蛇足
光に還るオルワンを見送り、尻についた土を払う。
「おつかれ様です、ソウ様」
「はい」
今の会話の筋書きは、全てシアさんの立案だ。
といっても一言一句指定された訳では無い。
ただ2つ、“赦してあげて下さい”。
そして“ソウ様のやりたいように”、と。
そう言われて、言い訳を許さず。しかし罪を赦して、碌な罰も与えない。
意には沿ったが、自分のやりたいように、好きなようにやらせてもらった。
「本当にこれで、良かったんですか?」
「はい。殴ってスッキリしましたし、仇も取れましたから」
なんともアグレッシブなことで。
「……それに」
「それに?」
「到底許されることではありませんし、許し難いですが……その動機は、きっと悪とは言えないのでしょうから」
俯きがちにそう溢す瞳には、憐憫の色が籠もっていた。
……何とも、寛大な心だと思う。
肉親と、長年連れ添った侍從を殺されて、尚も心から言い切れる。
これは聖職者の故だろうか?
いや、そうであったとしても、これは……人柄に依るものが大きいだろう。
そしてそれ故に、彼女は【使徒】なのだろう。
就職条件だとか、そういう話ではなく、ただ……そう思った。
「──というか」
……なんて、いい感じのモノローグを思いついていれば。
ふと、シアさんの雰囲気が変わった。
何と言うか俗っぽい。先程までの聖職者らしさが、きれいさっぱり吹き飛んで消えている。
「ソウ様、マルクス様のために<超級>になられたんですね」
「そう、ですね?」
言い方に若干棘もある。何が問題なんだよ。
「へぇー……“私を助けるため!”……とかじゃないんですねー」
……何で口を尖らせてるんだ。半目までして。
「何で拗ねてるんですか?」
「だってあそこは! 私のピンチの為に立ち上がる場面でしょう!? 何ですか“あいつをぶん殴るため”って!」
「いやいやいやいや」
本当になんだ急に。
「あのですね、僕にとってあいつは掛け替えの無い友人で──」
「──皆まで言わなくていいです! 分かってますので!! その上で文句は言わせてくださいっ!!」
ええ……?
こちらの困惑を尻目に、言葉はさらに続く。
「そもそも、私大怪我でしたよ? 死にそうだったんですよ? そこから復活して、駆けつけて、そしたら話し合えば多分わかるのにっ、戦うことになったんですよ!?」
それは、うん、まあ、今となっては解る。
僕に嫌われたくない。しかしいっそ嫌われるなら、とことん行くまで行ってやる……そういった目的なのは、話してよく解った。
もし最初からそう言われていれば、もう少しアプローチも変わったかもしれない。それこそあんな戦闘だって無かっただろう。
そういった過程をぶっ飛ばして殴り合わせたのは、他ならない僕の落ち度だった。
「でもあの方思いっきり攻撃してくるんですもん。途中からこう、怒りが沸々と……何で戦ってるのかも分かんないですし!」
「本当に、申し訳ありません」
「自分で戦えるようになってから謝ってください?」
無理じゃないかなあ……?
序盤フィールドのエネミーだったら大丈夫かも知れないが、どう足掻いてもステータス5分の1だぞ。
「男と男の喧嘩なのはわかるんです。ロマンありますよね……でも私がやってるんですよ全部! 自分でやるからカッコイイんですよあれって!!」
耳が痛いです。はい。
「そしてその結果負けそうになって! 土壇場で!! <超級>っ!! ──死にそうになってる私への想いの結晶だって思うじゃないですかっ!!」
「そうですかねえ……」
「そうですよっ!!」
物語の流れとしては綺麗かもしれないが、しかしここは現実だ。そんなに上手く行く筈もない。
何せトリガーが……いや、考えるのは止そう。顔に出ても困──
「──何か隠しましたね?」
「……《託宣》かあ」
「女の勘です」
似たようなもんだろそれ。
首の動きが怖いよ。ギュンッて。ホラーみたいにこっちに向けないでくれ。
「さあ! 何を隠したんですか!! キリキリ吐きなさい!!」
「…………」
「さぁ!!!」
声が大きいんだよね。ここ一応屋外だからさ、静かにしようよ。
……とか言ったらぶん殴られるだろうなあ。都合上嘘も吐けないし……面倒な相手に愛されたものだ。
まあ、役得か。
「……<超級>への進化には、人それぞれトリガーがあるんですよ」
「それが、私だったと?」
「いえ、あいつで──」
あいつでした、と言い切る前に、彼女は目の前で膝から崩れ落ちた。
「──シアさん……」
「負けてる……想いの強さで負けてる……!」
「負けてるとかじゃないと思いますが」
「……わかってますよ……私だってお母さまとソウ様で比べられたらお母さま取りますもん」
「…………ああ」
なる……ほど?
崖から落ちそうな恋人と親、一方しか救えないならどちらを救うか、的な。
それで選ばれなかった側になる、みたいな。
だからどうって話ではないが……モヤッとはするな。
それと今までの諸々が重なり、終わった今になって爆発したのだろう。
……血が上って、判断力が鈍ったな。
「本当に、すいません」
膝と両手を突き、地面を眺める彼女。
その背を擦れば、水滴が地面に滴り始める。
「みっともない嫉妬だってわかってるんです……でも、なんかぁ……っ!」
泣かないでくれ、ここ屋外なんだよ。
「……あんな、あんなスキルの名前だったのに……!」
「…………まあ、そうですね?」
《再誕》で増えたスキル。
「確かに、あれは──」
それについて漏らした感想、そのせいかお陰か、僕は暫く後悔して。
……そして、覚悟を決めることになる。
彼らがキリッと終わる訳が無いと思ったんです