして。
彼の周りには、誰も残らなかった。
◆
転機は中学生の頃。
「城田蒼介と申します」
転校してきたその顔に、また再び篩掛けをする。
するとなんというか、どうにかこうにか付いてきて、文句を言いながら、付き合ってくれる。
総一郎には初めてのことだった。
どうすればいいか解らず、そのままエスカレートしていき。
……気づけば中学はおろか高校での大半も、そうしたイベントに染まっていた。
「なんで、さぁ」
「……は?」
そんな蟹工船でのバイトの最中、ふと彼に問うてみる。
「蒼介はオレの無茶振りに付き合ってくれるワケ?」
「小説のネタになる」
「……えぇ……即答?」
そんなことのために、付いてくるのか。
結局、自分を見ている訳ではないのか。
そう、少し落胆しかけて──
「ああ、あと……お前となら、こういうのも案外楽しめる」
──口角が上がったのが、自分でもわかった。
「ほうほう……?」
「…………ん、ちょっと待て、今言わんでいいこと言ったな」
「そっかぁ、そんなに蒼介くんはオレのこと大好きなんだぁ、へぇー?」
「違えわバカが! ……ただの友達だろ」
「……そうそう、友達だよね、うん。うん!」
「何なんだよもう……」
友達。
少し気恥ずかしくて、とても嬉しくて。
総一郎は初めて、友達が出来た。
◆
大学に入り、出て、気づけば互いに仕事を持ち。
気づけばそういうイベントごとも、めっきり誘う機会がなくなってきた。
そんな中でリリースされたのが──
「……ははは、すっげぇや……!」
──<Infinite Dendrogram>だった。
価値ある
「ここにあいつが来るまでに……いろいろ準備しとこう!」
──そうして始まった日々は、なんと楽しいことか。
冒険。出会い。そして別れ。
何処まで見ても、何処もかしこも、ゲームに見えないリアルさで……。
(いやいや、そこは分けて考えないと)
リアルなだけでリアルではない。
所詮はゲームと、ゲームでしかないと、彼は一線を引き続けた。
そしてそのせいで、大きく
◆
始めて1年、遂に友人を招待する日がやって来て。
……出来上がったその<エンブリオ>に、目を白黒させた。
そしてその内容を、酔った友人に聞かされて……決意した。
(オレが、蒼介をサポートしよう)
友人の為にあらゆる手を尽くし、そうして見つけたNPC。
(……これも、あいつの為なんだ)
心は痛むが、所詮はゲーム。
──全然。敵は敵だろう。
──無為に殺戮する気は無いが、向かってくるならもう……。
──……何と言うか、ユニークNPCな癖に
故にこう宣ってのけた友人の姿を見て、総一郎は大きく安堵した。
ああ、彼もそういう考えだ、と。
やることのために邪魔なら、仕方ないと割り切れるのだと。
そう思って、心から、安心した。
◆
安心したのに。
「──どうすれば、いいと思う?」
目の前の友人は、少しばかり酒が入って気が緩んだのか、瞳に恋情を宿していて。
その先は、あの
「……とりあえず抱けば?」
そう言った自分は、どこまで笑えていたのだろう。
彼は今でも気がかりだった。
世界派に傾きゆく友人を見て、それを食い止めなければと思って。
「あ」
……なんで食い止めたいのか、わからなくて。
「あ、ああ──」
解ってしまって。
「──あぁ、ぁっ、が、ぁっ……!」
酷く、後悔した。
トイレで1人、えづき吐き戻す。中身が無くなれば胃液を吐く。
目を背けていたことを、直視する。
あそこに息づく人々は、まるで生きた人間で。
「違う」
幸せそうな姿は、守られるべき存在で。
「違うっ」
それを、己が壊した。
「違うっ!!」
違わない。
……彼らを殺したことに、後悔はない。
後悔するにはもう遅いし、したとて許されざる行為。決して許されてはならない業。
故に、知られてはならない。
知られれば最後──友達を失う。
「……ぃ、ゃだ」
後悔したとて、もう、遅かった。
◆
彼女を喪ったかも知れないと嘆く友人は、もうすっかりと世界派だった。
その因を……かつての知己をけしかけた自分は、一体何なんだと問うた。
そしていつしか顔は晴れやかになって。
それを見た己の仮面の内は、いつも軋んでひび割れた。
どの面を下げて。どの口で。
自分は物を言っているのか。
強い執着心と、後悔。
嫌われたくない一心で。
仕出かしたことの大きさを噛み締めて。
知られ得る全てを抹消しようと、どうにか手を回して。己自身も潰して回って。
『ごめん、失敗した』
その報せを聞いて、何かが壊れた。
彼に知られる。嫌われる。
それは嫌だ。友達を失う。
たったひとり残った友を。
(…………もう、仕方ないだろ)
己の手はこんなに汚れている。
彼をあの娘と引き合わせた理由は、酷く血に塗れている。
その結果成した血の道に、今、自分は立っている。
手を汚したのに足を洗ったとて、もうどうにもなりはしない。
なら、嫌われるしかない。
いっそとことん、疎まれるまで。
縁を切られ、忘れられるぐらいまで。
そうすれば──諦められるから。
◆
(……負けた)
そうして臨んだ戦いに、彼は負けた。
金を費やし、命は失い。しかし不思議と後悔はない。
どれもこれも、全てが全て、掛けた価値があった。心からそう思えていた。
「まだ、生きてたか」
「っ、あ……」
呆れた顔の友人が、倒れたこちらを覗き込む。
「下半身無い癖に、よくもまあ……」
「《ラスト・コマンド》と、アンデッドの特性のおかげだと思うよ。ほっとけばもうすぐ死ぬ気がする」
「そうか……よ、っと」
友人はそう言うと、横たわる総一郎の隣に腰掛けた。
「似合わんぞ、お前に悪党は」
「知ってるよ。でも、こうしないと嫌ってもらえないだろうし」
「あれでも嫌いきれんわ。下手糞過ぎる。シアさんじゃなくても気付けるぞ? 何かあるなって」
「……あの子ずるくない?」
「それは少しわかる。隠されたものが分かるスキルらしい」
「そりゃ、隠し事なんて無理だねー……あはは、はぁ」
全ては筒抜けだった、らしい。
少なくとも、あの少女……友達の想い人には。
「……何で、嫌われようなんてしたんだよ」
「取り返しのつかないことをしたから」
「ちゃんと償え、って言って終いだわそんなん。一生涯掛けて、罪を背負え」
「そのつもりだったんだけどなぁ……」
「どこがだよ。全部ぶん投げて逃げる気満々だっただろ」
「君に嫌われたままね」
「……僕の好感度がそんなに重要か?」
「オレにとっては、金より命より重要かな」
「…………そうか」
暫しの沈黙が、辺りを支配する。
表情は見えないが、これだけのことをしたのにも関わらず、何故か怒っていないように感じた。
「……もう、2度とこんな事するんじゃねぇぞ」
「え?」
「僕の為だの何だのと言って、他人の人生奪って、その後で丸投げしようとするな。2度とな」
「うん、しない。どんな罰でも──」
「──よし。じゃあこれでこの話終わりな」
「えっ」
「は? 何だよ」
立ち上がろうとした友人を、思わず手で引き留めた。
「も、もっと、こう、さ、何か、罰とか……無いの?」
「無いわ。殴って殴って殴り抜いただろ。それで終わりだ」
「駄目だろ! それじゃ……意味が無い」
「何のだよ」
「許されないことをしたんだから、罰せられるべき、でしょ」
「お前が許されたいだけだろそれ。一生許さんぞ。その上で──」
「──一生、友人で居てやるよ」
こちらを再び覗き込む顔は、優しい笑みを湛えていた。
その顔が、滲む。輪郭がぼやけて、何も見えなくなる。
「ろくな罰も与えられずに、一生良心の呵責に苛まれろ。それがお前への罰だ」
許されることはない業と、どれだけ願おうとも、金を積んでも決して得られぬ
その2つだけが、彼に残された唯一の
自分と隣の男とを繋ぐ、唯一の糸。
「ほんっ、と、いい性格、してるよね……っ」
「知ってるよ」
暗く、静かに沈んでいく。
きっとこれが死なのだろう。
(──ああ、本当に)
「……そう、すけ」
「ん? 何だよ」
最後の最後で。
全部手遅れになったあとに、ようやく言えた。
「……あり、がとう……」
「…………はいはい、どういたしまして」
ぶっきらぼうな言葉に。
いつも通りの態度に。
本当に心から、救われたのだ。
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◆
光に還るオルワンを見送り、尻についた土を払う。
今の会話の筋書きは、全てシアさんの立案だ。
といっても一言一句指定された訳では無い、ただ一言……“赦してあげて下さい”、と。
「おつかれ様です、ソウ様」
「はい……ですが、本当にこれで、良かったんですか?」
「はい。殴ってスッキリしましたし、仇も取れましたから」
なんともアグレッシブなことで。
「……それに……」
「それに?」
「到底許されることではありませんし、許し難いですが……その動機は、きっと悪とは言えないのでしょうから」
俯きがちにそう言う瞳には、憐憫の色が籠もっていた。
……何とも、寛大な心だと思う。
肉親と、長年連れ添った人々を殺されて、尚も心から言い切れる。
これは聖職者の故だろうか?
いや、そうであったとしても、これは……人柄に依るものが大きいだろう。
そしてそれ故に、彼女は【使徒】なのだろう。
就職条件だとか、そういう話ではなく、ただ……そう思った。